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【第1部】2.再会
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痴漢を捕まえたのは、バイト先のファミリーレストランで騒ぎを起こした二人組のヤクザの片方、茶髪男だった。
確か名前は──。
聡子は名前を思い出そうと思ったが、目の前のことで今は頭がいっぱいだ。
「あの、ありがとうございます……あれっ……」
駅員に痴漢を引き渡し、警察が来るのを待っていた聡子と茶髪男だったが、気づけばいつの間にか姿が見えなくなっていた。
「さっきまでここに……男性がいたんです」
警察の事情聴取の際には、
「知らない男性が、助けてくれて……」
と言うしかなかった。
どこの誰かなのか知らないのだから仕方がない。どこかのナントカ組のヤクザの男、ということくらいしかわからないが、それは言わないでおいた。
聴取が終わると、聡子はあの茶髪のヤクザを探した。
ホームを探しても、待合室を探しても、彼の姿はなかった。
(お礼、言ってないのに……)
どうしていなくなったのだろう。駅員に引き渡すまではいたし、駅員もその存在があったことを証言しくれた。
(どこ行っちゃったんだろう)
聡子はトボトボと改札口に向かった。
途中の駅で降りてしまったため、すっかり帰りが遅くなっている。
改札近くまで来て、時刻表を確認した。
(バスはないかな……)
一旦改札を出ることにした。
定期券なので出入りしても不都合はない。
「はあ……」
聡子がため息をつきながら、バスの時刻表を確認しに行こうとするくと、トンと背中に何かが当たった。
「……ほらよ」
「え?」
聡子はその声に振り返る。
目の前にはペットボトルのホットミルクティーが差し出された。
見上げると、そこにはあの男が立っており、ミルクティーを手に押しつけられ、聡子は拒むこともなく自然と受け取ってしまった。
「ありが……とうござます……。あっ、あのっ、さっきはありがとうございました!」
まずはお礼だ、と聡子は思い出し頭を下げた。
「はは、やっぱあの時の威勢のいい嬢ちゃんだな」
と彼は笑った。
「なんでいなくなってしまったんですか? せっかく捕まえてくださったのに」
「……サツはいろいろ面倒なんだよ」
聡子は察し、それ以上は何も言わないことにした。
「さっきは泣いてたのにな。人違いかと思ったけど、やっぱ気が強そうだしファミレスの店員さんだな」
「泣いてなんか……」
「そうかあ?」
「泣いてなんか……」
「痴漢に遭って泣いてたの誰だ?」
「泣きましたよ……泣いちゃいけないんですかっ」
痴漢に遭った記憶が甦り、聡子の脚は密かに震えた。
(大丈夫、大丈夫、あの人はもう逮捕された)
自分を奮い立たせ、彼の顔を見上げた。
確か名前は──。
聡子は名前を思い出そうと思ったが、目の前のことで今は頭がいっぱいだ。
「あの、ありがとうございます……あれっ……」
駅員に痴漢を引き渡し、警察が来るのを待っていた聡子と茶髪男だったが、気づけばいつの間にか姿が見えなくなっていた。
「さっきまでここに……男性がいたんです」
警察の事情聴取の際には、
「知らない男性が、助けてくれて……」
と言うしかなかった。
どこの誰かなのか知らないのだから仕方がない。どこかのナントカ組のヤクザの男、ということくらいしかわからないが、それは言わないでおいた。
聴取が終わると、聡子はあの茶髪のヤクザを探した。
ホームを探しても、待合室を探しても、彼の姿はなかった。
(お礼、言ってないのに……)
どうしていなくなったのだろう。駅員に引き渡すまではいたし、駅員もその存在があったことを証言しくれた。
(どこ行っちゃったんだろう)
聡子はトボトボと改札口に向かった。
途中の駅で降りてしまったため、すっかり帰りが遅くなっている。
改札近くまで来て、時刻表を確認した。
(バスはないかな……)
一旦改札を出ることにした。
定期券なので出入りしても不都合はない。
「はあ……」
聡子がため息をつきながら、バスの時刻表を確認しに行こうとするくと、トンと背中に何かが当たった。
「……ほらよ」
「え?」
聡子はその声に振り返る。
目の前にはペットボトルのホットミルクティーが差し出された。
見上げると、そこにはあの男が立っており、ミルクティーを手に押しつけられ、聡子は拒むこともなく自然と受け取ってしまった。
「ありが……とうござます……。あっ、あのっ、さっきはありがとうございました!」
まずはお礼だ、と聡子は思い出し頭を下げた。
「はは、やっぱあの時の威勢のいい嬢ちゃんだな」
と彼は笑った。
「なんでいなくなってしまったんですか? せっかく捕まえてくださったのに」
「……サツはいろいろ面倒なんだよ」
聡子は察し、それ以上は何も言わないことにした。
「さっきは泣いてたのにな。人違いかと思ったけど、やっぱ気が強そうだしファミレスの店員さんだな」
「泣いてなんか……」
「そうかあ?」
「泣いてなんか……」
「痴漢に遭って泣いてたの誰だ?」
「泣きましたよ……泣いちゃいけないんですかっ」
痴漢に遭った記憶が甦り、聡子の脚は密かに震えた。
(大丈夫、大丈夫、あの人はもう逮捕された)
自分を奮い立たせ、彼の顔を見上げた。
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