突然恋に落ちたら

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2.葛藤と欲望

7.欲望(5)

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  ***

 再び佑香は風呂に入ることになった……慶孝と一緒に。
 一人用の狭い浴槽に、二人は無理矢理入っている。
「風呂に入るか、一緒に」
 そう言われ、佑香は恥ずかしがったが、
「もう全部見たんだから、そこまで恥ずかしがらなくてもいいんじゃないか?」
 そう言って強引に一緒に入浴することになった。
「怒ってる?」
「怒っては……ないです」
「でも不満そうだけど」
「恥ずかしいんです」
 後ろから羽交い締めするような格好で浸かっているが、本当に窮屈なのだ。なので佑香を抱き締めると、どうしても胸に手が当たる。さらに、それに興奮する自分のモノが彼女の尻に当たるのだ。
「……ごめんな。俺が無理言ったせいで」
「いいですけど……」
 相変わらずは耳を真っ赤にさせている。
 身体を洗ってやると言った時も顔が真っ赤だった。自分で洗うと言い、その様子をじっと見ていたら、
「もうっ……見ないでくださいっ」
 と注意を受けた。
 見るなと言われたら見たくなるのだ。
 増してや好きな女なのだから。
 想像より小さくない、形の良い胸、細い腰、ほどよく張った尻、この肢体を自分のものにしたんだと思うと嬉しくなる。あの乳を揉んだな、この腰を掴んで打ち付けたんだな、あの尻を掴んだんだな、と下品なことばかり思い出してしまう。次は後ろから挿れたいな、ああそうだその身体で騎乗位もいいな、そうだ風呂場でセックスもしてみたい、と次から次へと低俗なことを考えてしまう。
「エロい……」
 お互い身体を洗って、こうして湯船に無理矢理浸かっているのだ。
「あのう……お隣さんに聞こえたりしてないでしょうか」
「聞こえただろうな」
「えっ」
「隣もさ、真夜中にヤってる声聞こえてくるし。まあ、聞こえてもいいでしょ、お互い様ってことでさ」
 そんな、と佑香は落胆している。
「大丈夫だよ」
 と髪を撫でてやった。
「佑香……好きだよ。今日セックスしてもっと好きになった」
「……」
「佑香は? 俺のことは?」
「好きです……」
「よかった。がっかりしてない? こんなスケベな男だったなんて、って」
「いえ……大好きです……」
「大人だと思ってたのに、って思ってないか?」
「いえ。……セッ……あの、さっきみたいなことしても、松田さんはやっぱり大人です……。セッ……その、そういうことを、どういうふうにするかとかたくさん知っていて、大人の男の人だなって思って……」
 佑香はそう言うが、褒められているのだろうかと首を傾げた。
「それは大人だから、っていうか、経験……」
 言いかけて口を噤んだ。
(それは経験人数や回数があるから……場数踏んでるからってだけだ)
 言ってしまうと、佑香が、自分の過去に関係を持った女たちのことを気にしてしまうかもしれない。日頃から自分が「子供」なのを気にしていたようだし、比べはしないが、比べられていると気にしてしまうかもしれない、そう思った。
「……佑香の初めての時に、俺が格好つけてただけだから、大人とかそういうのは関係ないと思うよ」
「そう、ですか……」
「なあ、佑香」
「……はい」
「セックスっていう言葉、なんで言わないの……」
「えっ」
 佑香のがその単語を口にするのを躊躇っているように思え、不思議に思ったのだ。
「セックス」
「セッ…………ス」
「聞こえないんだけど? 俺とセックスするの嫌?」
「嫌じゃないです」
「じゃあ、俺とセックスしたいって言ってよ」
「松田さんと……したい、です」
「ちゃんと、言って」
 慶孝はほらほらと佑香を追い詰めていく。
「松田さんと、セッ……クス、したい、です」
「よく言えました」
 頭をがしがしと撫でてやった。
「恥ずかしい?」
「……あまり口にするような単語じゃない、かな、って思って……」
「え? じゃあ友達とこういう話題になった時はどうしてるんだ?」
「……友達は、エッチ……とか言ってるので、てっきりそういうふうに言うものだと」
 なるほど確かにな、と慶孝は頷いた。
「エッチだと軽い感じになるから、俺は……セックスって言うほうが好きかなあ」
「大人っぽい気がします」
「大人?」
 若い子の思考はわかんねえな、と慶孝は苦笑いをするしかなかった。
「そうなのか……」
 そして、まあどっちでもいいけどさ、と佑香の肩に湯をかけてやった。
「そうやって恥ずかしがる佑香も好きだけどな」
 そんな彼女を見て、そのうち自分から俺を欲しいと言わせてやろう、と口にはしないが、そう思った。こんな純粋だった女の子が自分に溺れていく姿を見てみたい。
「わたしっていやらしいですよね……」
「いや? 俺にはまだまだ物足りないけどな。もっともっといやらしい女になればいいよ」
 佑香の首筋にキスをして、ぎゅっと抱き締めた。

  ぐぅぅうー…………。

 どちらかの腹が鳴った。
 ムードも何もあったものではない。
 どちらのものか、お互いにわかってはいるはずだ。
 慶孝は笑い、
「風呂上がったら、朝飯にしような。ごはんは炊けてるから。味噌汁もすぐ出来るから」
 と佑香を立ち上がらせた。
「俺が先に上がるから、ゆっくりしてて」
 ざばっ、と湯が流れた。
「あ、はい」
 佑香が振り返ると、ちょうど慶孝のモノが目の前にあった。
「きゃっ……」
「おっと、ごめん」
 情事の時と別物になっているが、佑香が意識するには充分だった。
「今度はこのサイズから佑香が大きくしてくれよ」
「え……」
「佑香が触れば、すぐに佑香のあそこに挿れられる大きさになるから」
「そ、それは……」
「何なら今試すか? まあ、そんなことしたら、また今からセックスしたくなるんだけど。そうしたら朝飯食えなくなる」
「松田さんのスケベ! エッチ!」
 と佑香が勢いよく湯を慶孝に掛けた。
「うん、俺はスケベでエッチだな」
 笑いながら浴室を出て行った。
「大人ぶって我慢してたけど、もう理性はぶっ飛んだし」
 後で、昨日と今日では全然違う、と言われてしまうのだった。

***

 簡単な朝食を食べ、佑香を送っていくことにした。
「あの、今日は泊まってしまってすみません」
「全然。むしろこっちが申し訳なかった。……いろいろ」
「いえ」
 佑香は顔を真っ赤にさせている。
「俺は……よかったけどな。佑香が泊まってくれたおかげで」
 恋人のランクもアップした、という意味だ。
「あの、今度は……ちゃんと、泊まらせてもらえたら……」
「もちろん!」
 いいに決まってるだろ、と佑香の頭を撫でた。
「泊まって」
「……はい」
「けど」
「……?」
「佑香が泊まるって言ったら、この布団に一緒に寝ることになるけど」
「はい、大丈夫です」
「……意味わかってるか?」
「?」
 しばらく見つめ合ったあと、佑香はようやく理解したようで、また顔を赤らめた。
「佑香が俺の部屋に来たら、しっかり抱くけど、いい?」
「……えと……大丈夫、です……」
 佑香の身体を抱き締め、耳元に顔を寄せる。
「セックス、ってことだぞ?」
「は、はい……」
「したくない時とか、できない時はちゃんと言えよ? 無理強いはしない」
「はい……」
「それに、布団はちゃんともう一組用意しとくから」
 今は自分用しかないので、ちゃんと揃えようとは思ったのだ。
「いえ、大丈夫です。一緒に……寝れば……いい、かなって……」
「佑香が隣にいたら寝かせないけど」
「…………」
「冗談だよ」
 慶孝は笑った。まだまだ佑香は初心で可愛いのだ。
「布団はダブルサイズ、ちゃんと用意するよ。これじゃ小さくて、二人で寝たら風邪引くからな」
 あまり佑香をからかいすぎて嫌われたくない、この辺でやめておこうと自制した。
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