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第四章 噂話
第四話 マスコミ
しおりを挟む在京のマスコミ各社は、情報の収集を急いでいた。
特に、広告収入がない放送局は、何者にも影響されないはずであるが、一部の腐った権力者からの要望で、”ポーション”を調べていた。ユウキたちは、表からしっかりとした手順で訪れた者たちには、しっかりとした対応を行っている。研究結果も包み隠さずに伝えている。それでも、実物の入手ができないことには、一部の腐った権力者は満足しなかった。
渡された情報を信じるかどうかは、各マスコミに任せることにしている。
一部は、検証の為に”ポーション”の現物を無償で提供して欲しいと言ってきたが、ユウキたちは、笑いながら無視した。
今、ユウキの前に座るマスコミは、権力者からの要請を受けて、正面からやってきたのだが、他のマスコミの実情を調べているためか、”ポーション”の購入を示唆していた。
結局は金額の折り合いがつかず、”ポーション”の譲渡は行われなかった。
話は、ここで終わるはずだった。
「ははは」
珍しく拠点で作業を行っていたユウキが、大きな笑い声を上げている今川に声を掛けた。
「どうしました?」
「あぁユウキか?今日は、こっちにいるのか?」
「えぇ明日まで、バイトもありませんし、学校も休みなので、溜まっている作業を少しは進めておこうと思いまして・・・」
「そうか・・・。それは、丁度良かった。釣れたぞ」
「え?本当ですか?かなり、無茶なお願いだと思いましたが?」
「俺も、無理だと思っていた。だから、笑ってしまった」
「本当ですか?」
「あぁ議員に繋がる情報も入手が出来そうだ」
「それは、それは・・・。餌は、”ポーション”ですか?」
「あぁ面白いくらいに喰い付いた」
「あまり、あくどいことはしないでくださいね」
「大丈夫だ。それに、金では売れないと言っただけだ」
「ははは。それは、それは、さぞかしいい物を持ってきたのでしょう」
「そうだな。俺たちが使っても、あまり意味が無いものだな」
今川がユウキに見せたのは、有力議員の資金パーティーが行われた日付と、その時の議員の資金団体が提出している帳簿だ。
ユウキたちが狙っていたのは、情報を得る事で、議員の不祥事に繋がりそうな情報が得られれば成功だと考えていた。マスコミ各社には、表に出せない情報が大量にある。その中から、”金”で買えない物と交換しても大丈夫だと思える情報を取引として持ちかけた。
与党議員の不祥事だけではない。官僚や閣僚経験者。野党の有力議員や、経済界のお歴々の不祥事まで、いろいろな情報が、”初級ポーション”と交換されている。
相手は、マスコミでも政治や経済界を相手にしている者たちだ。黒い物も言い方を変えて白く見せるくらいは平気で行ってきた。
対応しているのは、今川と佐川と認識阻害を行っているレイヤとヒナだ。
取引は、都内の喫茶店で行われる。
場所は、相手が指定した場所ではなく、今川と佐川が適当に選んだ店で行われる。
相手は、必ず二人で来てもらう。二人より多い人数で来た場合には、取引は中止する。
こちらは、レイヤとヒナが対応する。認識阻害を行っている。隠しカメラで撮影しているのだが、撮影を認識したら取引は中止して、レイヤとヒナは喫茶店を出てしまう。もちろん、追いかけようとするが、無駄だ。本気で逃げようとした二人を、スキルを持たない者たちが追いかけるのは不可能だ。
直前まで喫茶店を知らせないのには、相手が権力を使って罠を仕掛ける要素を減らす目的もある。
警察が現場に駆けつけても、レイヤとヒナは姿を隠して逃げる事ができる。
最初の数回は、警察を待機させていたり、裏社会の人間を待機させていたり、店を包囲していたり、様々な方法が取られタダ、全てが失敗に終わった。
マスコミも無駄な努力をするよりも、”ポーション”を入手することを優先することに舵を切った。
そして、誠実な対応を行えば、”ポーション”が入手できると知ってからは、各社マスコミは誠実な対応を行うようになった。
それでも3社に1社程度は、ユウキたちを子供だと侮って権力と暴力で”ポーション”を独占しようと考える愚か者がいる。その者たちには、しっかりと自分たちの行いを反省して後悔する時間が与えられた。後悔と反省が活かされることがあるのかは微妙な状況になってしまっている。ネット社会の怖い所だ。
ユウキたちは、”初級ポーション”を二本持って、打ち合わせに向かう。
その場で、どちらか一本を飲んでもらう。もう一本は、情報と交換となる。情報は、取引の前に今川と佐川が要求している。当日に、違う情報を渡された場合には、しっかりと請求すると伝えてある。
その場で”ポーション”を飲むのは、マスコミが連れていたもう一人が担当する。仕込みだと言わせないための処置だ。
マスコミが、”ポーション”の効用を確認して、情報を渡す。
マスコミは、持ち帰った”ポーション”の取り扱いでさらに揉めることになるのだが、目の前で付けた傷が治っていく様子を見て、”ポーション”の効用を見てしまった者は、”ポーション”を依頼された者に渡すのが惜しくなる。”渡す”必要は理解している。得た”ポーション”は契約通りに渡すのだが、その後にまた”ポーション”の取引を持ちかける。
既に、情報を渡しているので、それが二度目になろうとも、心の負担は大きくは変わらない。
個人が持っている”情報”までも渡して、”ポーション”を得ようとする者も出始めた。
これが、今川とユウキが仕掛けた罠だとは考えていなかった・・・。
マスコミは、自分だけが情報を売ったと考えている。
各社が、ユウキと取引を行っているが、牽制しあって、どんな情報を渡したのかは、共有していない。それどころか、”ポーション”は得られなかったというマスコミが殆どだ。
「情報の精査は?」
「まだだ。集められた情報が公開されたら、閣僚の半分はすっ飛ぶぞ?」
「情報が、全部本当だったら・・・。の、話ですよね?」
「ん?情報の真偽は必要ないぞ?必要なのは、真実に見えるような情報の提示方法だ」
「あぁ・・・。まぁそうですね。でも、俺は、今の議員に恨みはないですね。官僚は、滅んでしまえと思う時はありますが、議員の首を飛ばしても、違う首が収まるだけでしょ?」
「そういうなよ」
「でも、おかげで面白い情報が集まっているようですね」
「そうだな。どうする?」
「官僚や財界の情報は、ネットに流してください。森田さんが準備をしているはずです」
「天国からの目か?」
「えぇ洒落た名前だと思いますが・・・」
「名前は気にしない方向でいこう。わかった。官僚系と財界系の不祥事は、順番に流す。順番は、こちらで調整していいのか?」
「まかせます」
「あぁ出来ればいいのですが、とある議員に繋がる官僚や財界人の不祥事は、流さないようにしてください。知っている人が見れば解るような細工をしてくれたら助かります」
「それも承知した。森田と話をしておく」
「ネットは頼ってしまいますがよろしくお願いします」
「任せろ」
「公開は?」
「そうだな。森田と話をして、最終調整はするけど、来月の二日にしましょう」
「11月2日か?」
「はい。メキシコの死者の日で、俺の母親が命を断った日です」
「そうか・・・。わかった。天国からの目が、隠された情報に光を当てるのにはぴったりな日だな」
「はい。無理はしないでください」
「大丈夫だ。俺も森田も、死ぬ気はないし、まだまだ楽しみたいと思っている」
「そうですね。まだ始まってもいないですからね。これから、楽しいパーティーが始まるのですからね」
「あぁ俺も森田も楽しみにしている。俺たちの分まで、お前に背負わせてしまって申し訳ないが・・・」
「それは、気にしないでください。俺の方こそ、俺の都合に合わせてもらって・・・」
二人は、情報がまとめられた資料を見ながら、今後の打ち合わせを行った。
その後、ユウキは溜まっていた頼まれごとを消化するために、拠点で訓練をしていたリチャードを訪ねた。
最初は、リチャードで、全員は無理だとは思うが、一日でこなせるだけ対応しておこうと考えていた。
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