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1.強面男子×無垢女子
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再び、お互いの部屋を行き来するようになった。
主に佐保が康輔の部屋を訪問するのだが。
「康ちゃん、いる?」
「いるぞー」
部屋に入ると康輔は、下着姿、いわゆる「パンイチ」だった。
「きゃ!」
「悪い、今帰ったばっかでさ」
「ごめん」
思わず背中を向ける佐保。
「別に見てもたいしたもんじゃねえし。つーか、ちょっといてぇんだよ」
「え?」
痛いという言葉に佐保が振り返った。
「なっ、またケンカしたの!?」
「んー、歩いてるだけでまた因縁つけられて、ボコられた」
「もう……なんでこんな……」
洗面台借りるね、と佐保は山川家の洗面所に行き、洗面器とタオルを借りてきた。救急箱の場所も知っている。
「持ってきた」
口の端の傷を水で拭い、消毒する。
「いってー……」
「染みる?」
「染みる」
「痛いけど許してね」
可愛い唇がすぐ近くにある。この唇が自分の名前を呼ぶのかと思うと、嬉しくて口を塞ぎたくなる。こんな至近距離に顔があっても、彼女は動揺すらしない。
(俺はめちゃくちゃドキドキしてんのにさ)
なんでもない振りをしているだけだ。本当はいますぐ押し倒して触れたい。
「ほかには?」
「とりあえず切ったのは口と、腕かな」
「腕!」
見せて、と彼女は腕を取り、消毒をしてくれた。
「はい、おしまい」
ちょっと直してくるね、と彼女は救急箱などをしまいに行ってくれた。
戻ってくると、ずっと同じ体勢の康輔に、
「まだ痛いところある?」
彼女はそう問いかけた。
「いや、大丈夫だ。ありがとな」
「うん、いいよ。……そ、それより早く服着てよ」
「ああ、そうだな」
スエットパンツと、Tシャツを着た。
別に今までだって何度も見ただろうに。
「そういえば何の用だ?」
「あ、そうだった」
借りた漫画返しに来ただけ、と佐保は思い出したように言った。
「ありがとう」
「次はどうする? 時間あるならここで読んでいってもいいんじゃねえの」
「あ、うん。今日は、いいかな」
「そか」
二冊くらい借りていくね、と佐保は本棚の漫画を二冊選んだ。
「じゃあ、帰ります」
「おう、ありがとな」
人相が悪くて因縁をつけられて怪我をしても、佐保が手当をしてくれるのが嬉しい。佐保との約束で、自分からは決して手を出さないこと、それは守っている。
因縁をつけられても取りあえずは無視をする。
やられてもしばらくは様子を見る。
康輔のほうが腕が強いから、と佐保はいつも言う。ケンカ負けなしなのだから。しかしその噂に尾ひれがついて、康輔が不良扱いされているのも事実だった。
佐保は、康輔が家に女の子と入って行くのを見かけた。
(彼女ができたの!?)
嘘でしょ、と驚く。
康輔とは違う学校の制服だ。かといって自分と同じ学校の制服でもない。どこでどうやって知り合うのだろう。
(そっか……わたしだって、前に東高の男の子に、電車で見かけて、とか言われたもんなあ。電車のなかってこともあるよね。康ちゃんから声をかけるとは思えないし。でも強面だから女の子から声かけるとも思えないんだけど)
紹介かなあ、と佐保は思った。
窓から、康輔の家の方角を覗いてみる。
康輔の部屋がギリギリ見えるが、中までは見えない。
(なんか……彼女が出来たら、気安く部屋に行けないよね……)
もやもやとする。
(康ちゃんに彼女ができるなんて……康ちゃんはもしかしたらわたしのこと好きなのかなって思ったこともあったけど、やっぱただの幼馴染か……。わたしだけが、好きみたい)
漫画みたいなことにはならないんだろうな、とがっかりする。
ずっと康輔だけを思い続けてきたというのに。
漫画返しに行って、もう借りないようにしよう。
康輔の部屋を尋ねる。
「康ちゃん、いるー?」
「いるぞー」
部屋に入ると康輔はベッドの上で横になってスマホを操作していた。
「漫画返しにきた」
「おう、好きなようにしてくれていいぞ。あ、その新刊出たからさ、机の上に置いてるの持って帰っていいぞ。俺は読んだから」
「え! 新刊! ほんとに!?」
佐保は喜んだ。
机の上にある漫画を手にし、目をきらきらさせた。
「どうしよ」
「ここで読んでもいいけど」
「うーん……借りようかな」
「好きなようにしてくれていいよ」
ありがと、借りてくね、と佐保はベッドの康輔に言った。
「おう」
康輔はちらりと見ただけだった。
いつもなら、もうちょっと目を見て話してくれるのに。
(彼女とラインしてるのかな……)
ふと、机の上の、見たことのない箱に気付く。
「0.02」と書かれたキラキラした綺麗な色の箱だ。高そうなチョコレートの箱のようだった。
(なんだろ……)
手に取ると「濃密な時間」と表にあり、裏を見てからはぎょっとした。
小さな文字で「つけたほうが気持ちいい」「コンドーム12個入」とあった。
(こ、こんどー……む!?)
よく見れば、箱は開封されており、取り出された形跡があった。
(な……なにこれ! 康ちゃんが使ってるってことなの!?)
どういう場面で使うものかを考えるや、心臓がバクバク言い始めた。
「じゃ、か、帰るね……」
「うん、またな」
佐保は慌てて山川邸を出た。
(康ちゃんは……この前の彼女と、その……そういうことしてるってこと……だよね。箱が空いてるってことは、使ってるってことだし……彼女と……そりゃ、するか……でも、でも! 高校生だよ!? そんなの大人がすることだよ!?)
***
「ん?」
佐保の様子がおかしい気がした。
身体を起こし、机の上に目をやる。ベッドから降り、見ると貸したはずの漫画が置いたままだった。
「あれ、新刊忘れてやんの。じゃあ、何持って帰ったんだ?」」
無造作におかれているコンドームの箱に、はっとする。
「あいつ、これ見たのか……」
置いてる俺が悪いんだけど。
「もしかして、これ見てびっくりして帰ったのか。はは、あいつ……」
主に佐保が康輔の部屋を訪問するのだが。
「康ちゃん、いる?」
「いるぞー」
部屋に入ると康輔は、下着姿、いわゆる「パンイチ」だった。
「きゃ!」
「悪い、今帰ったばっかでさ」
「ごめん」
思わず背中を向ける佐保。
「別に見てもたいしたもんじゃねえし。つーか、ちょっといてぇんだよ」
「え?」
痛いという言葉に佐保が振り返った。
「なっ、またケンカしたの!?」
「んー、歩いてるだけでまた因縁つけられて、ボコられた」
「もう……なんでこんな……」
洗面台借りるね、と佐保は山川家の洗面所に行き、洗面器とタオルを借りてきた。救急箱の場所も知っている。
「持ってきた」
口の端の傷を水で拭い、消毒する。
「いってー……」
「染みる?」
「染みる」
「痛いけど許してね」
可愛い唇がすぐ近くにある。この唇が自分の名前を呼ぶのかと思うと、嬉しくて口を塞ぎたくなる。こんな至近距離に顔があっても、彼女は動揺すらしない。
(俺はめちゃくちゃドキドキしてんのにさ)
なんでもない振りをしているだけだ。本当はいますぐ押し倒して触れたい。
「ほかには?」
「とりあえず切ったのは口と、腕かな」
「腕!」
見せて、と彼女は腕を取り、消毒をしてくれた。
「はい、おしまい」
ちょっと直してくるね、と彼女は救急箱などをしまいに行ってくれた。
戻ってくると、ずっと同じ体勢の康輔に、
「まだ痛いところある?」
彼女はそう問いかけた。
「いや、大丈夫だ。ありがとな」
「うん、いいよ。……そ、それより早く服着てよ」
「ああ、そうだな」
スエットパンツと、Tシャツを着た。
別に今までだって何度も見ただろうに。
「そういえば何の用だ?」
「あ、そうだった」
借りた漫画返しに来ただけ、と佐保は思い出したように言った。
「ありがとう」
「次はどうする? 時間あるならここで読んでいってもいいんじゃねえの」
「あ、うん。今日は、いいかな」
「そか」
二冊くらい借りていくね、と佐保は本棚の漫画を二冊選んだ。
「じゃあ、帰ります」
「おう、ありがとな」
人相が悪くて因縁をつけられて怪我をしても、佐保が手当をしてくれるのが嬉しい。佐保との約束で、自分からは決して手を出さないこと、それは守っている。
因縁をつけられても取りあえずは無視をする。
やられてもしばらくは様子を見る。
康輔のほうが腕が強いから、と佐保はいつも言う。ケンカ負けなしなのだから。しかしその噂に尾ひれがついて、康輔が不良扱いされているのも事実だった。
佐保は、康輔が家に女の子と入って行くのを見かけた。
(彼女ができたの!?)
嘘でしょ、と驚く。
康輔とは違う学校の制服だ。かといって自分と同じ学校の制服でもない。どこでどうやって知り合うのだろう。
(そっか……わたしだって、前に東高の男の子に、電車で見かけて、とか言われたもんなあ。電車のなかってこともあるよね。康ちゃんから声をかけるとは思えないし。でも強面だから女の子から声かけるとも思えないんだけど)
紹介かなあ、と佐保は思った。
窓から、康輔の家の方角を覗いてみる。
康輔の部屋がギリギリ見えるが、中までは見えない。
(なんか……彼女が出来たら、気安く部屋に行けないよね……)
もやもやとする。
(康ちゃんに彼女ができるなんて……康ちゃんはもしかしたらわたしのこと好きなのかなって思ったこともあったけど、やっぱただの幼馴染か……。わたしだけが、好きみたい)
漫画みたいなことにはならないんだろうな、とがっかりする。
ずっと康輔だけを思い続けてきたというのに。
漫画返しに行って、もう借りないようにしよう。
康輔の部屋を尋ねる。
「康ちゃん、いるー?」
「いるぞー」
部屋に入ると康輔はベッドの上で横になってスマホを操作していた。
「漫画返しにきた」
「おう、好きなようにしてくれていいぞ。あ、その新刊出たからさ、机の上に置いてるの持って帰っていいぞ。俺は読んだから」
「え! 新刊! ほんとに!?」
佐保は喜んだ。
机の上にある漫画を手にし、目をきらきらさせた。
「どうしよ」
「ここで読んでもいいけど」
「うーん……借りようかな」
「好きなようにしてくれていいよ」
ありがと、借りてくね、と佐保はベッドの康輔に言った。
「おう」
康輔はちらりと見ただけだった。
いつもなら、もうちょっと目を見て話してくれるのに。
(彼女とラインしてるのかな……)
ふと、机の上の、見たことのない箱に気付く。
「0.02」と書かれたキラキラした綺麗な色の箱だ。高そうなチョコレートの箱のようだった。
(なんだろ……)
手に取ると「濃密な時間」と表にあり、裏を見てからはぎょっとした。
小さな文字で「つけたほうが気持ちいい」「コンドーム12個入」とあった。
(こ、こんどー……む!?)
よく見れば、箱は開封されており、取り出された形跡があった。
(な……なにこれ! 康ちゃんが使ってるってことなの!?)
どういう場面で使うものかを考えるや、心臓がバクバク言い始めた。
「じゃ、か、帰るね……」
「うん、またな」
佐保は慌てて山川邸を出た。
(康ちゃんは……この前の彼女と、その……そういうことしてるってこと……だよね。箱が空いてるってことは、使ってるってことだし……彼女と……そりゃ、するか……でも、でも! 高校生だよ!? そんなの大人がすることだよ!?)
***
「ん?」
佐保の様子がおかしい気がした。
身体を起こし、机の上に目をやる。ベッドから降り、見ると貸したはずの漫画が置いたままだった。
「あれ、新刊忘れてやんの。じゃあ、何持って帰ったんだ?」」
無造作におかれているコンドームの箱に、はっとする。
「あいつ、これ見たのか……」
置いてる俺が悪いんだけど。
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