幼馴染じゃなくなる日

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1.強面男子×無垢女子

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 山川康輔やまかわこうすけは人相が悪く、勝手に因縁をつけられ、ケンカをして怪我をすることが多くなっていた。だが、自分から手を出すことは無かった。
今回は、通りがかった幼馴染の松倉佐保まつくら さほ が見つけ、康輔の怪我の手当をしてくれることになった。
「なんでケンカなんかするの?」
「相手がふっかけてきたから応戦しただけだ」
「もう……」
「俺からやったことは一度もない」
「……だよね」
「人相悪いとこうなるんだな」
「まあ人相悪いのは否めないけど」
「だろ」
「でも外見で判断されるのってどうなのかな。わたしは康ちゃんが優しくてカッコいいってこと知ってるけど、みんなどうしてわかってくれないのかな」
「おまえがそう言ってくれるだけで充分だよ」
 康輔の部屋で手当をし、佐保は終わったので帰ると言った。立ち上がる時に、ひらりと制服のスカートが揺れ、下着が見えた。
「おっと……ピンク色」
「えっ!?」
 佐保は慌ててスカートの後ろを手で押さえた。
「見えた!?」
「見えた」
「もう!」
「別にいいじゃん、減るもんじゃないし」
 ひょい、とスカートの裾をまくると、薄いピンク色の下着が目に入った。お尻の形がきれいだなと思った。
「最っ低!」
「昔は一緒に風呂にも入ったじゃん」
「昔の話!」
「パンツくらいいいじゃん。なあ、上も揃いの色なんだろ。見せろよ」
 にやにやと佐保を見ると、彼女の顔は真っ赤になっていて、眉をつり上げた。
「康ちゃんに教える義理はないでしょ!」
「ケチ」
「ケチでも康ちゃんには絶対に教えない!」
 なんだよ、と口を尖らせるが、佐保は怒った顔のままだった。
「ほんっとに最低!」
 佐保は頬を平手打ちした。
「いでっ」
「あ」
「いってーな」
「ごめん。でも、康ちゃんが悪いんだからね! 優しくてカッコいいは撤回! ただのエッチな男の子だよ!」
 ドスドスと足音を立てて、部屋を出ていった。
 佐保は斜め向かいの並びの端の家の子だ。
 まあそのうち機嫌が直るだろう、そう思っていた。


 が、今回は長かった。
 佐保と会っても口をきいてくれない。
 お菓子を作ったとお裾分けもしてくれなくなった。
 駅までの道で、一緒になっても彼女は口をきいてくれない。
 高校が違うので、当然途中からは別だ。佐保のほうが先に降りる。
 学校の帰りも、先に康輔が乗り、時々佐保が同じ電車に乗ってくる。しかし佐保は気付いている様子がない。
 声をかけようか迷っていると、別の学校の男子高校生たちがひそひそと佐保を見て話していることに気付く。
(なんだ……?)
 佐保は入口付近に立って本を読んでいる。
 佐保が降りる駅で、男子高校生たちも降りた。
 訝る康輔は、佐保に気付かれないよう降りた。改札を抜けた途端、男子高校生達が佐保に声をかけた。もう一人は、陰からそれを見ている。
「あの……」
「はい」
 佐保は振り返る。
「僕は東校二年の黒田和隆と言います」
「はあ」
「あの、手短に言います。僕はあなたに一目惚れしました。いきなり付き合って下さいというのは難しいと思うので、お友達から初めてもらうため、連絡先交換してもらいたいのですが!」
「……え」
 佐保は困っている様子だ。
(佐保が告白……されている)
 そんなことがあるとは思わなかった。
「えっと……」
「ぼ、僕は、行き帰りにあなたを見かけて、その……困っている方の手助けをしたりしているのを見て、あっ、僕もあなたに助けてもらった一人で……」
「はあ……」
「一年くらい前の夏、熱中症になって目眩で具合が悪くなってる時に、席を譲ってもらって、ハンカチまで貸してもらったことがあって」
「あったような、気が、しますね」
 佐保がそんなことをしていたとは知らなかった。
 彼は、軟弱と思われたくないので必死で体力をつけたと言っている。熱中症なら体力は関係ないのでは、と思ったが、隠れている康輔は黙って伺っていた。
「お願いします」
「……れ、連絡先くらいなら」
 イラッとした康輔はスタスタと二人の横を通り過ぎようとした。
「よぉ、こんなところで何告白されてんだ」
「康ちゃん!?」
「えっ彼氏!? ごめん、彼氏がいたんだ!? ごめん!」
 黒田は驚いて、ひたすら頭を下げてその場から逃げ去る。
「えっ、あの!」
「ごめん!」
 佐保が呼び止めるのも聞かずに、慌てて逃げていった。
「ちょ……」
「悪い、邪魔したか」
 全く悪いとは思っていない康輔だ。
「別に」
「知らない人間に簡単に連絡先とか教えてんじゃねーよ」
「教えてないよ」
「教えようとしてただろ」
「……まあ」
「簡単に教えんな」
「うん、そうだね。浅はかだった」
 じゃあな、と康輔は背を向けた。
「えっ」
 待って待って、と佐保は追いかけてくる。
「おんなじ方向なんだから一緒に帰ろうよ!」
「いや、寄り道して帰るから」
「……そうなんだ、ごめん」
 ぱたぱたと付いてきて、しょんぼりした声が聞こえた。
「いいよ。寄り道しようと思ったけど今日じゃなくてもいいし。たまにはおまえと帰るのも悪くないか」
 しょんぼりした顔がぱっと明るくなるのを見て、なんだか気分が良くなった。
「来いよ」
「うん」
 ずっと口を利いていなかったが、こんなことですぐにまた元通りになれるのは嬉しかった。もっと早くこうしていればよかった。
「おまえ、モテるんだな」
「え? モテないよ」
「まあ黙っとけば可愛いだろうし。けっこう告白されんの」
「は、初めてだよ、告白なんて」
「そうなんだ」
 自分の知らないところで、彼女にいろんな男が言い寄っているのかと思うとムカついたが、なかったならそれでいい。
(どうせ佐保は俺の気持ちなんか気づきもしない)
 何もなく、ただ二人は歩いて帰った。
「じゃあな」
「うん。ねえ、また康ちゃんちに漫画借りに行ってもいい?」
「ああいいよ。いつでも来いよ。俺もおまえんちに借りに行ってもいいか」
「もちろんだよ!」
 またな、と手を振り合った。
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