幼馴染じゃなくなる日

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2.地味男子×無邪気女子

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「おまえ、さりげなくナイトだよな」
 大川翔平が言った。
「ナイト?」
 始業式になり、久しぶりに会うや彼に言われた。
 花火大会の帰りに別れて以来だ。
「言い方間違ったら『過保護』だけど、おまえの場合はナイトだと思った」
「なんの話?」
「吉井のことだよ」
「はるちゃん?」
「誰もおまえと吉井の間に割り込めないわ」
 翔平は溜息をついた。
「おまえは無意識に吉井を甘やかしてるし、吉井もそれを当たり前みたいに受け止めてる。何をするにもおまえが一番だし。結局は吉井はおまえが好きで、おまえも吉井が好きなんだろ」
「ええ?」
「認めたらいいのに。応援するふりして、俺のこと笑ってんだろ」
「いや違うよ……」
 誤解だ、と言っても翔平は聞く耳を持たなかった。
 翔平は舌打ちをして去っていった。
「なんなんだ……」
 だんだん腹が立ってきた。
(はるちゃんが好きなら、まどろっこしいことしないで、正々堂々と告白すればいいじゃないか。僕を通すから、そんなふうに思うんだろ)
 珍しく千尋はイライラした。


「ちーちゃん、一緒に帰ろっ」
 下駄箱で、陽花に声をかけられた。
 ちらりと陽花を見やると、千尋は無視をした。
「ちーちゃん? どうしたの?」
「ごめん、今日は寄り道するから一人で帰る」
「寄り道? どこ行くの? わたしも付いてっていい?」
「いや、一人で行きたいから」
「……そう、わかった。じゃあ、一人で帰るね。お先に」
 しょんぼりした顔で陽花は玄関を出て行った。
(ごめん)
 暫く距離を置いたほうがいいのかもしれない、と千尋は陽花の背中を見送った。


 帰宅し、部屋で寝転がっていると、陽花がやってきた。
「ちーちゃん」
「……はるちゃん」
「今日の寄り道どうだった? お買い物?」
「うん、まあ」
 いつものやりとりに、これじゃあ駄目だ、やっぱりはるちゃん離れをしないといけない、そう感じた。
「……ちーちゃん、漫画貸してくれる?」
「うん、いいよ」
「ありがと」
 陽花は本棚の漫画を物色する。
 短いスカートからすらりと伸びた足が、寝転ぶ千尋の目に映った。
 彼女が背伸びをしたら、中が見えてしまいそうだ。
(無防備過ぎだよ。僕のこと男だと思ってないのかな)
 そうだ、陽花は思っていない。
 異性だというのに、千尋の腹を見た分、自分の腹を見せようとするし。
(はあ……)
 千尋がベッドから起き上がり、縁に座った。
「どうかした?」
「いや」
「具合悪い? 久しぶりに学校行って疲れた?」
「いや、大丈夫だよ」
 顔を覗き込んでくる陽花を、そっと押した。
「はるちゃん、もうあまり僕に構わないで」
「構うって……?」
「僕がはるちゃんの近くにいたら、はるちゃんを好きな男子たちにやっかまれるんだよ」
「何それ」
 陽花が眉をつり上げた。
「ちーちゃんと仲がいいのはみんな知ってるし。わたしの友達は誰もそんなこと言わないよ」
「それは……はるちゃんの友達だからだろ」
 陽花が自分と仲良くすることで女友達にやっかまれる、なんてことは皆無だろう。自分の存在など全くどうでもいいと思われているはずだ。
「僕がいるせいで、はるちゃんと仲良くしたくても近づけないし、はるちゃんだっていつまでも恋人ができないよ」
「別にいらない」
 困った顔で陽花を見返した。
「別に彼氏なんかいらない」
「ずっとそういうわけにはいかないでしょ」
「ちーちゃんと仲良くしたいから仲良くしてるだけだよ」
「そうだけど。ああ、そうだ、もう、名前も『ちーちゃん』て呼ぶのやめようよ。僕も『はるちゃん』って呼ぶの止めるから」
「なんで?」
 陽花は泣きそうな顔になった。
 拒絶したように聞こえたかな、と千尋は不安になったが、仕方がないと割り切った。
「ちーちゃんは……わたしが邪魔?」
「邪魔じゃないよ」
「わたしがいるから、彼女出来ないと思ってる?」
 そんなこと全く思わないよ、と陽花を見た。
「別に僕は彼女欲しいとは思ってないし、はるちゃんみたいにモテないし、どのみちできないよ。そんなことは別にどうだっていいよ」
 陽花は千尋の隣に座った。
「じゃあ、いいじゃない、別に」
「……うーん……」
「わたしはちーちゃんの側に居たいんだもん」
「……そうなの?」
「うん」
 しおらしく俯き、太ももの上の手をもじもじと動かした。
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