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第三章 復讐の前に
第七話 物資
しおりを挟むマイが感謝する気持ちは解る。
解るが、これは、”俺が”連れて行きたいだけなので、感謝されると心がざわざわする。
「そうだ。マイ。必要な物資は?」
元々確認をしておきたかった内容に話を戻す。
「そうね。その前に、ユウキ。地球で何か必要になっていないの?持ち込むばかりで、セシリアが心配しているわ」
マイが、少しだけ笑いながら俺に話を合わせてくれる。
「心配?」
”心配”と言われても、俺たちは”別に構わない”が答えになってしまう。
地球での買い物も、それほど高い物ではない。
サトシの買い物は、サトシの報酬から支払っている。セシリアが気にするような部類ではない。個人で依頼をして購入している物が殆どで、持ち込んでいる物は些細な物が多いと思っていた。
「そう。セシリアだけじゃないけど、主にセシリアだね」
”主に”というからには、国家として心配しているのだろう。
マイは、俺が言っていることが解っているので、事情の説明をしているのだろう。それでも、”心配”しているのには、何か理由がありそうだ。
「マイ。持ち込んでいるのは、殆どが、残留組が個人的に欲しいと言ったものじゃないのか?セシリアが心配する理由が解らない」
残留組が欲しいと言った物でも、レナートの為に欲しいと言った物がある。
区別が面倒なので、一人を除いた皆で話し合って、個人で注文をした場合には、地球での報酬を使う。レナートに還元した場合には、サトシに付け替えることにした。物価が違う上に、物品の価値が違いすぎる。
マイが困った時に行う。髪の毛を指に絡める癖をみせる。わざとやっている説もあるが、自然な状況なので、誰も突っ込んでいない。
困ったときの表情にもなっているので、実際に困っているのだろう。
「この前、サトシが100均でマッチを大量に購入してきて、城下で配ったの」
配った?
無償で?
「あの馬鹿・・・」
それも、マッチ?
最悪だ。
「マイ。マッチは回収したのか?」
首を横に振る。
フィファーナには、火薬は既に存在している。しかし、質はよくない。
「幸いなことに、サトシの事を知っている人たちだけに配ったみたいで、”勇者”から施しだと考えて、外には出ていないと思う。一応、セシリアにお願いして、サトシから渡された物は、レナート以外に持ち出さないようにおふれを出してもらった」
外部から着ている商人が居ないことを祈ろう。
レナートが辺境でよかった。最悪は、国境を封鎖してしまえばいい。マイがそこまでしていないのは、サトシが配った先に、商人や商人に繋がる者が居なかったのだろう。
「そうか・・・。他の勇者たちが見ても、俺たちがマッチを作ったと思わせればいいか?」
「そうね。その意味では、マッチの作り方を調べてもらえる?」
「わかった」
また、ネットで調べて、情報をまとめるか?
マッチの作り方とか、調べられるのか?
サトシは、本当に面倒を発生させるのが上手い。サトシだからと許されてしまうのが、奴らしいけど、国王になるのなら、しっかりと手綱を握らないとダメだろう。マイとセシリアに期待しよう。
これは、宰相への就任は絶対に回避しなければならない。サトシのお守りは嫌だ。
「異世界の技術で作られた物だと説明したら、問題にはならなかったけど・・・。他にも、いろいろ持ち込んでいるでしょ?セシリアは、ユウキたちが購入して送ってきてくれるから・・・」
技術はこれから教えるって設定だな。
物はお試しって感じなら問題にはならない。
マッチはやっぱりダメだよな。
国民の生活が楽になる。辺境の国として、マッチがあれば毎日の火起こしが楽になる。サトシも、誰かに言われて楽になる物を考えたのだろう。方向が間違っていないのが、奴の大きな問題だ。
もう少しだけ原始的な道具なら、浸透させても問題はないだろう。
他の面子が苦労して、段階を上げているのに・・・。まぁマッチを持ち込んだだけで終わってくれて良かった。
ライターとかを持ち込まれるよりはよかった。
ライターだと、火のスキルと何も変わらない。適性が無くても仕えるスキルだ。問題が大きくなってしまう。異世界の技術だと言っても納得する人は、一定以上の知識がある人たちだけだ。
セシリアとしては、購入された物を送ってきていると思っているのか?
間違っていないが、以前に説明したと思うのだけど・・・。
貰うばかりだと考えてしまっているのだな。
購入するにしても、俺たちが商売を始めたら、レナートの通貨を集めてしまう。だから、商売はしないと決めている。他の国になら、商品を安価で卸して、経済戦争を吹っ掛けることも考えるが、面倒なので行っていない。
「対価をどうしたらいいのか?という話か?」
セシリアなら、俺たちへの支払いを考えるだろう。
もっと言えば、商品に対する”対価”だな。
「簡単にいうとね」
マイが肩をすくめるようにして、俺の話を肯定する。
それで、”地球”で必要な物に繋がるのだな。
地球にない物で、レナートにある物?
ミスリルや魔物なのだろうけど、持っていく意味が殆どない。
「それは、難しいな」
マイも気が付いているだろう。
地球で必要とする物は、レナートには多い。多いけど、持っていくことができない。スキルや魔物に依存している。
「解っている。わかっているけど、このままでいいとは思っていないわよね?」
マイの言う通りだ。
残留組の実験結果が出てきたら、地球からの技術を輸入する。
そうか!
骨董品!
「マイ。輸入できる物がある」
「何?」
「骨董品!あと、芸術品だな。地球から、石膏を持ち込んで、こっちで作って、地球で売る」
レナートで古くから使っている物は、骨董品としての価値を付ける。
石膏で作った物は、適当な名前での芸術作品だ。絵画でもいいが、いろいろ面倒になりそうなので、造形物がいいだろう。
「え?骨董品?芸術品?」
値段がある物を売買しようとするから問題になる。
レナートで適当に価値がある物だと言って、地球に持ち込んで、売りさばくことにする。その時に、値段が等価になるように設定すればいいだけだ。税金の問題はあるだろうけど、それは、諸外国にできた伝手を頼ればいいだろう。何も、日本で完結させる必要はない。
地球とレナート。もっと言えば、地球とフィファーナとの貿易だと考えればいい。
「そうだ。値段なんて、あってないような物だろう?適当な値段を付ければいい。地球では、森田さん辺りに、サイトを作ってもらって、通販でもするよ」
「大丈夫なの?」
大丈夫?
そうか、弱みを奴らに見せられない。法律に反していることを含めて・・・。表に見えるだけではなく、証拠になるような物を残さないほうがいい。
潰してから行えばいいだろう。
セシリアが心配しているようなことも、数年後に問題が発生する”可能性”があるだけだ。殆どが、”気持ち”の問題だ。
だから、対処をしないわけではなく、”すぐに対処を行う必要がない”という対応が取れる。
「どうだろう?海外の適当な国を通せば大丈夫だろう?実際に、稼働させるにしても、俺の用事が終わってからになると思う。技術の確立にも時間が必要だろう?」
この辺りは、森下さんとかに聞けば考えてくれるかな?
なんとかなりそうな感じはするけど、日本の法律を熟知しているわけではない。読んだ本で得た知識だ。正しいとは限らない。それも、もっといい方法を教えてもらえる可能性だってある。取引材料は、いろいろと用意しなければならないけど、何とかなりそうだと解れば、動き出せる。
「わかった。その方向で、セシリアと話をしてみる」
レナート側は大きな問題にはならない。
最悪の場合でも、レナートから持ち出した貨幣を戻してしまえばいい。
「頼む。そうだ。それとは別に、ポーションの材料を頼む。あと、同じ物で・・・」
マイは、俺が頼んだ物をメモしてから、部屋を出た。
遠くで、マイを呼んでいる声が聞こえたからだ。声から、サトシだと解る。同時に、いろいろな声が混じっている事から、何かをしでかしたのだろう。
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