突然恋に落ちたら

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5.終章

終章

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 一年と少しが経った。

「はい、花嫁さん、こちらに視線をお願いします! 花婿さんはそのままで! では撮りますよー! さん、にい、いち!」

  パシャッ

 シャッターを切る音が響く。
「はい、もう一枚!」
 カメラマンは花嫁と花婿の写真をひらすら撮影している。たくさん撮影し、その中からたった一枚を記念写真として残すことになっている。
「ふぅ……」
「はあ……」
 慶孝と佑香は同時に息を吐いた。
 純白のウェディングドレスを身に纏っているのは佑香、その隣には、同じくタキシード姿の慶孝だ。
 先日、交際六年目で婚姻届を提出した。
 佑香は図書館司書になって二年目で、慶孝はかわらず企業の社員食堂勤務だ。
 あれほど怯えていた倦怠期も過ぎ、心配な時期もあったが、二人の仲も変わらなかった。一年近くの同棲を経て、結婚をすることも出来た。恋愛感情がないわけではないが、確実に愛情が増している。
 式や披露宴はせず、写真だけ、と二人で決めて、今こうして撮影をしてもらっている。佑香の両親は披露宴はしないのか、と言っていたが、資金的余裕がないのでなしにしようということになったのだ。それに、慶孝には頼る縁者がいない。
 家族や親類がいないことで、佑香の両親に結婚を反対されたらどうしようかと思ったが、すんなりと承諾してもらうことができたのだった。
「これで、写真撮影は終わりなんでしょうか」
「たぶん、な……」
 ポーズを撮ったりしながら、たくさんの撮影をしたが、一枚だけというのも虚しい。
「ほかのお写真は、後日一緒にデータでさしあげますね」
 結婚式場のスタッフがそう言ってくれた。
 写真撮影を終え、二人は衣装から着替えることにした。
 衣装を返却し、私服に着替えて式場を出る。
 自然と二人は手を繋いだ。
「疲れたか?」
「全然です。式がない分、こうして二人で写真を撮ってもらえたから、すっごく嬉しいですよ」
「……俺もかな」
 佑香は手を繋いだまま、慶孝の腕に頭を乗せた。
 嬉しそうな佑香を見て、口元を緩める。
「実感が湧いてきたか?」
「いえいえ、ちゃんと実感はありますよ。婚姻届を出した時点で」
「……結婚式、したほうがよかったかな。二人だけででも」
「いいえ、二人で決めたことなんで、後悔はしてないですから」
 現実は厳しいですし、と佑香は笑った。
(資金面がな……)
「写真だけは、っていろんな人が言ってましたし。わたしは、式がなくても幸せなので」
 にっこりと佑香は慶孝を見上げた。
「……俺も」
「よかった」
 ぎゅっと手を強く握られ、慶孝も握り返した。
「松田さん、って言われるとなんかドキドキしちゃう」
「そうなのか?」
「松田さん、って人に呼ばれて、誰だろうって思ったら、あっわたしのことだ、みたいな」
「そうだよ、佑香のことだからな」
「なんか嬉しいなって」
 どちらの苗字にするか、このことも相談したが、慶孝の苗字になっても問題ないと、佑香にも佑香の両親にも言われたので、松田で戸籍を作ることにしたのだった。
「俺も嬉しいけどな」
 まさか自分が結婚することになるとは。
 佑香に出会うまでの自分では考えられなかった。
「……帰って、早めに飯作ろうか」
「じゃあ、買い物して帰りましょう」
「そうだな。今晩は早めに飯食って、ゆっくりしようか」
「……そうですね」
 二人は顔を見合わせ、笑い合った。
 繋いだ手をぎゅっと握ると、佑香も握り返してきたのだった。

 fin....

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