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2.葛藤と欲望
2.目覚めた朝
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暗がりの中で目を覚ますと、目の前に佑香がいた。
眠っている佑香が慶孝の腕の中にいるのだ。
(え!?)
電気は消えている。
いつ消したのだろう。
いや、それよりなぜ佑香が自分の腕の中にいるのか、だ。
双方とも服は着ているようだ。
(何もしてない……)
ほっとしたような残念なような、複雑な気持ちはあるが。
狭い布団の上で抱き合って眠っていたようだ。
(いつの間に)
佑香が移動してきたのか、自分が彼女をここに眠らせたのか。
(あ……俺が運んだんだっけ)
自分が佑香を布団の上に運び、毛布をかけてやったのだ。寝顔が可愛らしくて、頬をつついたり、髪を撫でたりしたのは覚えている。キスをしようか、身体に触れてみようか、などど考えたが、なんとか思いとどまったのだ。
遊びの相手の女は、この部屋に連れ込んだら、即服を脱ぎながら情事に耽っていた。そんなことばかりしていた自分が、本気の相手にはこうも我慢が出来るとは。お預けを食らわされても耐える力があるなんて思わなかった。
「はあ……」
そっと布団から抜け出し、台所で水を飲んだ。
(あ、コップそのまんまだ)
後でいいな、と布団のほうに目をやる。
(俺って結構忍耐あるな)
結局、朝まで佑香はこの部屋で過ごした。
「すみません!」
目を覚ました佑香は平謝りだった。
「謝ることはねえけど」
日曜日の朝だし、慶孝はほぼ土日休みの週休二日の職場に異動になっているので、ゆっくりできる。焦る必要は無い。
「起こしてくださっても……」
もしかすると佑香は予定があったのかもしれないが。
「今日、何か予定があるのか?」
「いえ、特にないんですけど……」
「だったら、ゆっくりしていけ。ちゃんと送るから」
「はい……でも」
お風呂にも入ってないですし、とごにょごにょと恥ずかしそうに佑香は言った。
「俺も入ってないな。あー、簡単なもんだけど、飯作るから、食ってけよ」
「えと……」
「先に風呂入るか? シャワーがいいか? 浸かりたいなら湯を沸かすし」
というか……、と佑香は言いづらそうに言った。
「何の用意もしてないので、やっぱり帰ろうかと思います……」
メイクも落としてないですし、と蚊の鳴くような声で言われ、慶孝は額を叩いた。
「だよな、ごめん、気が利かなくて」
慶孝は洗面台の下の棚を開けた。
(なんかないかな……)
「あっ、新品の歯ブラシのストックはある」
しかしそれ以外には何もない。
「待ってろ。コンビニに行って、スキンケアセット買ってくるから。あーそうだ。着替え、着替えもいるよな? 佑香ちゃんが風呂入ってる間に、洗濯して、コインランドリーで乾燥させてくる。で、コンビニ行って、スキンケアセット買って……」
コンビニもコインランドリーもすぐ近くだから、と言うと、佑香は引き下がった。
「俺の服だけど、Tシャツと短パン置いとくから、もし早く上がったらそれ来て待ってて。あ、先にスキンケアセットだけ買ってくるから。湯、張っとくな」
あくせく慶孝は働き、佑香を風呂に向かわせた。
「洗濯するもの……は、洗濯機に入れて、あとこれ押したらいいから」
「あの……やっぱり、いいです。洗濯は……その……下着……だけですし」
「え、洗ったほうがいいんじゃないのか?」
「その……洗濯ネットを使って洗濯するものがあるので……」
「え……」
そうなの、と慶孝は動きを止める。
(パンツとブラジャーってこと?)
「ごめん、女の子の事情わかってなくて……」
ちょっと待った、とまたしても洗面台の下の棚を漁る。
「洗濯ネット、あった。新品!」
そういえば昔ここに泊まった女に「洗濯ネット、百均でいいから買っておいて」と言われ買ったのだった。買ったのに使うことはなかったが。
「あ、はい、これなら……」
「じゃ、入れて回してくれたらいいから」
「はい」
「じゃ、ちょっと行ってくっから」
一応鍵は締めるから、そう言って慶孝は部屋を出てコンビニに急ぐ。
旅行用のスキンケアグッズを手にし、その横に女性用の下着があることに気づいた。
(買うか……?)
迷ったが、今回は見送ることにした。
急いで戻ると、佑香は風呂場でお湯張りの確認をしている所だった。
「あ、これから入りますね……」
「おう。これ、スキンケアグッズ。洗面所に置いとくから。合わなかったらごめんな。これしかなくて。けど、なんか香料不使用って書いてるし、弱酸性ってあったからたぶん大丈夫かと」
「ありがとうございます。あとでお支払いしますね」
「いや、いいよ」
じゃあお借りしますね、佑香はお辞儀をした。
「俺、あっち行ってっから、洗濯機回してくれ」
「はい」
脱衣所はないので、慶孝は浴室が見えなくなる位置まで移動した。
布の擦れる音、洗濯機が動く音の後に、浴室のドアが開いて閉まる音がした。
(風呂に入ったな……)
洗濯が終わるのを待つ間に、朝食の支度をする。
ごはんは二人分炊いて、味噌汁を作る。御飯はすぐに炊けるだろうし、味噌汁もすぐに出来る。あとは何か卵焼きを作れば良いか、と冷蔵庫から卵を取り出した。
(だし巻きにするか……)
佑香がどんな卵焼きが好きか確認していないので、万人受けする味にすることにした。世の中には醤油派、砂糖派、塩派……いろいろいるらしい。
(あとは……)
ほうれん草のお浸しの作り置きがあったはず、と再び冷蔵庫を覗いた。
「これでオッケーだな」
そうこうしているうちに、洗濯が終わったようだ。量が少ないし、急ぎ洗濯ボタンを押したので、早く終わった。
「佑香ちゃん」
浴室の扉をノックする。
「はい」
「コインランドリーに行ってくっから」
「わかりました……ありがとうございます」
「ゆっくり入っていいから」
鍵を閉めて部屋を後にした。
眠っている佑香が慶孝の腕の中にいるのだ。
(え!?)
電気は消えている。
いつ消したのだろう。
いや、それよりなぜ佑香が自分の腕の中にいるのか、だ。
双方とも服は着ているようだ。
(何もしてない……)
ほっとしたような残念なような、複雑な気持ちはあるが。
狭い布団の上で抱き合って眠っていたようだ。
(いつの間に)
佑香が移動してきたのか、自分が彼女をここに眠らせたのか。
(あ……俺が運んだんだっけ)
自分が佑香を布団の上に運び、毛布をかけてやったのだ。寝顔が可愛らしくて、頬をつついたり、髪を撫でたりしたのは覚えている。キスをしようか、身体に触れてみようか、などど考えたが、なんとか思いとどまったのだ。
遊びの相手の女は、この部屋に連れ込んだら、即服を脱ぎながら情事に耽っていた。そんなことばかりしていた自分が、本気の相手にはこうも我慢が出来るとは。お預けを食らわされても耐える力があるなんて思わなかった。
「はあ……」
そっと布団から抜け出し、台所で水を飲んだ。
(あ、コップそのまんまだ)
後でいいな、と布団のほうに目をやる。
(俺って結構忍耐あるな)
結局、朝まで佑香はこの部屋で過ごした。
「すみません!」
目を覚ました佑香は平謝りだった。
「謝ることはねえけど」
日曜日の朝だし、慶孝はほぼ土日休みの週休二日の職場に異動になっているので、ゆっくりできる。焦る必要は無い。
「起こしてくださっても……」
もしかすると佑香は予定があったのかもしれないが。
「今日、何か予定があるのか?」
「いえ、特にないんですけど……」
「だったら、ゆっくりしていけ。ちゃんと送るから」
「はい……でも」
お風呂にも入ってないですし、とごにょごにょと恥ずかしそうに佑香は言った。
「俺も入ってないな。あー、簡単なもんだけど、飯作るから、食ってけよ」
「えと……」
「先に風呂入るか? シャワーがいいか? 浸かりたいなら湯を沸かすし」
というか……、と佑香は言いづらそうに言った。
「何の用意もしてないので、やっぱり帰ろうかと思います……」
メイクも落としてないですし、と蚊の鳴くような声で言われ、慶孝は額を叩いた。
「だよな、ごめん、気が利かなくて」
慶孝は洗面台の下の棚を開けた。
(なんかないかな……)
「あっ、新品の歯ブラシのストックはある」
しかしそれ以外には何もない。
「待ってろ。コンビニに行って、スキンケアセット買ってくるから。あーそうだ。着替え、着替えもいるよな? 佑香ちゃんが風呂入ってる間に、洗濯して、コインランドリーで乾燥させてくる。で、コンビニ行って、スキンケアセット買って……」
コンビニもコインランドリーもすぐ近くだから、と言うと、佑香は引き下がった。
「俺の服だけど、Tシャツと短パン置いとくから、もし早く上がったらそれ来て待ってて。あ、先にスキンケアセットだけ買ってくるから。湯、張っとくな」
あくせく慶孝は働き、佑香を風呂に向かわせた。
「洗濯するもの……は、洗濯機に入れて、あとこれ押したらいいから」
「あの……やっぱり、いいです。洗濯は……その……下着……だけですし」
「え、洗ったほうがいいんじゃないのか?」
「その……洗濯ネットを使って洗濯するものがあるので……」
「え……」
そうなの、と慶孝は動きを止める。
(パンツとブラジャーってこと?)
「ごめん、女の子の事情わかってなくて……」
ちょっと待った、とまたしても洗面台の下の棚を漁る。
「洗濯ネット、あった。新品!」
そういえば昔ここに泊まった女に「洗濯ネット、百均でいいから買っておいて」と言われ買ったのだった。買ったのに使うことはなかったが。
「あ、はい、これなら……」
「じゃ、入れて回してくれたらいいから」
「はい」
「じゃ、ちょっと行ってくっから」
一応鍵は締めるから、そう言って慶孝は部屋を出てコンビニに急ぐ。
旅行用のスキンケアグッズを手にし、その横に女性用の下着があることに気づいた。
(買うか……?)
迷ったが、今回は見送ることにした。
急いで戻ると、佑香は風呂場でお湯張りの確認をしている所だった。
「あ、これから入りますね……」
「おう。これ、スキンケアグッズ。洗面所に置いとくから。合わなかったらごめんな。これしかなくて。けど、なんか香料不使用って書いてるし、弱酸性ってあったからたぶん大丈夫かと」
「ありがとうございます。あとでお支払いしますね」
「いや、いいよ」
じゃあお借りしますね、佑香はお辞儀をした。
「俺、あっち行ってっから、洗濯機回してくれ」
「はい」
脱衣所はないので、慶孝は浴室が見えなくなる位置まで移動した。
布の擦れる音、洗濯機が動く音の後に、浴室のドアが開いて閉まる音がした。
(風呂に入ったな……)
洗濯が終わるのを待つ間に、朝食の支度をする。
ごはんは二人分炊いて、味噌汁を作る。御飯はすぐに炊けるだろうし、味噌汁もすぐに出来る。あとは何か卵焼きを作れば良いか、と冷蔵庫から卵を取り出した。
(だし巻きにするか……)
佑香がどんな卵焼きが好きか確認していないので、万人受けする味にすることにした。世の中には醤油派、砂糖派、塩派……いろいろいるらしい。
(あとは……)
ほうれん草のお浸しの作り置きがあったはず、と再び冷蔵庫を覗いた。
「これでオッケーだな」
そうこうしているうちに、洗濯が終わったようだ。量が少ないし、急ぎ洗濯ボタンを押したので、早く終わった。
「佑香ちゃん」
浴室の扉をノックする。
「はい」
「コインランドリーに行ってくっから」
「わかりました……ありがとうございます」
「ゆっくり入っていいから」
鍵を閉めて部屋を後にした。
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