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【第1部】3.闘争
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(あれ……あの人だ……!)
聡子はトモの姿を見た気がした。
少し後をついていくと、その背格好はトモに間違いなかった。
(あ、そういえばヤクザだったっけ)
この辺が縄張りのヤクザなのかな、と聡子は後を付いていった。どうして付いて行ってしまったのかはわからない。ただ気になってしまっただけだ。なぜ気になったのかと言われると、それもわからなかった。
二月、学校は週に一度の登校日だけ通学すればいいため、自動車学校に通う以外、入れる時はバイトに入らせてもらっている。
そのバイト帰り、今日は大学生が遅番に入ってくれているので、日は暮れたが早上がりのため、駅に向かっているところだった。
ファミレスに時々現れては、聡子に話しかけてくる。聡子のことを「気が強い」と言って揶揄っては楽しんでいるようだ。しかし、それが不快ではなくなっている自分がいた。
今日のトモは二人連れだ。
隣にいるのは、いつかの金髪男ではないようだ。
(ヤクザって、もしかしたら世の中にたくさんいるの?)
うわぁ怖いな、と聡子は思ったが、ついて行くのを止めようとはしなかった。
いつの間にか、人気のない路地裏であることに気づいた時にはもう遅かった。
トモたち二人と、別の男二人が対峙し、言い争いが始まっていたのだ。
(ケンカ……?)
これは仲間同士ではない、と察した。
まずい現場に居合わせたと思ったが、聡子はその場面を見て既に足が竦んで動けなかったのだ。
肩をいからせた相手二人に、トモ達二人の前に立っている。
まるで開始の合図のように、誰かが雄叫びを上げ、乱闘らしきものが始まった。殴る蹴る、トモはひらりと交わしてはいるが、その様子に聡子は驚愕するだけだ。ドラマや映画では見たことがあるが、実際に人が殴ったり殴られたりするのを見たのは初めてだった。
双方は「ボコボコ」になっていく。服も汚れ、地を這ったり飛んでいったりの繰り返した。どうしよう、警察呼んだほうがいいのかな、と聡子はスマホの入ったバッグに手を入れる。
(あっ……!)
薄暗がりのなか、相手の一人が鉄パイプのようなものを持ち、トモの背後から迫っているのを見た。トモは気づいていない様子だ。
「トモさん後ろ! 危ない!」
咄嗟に声を上げた。
全員の視線が聡子に向いた。
その場に誰かがいることを知ったトモは慌てた様子で怒鳴った。
「何してる! 早く行け!」
と叫ぶ。
「これはこれは」
ボコボコにされながも、相手はチャンスとばかりに聡子に近寄って来る。
「な、何!?」
聡子は竦んだ足で、その場に座り込んだ。
「早く行けって言ってんだろ馬鹿!」
「だ、だって……」
聡子はトモの声に慌てるが、時既に遅しといったところだった。
馬鹿野郎、とトモが怒鳴るのが聞こえたが、聡子の身体に男が覆い被さった。
「いやっ!」
バシバシと腕を振り回そうとしても、びくともしない。細身の女子高生の腕力で、大きな男がどうこうできるはずもない。
「キモイキモイキモイ!」
逃げようとしてもどうにもならないのが現実だった。
「なんだこのガキ。まさか、おまえの女か? 高校生に手ぇ出してんのか」
「そいつに手を出すんじゃねえ!」
ドラマのような光景に、聡子は身体が竦む。汚らしい息が顔にかかった。
(気持ち悪いっ!)
いやだいやだと泣き叫んでも、男は覆い被さったままで、閉じた脚を男の脚が割って入ってきた。
「やだぁぁぁーーーーーーーーーー!」
どすんっ、という鈍い音の後、身体が軽くなった。
「来い!」
トモに腕をひかれたかと思うと、ぐいっと抱き抱えられた。
「えっ……」
「早く走れ!」
「足が……足が……」
ふらふらとした足取りだが、トモに半ば抱えられ、その場から動く。
うがっ、とトモの悲鳴が聞こえ、彼はその場に躓いた。先程聡子に覆い被さっていた男が、鉄パイプのようなものでトモの脚を殴りつけたのだ。
「トモさん!」
「俺にかまうな、早く行け!」
トモは手を離した。
「でも!」
「いいから早く行け!」
再びの背後からの気配にトモは、動かない聡子を胸に抱いて庇った。男はトモを何度も殴りつけ、至近距離で見るトモの額には血が流れていた。
「トモさん、血が!」
(どうしようどうしよう!?)
「トモさんっ!」
トモの連れが、同じように相手を殴打した。
「消えろ! 命が惜しいなら今すぐ消えろ!」
暫く鈍い音が響いたが、聡子はトモの腕のなかで足音が遠ざかるのを聞いた。
聡子はトモの姿を見た気がした。
少し後をついていくと、その背格好はトモに間違いなかった。
(あ、そういえばヤクザだったっけ)
この辺が縄張りのヤクザなのかな、と聡子は後を付いていった。どうして付いて行ってしまったのかはわからない。ただ気になってしまっただけだ。なぜ気になったのかと言われると、それもわからなかった。
二月、学校は週に一度の登校日だけ通学すればいいため、自動車学校に通う以外、入れる時はバイトに入らせてもらっている。
そのバイト帰り、今日は大学生が遅番に入ってくれているので、日は暮れたが早上がりのため、駅に向かっているところだった。
ファミレスに時々現れては、聡子に話しかけてくる。聡子のことを「気が強い」と言って揶揄っては楽しんでいるようだ。しかし、それが不快ではなくなっている自分がいた。
今日のトモは二人連れだ。
隣にいるのは、いつかの金髪男ではないようだ。
(ヤクザって、もしかしたら世の中にたくさんいるの?)
うわぁ怖いな、と聡子は思ったが、ついて行くのを止めようとはしなかった。
いつの間にか、人気のない路地裏であることに気づいた時にはもう遅かった。
トモたち二人と、別の男二人が対峙し、言い争いが始まっていたのだ。
(ケンカ……?)
これは仲間同士ではない、と察した。
まずい現場に居合わせたと思ったが、聡子はその場面を見て既に足が竦んで動けなかったのだ。
肩をいからせた相手二人に、トモ達二人の前に立っている。
まるで開始の合図のように、誰かが雄叫びを上げ、乱闘らしきものが始まった。殴る蹴る、トモはひらりと交わしてはいるが、その様子に聡子は驚愕するだけだ。ドラマや映画では見たことがあるが、実際に人が殴ったり殴られたりするのを見たのは初めてだった。
双方は「ボコボコ」になっていく。服も汚れ、地を這ったり飛んでいったりの繰り返した。どうしよう、警察呼んだほうがいいのかな、と聡子はスマホの入ったバッグに手を入れる。
(あっ……!)
薄暗がりのなか、相手の一人が鉄パイプのようなものを持ち、トモの背後から迫っているのを見た。トモは気づいていない様子だ。
「トモさん後ろ! 危ない!」
咄嗟に声を上げた。
全員の視線が聡子に向いた。
その場に誰かがいることを知ったトモは慌てた様子で怒鳴った。
「何してる! 早く行け!」
と叫ぶ。
「これはこれは」
ボコボコにされながも、相手はチャンスとばかりに聡子に近寄って来る。
「な、何!?」
聡子は竦んだ足で、その場に座り込んだ。
「早く行けって言ってんだろ馬鹿!」
「だ、だって……」
聡子はトモの声に慌てるが、時既に遅しといったところだった。
馬鹿野郎、とトモが怒鳴るのが聞こえたが、聡子の身体に男が覆い被さった。
「いやっ!」
バシバシと腕を振り回そうとしても、びくともしない。細身の女子高生の腕力で、大きな男がどうこうできるはずもない。
「キモイキモイキモイ!」
逃げようとしてもどうにもならないのが現実だった。
「なんだこのガキ。まさか、おまえの女か? 高校生に手ぇ出してんのか」
「そいつに手を出すんじゃねえ!」
ドラマのような光景に、聡子は身体が竦む。汚らしい息が顔にかかった。
(気持ち悪いっ!)
いやだいやだと泣き叫んでも、男は覆い被さったままで、閉じた脚を男の脚が割って入ってきた。
「やだぁぁぁーーーーーーーーーー!」
どすんっ、という鈍い音の後、身体が軽くなった。
「来い!」
トモに腕をひかれたかと思うと、ぐいっと抱き抱えられた。
「えっ……」
「早く走れ!」
「足が……足が……」
ふらふらとした足取りだが、トモに半ば抱えられ、その場から動く。
うがっ、とトモの悲鳴が聞こえ、彼はその場に躓いた。先程聡子に覆い被さっていた男が、鉄パイプのようなものでトモの脚を殴りつけたのだ。
「トモさん!」
「俺にかまうな、早く行け!」
トモは手を離した。
「でも!」
「いいから早く行け!」
再びの背後からの気配にトモは、動かない聡子を胸に抱いて庇った。男はトモを何度も殴りつけ、至近距離で見るトモの額には血が流れていた。
「トモさん、血が!」
(どうしようどうしよう!?)
「トモさんっ!」
トモの連れが、同じように相手を殴打した。
「消えろ! 命が惜しいなら今すぐ消えろ!」
暫く鈍い音が響いたが、聡子はトモの腕のなかで足音が遠ざかるのを聞いた。
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