大人の恋愛の始め方

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【第1部】1.出逢い

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「いい加減にしろ。他の客に迷惑だろ」
 と冷ややかに言った。
 しーん……と店内が静まりかえる。
「えっ……けど、この女が。トモさんだって見てたっすよね」
「もうその辺にしとけ。さっきの店員もわざと水をこぼしたわけじゃねえ。おまえのせいでもあるんだ。それにちゃんと謝っただろ」
「謝ってすむならサツなんていらねえっての」
 小学生かよ、てかヤクザは警察が嫌いでしょ、と聡子はつっこみたくなる。
「……会長にも若にも迷惑がかかるっていうのがわかんねえのか、あれほど出すなって言われてるのに名前出しやがって」
「…………」
 金髪は舌打ちをし、聡子を睨む。
 口を噤んだが、おとなしく引き下がったようには見えなかった。
「店員さんよ、悪かったな。これで顔拭いてくれ」
 茶髪は聡子にハンカチを差し出した。
 聡子は、
「結構です」
 と突っぱねたが、茶髪男はハンカチを押しつけた。
「使ってねえきれいなやつだよ」
 しぶしぶ聡子はエプロンのポケットにそれを無造作にしまった。
 それで前髪を拭くのは悔しい。
「で、注文、いいか?」
「……は?」
 この状況で何を言っているんだろう、と思ったが、茜はただ注文を取りに行っただけだったのだ。その時に水を零してしまって今に至るのだと理解した。
「はい、どうぞ」
 この男たちは帰らずに食事をして行くつもりらしい。
 とんでもない図太い神経だ。
 聡子は自分のハンカチをスラックスのポケットから取り出し、取りあえず前髪を拭った。
「俺は飯食いに来ただけだ。おまえだけ帰ってもいいぞ」
 茶髪男は金髪男に言う。
 金髪男は口を尖らせ、メニューに目を落とした。
 聡子は手に力を入れ、男のハンカチを押し込んだエプロンのポケットからハンディ・ターミナルを取り出す。うっかり落としかけ、手が震えていることに気づき、何とか踏みとどまった。
「トモさん、もう決まったのかよ、オレまだなのに……」
「てめえが因縁付けてる間に決めた」
(因縁だったのか!)
 ──聡子は注文を訊くと、バックヤードに戻った。
 戻るや否や、がくっと膝を付いてその場に座り込んだ。
「月岡さん、大丈夫!?」
 同僚たちが駆け寄って来た。
「うわ……意外にビビってたみたい」
 ちょっと休みなさい、と厨房の社員たちに言われ、聡子は休憩室に下がった。
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