12 / 222
【第1部】2.再会
4
しおりを挟む
聡子のバイト先のファミレスに、彼が一人で現れた。
(あっ!)
きっとまた会える気がしていたが、それは想像以上に早いタイミングだった。
聡子は率先して給仕を務めた。
「いらっしゃいませ」
「よう」
「せ……先日はどうもありがとうございました」
「おう」
彼──トモは軽く言った。
(そうだ、トモって呼ばれてた、この人)
どういう字を書くのかはわからないが、あの頭の悪そうな金髪がそう言っていたのを突然思い出したのだった。
「店員さんのおすすめはあるか?」
メニューをちらりと見たあと、聡子を見上げた。
「おすすめ……ですか。ファミレスにおすすめも何も……」
しかしそう言いつつも聡子は、訊かれた以上は答えるべきだと、自分の好きな安いグラタンを勧めた。一番高いステーキセットを勧めてやろうかとも思ったが、高校生の聡子には手が届かないメニューで、実は食べたことがない。内容を訊かれた場合に困ってしまうのでやめたのだった。
「味はもちろんですけど、安くておなかいっぱいになります。それにホワイトソースに拘っていて、とっても美味しいメニューになっています!」
食い気味の聡子に、トモは失笑しながら、
「そうか。じゃあ、それもらおうかな」
と言った。聡子の意見を尊重してくれるようだ。
「で、ほかにはあるか?」
「えっ……えっと、あとは白玉あんみつが……」
と言いかけ、口をつぐむ。ヤクザにあんみつなんて、しまったと思ったが、
「白玉がもちもちしていて、小豆との相性も抜群です。甘すぎないところもとてもいいです」
「じゃあ、それも頼むわ」
と注文した。
しかしそれでは足りないのか、別のメニューもいくつか追加注文した。食べきれるのかなとも思ったが、そういえば、金髪男と来店した時にはたくさん食べていたことを思い出した。聡子からしてみたら彼は細身で、よくそんなに食欲があるものだと思った。
「よく食べられますね」
「まあ、うまいもん食うのは好きだからな」
「はあ……そうなんですか」
トモは、顔は少し強面の部類だと思うが、細身長身のわりに、ばくばくと料理を食べていた。まるで運動部の中高校生のようだ。
「女と一緒だよ、うまいもんもいい女も味見したくなるだろ。欲しくなるんだよ」
「え…………」
聡子は半目でトモを見返した。
いわゆるドン引きをした状態だった。
(料理と女が一緒? 何それ。食欲旺盛の男は、性欲も旺盛……って話? 食欲、性欲、睡眠欲が人間の三大欲求とかいうけど、そういう話?)
「おっと、お子ちゃまには刺激的な発言だったか」
「……公共の場で下品な発言は控えたほうがよろしいかと」
「ははは、手厳しいな」
「…………」
高校生相手に何言ってんのよ、と口には出さなかったが目で訴えた。
「ま、俺は結構食欲はあるほうだって話。ここの店は安くて美味いからな、結構食べられるし、俺は気に入ってるよ」
そうですか、と聡子は適当な相槌を打った。
(食欲があるってことは性欲もあるってことよね。はいはい、お盛んですこと)
そういえばこの人はヤクザだけど、クリスマスイブの日に出会った時に、それらしき発言をしていたような気がした。
(これから予定がある、みたいな。……てことは、誰か特定の人はいるってことか。この顔で)
いや顔は関係ないのか、と考えたあと、
(なんでそんなこと考えたんだ、わたしには関係ないことだ)
まあ性欲をぶつける相手がいそうだってことだな、と聡子は思った。
「お盛んですね」
「あ?」
「あっ」
うっかり口に出していたようで、聡子は失礼しましたーと棒読みで加えた。
「お盛んかどうかはあんたの想像にお任せするよ」
彼はニヤニヤと笑った。
かあっと顔を赤らめると、トモはまた笑う。
テーブルから離れ、他のテーブルの給仕にかかった。
(この人の相手ばっかしてられない)
今日はそんなに客がいるほうではないが、やはりピーク時は忙しいのだ。
(あっ!)
きっとまた会える気がしていたが、それは想像以上に早いタイミングだった。
聡子は率先して給仕を務めた。
「いらっしゃいませ」
「よう」
「せ……先日はどうもありがとうございました」
「おう」
彼──トモは軽く言った。
(そうだ、トモって呼ばれてた、この人)
どういう字を書くのかはわからないが、あの頭の悪そうな金髪がそう言っていたのを突然思い出したのだった。
「店員さんのおすすめはあるか?」
メニューをちらりと見たあと、聡子を見上げた。
「おすすめ……ですか。ファミレスにおすすめも何も……」
しかしそう言いつつも聡子は、訊かれた以上は答えるべきだと、自分の好きな安いグラタンを勧めた。一番高いステーキセットを勧めてやろうかとも思ったが、高校生の聡子には手が届かないメニューで、実は食べたことがない。内容を訊かれた場合に困ってしまうのでやめたのだった。
「味はもちろんですけど、安くておなかいっぱいになります。それにホワイトソースに拘っていて、とっても美味しいメニューになっています!」
食い気味の聡子に、トモは失笑しながら、
「そうか。じゃあ、それもらおうかな」
と言った。聡子の意見を尊重してくれるようだ。
「で、ほかにはあるか?」
「えっ……えっと、あとは白玉あんみつが……」
と言いかけ、口をつぐむ。ヤクザにあんみつなんて、しまったと思ったが、
「白玉がもちもちしていて、小豆との相性も抜群です。甘すぎないところもとてもいいです」
「じゃあ、それも頼むわ」
と注文した。
しかしそれでは足りないのか、別のメニューもいくつか追加注文した。食べきれるのかなとも思ったが、そういえば、金髪男と来店した時にはたくさん食べていたことを思い出した。聡子からしてみたら彼は細身で、よくそんなに食欲があるものだと思った。
「よく食べられますね」
「まあ、うまいもん食うのは好きだからな」
「はあ……そうなんですか」
トモは、顔は少し強面の部類だと思うが、細身長身のわりに、ばくばくと料理を食べていた。まるで運動部の中高校生のようだ。
「女と一緒だよ、うまいもんもいい女も味見したくなるだろ。欲しくなるんだよ」
「え…………」
聡子は半目でトモを見返した。
いわゆるドン引きをした状態だった。
(料理と女が一緒? 何それ。食欲旺盛の男は、性欲も旺盛……って話? 食欲、性欲、睡眠欲が人間の三大欲求とかいうけど、そういう話?)
「おっと、お子ちゃまには刺激的な発言だったか」
「……公共の場で下品な発言は控えたほうがよろしいかと」
「ははは、手厳しいな」
「…………」
高校生相手に何言ってんのよ、と口には出さなかったが目で訴えた。
「ま、俺は結構食欲はあるほうだって話。ここの店は安くて美味いからな、結構食べられるし、俺は気に入ってるよ」
そうですか、と聡子は適当な相槌を打った。
(食欲があるってことは性欲もあるってことよね。はいはい、お盛んですこと)
そういえばこの人はヤクザだけど、クリスマスイブの日に出会った時に、それらしき発言をしていたような気がした。
(これから予定がある、みたいな。……てことは、誰か特定の人はいるってことか。この顔で)
いや顔は関係ないのか、と考えたあと、
(なんでそんなこと考えたんだ、わたしには関係ないことだ)
まあ性欲をぶつける相手がいそうだってことだな、と聡子は思った。
「お盛んですね」
「あ?」
「あっ」
うっかり口に出していたようで、聡子は失礼しましたーと棒読みで加えた。
「お盛んかどうかはあんたの想像にお任せするよ」
彼はニヤニヤと笑った。
かあっと顔を赤らめると、トモはまた笑う。
テーブルから離れ、他のテーブルの給仕にかかった。
(この人の相手ばっかしてられない)
今日はそんなに客がいるほうではないが、やはりピーク時は忙しいのだ。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
不埒な社長と熱い一夜を過ごしたら、溺愛沼に堕とされました
加地アヤメ
恋愛
カフェの新規開発を担当する三十歳の真白。仕事は充実しているし、今更恋愛をするのもいろいろと面倒くさい。気付けばすっかり、おひとり様生活を満喫していた。そんなある日、仕事相手のイケメン社長・八子と脳が溶けるような濃密な一夜を経験してしまう。色恋に長けていそうな極上のモテ男とのあり得ない事態に、きっとワンナイトの遊びだろうとサクッと脳内消去するはずが……真摯な告白と容赦ないアプローチで大人の恋に強制参加!? 「俺が本気だってこと、まだ分からない?」不埒で一途なイケメン社長と、恋愛脳退化中の残念OLの蕩けるまじラブ!

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
夫のつとめ
藤谷 郁
恋愛
北城希美は将来、父親の会社を継ぐ予定。スタイル抜群、超美人の女王様風と思いきや、かなりの大食い。好きな男のタイプは筋肉盛りのガチマッチョ。がっつり肉食系の彼女だが、理想とする『夫』は、年下で、地味で、ごくごく普通の男性。
29歳の春、その条件を満たす年下男にプロポーズすることにした。営業二課の幻影と呼ばれる、南村壮二26歳。
「あなた、私と結婚しなさい!」
しかし彼の返事は……
口説くつもりが振り回されて? 希美の結婚計画は、思わぬ方向へと進むのだった。
※エブリスタさまにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる