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【第1部】2.再会
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聡子のバイト先のファミレスに、彼が一人で現れた。
(あっ!)
きっとまた会える気がしていたが、それは想像以上に早いタイミングだった。
聡子は率先して給仕を務めた。
「いらっしゃいませ」
「よう」
「せ……先日はどうもありがとうございました」
「おう」
彼──トモは軽く言った。
(そうだ、トモって呼ばれてた、この人)
どういう字を書くのかはわからないが、あの頭の悪そうな金髪がそう言っていたのを突然思い出したのだった。
「店員さんのおすすめはあるか?」
メニューをちらりと見たあと、聡子を見上げた。
「おすすめ……ですか。ファミレスにおすすめも何も……」
しかしそう言いつつも聡子は、訊かれた以上は答えるべきだと、自分の好きな安いグラタンを勧めた。一番高いステーキセットを勧めてやろうかとも思ったが、高校生の聡子には手が届かないメニューで、実は食べたことがない。内容を訊かれた場合に困ってしまうのでやめたのだった。
「味はもちろんですけど、安くておなかいっぱいになります。それにホワイトソースに拘っていて、とっても美味しいメニューになっています!」
食い気味の聡子に、トモは失笑しながら、
「そうか。じゃあ、それもらおうかな」
と言った。聡子の意見を尊重してくれるようだ。
「で、ほかにはあるか?」
「えっ……えっと、あとは白玉あんみつが……」
と言いかけ、口をつぐむ。ヤクザにあんみつなんて、しまったと思ったが、
「白玉がもちもちしていて、小豆との相性も抜群です。甘すぎないところもとてもいいです」
「じゃあ、それも頼むわ」
と注文した。
しかしそれでは足りないのか、別のメニューもいくつか追加注文した。食べきれるのかなとも思ったが、そういえば、金髪男と来店した時にはたくさん食べていたことを思い出した。聡子からしてみたら彼は細身で、よくそんなに食欲があるものだと思った。
「よく食べられますね」
「まあ、うまいもん食うのは好きだからな」
「はあ……そうなんですか」
トモは、顔は少し強面の部類だと思うが、細身長身のわりに、ばくばくと料理を食べていた。まるで運動部の中高校生のようだ。
「女と一緒だよ、うまいもんもいい女も味見したくなるだろ。欲しくなるんだよ」
「え…………」
聡子は半目でトモを見返した。
いわゆるドン引きをした状態だった。
(料理と女が一緒? 何それ。食欲旺盛の男は、性欲も旺盛……って話? 食欲、性欲、睡眠欲が人間の三大欲求とかいうけど、そういう話?)
「おっと、お子ちゃまには刺激的な発言だったか」
「……公共の場で下品な発言は控えたほうがよろしいかと」
「ははは、手厳しいな」
「…………」
高校生相手に何言ってんのよ、と口には出さなかったが目で訴えた。
「ま、俺は結構食欲はあるほうだって話。ここの店は安くて美味いからな、結構食べられるし、俺は気に入ってるよ」
そうですか、と聡子は適当な相槌を打った。
(食欲があるってことは性欲もあるってことよね。はいはい、お盛んですこと)
そういえばこの人はヤクザだけど、クリスマスイブの日に出会った時に、それらしき発言をしていたような気がした。
(これから予定がある、みたいな。……てことは、誰か特定の人はいるってことか。この顔で)
いや顔は関係ないのか、と考えたあと、
(なんでそんなこと考えたんだ、わたしには関係ないことだ)
まあ性欲をぶつける相手がいそうだってことだな、と聡子は思った。
「お盛んですね」
「あ?」
「あっ」
うっかり口に出していたようで、聡子は失礼しましたーと棒読みで加えた。
「お盛んかどうかはあんたの想像にお任せするよ」
彼はニヤニヤと笑った。
かあっと顔を赤らめると、トモはまた笑う。
テーブルから離れ、他のテーブルの給仕にかかった。
(この人の相手ばっかしてられない)
今日はそんなに客がいるほうではないが、やはりピーク時は忙しいのだ。
(あっ!)
きっとまた会える気がしていたが、それは想像以上に早いタイミングだった。
聡子は率先して給仕を務めた。
「いらっしゃいませ」
「よう」
「せ……先日はどうもありがとうございました」
「おう」
彼──トモは軽く言った。
(そうだ、トモって呼ばれてた、この人)
どういう字を書くのかはわからないが、あの頭の悪そうな金髪がそう言っていたのを突然思い出したのだった。
「店員さんのおすすめはあるか?」
メニューをちらりと見たあと、聡子を見上げた。
「おすすめ……ですか。ファミレスにおすすめも何も……」
しかしそう言いつつも聡子は、訊かれた以上は答えるべきだと、自分の好きな安いグラタンを勧めた。一番高いステーキセットを勧めてやろうかとも思ったが、高校生の聡子には手が届かないメニューで、実は食べたことがない。内容を訊かれた場合に困ってしまうのでやめたのだった。
「味はもちろんですけど、安くておなかいっぱいになります。それにホワイトソースに拘っていて、とっても美味しいメニューになっています!」
食い気味の聡子に、トモは失笑しながら、
「そうか。じゃあ、それもらおうかな」
と言った。聡子の意見を尊重してくれるようだ。
「で、ほかにはあるか?」
「えっ……えっと、あとは白玉あんみつが……」
と言いかけ、口をつぐむ。ヤクザにあんみつなんて、しまったと思ったが、
「白玉がもちもちしていて、小豆との相性も抜群です。甘すぎないところもとてもいいです」
「じゃあ、それも頼むわ」
と注文した。
しかしそれでは足りないのか、別のメニューもいくつか追加注文した。食べきれるのかなとも思ったが、そういえば、金髪男と来店した時にはたくさん食べていたことを思い出した。聡子からしてみたら彼は細身で、よくそんなに食欲があるものだと思った。
「よく食べられますね」
「まあ、うまいもん食うのは好きだからな」
「はあ……そうなんですか」
トモは、顔は少し強面の部類だと思うが、細身長身のわりに、ばくばくと料理を食べていた。まるで運動部の中高校生のようだ。
「女と一緒だよ、うまいもんもいい女も味見したくなるだろ。欲しくなるんだよ」
「え…………」
聡子は半目でトモを見返した。
いわゆるドン引きをした状態だった。
(料理と女が一緒? 何それ。食欲旺盛の男は、性欲も旺盛……って話? 食欲、性欲、睡眠欲が人間の三大欲求とかいうけど、そういう話?)
「おっと、お子ちゃまには刺激的な発言だったか」
「……公共の場で下品な発言は控えたほうがよろしいかと」
「ははは、手厳しいな」
「…………」
高校生相手に何言ってんのよ、と口には出さなかったが目で訴えた。
「ま、俺は結構食欲はあるほうだって話。ここの店は安くて美味いからな、結構食べられるし、俺は気に入ってるよ」
そうですか、と聡子は適当な相槌を打った。
(食欲があるってことは性欲もあるってことよね。はいはい、お盛んですこと)
そういえばこの人はヤクザだけど、クリスマスイブの日に出会った時に、それらしき発言をしていたような気がした。
(これから予定がある、みたいな。……てことは、誰か特定の人はいるってことか。この顔で)
いや顔は関係ないのか、と考えたあと、
(なんでそんなこと考えたんだ、わたしには関係ないことだ)
まあ性欲をぶつける相手がいそうだってことだな、と聡子は思った。
「お盛んですね」
「あ?」
「あっ」
うっかり口に出していたようで、聡子は失礼しましたーと棒読みで加えた。
「お盛んかどうかはあんたの想像にお任せするよ」
彼はニヤニヤと笑った。
かあっと顔を赤らめると、トモはまた笑う。
テーブルから離れ、他のテーブルの給仕にかかった。
(この人の相手ばっかしてられない)
今日はそんなに客がいるほうではないが、やはりピーク時は忙しいのだ。
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