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4.決意
2.決意(2)
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もっと飲め、と冷蔵庫からビールを持ってきた。
「なになに」
「ビールしか出せないからな」
「おーありがとありがと」
飲みかけの缶ビールを、幸成は一気に飲み干した。
「ほら」
「おう」
慶孝が持ってきたビールを開けると、小気味のいい音がした。
「この音、たまんないわ」
「はは、そうか」
「で、セックスはちゃんとゴムしてんの?」
ブッ、と慶孝はいつかのように、幸成の顔めがけて口に含んでいたものを吹き出した。
「うわっ、また!」
「おまえが悪い」
人が口に入れた時に変な質問をするヤツが悪いのだ、と慶孝は言い放った。
洗面所で顔を洗って戻ってきた幸成は、どっかりと腰を下ろし、慶孝を睨む。
「大事なことだぞ」
「……ちゃんとしてるよ」
「そうか。おまえならそうだと思った。安心安心」
「避妊するに決まってんだろ」
「ナマでしたことないの」
「……ないわけじゃない」
否定するのもおかしいなと思い、正直に回答した。
「あー、風呂場でするとナマでするよな」
「……おまえ、なんなのマジで」
「あ、図星? 悪い悪い」
絶対に悪いと思っていない口調だ。
「風呂場以外にも、そうだなー、野外とかだと」
「しねえよ」
「しないの?」
「外でなんかするか」
「開放的で燃えるのに?」
「しねえよ」
頼りになる男だと思ったのに、下品なのは相変わらずだ。
「ま、こんな壁のうっすい部屋でセックスしてりゃ、声も丸聞こえで外でヤってるようなもんだよな」
「……おまえを消せるなら、マジで消すわ」
下品な会話は止まらなかった。
「ずっと思ってたことあるんだけど」
幸成が言う。この男はいつも唐突で、思ったときにすぐに言うが、何を思ってたことがあるというのだろう。
「佑香ちゃんがおまえの好意に答えた理由って何。付き合ったときからずっと気になってる」
今さらかよ、と慶孝は苦笑した。
「何か決定打がないと、知らないおっさんと付き合おうなんて思わないだろ。顔が特別いいわけでもないし、性格もわからないし」
「腹立つな……」
幸成はオブラートに包まない。
当時のことはもうはっきりとは思い出せないが、佑香には同じようなことを慶孝も尋ねたことがあった。
「なんで俺でいいと思ったのか」
彼女はこう言った。
「松田さん『で』いい、じゃなくて、松田さんが『いい』って思ったからですよ」
誰でもいいわけじゃない、と佑香は言っていたが、
「でも、ごめんなさい、先に謝ります」
と何故か謝られてしまった。
「漫画や小説のシチュエーションに憧れてて……そんなふうに男性から言われたことに有頂天になってしまったのは事実です」
脇役でしかない自分に、松田さんが現れたのは、わたしも主人公になれるのかな、と思ったんですよ、と。
そのことを話すと、
「じゃあ誰でも良かったんじゃん」
と幸成は身も蓋もないことを言ってくれた。
「うるせえよ」
声をかけてくる男性がいなかったわけではないが、その人たちと慶孝は違うと感じたようだ。
「スイーツバイキングに行った時、歩いてる時に、わたしを塀側を歩かせてくれたり、車のドアを開けてくれたり、素敵な人だなと思いましたよ」
(普通だと思ってたけどな)
佑香には、身近な男性、例えば学校の同級生やバイト先で出会う男性にはいないタイプだったようで、幸い慶孝が魅力的に見えたようだった。
「俺じゃなくてもよかったんだろうってのは、自分自身よくわかってるから」
幸成を睨みながら言った。
「でもおまえを選んで、今こうして続いてるってわけだ。大したもんだな」
「……満足したか」
「まあね。疑問も解決したし。おまえの一方的な強引な思いじゃなくて安心したわ」
「ならいい」
「幸せになれ」
ああ、と慶孝は頷いた。
「なになに」
「ビールしか出せないからな」
「おーありがとありがと」
飲みかけの缶ビールを、幸成は一気に飲み干した。
「ほら」
「おう」
慶孝が持ってきたビールを開けると、小気味のいい音がした。
「この音、たまんないわ」
「はは、そうか」
「で、セックスはちゃんとゴムしてんの?」
ブッ、と慶孝はいつかのように、幸成の顔めがけて口に含んでいたものを吹き出した。
「うわっ、また!」
「おまえが悪い」
人が口に入れた時に変な質問をするヤツが悪いのだ、と慶孝は言い放った。
洗面所で顔を洗って戻ってきた幸成は、どっかりと腰を下ろし、慶孝を睨む。
「大事なことだぞ」
「……ちゃんとしてるよ」
「そうか。おまえならそうだと思った。安心安心」
「避妊するに決まってんだろ」
「ナマでしたことないの」
「……ないわけじゃない」
否定するのもおかしいなと思い、正直に回答した。
「あー、風呂場でするとナマでするよな」
「……おまえ、なんなのマジで」
「あ、図星? 悪い悪い」
絶対に悪いと思っていない口調だ。
「風呂場以外にも、そうだなー、野外とかだと」
「しねえよ」
「しないの?」
「外でなんかするか」
「開放的で燃えるのに?」
「しねえよ」
頼りになる男だと思ったのに、下品なのは相変わらずだ。
「ま、こんな壁のうっすい部屋でセックスしてりゃ、声も丸聞こえで外でヤってるようなもんだよな」
「……おまえを消せるなら、マジで消すわ」
下品な会話は止まらなかった。
「ずっと思ってたことあるんだけど」
幸成が言う。この男はいつも唐突で、思ったときにすぐに言うが、何を思ってたことがあるというのだろう。
「佑香ちゃんがおまえの好意に答えた理由って何。付き合ったときからずっと気になってる」
今さらかよ、と慶孝は苦笑した。
「何か決定打がないと、知らないおっさんと付き合おうなんて思わないだろ。顔が特別いいわけでもないし、性格もわからないし」
「腹立つな……」
幸成はオブラートに包まない。
当時のことはもうはっきりとは思い出せないが、佑香には同じようなことを慶孝も尋ねたことがあった。
「なんで俺でいいと思ったのか」
彼女はこう言った。
「松田さん『で』いい、じゃなくて、松田さんが『いい』って思ったからですよ」
誰でもいいわけじゃない、と佑香は言っていたが、
「でも、ごめんなさい、先に謝ります」
と何故か謝られてしまった。
「漫画や小説のシチュエーションに憧れてて……そんなふうに男性から言われたことに有頂天になってしまったのは事実です」
脇役でしかない自分に、松田さんが現れたのは、わたしも主人公になれるのかな、と思ったんですよ、と。
そのことを話すと、
「じゃあ誰でも良かったんじゃん」
と幸成は身も蓋もないことを言ってくれた。
「うるせえよ」
声をかけてくる男性がいなかったわけではないが、その人たちと慶孝は違うと感じたようだ。
「スイーツバイキングに行った時、歩いてる時に、わたしを塀側を歩かせてくれたり、車のドアを開けてくれたり、素敵な人だなと思いましたよ」
(普通だと思ってたけどな)
佑香には、身近な男性、例えば学校の同級生やバイト先で出会う男性にはいないタイプだったようで、幸い慶孝が魅力的に見えたようだった。
「俺じゃなくてもよかったんだろうってのは、自分自身よくわかってるから」
幸成を睨みながら言った。
「でもおまえを選んで、今こうして続いてるってわけだ。大したもんだな」
「……満足したか」
「まあね。疑問も解決したし。おまえの一方的な強引な思いじゃなくて安心したわ」
「ならいい」
「幸せになれ」
ああ、と慶孝は頷いた。
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