上 下
68 / 96
第三章 復讐の前に

第十二話 雑事と

しおりを挟む

 ユウキは、バイクでの通学を行う為に、免許の取得を行った。
 技能はもちろん問題がない。試験も無事に合格した。年齢の問題は残ったが、特例処置が下された。海外の2輪の免許を取得しているのが、理由として上げられていた。ユウキは、準備期間を利用して海外で免許の取得を行っていた。

 ユウキは、拠点から学校に通う為の家に移り住んだ。
 住民票やら手続きも既に終わっている。

 バイト先への初出勤も終わった。

 バイトから帰ってきて、CBR400Rを駐車場に停めて、部屋に戻った。
 ユウキは、小さなスマホが気にって使い始めた。スマホに、今川からの着信が入った。

『ユウキ。明日、メールの場所に11時に来てくれ』

「わかりました。市内ですか?」

『そうだ。駅に隣接する商業施設だ。屋上は人が居ないから密会に丁度いい』

「ははは。わかりました」

 通話を切ってから、ユウキは今川からのメールを確認する。
 メールには、状況をまとめた報告書と待ち合わせ場所と相手の情報が書かれていた。

 学年主任。
 ユウキが入る予定のクラスの担任になることが決まっている。

 ユウキは、待ち合わせ時間よりも20分ほど早く、目的の商業施設パルシェに隣接する駐輪場にバイクを停めた。

 商業施設までは地下を通らなければならない。

 ユウキは、久しぶりに来た商業施設にどこかなつかしさを感じていた。
 もっと幼かった時に、皆で来た事がある。ヒナやレイヤやサトシやマイ。そして・・・。

 ユウキは、思い浮かんだ顔を振る払うために、頭を大きく振る。
 そして、中央の階段ではなく、右手の扉から商業施設に入る。店舗には入らずに、そのまま、ATMの前を通り抜けて、エレベーターに向う。上のボタンを押して、扉が開くのを待っている。
 その間も、ユウキの頭の中には幼かった自分たちの行動が記憶の泉から湧き出て来る。目の前には、居ないはずの幼かった自分たちが見えているようだ。

 エレベーターに乗り込む。
 同時に、数人が乗り込んできた。ユウキは、”RF”のボタンを押して、外が見えるようになっている壁際に移動する。奥がガラス張りになっていて、外が見えるようになっている。

 徐々に人が減り、5Fでユウキ以外の客は降りてしまった。

 屋上まで一人になったユウキは、上がっていくエレベーターの中から街を見下ろしていた。
 車や街を歩いている人を見ながら自分が行おうとしている事の”業”を考えていた。

 しかし、戻るつもりはない。
 正義などと、甘い慰めにもならない言葉を呟くつもりはない。自分の行いで、数百人・・・。いや、もっと多くの人が現状の生活を維持できなくなる可能性がある。それだけではない。自分と同じような気持ちを持つ者が出て来るかもしれない。確実に出て来るだろうと思っている。

 ユウキは、自分の感情にまっすぐに向き合って、何度も何度も、それこそ異世界で命を削り合っている時でも、考えていた。

 屋上に到着して、ユウキは思考をこれから会う人物へと切り替えた。
 渡された資料は既に頭の中に入っている。

 屋上の待ち合わせに指定されていた場所には、ラフな恰好の男性が立っていた。
 少しだけ離れた場所に、よく知った顔の人物が立って、ユウキを手招きしていた。

「今川さん。遅くなりました」

「いや、俺たちの方が早く着きすぎた」

「彼ですか?」

「そうだ」

「俺の事は?」

「説明してある。驚いていたぞ?”異世界に連れ攫われた奴が帰ってきた”ということは知っていたが、ユウキだとは知らなかったようだ」

「ん?今川さん。今の説明だと、俺の事は知っていたのですか?」

「そうだ。言っていなかったか?」

「ふぅ・・・。聞いていませんが、理由をご存じですか?」

「それは、本人から聞いてくれ」

「わかりました」

 ユウキは、今川がもっていた、アタッシュケースを受け取る。
 中身の確認はしない。ユウキは、中身を知っている。

「吉田さん。いえ、吉田先生」

 金網越しに外を見ていた男性に、ユウキは声を掛ける。
 4月の末から10月の初めまで、ビアガーデンがオープンする屋上だが、3月の末ではまだ肌寒く、ビアガーデンの準備も始まっていない。

「・・・。君が、新城くんか?」

「はい。始めまして。本日は、お呼び立てしてもうしわけありません」

「構わない。それで?」

「新城裕貴です。4月から、よろしくお願いします。最初に、私から質問をしてよろしいでしょうか?」

「わかった」

「ありがとうございます。先生は、私の事をご存じの様子ですが?何か、理由があるのですか?」

「まず、君は目立ちすぎだ。バイク通学を特例として認めさせたことや、駐輪場の件。そして、入学前なのに、バイトを決めた。私が、君の担任になる予定だが・・・。そうでなくても、君の事は調べただろう」

「調べた?」

「特例が多すぎる。関係者の可能性を疑うのは当然だ」

 吉田は、説明を省いて、ユウキに直球で答える。
 既に、今川に話をしているので、ユウキにも伝わっていると考えたのだろう。

「結果は?」

「まったく調べられなかった。こんな事は初めてだ」

「ありがとうございます。それでは、本題に入ります」

「わかった」

 ユウキは、吉田をベンチに座らせた。
 自分も吉田の横に座る。

 スキルの一つを解りやすく発動する。
 詠唱はないが、光が伴う結界を発動した。

「これは?」

 屋上だ。
 3月の末だ。暖かい日差しだが、風が拭けば肌寒く感じる。

 ユウキは、結界で風を遮った。
 日差しだけが注ぐようになり、春の暖かさを感じられる。

「結界です。風を遮断しました。ベンチの周りだけですので、立って頂ければわかると思います」

 ユウキの言葉で、吉田は立ち上がって、ベンチから離れて、驚愕の表情を浮かべる。
 異世界のスキルだと言われても、体験しなければわからない。

「すごいな」

 ベンチに戻ってきて、吉田は素直に称賛した。

「ありがとうございます。結界には、音を遮断する能力もあります。外に声が漏れる事はありません」

「・・・。わかった」

 吉田は、少しだけ考えてから、ユウキの言葉を受け入れた。

 ユウキは、アタッシュケースを吉田に渡す。

「これは?」

「先生に必要な物です」

 アタッシュケースには、既に金で動いた者たちの名前と略歴を書いた紙が入っている。
 半分は、日本円にして1,500万が古い紙幣で入っている。無造作に、輪ゴムで束ねられた札だ。

「これは?」

「先生が持っている。奴らの情報を売ってください」

「何?なぜ?」

「私は・・・。俺は、母を殺されました。母は自殺で処理されています。そして、奴らの関係者に幼馴染が心を殺されました」

「え?」

「奴らの・・・。いえ、名前は必要ないでしょう。俺の母の相手は・・・。戸籍は別ですし、他人ですが、奴は母を自殺に追いやったうえで、俺を・・・」

「・・・。議員の・・・」

「吉田先生。俺は、奴らを憎んでいます。すぐにでも、殺してしまいたいくらいに・・・」

「新城くん。君の力があれば可能なのでは?」

「そうですね。殺すだけなら簡単です。でも、殺すだけでは意味がない。奴らから、全てを奪って、奪いつくしてから、自分から殺してくれと言うまで苦しみを・・・」

 吉田は、何かを感じ取って居る。
 少しだけ躊躇して、アタッシュケースの蓋を閉じて、ユウキに返した。

「受け取れない」

「それは・・・。しかし・・・」

「情報は、君に渡そう」

「え?・・・。それなら情報の対価だけでも・・・」

 吉田は、苦笑でユウキの顔を見る。

「解った。でも、私は君に協力はできない」

「わかりました。アタッシュケースはそのまま持って行ってください」

 吉田は、深く息を吸い込んだ。
 ユウキの顔を値踏みするように見てから、大きく息を吐き出す。

 それから、3分の時間。吉田は、空を見つめてから、ユウキをしっかりと見つめた。

「わかった。私が掴んだ情報は、記者に渡しておく、それから、アタッシュケースの中身は、私が使っている探偵や仲間に渡していいか?」

「大丈夫です。足りなければ、今川さんに言ってください」

「わかった。それに関しては、甘えさせてもらう。君たちにも、情報が流れるようにしておく」

「助かります。学校以外の情報も?」

 吉田は、ニヤリとだけ笑って、ベンチから立ち上がった。
 そのまま今川に近づいて、SDカードを渡してからユウキが出てきた場所とは反対がわの入口から建物の中に入っていった。

 ユウキは立ち上がって、吉田の背中に深々と頭を下げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれたおっさんはウォッシュの魔法(必須:ウィッシュのポーズ)しか使えません。~大川大地と女子高校生と行く気ままな放浪生活~

北きつね
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれた”おっさん”は、すぐにステータスを偽装した。  ろくでもない目的で、勇者召喚をしたのだと考えたからだ。  一緒に召喚された、女子高校生と城を抜け出して、王都を脱出する方法を考える。  ダメだ大人と、理不尽ないじめを受けていた女子高校生は、巻き込まれた勇者召喚で知り合った。二人と名字と名前を持つ猫(聖獣)とのスローライフは、いろいろな人を巻き込んでにぎやかになっていく。  おっさんは、日本に居た時と同じ仕事を行い始める。  女子高校生は、隠したスキルを使って、おっさんの仕事を手伝う(手伝っているつもり)。 注)作者が楽しむ為に書いています。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめて行います。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界でもプログラム

北きつね
ファンタジー
 俺は、元プログラマ・・・違うな。社内の便利屋。火消し部隊を率いていた。  とあるシステムのデスマの最中に、SIer の不正が発覚。  火消しに奔走する日々。俺はどうやらシステムのカットオーバの日を見ることができなかったようだ。  転生先は、魔物も存在する、剣と魔法の世界。  魔法がをプログラムのように作り込むことができる。俺は、異世界でもプログラムを作ることができる! ---  こんな生涯をプログラマとして過ごした男が転生した世界が、魔法を”プログラム”する世界。  彼は、プログラムの知識を利用して、魔法を編み上げていく。 注)第七話+幕間2話は、現実世界の話で転生前です。IT業界の事が書かれています。   実際にあった話ではありません。”絶対”に違います。知り合いのIT業界の人に聞いたりしないでください。   第八話からが、一般的な転生ものになっています。テンプレ通りです。 注)作者が楽しむ為に書いています。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめてになります。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

処理中です...