71 / 96
第三章 復讐の前に
第十五話 犬と猫
しおりを挟むマイが先導する形で王城を案内している。
ユウキも知っている場所なので、場所を教えてもらえれば、移動は可能なのだが、ユウキや地球に戻った者たちは、レナートから出た人間と公表しているために、建前だが、レナートに残った者たちが案内をするという体裁が必要になる。
「ん?庭じゃないのか?」
通された部屋で、ユウキは怪訝な表情を浮かべて、マイに質問をする。
「えぇこの部屋で少しだけ待っていて欲しい」
ユウキは、マイの雰囲気から事情を察した。
「わかった。ヴェルが治療中か?」
マイは、肩をすくめる動作をするに留めた。
「三保の家は、ペットOKだよね?」
家を見て回っているので、マイも知っているはずなのだが、確認の意味が強い。
「ん?買い取ったから大丈夫だ?」
ユウキも、マイの質問の意図が解らなかった。
計画について話をしている上に、報告もしている。皆は、ユウキの”金”だと思っているが、ユウキは”皆で稼いだ金”だと思っているので、自分で得たと思われる金銭以外は、皆に報告してから使うようにしている。
「終わったみたい」
扉がノックされる。
入ってきたのは、治療を行っていたヴェルとオリビアだ。
「ユウキ。久しぶり・・・。でも、ないな」
「そうだな。ヴェル。大丈夫だったのか?」
「うん。サトシは手加減が苦手だから・・・」
ユウキは、最初にマイを見てから、治療を担当してくれたヴェルを見る。
「そうか、悪かったな」
ユウキは、少しだけ勘違いをしているのだが、会話として成立している上に、サトシが問題になる行動をしたのは間違っていない。マイも、ヴェルも、オリビアも、ユウキが勘違いをしていると気が付いたが、あえて訂正しなかった。
「それで、ユウキ。スキルは取得が出来ているのか?」
オリビアが、ユウキに必要なスキルの取得を確認する。
「大丈夫だ。スキルは取得している。使い方は、教えてくれるのだろう?」
ユウキがヴェルに話を振ると、頷いているので大丈夫なのだろう。
「そういえば、回復させるために、契約をしたのか?」
「大丈夫。あとで説明はする。マイが・・・」
「へぇ・・・」
「ユウキなら、他のスキルと組み合わせて、いろいろ出来そう。あとは、地球で大丈夫なのか・・・。そっちが心配」
「そうだな。魚や草木は大丈夫だったから、大丈夫だと思う。マイ。頼んでいた物も準備ができたのだよな?」
「うん。準備はしたけど、本気?」
「本気。本気。本気と書いて、マジと読むくらい本気」
マイとヴェルが苦笑して、オリビアが笑いをかみ殺している。
マイは、ユウキが戻ってきているタイミングを利用して、いろいろ報告をしている。
地球から持ち込んだ、野菜や調味料になる草木の育成実験の結果報告から、果物の育成状況の報告をしている。養殖は、一度は成功したのだが、その後に全滅して、原因を調べている最中だ。地球にないスキルが影響していると考えたが、1世代は繁殖している。2世代目も大丈夫だった。原因が判明しないので、養殖の前段階として、繁殖の実験から行っている。
異世界で繁殖した魚を、地球に持ち帰って、いろいろ調査したが、地球で繁殖した魚と違いを見つけられなかった。地球で科学的に調べても同じ種だと判断された。
しかし、魚は”スキル”を使っていた。その為に、スキルを利用する為の物質は”地球”にも存在する物だと判断されている。
この実験から得られた知見から、今回の作戦が実行される事になった。
「ヴェル。どこに行けばいい?」
「大丈夫。連れて来る」
「わかった」
ヴェルとオリビアが部屋から出る。
5分くらいしてから戻ってきた。
「ん?マイさんや?」
「何かな。ユウキどん?」
「ふふふ。ヴェルが連れてきたのは、フォレストキャットの幼体では?」
「そうですよ?正式には、”イリーガル”になっている幼体ですね。親に捨てられた所を、保護した?」
「疑問形にされても、なにも解決ができていない。それに、オリビアが連れているのは、フェンリルの幼体では?あれも、”イリーガル”か?色が少しだけ違うみたいだから、もしかしたら・・・。シルバーフェンリルの幼体か?」
「そうね。変異種なのか解らないけど・・・。あちらは、”イリーガル”ではないけど、許してね」
「ふぅ・・・。一度、マイとはしっかりと説明したほうがいいだろうか?」
「なに?意外と大変だったのよ。サトシが、密猟者を捕えて、密猟者たちを全員、捕えてしまって・・・。殺してくれたら、話が楽だったのに・・・」
「え?フォレストキャットは?親が放棄したのだろう?」
「えぇそうよ。偶然見かけてね。ユウキに渡すのに丁度いいと思ったのよ。大きさも、家猫でしょ?雑種で通るでしょ?最終的には、トラくらいのサイズになるけど・・・」
「どの辺りが大丈夫なのか疑問だが・・・。”イリーガル”だから、群れから排除されたのか?」
「多分ね。放置して、”はぐれ”になってしまうと困るから・・・」
「・・・。わかった。フォレストキャットは、全部で3体か?ヴェルが連れているから、全部雌か?」
ヴェルが頷いている事から、ユウキはいろいろ考える。
”つがい”である必要はない。フィファーナでは、魔物に分類されるフォレストキャットは楽に7-80年は生きる。野生な状況でも、100年程度は生きると言われている。”イリーガル”となれば、進化の可能性もある。寿命は、1,000年に伸びても不思議ではない。
そして、重要なのは魔物には繁殖期が存在しないことだ。ユウキたちも研究を続けているが、まだ魔物には解らない事が多すぎる。1年単位では、繁殖期がないというのが解った程度だ。
「ふぅ・・・。マイ。密猟者たちは、詳細は俺が知った方がいいか?」
マイが頷いた事から、密猟者は”召喚勇者”だとユウキは判断した。
フェンリルの中では、温厚だと言われているシルバーフェンリルの幼体を攫うようなことができるのは、”召喚勇者”しかいない。
「わかった。報告をまとめてくれ、親は?」
「殺されていたわ」
「そうか・・・。サトシは?」
「他に、密猟者が居ないか確認している」
「わかった。それにしても、シルバーフェンリルか・・・」
「大丈夫だと思うわよ。ヘル・ハウンドとかよりは・・・。サトシが狙っているのは、オルトロスだったから、止めさせたのよ?オルトロスの方がよかった?」
「はぁ・・・。アイツ・・・。頼んだ、意味が解っているのか?地球で、飼育すると伝えたよな?」
「もちろん。”バレなければ大丈夫”だと言っていたわよ」
「・・・。疲れた。それじゃ、フォレストキャット3体と、シルバーフェンリル2体との契約をする。報酬は、頼んだ時に言われた物でいいのか?」
「十分よ。セシリアが喜ぶ」
「わかった」
ユウキは、ヴェルから魔物との契約を行う時の注意と方法を教えてもらった。
スキルの補正があるので、習得も問題がなかった。
5体は、まだ幼体だが、契約者との意思の疎通にも成功している。
言葉を使った意思疎通はまだできなかったが、簡単な意思はユウキでも理解ができた。ユウキの話している内容も簡単な命令には従えるくらいだ。ヴェルの見立てでは、2-3ヶ月もすればもっとはっきりと意思が解るようになると言っている。
経験を積む為に、時々はレナートに連れてきて、”魔の森”での狩りを行わせた方がいいだろうという事になった。
まずは、5体を連れて、地球に戻った。
「ここが、お前たちの家だ。領域は、解るようにしてある。その中は、自由にしていい。あっ人が来ても攻撃はしないように、あとスキルの使用は、俺が許可を出した時だけだ」
5体から、了承の意思が伝えられる。
フォレストキャットの3体は、家の中を住処に定めたようだ。
シルバーフェンリルは、庭を好んだ。砂浜までの間を疾走するのが日課となる。交代で、番犬の役割をすることにしたようで、1頭は玄関に居る。犬小屋は、似合わないので、小さめの馬房のような建物を用意した。
5体には、スキルが付与された首輪をしてもらっている。
ユウキは、フォレストキャットとシルバーフェンリルを、役所に届け出を出した。
偽造などはリスクしかないが、ワクチンは不安だったので、馬込に頼んで融通が利く獣医を紹介してもらった。
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ヴァイオリン辺境伯の優雅で怠惰なスローライフ〜悪役令息として追放された魔境でヴァイオリン練習し
西園寺わかば🌱
ファンタジー
「お前を追放する——!」
乙女のゲーム世界に転生したオーウェン。成績優秀で伯爵貴族だった彼は、ヒロインの行動を咎めまったせいで、悪者にされ、辺境へ追放されてしまう。
隣は魔物の森と恐れられ、冒険者が多い土地——リオンシュタットに飛ばされてしまった彼だが、戦いを労うために、冒険者や、騎士などを森に集め、ヴァイオリンのコンサートをする事にした。
「もうその発想がぶっ飛んでるんですが——!というか、いつの間に、コンサート会場なんて作ったのですか!?」
規格外な彼に戸惑ったのは彼らだけではなく、森に住む住民達も同じようで……。
「なんだ、この音色!透き通ってて美味え!」「ほんとほんと!」
◯カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました。
◯この話はフィクションです。
◯未成年飲酒する場面がありますが、未成年飲酒を容認・推奨するものでは、ありません。
【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~
柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」
テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。
この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。
誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。
しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。
その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。
だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。
「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」
「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」
これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語
2月28日HOTランキング9位!
3月1日HOTランキング6位!
本当にありがとうございます!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜
西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。
4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。
そんな彼はある日、追放される。
「よっし。やっと追放だ。」
自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。
- この話はフィクションです。
- カクヨム様でも連載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる