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第三章 復讐の前に
第十二話 雑事と
しおりを挟むユウキは、バイクでの通学を行う為に、免許の取得を行った。
技能はもちろん問題がない。試験も無事に合格した。年齢の問題は残ったが、特例処置が下された。海外の2輪の免許を取得しているのが、理由として上げられていた。ユウキは、準備期間を利用して海外で免許の取得を行っていた。
ユウキは、拠点から学校に通う為の家に移り住んだ。
住民票やら手続きも既に終わっている。
バイト先への初出勤も終わった。
バイトから帰ってきて、CBR400Rを駐車場に停めて、部屋に戻った。
ユウキは、小さなスマホが気にって使い始めた。スマホに、今川からの着信が入った。
『ユウキ。明日、メールの場所に11時に来てくれ』
「わかりました。市内ですか?」
『そうだ。駅に隣接する商業施設だ。屋上は人が居ないから密会に丁度いい』
「ははは。わかりました」
通話を切ってから、ユウキは今川からのメールを確認する。
メールには、状況をまとめた報告書と待ち合わせ場所と相手の情報が書かれていた。
学年主任。
ユウキが入る予定のクラスの担任になることが決まっている。
ユウキは、待ち合わせ時間よりも20分ほど早く、目的の商業施設に隣接する駐輪場にバイクを停めた。
商業施設までは地下を通らなければならない。
ユウキは、久しぶりに来た商業施設にどこかなつかしさを感じていた。
もっと幼かった時に、皆で来た事がある。ヒナやレイヤやサトシやマイ。そして・・・。
ユウキは、思い浮かんだ顔を振る払うために、頭を大きく振る。
そして、中央の階段ではなく、右手の扉から商業施設に入る。店舗には入らずに、そのまま、ATMの前を通り抜けて、エレベーターに向う。上のボタンを押して、扉が開くのを待っている。
その間も、ユウキの頭の中には幼かった自分たちの行動が記憶の泉から湧き出て来る。目の前には、居ないはずの幼かった自分たちが見えているようだ。
エレベーターに乗り込む。
同時に、数人が乗り込んできた。ユウキは、”RF”のボタンを押して、外が見えるようになっている壁際に移動する。奥がガラス張りになっていて、外が見えるようになっている。
徐々に人が減り、5Fでユウキ以外の客は降りてしまった。
屋上まで一人になったユウキは、上がっていくエレベーターの中から街を見下ろしていた。
車や街を歩いている人を見ながら自分が行おうとしている事の”業”を考えていた。
しかし、戻るつもりはない。
正義などと、甘い慰めにもならない言葉を呟くつもりはない。自分の行いで、数百人・・・。いや、もっと多くの人が現状の生活を維持できなくなる可能性がある。それだけではない。自分と同じような気持ちを持つ者が出て来るかもしれない。確実に出て来るだろうと思っている。
ユウキは、自分の感情にまっすぐに向き合って、何度も何度も、それこそ異世界で命を削り合っている時でも、考えていた。
屋上に到着して、ユウキは思考をこれから会う人物へと切り替えた。
渡された資料は既に頭の中に入っている。
屋上の待ち合わせに指定されていた場所には、ラフな恰好の男性が立っていた。
少しだけ離れた場所に、よく知った顔の人物が立って、ユウキを手招きしていた。
「今川さん。遅くなりました」
「いや、俺たちの方が早く着きすぎた」
「彼ですか?」
「そうだ」
「俺の事は?」
「説明してある。驚いていたぞ?”異世界に連れ攫われた奴が帰ってきた”ということは知っていたが、ユウキだとは知らなかったようだ」
「ん?今川さん。今の説明だと、俺の事は知っていたのですか?」
「そうだ。言っていなかったか?」
「ふぅ・・・。聞いていませんが、理由をご存じですか?」
「それは、本人から聞いてくれ」
「わかりました」
ユウキは、今川がもっていた、アタッシュケースを受け取る。
中身の確認はしない。ユウキは、中身を知っている。
「吉田さん。いえ、吉田先生」
金網越しに外を見ていた男性に、ユウキは声を掛ける。
4月の末から10月の初めまで、ビアガーデンがオープンする屋上だが、3月の末ではまだ肌寒く、ビアガーデンの準備も始まっていない。
「・・・。君が、新城くんか?」
「はい。始めまして。本日は、お呼び立てしてもうしわけありません」
「構わない。それで?」
「新城裕貴です。4月から、よろしくお願いします。最初に、私から質問をしてよろしいでしょうか?」
「わかった」
「ありがとうございます。先生は、私の事をご存じの様子ですが?何か、理由があるのですか?」
「まず、君は目立ちすぎだ。バイク通学を特例として認めさせたことや、駐輪場の件。そして、入学前なのに、バイトを決めた。私が、君の担任になる予定だが・・・。そうでなくても、君の事は調べただろう」
「調べた?」
「特例が多すぎる。関係者の可能性を疑うのは当然だ」
吉田は、説明を省いて、ユウキに直球で答える。
既に、今川に話をしているので、ユウキにも伝わっていると考えたのだろう。
「結果は?」
「まったく調べられなかった。こんな事は初めてだ」
「ありがとうございます。それでは、本題に入ります」
「わかった」
ユウキは、吉田をベンチに座らせた。
自分も吉田の横に座る。
スキルの一つを解りやすく発動する。
詠唱はないが、光が伴う結界を発動した。
「これは?」
屋上だ。
3月の末だ。暖かい日差しだが、風が拭けば肌寒く感じる。
ユウキは、結界で風を遮った。
日差しだけが注ぐようになり、春の暖かさを感じられる。
「結界です。風を遮断しました。ベンチの周りだけですので、立って頂ければわかると思います」
ユウキの言葉で、吉田は立ち上がって、ベンチから離れて、驚愕の表情を浮かべる。
異世界のスキルだと言われても、体験しなければわからない。
「すごいな」
ベンチに戻ってきて、吉田は素直に称賛した。
「ありがとうございます。結界には、音を遮断する能力もあります。外に声が漏れる事はありません」
「・・・。わかった」
吉田は、少しだけ考えてから、ユウキの言葉を受け入れた。
ユウキは、アタッシュケースを吉田に渡す。
「これは?」
「先生に必要な物です」
アタッシュケースには、既に金で動いた者たちの名前と略歴を書いた紙が入っている。
半分は、日本円にして1,500万が古い紙幣で入っている。無造作に、輪ゴムで束ねられた札だ。
「これは?」
「先生が持っている。奴らの情報を売ってください」
「何?なぜ?」
「私は・・・。俺は、母を殺されました。母は自殺で処理されています。そして、奴らの関係者に幼馴染が心を殺されました」
「え?」
「奴らの・・・。いえ、名前は必要ないでしょう。俺の母の相手は・・・。戸籍は別ですし、他人ですが、奴は母を自殺に追いやったうえで、俺を・・・」
「・・・。議員の・・・」
「吉田先生。俺は、奴らを憎んでいます。すぐにでも、殺してしまいたいくらいに・・・」
「新城くん。君の力があれば可能なのでは?」
「そうですね。殺すだけなら簡単です。でも、殺すだけでは意味がない。奴らから、全てを奪って、奪いつくしてから、自分から殺してくれと言うまで苦しみを・・・」
吉田は、何かを感じ取って居る。
少しだけ躊躇して、アタッシュケースの蓋を閉じて、ユウキに返した。
「受け取れない」
「それは・・・。しかし・・・」
「情報は、君に渡そう」
「え?・・・。それなら情報の対価だけでも・・・」
吉田は、苦笑でユウキの顔を見る。
「解った。でも、私は君に協力はできない」
「わかりました。アタッシュケースはそのまま持って行ってください」
吉田は、深く息を吸い込んだ。
ユウキの顔を値踏みするように見てから、大きく息を吐き出す。
それから、3分の時間。吉田は、空を見つめてから、ユウキをしっかりと見つめた。
「わかった。私が掴んだ情報は、記者に渡しておく、それから、アタッシュケースの中身は、私が使っている探偵や仲間に渡していいか?」
「大丈夫です。足りなければ、今川さんに言ってください」
「わかった。それに関しては、甘えさせてもらう。君たちにも、情報が流れるようにしておく」
「助かります。学校以外の情報も?」
吉田は、ニヤリとだけ笑って、ベンチから立ち上がった。
そのまま今川に近づいて、SDカードを渡してからユウキが出てきた場所とは反対がわの入口から建物の中に入っていった。
ユウキは立ち上がって、吉田の背中に深々と頭を下げた。
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