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2.葛藤と欲望
8.余韻(1)
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「おめでとう、慶孝くんっ」
幸成が拍手をした。
言うつもりはなかったが、うっかり口を滑らせ、佑香と結ばれたことが明るみになってしまったのだ。付き合っている期間のことを思えば、察するだろうとは思っていた。
以前はしつこく訊かれたが、佑香と付き合って一年が過ぎ、幸成も話題に触れなくなっていたので油断していた。
佑香は大学二年生になり、勉強にも勤しんでいる。慶孝との交際も良好だ。お互いのアパートに行き来もするし、お互いの部屋でセックスもする。だいたい、この慶孝の部屋の布団の上が多いのだが。
「慶孝の部屋、なんかちょっと変わったよな」
「そうか?」
「佑香ちゃんが来るせいかな、なんもなかったけど、ちょっとものが増えたよな」
「少しはな」
目敏いな、と幸成の鋭さに驚いたりもした。
確かに、佑香が部屋に来るようになって、専用のマグカップや、茶碗と皿の枚数も少しだけ増えた。が目に見えるほどのものはないと思っているのに。
「佑香ちゃんのパンツ」
「え!?」
やべっしまってなかったか、と部屋のあちこちに視線をやった。
「ってこの部屋に置いてんの?」
「……だったら何」
「いや、別に」
見ると幸成の顔はニヤついている。
イラッとした。
「どこにあんの」
「教えるかよ」
「パンツ見ながら、一人でシコってんのかな?」
「するかよ。する必要ねえだろ」
言ったあと、まずい、とは思った。
「なんでする必要ないんだ? ねえねえ、慶孝くーん、なんで? 佑香ちゃんと夜な夜なヤってるから、オナる必要ないってことだよね?」
うるせえ、と言ってももう遅かった。
「敢えてずっと訊かなかったけど、愛し合ってんだね、よかったよかった」
失言を後悔した。
他の女と関係を持った時は、赤裸々に女のことを語っていたが、佑香のことは酒の肴になどしたくない。
「もう一年経った? なら進展してて当然だよねー」
半年も我慢したけどな、と言うのは絶対に言わないでおこうと思った。
「佑香ちゃんのナカ、気持ちいい?」
「誰が言うかよ」
「えー、よくないんだ?」
「……いいに決まってんだろ」
会う度にセックスをして、佑香もだんだんわかるようになってきて、いろいろな体位を試してみたり、もっと気持ちのいい所はないか、格好はないかと、お互い探り合いながら快楽を得ている。彼女もきっとそうだと思いたい。相変わらず恥じらいを見せるが、慶孝のしたいことは受け入れてくれる。
「いいなあ、俺も女子高生としたいなあ。どこかに俺と恋に落ちてくれるJKいないかな」
「いない。それに佑香は大学生だ」
「おまえは女子高生と恋に落ちたじゃん」
「うるせーよ。俺が一方的に惚れただけで、恋に落ちたわけじゃない」
それい付き合い始めたのは、高校を卒業してからだ、と足掻いた。
「好きになったのは女子高生だった頃だろ」
「……否定はしない」
「佑香ちゃんだって、その頃からおまえに好意持ってたんだろ」
「……知らん」
「いいなあ。佑香ちゃん、俺に惚れてくれないかな」
「おまえを葬るぞ」
「冗談だよ。佑香ちゃんはおまえにメロメロなんだろ。割り込めるかっての」
割り込ませねえわ、と幸成のグラスを奪った。
二人はいつものように、ちゃぶ台を挟んで缶ビールを飲んでいる。
幸成も定職についてはいるが、特定の女性はいないようだ。以前の慶孝と同じく、女関係はだらしなく、ふらふらしている。
「前ほど女は寄ってこなくなったしな」
若い頃は、水商売の女や組関係の女が寄ってきたものだが。
「今は?」
「二人になった」
「減ったな」
「ちゃんと身を固められるくらいの身持ちになんないといけないんだろうけど」
「……すればいいんじゃ」
「簡単にはいかねえよ。おまえみたいに、本気の女はいないし、本気にもなれない。相手が本気になることは滅多にないし、最初に『俺は本気にならない』って言って関係持つわけだし。おまえがうらやましいな。佑香ちゃんみたいに、ベタ惚れされてればわかんないけど」
幸成は佑香に二度、会ったことがあるのだ。
一度目は、佑香と部屋でごろ寝をしているとき、アポなしの幸成が訪ねてきたことがあり、遭遇したことがあったのだ。その時に、佑香といくらか話したようだった。
「……まあ、好きにしたらいいよ。俺が何言っても、慶孝は慶孝の思う通りにしたらいいと思うよ」
「ああ……」
俺は佑香のこと真剣だし、と告げた。
「結婚すんの?」
「どうだろ」
「だって真剣なんだろ」
「俺は」
「佑香ちゃんもだろ」
「今はそう思ってくれてると思うけど」
「なんだよ、またセンチメンタルか?」
「……違うよ」
「おまえはどうなの? 結婚したい?」
「……考えたことない」
はああ、と幸成は溜息をついた。
自分の不甲斐ない回答に苛立っているかのようだ。
「考えろよ」
「……考えても虚しいだろ」
「なんでだよ」
「今がよければそれでいい」
「は? ちゃんと先のこと考えろよ」
「だから、考えても虚しい」
「虚しくなるなよ。おまえがそんなふうに思ってるって知ったら、佑香ちゃんのほうが虚しく思うぞ」
缶ビールを飲み干した幸成は、もう一本の缶を開けた。慶孝もぐびっとビールを飲む。
幸成が拍手をした。
言うつもりはなかったが、うっかり口を滑らせ、佑香と結ばれたことが明るみになってしまったのだ。付き合っている期間のことを思えば、察するだろうとは思っていた。
以前はしつこく訊かれたが、佑香と付き合って一年が過ぎ、幸成も話題に触れなくなっていたので油断していた。
佑香は大学二年生になり、勉強にも勤しんでいる。慶孝との交際も良好だ。お互いのアパートに行き来もするし、お互いの部屋でセックスもする。だいたい、この慶孝の部屋の布団の上が多いのだが。
「慶孝の部屋、なんかちょっと変わったよな」
「そうか?」
「佑香ちゃんが来るせいかな、なんもなかったけど、ちょっとものが増えたよな」
「少しはな」
目敏いな、と幸成の鋭さに驚いたりもした。
確かに、佑香が部屋に来るようになって、専用のマグカップや、茶碗と皿の枚数も少しだけ増えた。が目に見えるほどのものはないと思っているのに。
「佑香ちゃんのパンツ」
「え!?」
やべっしまってなかったか、と部屋のあちこちに視線をやった。
「ってこの部屋に置いてんの?」
「……だったら何」
「いや、別に」
見ると幸成の顔はニヤついている。
イラッとした。
「どこにあんの」
「教えるかよ」
「パンツ見ながら、一人でシコってんのかな?」
「するかよ。する必要ねえだろ」
言ったあと、まずい、とは思った。
「なんでする必要ないんだ? ねえねえ、慶孝くーん、なんで? 佑香ちゃんと夜な夜なヤってるから、オナる必要ないってことだよね?」
うるせえ、と言ってももう遅かった。
「敢えてずっと訊かなかったけど、愛し合ってんだね、よかったよかった」
失言を後悔した。
他の女と関係を持った時は、赤裸々に女のことを語っていたが、佑香のことは酒の肴になどしたくない。
「もう一年経った? なら進展してて当然だよねー」
半年も我慢したけどな、と言うのは絶対に言わないでおこうと思った。
「佑香ちゃんのナカ、気持ちいい?」
「誰が言うかよ」
「えー、よくないんだ?」
「……いいに決まってんだろ」
会う度にセックスをして、佑香もだんだんわかるようになってきて、いろいろな体位を試してみたり、もっと気持ちのいい所はないか、格好はないかと、お互い探り合いながら快楽を得ている。彼女もきっとそうだと思いたい。相変わらず恥じらいを見せるが、慶孝のしたいことは受け入れてくれる。
「いいなあ、俺も女子高生としたいなあ。どこかに俺と恋に落ちてくれるJKいないかな」
「いない。それに佑香は大学生だ」
「おまえは女子高生と恋に落ちたじゃん」
「うるせーよ。俺が一方的に惚れただけで、恋に落ちたわけじゃない」
それい付き合い始めたのは、高校を卒業してからだ、と足掻いた。
「好きになったのは女子高生だった頃だろ」
「……否定はしない」
「佑香ちゃんだって、その頃からおまえに好意持ってたんだろ」
「……知らん」
「いいなあ。佑香ちゃん、俺に惚れてくれないかな」
「おまえを葬るぞ」
「冗談だよ。佑香ちゃんはおまえにメロメロなんだろ。割り込めるかっての」
割り込ませねえわ、と幸成のグラスを奪った。
二人はいつものように、ちゃぶ台を挟んで缶ビールを飲んでいる。
幸成も定職についてはいるが、特定の女性はいないようだ。以前の慶孝と同じく、女関係はだらしなく、ふらふらしている。
「前ほど女は寄ってこなくなったしな」
若い頃は、水商売の女や組関係の女が寄ってきたものだが。
「今は?」
「二人になった」
「減ったな」
「ちゃんと身を固められるくらいの身持ちになんないといけないんだろうけど」
「……すればいいんじゃ」
「簡単にはいかねえよ。おまえみたいに、本気の女はいないし、本気にもなれない。相手が本気になることは滅多にないし、最初に『俺は本気にならない』って言って関係持つわけだし。おまえがうらやましいな。佑香ちゃんみたいに、ベタ惚れされてればわかんないけど」
幸成は佑香に二度、会ったことがあるのだ。
一度目は、佑香と部屋でごろ寝をしているとき、アポなしの幸成が訪ねてきたことがあり、遭遇したことがあったのだ。その時に、佑香といくらか話したようだった。
「……まあ、好きにしたらいいよ。俺が何言っても、慶孝は慶孝の思う通りにしたらいいと思うよ」
「ああ……」
俺は佑香のこと真剣だし、と告げた。
「結婚すんの?」
「どうだろ」
「だって真剣なんだろ」
「俺は」
「佑香ちゃんもだろ」
「今はそう思ってくれてると思うけど」
「なんだよ、またセンチメンタルか?」
「……違うよ」
「おまえはどうなの? 結婚したい?」
「……考えたことない」
はああ、と幸成は溜息をついた。
自分の不甲斐ない回答に苛立っているかのようだ。
「考えろよ」
「……考えても虚しいだろ」
「なんでだよ」
「今がよければそれでいい」
「は? ちゃんと先のこと考えろよ」
「だから、考えても虚しい」
「虚しくなるなよ。おまえがそんなふうに思ってるって知ったら、佑香ちゃんのほうが虚しく思うぞ」
缶ビールを飲み干した幸成は、もう一本の缶を開けた。慶孝もぐびっとビールを飲む。
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