2 / 222
【第1部】1.出逢い
1
しおりを挟む
高校三年生の秋。
聡子は、就職が決まり、学校行事や資格勉強以外に、放課後はこれまでも続けていたアルバイトに勤しんでいた。基本的にアルバイトは認められていないが、申請をすれば承認される。部活動や資格取得学習が盛んな聡子の高校では、アルバイトをする時間が当てられる時間も少ない。聡子は活動日の少ない商業研究部に選択して所属し、あまり大会の成績はいいとは言えないが、それなりに貢献はしているつもりだった。
「卒業したら遠距離だなー」
友達の鈴木美弥が言う。
「下山君、サッカー推薦だったっけ。県外かあ……」
美弥の彼はサッカー部で活躍した生徒で、大学は先頃推薦合格をしていた。
「うん、まあ新幹線で一時間ってところだけど。免許取ったら車でも行けちゃうし」
市内の専門学校に進学する美弥とは、離れてしまう。前々からわかってはいたことだが、その日が少しずつ近づいてくるのが寂しいようだ。
「そうだ聡子、翔太君からの伝言あったんだった」
「下山君から? どんな?」
「聡子に告白したい子がいるんだって」
「ブハッ」
聡子は、ぶんぶんと首を振った。
「いつも言うけど、興味ないから」
「好きな人いないの?」
「いないよ。だいたい、地味なわたしの何を見て気に入るんだろうね」
「聡子のこと気に入ってる男子、結構いるんだよ? 聡子に彼氏はいるのかとか、好きなヤツいるのか、って、翔太君から探りがくるんだよね。そのたびに『相変わらず情報は更新されてないよ』って言うんだけどさ」
「……ごめん」
いつもどおり断って、と聡子は美弥を拝んだ。
美弥には悪いが、本当に好きな人もいないし、いても相手のために割く時間が持てそうにないのだ、今は。
「あっ、バイトの時間だから。ごめん! 先行くね。下山君に謝っといて」
聡子はその場から駆け出した。
「ハイハイ、わかったよ」
美弥は毎度のことだと言うように、頷いて手を振ってくれた。
聡子は、就職が決まり、学校行事や資格勉強以外に、放課後はこれまでも続けていたアルバイトに勤しんでいた。基本的にアルバイトは認められていないが、申請をすれば承認される。部活動や資格取得学習が盛んな聡子の高校では、アルバイトをする時間が当てられる時間も少ない。聡子は活動日の少ない商業研究部に選択して所属し、あまり大会の成績はいいとは言えないが、それなりに貢献はしているつもりだった。
「卒業したら遠距離だなー」
友達の鈴木美弥が言う。
「下山君、サッカー推薦だったっけ。県外かあ……」
美弥の彼はサッカー部で活躍した生徒で、大学は先頃推薦合格をしていた。
「うん、まあ新幹線で一時間ってところだけど。免許取ったら車でも行けちゃうし」
市内の専門学校に進学する美弥とは、離れてしまう。前々からわかってはいたことだが、その日が少しずつ近づいてくるのが寂しいようだ。
「そうだ聡子、翔太君からの伝言あったんだった」
「下山君から? どんな?」
「聡子に告白したい子がいるんだって」
「ブハッ」
聡子は、ぶんぶんと首を振った。
「いつも言うけど、興味ないから」
「好きな人いないの?」
「いないよ。だいたい、地味なわたしの何を見て気に入るんだろうね」
「聡子のこと気に入ってる男子、結構いるんだよ? 聡子に彼氏はいるのかとか、好きなヤツいるのか、って、翔太君から探りがくるんだよね。そのたびに『相変わらず情報は更新されてないよ』って言うんだけどさ」
「……ごめん」
いつもどおり断って、と聡子は美弥を拝んだ。
美弥には悪いが、本当に好きな人もいないし、いても相手のために割く時間が持てそうにないのだ、今は。
「あっ、バイトの時間だから。ごめん! 先行くね。下山君に謝っといて」
聡子はその場から駆け出した。
「ハイハイ、わかったよ」
美弥は毎度のことだと言うように、頷いて手を振ってくれた。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
契約妻ですが極甘御曹司の執愛に溺れそうです
冬野まゆ
恋愛
経営難に陥った実家の酒造を救うため、最悪の縁談を受けてしまったOLの千春。そんな彼女を助けてくれたのは、密かに思いを寄せていた大企業の御曹司・涼弥だった。結婚に関する面倒事を避けたい彼から、援助と引き換えの契約結婚を提案された千春は、藁にも縋る思いでそれを了承する。しかし旧知の仲とはいえ、本来なら結ばれるはずのない雲の上の人。たとえ愛されなくても彼の良き妻になろうと決意する千春だったが……「可愛い千春。もっと俺のことだけ考えて」いざ始まった新婚生活は至れり尽くせりの溺愛の日々で!? 拗らせ両片思い夫婦の、じれじれすれ違いラブ!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
無表情いとこの隠れた欲望
春密まつり
恋愛
大学生で21歳の梓は、6歳年上のいとこの雪哉と一緒に暮らすことになった。
小さい頃よく遊んでくれたお兄さんは社会人になりかっこよく成長していて戸惑いがち。
緊張しながらも仲良く暮らせそうだと思った矢先、転んだ拍子にキスをしてしまう。
それから雪哉の態度が変わり――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ
慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。
その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは
仕事上でしか接点のない上司だった。
思っていることを口にするのが苦手
地味で大人しい司書
木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)
×
真面目で優しい千紗子の上司
知的で容姿端麗な課長
雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29)
胸を締め付ける切ない想いを
抱えているのはいったいどちらなのか———
「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」
「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」
「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」
真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。
**********
►Attention
※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです)
※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。
※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる