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第三章 復讐の前に
第二十二話 マスコミ
しおりを挟むネットに警察署から流出したと思われる動画が拡散されている。
原因は、触れられていないが、学校の上層部では揉めに揉めたらしい。今川さん経由で吉田教諭の情報として伝えられた。
また、学校での授業が当面の間は、オンライン授業になると通達があった。環境がない者は、学校に来て、オンライン授業を受ける必要がある。俺は、安全な環境があるうえに家から出られないために、家でオンライン授業を受けている。バイトも休みを貰っている。
マスコミという暴力が押し寄せて来た。家の敷地内に入った場合には、無条件で動画を公開すると警告を行った。マスコミは、自分たちが報道する側だと思っているようだ。取材される側の人権を完全に無視しているのに気が付いていない様だ。数件の侵入者の動画が公開されると、敷地内には入って来なくなったが、家を取り囲むようになっている。海岸側からのアタックはない。流石に、無理だと悟っているのだろう。
敷地内には解りやすい監視カメラと、スキルで隠蔽している監視カメラがある。
マスコミの皆さんは、解りやすい監視カメラの死角から撮影を行っているが、全ての様子が撮影されている。
そして、敷地内に無断で入ったマスコミは、全て警察に通報している。
警察も、俺からなぜ動画が流出しているのか問い詰められて神経質になっている。酷いマッチポンプだが、警察が協力的なのはありがたい。集まっているマスコミ対策には十分な効果が発揮されている。
それでも、マスコミは諦めない。
今日も、門の前でカメラを構えて待っている。
『ユウキ!』
今川さんからの着信に出ると、いつものようにいきなり名前を呼ばれる。今川さんだと解っているので、戸惑ったりしないが、先に名前を名乗って欲しい。
「今川さん。どうしました?」
今川さんには、撮影された動画を”ほぼ”リアルタイムで流している。仕組みを作ったのは森田さんだが、恩恵を受けているのは、俺を除けば、今川さんが一番だろう。
俺の代理人は森下さんがやってくれているが、マスコミの窓口は今川さんがかげながら担当している。知っている人は、少ないと言っていた。
『どうやら、お前が異世界帰りだとマスコミに知られたようだ』
それで、マスコミが執拗に俺を付け狙っているわけだ。
何か、情報を引き出そうとしているのか?
それとも・・・。現代の魔女狩りを行おうとしているのか?
「へぇ遅かったですね」
『確かに、前に話をしていた想定よりも遅い。主な理由は、お前が未成年だということで、マスコミ側でも対応が難しい案件になっている。情報を漁って、お前から何か言質を取ろうとしている段階だな』
俺たちが、想定していたのは、学校で最初に問題が発生した直後だと考えていた。
抜け駆けを行うマスコミが居ないのは想定していたが、ここまで囲まれるとは想定していなかった。
未成年であることが武器になるとは思っていなかったが、俺が犯罪者でもない限りは、実名での報道は難しいだろう。
俺の立場は、被害者だ。家の犬が殺されかけた。俺は事件として、警察に通報した。捕まった犯人が未成年だったが、未成年の親たちが俺を襲撃してきた。俺は、警察に通報した。しかし、警察に提出した襲撃された時の動画が、なぜかネットに公開されていた。既に、公開したアカウントは削除されているが、アカウントは元警察官だという話だ。
「そうなのですか?」
『人違いだったとしても、”間違えました。ごめんなさい”を現場が行えば、”済む”と甘く考えていたようだけど、お前が警察を動かしたから、対応が難しくなっているようだ。それに、業界では有名な”森下女史”まで後ろについている』
マスコミが腐っている証拠だ。
警察が居ても気にしないで取材をしてくるのなら、何か話をしても良いとは思っていたのだけど、権力には抵抗しないで、権力があるとは思えない俺の様な人間が相手なら、上から話をして来る。取材という建前を使った暴力行為だ。
弱い立場だと思っている俺が、権力に繋がったので、気持ちが悪い対応に変わった。舐めた態度は変わらない。撮影はしているが、ネットには公開していない。
「へぇ。それなら安心ですね」
『他人事だな』
「そうですね。実際に、他人事の様に考えないと、スキルを使って一掃したくなりますよ」
『ははは。そうだな。奴らは、自分たちは・・・。おっと、話がそれた。それで、ユウキ』
一掃するだけなら簡単だ。
そのあとは、レナートに逃げ込んで、復讐を考えなければ、スローライフを楽しむことができる。
「はい。なんでしょうか?」
『拠点に置かれているポーションは使っていいのか?』
ポーション?
研究用は、提供している。
販売用も今川さんではないが提供している。今川さんが、俺に断りを入れるほどの事があるとは思えない。
「構いませんよ?ヒナかロレッタかアリスに確認をしてください」
『わかった。キー局の重鎮に渡す』
重鎮?
キー局は、TV居だよな?
「え?」
『ははは。どの局なのかは・・・』
興味がない。
外に連中を見ると、約束したとしても、守られないと思っている。
「興味がありません。奴らに情報が渡るのですね?」
『そうだ。それと、ユウキの家の周りの連中をひかせる。そろそろ、目障りだろう?学校が始まる前には、静かにしておいた方がいいだろう?』
それは、必要なことだ。
外にマスコミが多いと、ターゲットが動きを見せないから困っていた。
「そうですね。お願いします。ちなみに、どんな状態なのですか?」
『状態?』
「ポーションを求めているのなら、怪我をしているのでしょう?」
『ただの骨折だ。年齢が年齢だから、治りが遅い。このままでは、車椅子生活だと言われている』
高齢者だと、通常のポーションでは効き目がないだろう。中級ポーションでも治るとは思うけど、身体は治ったけど、死んでしまう可能性がある。
「あぁ・・・。ヒナに、ハイ・ポーションを用意するように伝えてください」
『上級か?いいのか?』
「高齢な方だと、中級や初級だと、骨折はなるのですが、骨折を治すために必要な体力を奪います。上級なら、体力の消耗が抑えられます」
『わかった。金額は?』
正直なことを言えば、お金は必要がない。
既に、研究から成果が出始めている。資金回収は、数年後だと思っていた。
「家の前からのマスコミの撤廃。ポーションの事を出来るかぎり口外しない。あとは金銭的なサポートを要求」
『少し・・・。安いな』
「それなら、金額を上げてください。どこのマスコミか解りませんが、イベントなどのチケットを望んだ時に、できる限り融通する。では、どうでしょうか?」
『そうだな。罠くさいが、いいラインだろう。それで交渉する。金はどうする?』
「税金が必要なければ、拠点で、税金が発生するのなら、俺の口座へ」
『わかった。手数料は貰うぞ?』
「はい」
今川さんとの通話を切って、すぐにマイに確認の連絡を入れる。
上級ポーションの在庫はあると思っているが、レナートに置いてきている可能性もある。マイなら把握しているだろうから、無ければレナートに戻って取ってくるか、作製しなければならない
幸いなことに、拠点に上級ポーションの在庫があった。
消費期限も近づいてきていたので、今川さんの話はタイミングが良かった側面がある。それでも、一度レナートで素材を集めた方がよさそうだ。各国に、ポーションを使って伝手を作っている最中だ。もっと、そっちは俺たちの手から離れているので、要求されるポーションを準備するだけの作業なので、それほど手間はかからない。気になるのは、日本の感覚で、1,000円程度のポーションが3,000万円とかで売り買いされている状況の方が怖い。
今川さんが上級ポーションを拠点に取りに来たのが、電話があってから三日後だ。
マスコミは潮が引くように居なくなったのは、5日後なので、効果があったのだろう。
キー局の支社から正式な謝罪が送られてきた。その後、続々謝罪文と品物が送られてくる日々が続いた。
そして、森下さんから学校での授業が再開されると連絡を受けたのは、今川さんから電話があってから1週間後だった。
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