幼馴染じゃなくなる日

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5.大人男子✕大人女子

4.

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 丁寧に、優しく彼女の身体に触れた。
 知っている敏感な場所は全て官能的に触れ、里紗の吐息を聞いた。
「里紗はここ、好きだよね?」
「……どうかな」
 彼女が好きな場所は知っているつもりだ。言われなくても身体は正直で、繋がれば淫らな声をあげて、海を求めてくる。
 もっともっと、と言わない癖に今日はやけに強請ってきた。
 前から、背後から、彼女の身体を焼き付けておきたかった。
 もう彼女を抱くことは出来ない。
 別の誰かが、彼女を抱いて、彼女は自分のことなど忘れてしまうのかもしれない。
(なんだよ……!)
 パンッパンッと激しく腰を打つと、彼女は身体を仰け反らせる。
 速度を速め、迎えたくない最後に向かってゆく。
「ああっ、やばっ」
「ねえっ……ゴムっ、してないよっ」 
 急に里紗が興ざめするようなことを言った。
 そう、確かに今日はコンドームをつけていない。
「外に出すから!」
 叫ぶと、承諾するように里紗は頷いた。
 里紗と手を握り、腰を目一杯振った。
(気持ち、いい……!)
「ああっ……ああっ……ああっ……イク……っ!」
 ドクドクドク……と海の欲が吐き出された。
 里紗のなかに、容赦なく放たれていく。
「え……待って……!?」
「はあ……っ……はあ……っ……」
 里紗が海のものから逃れようと、腰を動かしたが、海は逃がさないよう押し付けた。
「なんで……」
 悲鳴のような里紗の声だ。
 彼女はしばらく藻掻いていたが、海が離さなかったせいか諦めたように息をついた。
 海が里紗からそれを抜くと、彼女の秘部から白いものが零れた。
「なんで……中に出さないって……」
「中に出さないなんて言ってないよ」
 里紗はキッと海を睨み、
「外に出すって言ったよね……!?」
 身体を起こして、震える声で海を非難した。
「中に出しちゃ駄目って……」
「駄目なの?」
「駄目に決まってるじゃない! こんなことするなんて!」
 里紗は零れたものを手で拭い、じっと睨み付けている。
「もうしないって言ったから嫌がらせなの!? ひどいよ!」
「…………」
「最低!」
 バチンッ、と小気味のいい音が響いた。
 平手打ちをくらい、海はベッドから落ちそうになったが、踏み止まった。
(いってー……)
 左の頬がじんじんし始めた。
「なんでこんなこと……嘘つくなんて……」
「…………」
「最低……海君、最低……」
 里紗が少ない言葉で海を罵った。
「子供が出来たら……どうする気…。男はそうやって女を貶めて、責任も取らない。泣くのは女のほう」
 過去に何かあったのだろうか、と里紗を見た。
 自分の知らないところで、男にひどい目に遭わされたとでもいうのだろうか。
「俺は……責任取るよ」
「は!? 何言ってるの」
 里紗は眉をつり上げる。
「堕ろせって言ってお金で解決するの」
「言わないよ。何それ、里紗ちゃん、言われたことあるの?」
「…………」
(まさかあるの!?)
 里紗は否定も肯定もしなかったが、もしかすると、言えない過去があるのかもしれなかった。だが海は何も訊かなかった。
「俺は、そんなこと言わないよ。堕ろせなんて言わない。俺は、里紗ちゃんに俺との子供なら嬉しいし、喜ぶよ」
「わけわかんない」
「もう最後にしようって言われて、ゴムつけないでセックスして中で出したら、子供出来る可能性があるから……。そしたら里紗ちゃんが、俺のものになってくれるかもって思ったんだ。しょうもない理由なんだけど」
「何それ」
 里紗は理解できない様子だった。
「最後なんて、本当は俺は嫌だから。最後にしたくない。里紗ちゃんが誰かと付き合うなんて考えたくない」
「どういう意味」
「そのままの意味だよ。里紗ちゃんを……自分だけのものにしたい。好きだから、誰にも渡したくない」
 あの日、嫌なら全力で逃げて、と言って逃げられなかったことで、告白もなしに里紗と関係を続けてきた。里紗が自分を少しでも好きなら、受け入れてくれるはず、という甘い考えだったが、受け入れてもらえて、いつか振り向かせることが出来ると勝手に思っていた。
「好き……?」
「うん、俺は里紗ちゃんが好きだから」
「なにそれ……?」
 里紗は驚いた顔をする。
「ずっと好きだったよ。彼女が出来ても、やっぱり里紗ちゃんが好きだったから長く続かなかったし」
 里紗は両手を頬に当て、目をぱちぱちさせている。
「何なのよ」
「今まで、ごめん」
「…………」
 里紗は顔を赤らめ、放心したような表情になっている。
「卑怯な手段で悪いとは思ってる。けど……俺は里紗ちゃんが好き。だから、今日で終わりたくない」
 里紗の手を取り、顔を覗き込む。
「…………」
 里紗は顔を覆った。
「一緒に映画見たり、海に行ったりとかデートしたかったし、クリスマスや誕生日、もっと盛大にお祝いしてあげたいと思ってた」
「遅いよ……」
 ぼそり、彼女は言う。
「遅いのよ」
「えっ」
「もっと早く言ってよ」
「え……」
「早く言ってほしかった」
 そうなのか、と海はきょとんとする。
「それって……」
 海はごくりと息を飲み、その言葉の真意を確認しようとした。
「あの日、セックスしたい、なんて言って……」
「え、いや、俺は里紗ちゃんが好きだから、里紗ちゃんとしたかった……っていう……」
 ちゃんと言ってよ、と里紗は海の身体を小突いた。
「え……ごめん」
 里紗の高校の卒業式の日、告白をするつもりだったのにしそびれてしまった話をすると、里紗はとても驚いていた。
「そんな前に……」
「うん、でも出来なくて……。あの時してたらよかった、って。思い切りフラれてたら諦めもついただろうけど」
 それか、内定を祝ってくれたあの日、もっと違う形で里紗に気持ちを伝えればよかった、と後悔した。
「わたしもズルズル関係続けてた身だから。ちゃんと拒否してればよかった。でも、海君とのセックスに溺れて、海君に身体だけの関係を求められてても、のめり込んで止められなくなってたんだ。いけないことなのに」
「…………」
「幼馴染なのにこんなことして、いつか天罰が下るよね」
 里紗は溜息交じりに言った。
「里紗ちゃんてさ、もしかして俺のこと好き?」
「え……」
「教えて。俺とセックスするってことは、俺を嫌いじゃないとは思ってる。でもそれって好きってこと? ただ流されてただけ?」
 自分に対しての気持ちを訊きたかった。
「……言えなかったよ、海ちゃんが好きだった、なんて」
 呼び方が昔に戻っている。
(過去形……?)
「海ちゃんの面倒を見ているお姉さんだったから。やましい気持ちで面倒見てたなんて思われたくなかった」
 里紗の顔に近づき、唇を重ねる。
「俺のこと好きだったんだな」
「……あの頃はね」
「それでも、すっごい嬉しい」
「セックスだけじゃなくて、好きって言ってもらいたかった」
「……ごめん」
「もう、遅い」
 俺たち拗らせすぎだな、と海は溜息をついた。
「けど、里紗ちゃんは俺なんかに見向きもしないって思ってた。近所のおばちゃんたちもさ、里紗ちゃんは将来お医者さんと結婚するのよねー、って言ってたよね。里紗ちゃんのお父さんがお医者さんでお母さんも看護師さんで。お兄ちゃんも医者になっただろ? 片親の俺なんて相手にされないんだな、って」
「近所のおばさんたちの話でしょ。噂好きな、僻みと嫌味しか言わないような」
 近所のネットワークは恐ろしいもので、自分たちが話さなくても、どこからか情報が洩れているのだ。しかもわりと正確に。
「言わせとけばいいんだよ」
「はあ……ちゃんと言えばよかったな……」
「ごめんね」
「俺たち、近すぎたんだ」
 里紗の身体を抱き寄せ、背中に手を回した。
「ねえ、里紗ちゃん。子供が出来ても出来なくても、俺と結婚してよ」
「……なっ……何を突然」
「こんなカッコで言うことじゃないけどさ、俺、里紗ちゃんがいいんだ。子供の頃はずっと、里紗ちゃんをお嫁さんにしたいなって思ってたよ」
「…………」
 里紗はそっと海の腕から抜け出し、海の顔を真っ直ぐに見た。
「俺と、結婚してよ」
「……そこで、はい、なんて言うと思う?」
「え」
 自分を好きなら頷いてくれるものとばかり思っていた。
「そんな……」
「とにかく、もうこんな関係はやめよう」
 里紗の言葉で、現実に引き戻された感じがした。
 自分の気持ちは伝わらなかったのだろうかと、海は落胆してしまう。
「わかった。もう、身体だけの関係はやめる。……やめるから、俺とけっこ……」
「考えさせて」
 里紗は海の言葉を遮った。
「え、でも子供が……」
「しばらく考えさせて」
「俺が好きなら……」
「考えさせてって言ってるの!」
 里紗の強い口調に海は口を噤んだ。
 妊娠してもしなくても、と言ったのだから承諾してもらえるものだと思っていた。
「取りあえず、服着て。シャワーも使っていいから」
「う、うん」
 海はシャワーを借り、そのあと着た時の姿に戻った。里紗は部屋着になっている。
 帰り際はいつも淡泊だが、今日はいつもより重い空気だった。
「一ヶ月考える」
「じゃあ……ひと月後、来てもいい?」
「うん、来る前日くらいにメッセージもらえる?」
「わかった。一ヶ月の間に引っ越したりしないでよ」
 不安に思ったことを海が口にすると、里紗は少し黙り込んだ。
「逃げようと思った?」
「思ってない」
「ならいいけど。俺、本気だからね。前向きに考えてもらいたい。連絡してから来るね」
 重い空気を感じながら、里紗の部屋を後にした。
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