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第三章 復讐の前に
第四話 レナート
しおりを挟むユウキは、綺麗になった母親の墓前から、スキルを発動した。
異世界の小国に転移したユウキは、まずは王城を目指す。
城下町を歩いていれば、ユウキは住民から話しかけられる。
「ユウキ!戻ったのか?」
住民や、レナートの国民でユウキたちを知らない者は、産まれたばかりの子供くらいだ。それほど、国民はユウキたちに感謝している。
魔王を討伐して、レナートだけではなく、フィファーナに安穏を齎した英雄だ。
実際には、魔王を討伐してしまったことで、統制されていた魔物たちが各地に散らばっただけなのだが、今まで魔物との戦闘において最前線であったレナートとしては、魔物の圧力が弱まっただけでも、感謝するには十分な理由だ。
それだけでなく、ユウキたちは、異世界の知識を用いて、レナートを豊かにしている。魔物の討伐も、サトシを中心に行っている。他国からの圧力も、知恵と勇気で跳ね返している。
人類同盟からの脱退には、反対な意見もあったが、次期国王になるサトシと現国王の第一王女のセシリアが国民に説明して歩いた。レナートの辺境の街だけではなく、人類の国家と接する砦にも赴いて、自ら説明した。もちろん、サトシでは説明ができない部分は、セシリアとマイがサポートを行った。
ユウキたちが、子供に戻ってしまった状況に、不安に思う国民が存在した。
しかし、国王やセシリアが、ユウキたちは魔王の最後の攻撃を受けて、子供に戻ってしまったと説明した。
「うん、また、旅に出るけど、終わったら戻ってくるよ」
「おぉ!そりゃぁ嬉しい。だが、ユウキ!やりたいことは、しっかりとやれよ!俺たちも頑張る!そうだ!これを持っていけ!サトシにもよろしく!」
「ありがとう!」
ユウキに声をかけて来る人の多くは、ユウキたちにレナートに残って欲しいと思っているけど、押し付けようとは思っていない。
国王からの説明があったように、ユウキたちはレナートの為に、魔王と戦い子供に戻ってしまっている。自らを犠牲にしている。殆どの国民が、ユウキたちの犠牲の上に、今の安穏があると考えている。だから、今度は、ユウキたちが作った基盤を使って、自分たちがしっかりと考えて、戦おうと考えている。
ユウキは、投げられたリンゴに似た果実を受け取り、王城に向かう。
目的は、サトシとマイに会って、レナートの状況を聞くことだ。
他にも、地球で栽培が可能になった薬草の話やレナートに持ち込んだ地球産の野菜の状況を聞く為だ。
「ユウキ様!」
王城に近づいて、身分証を取り出そうとしたが、その前に門番がユウキに気が付いて、敬礼を行う。
苦笑しながら、ユウキは身分証を提示する。
「お疲れ様。でも、一応、身分証を確認してから、門を開けてください」
「はい!失礼いたしました!」
王城に来る前に、関所があるので、大きな問題があるわけではないが、不審者が王城に潜り込むのを抑止する意味もあるので、注意だけはしておこうと考えた。
門番は、身分証を受け取り、形だけの確認を行う。
本来なら、ここで身分証をチェックができる魔道具に翳す。本人の魔力と登録している魔力の突合が行われる。その後、目的の場所や人物を記入して、帰るときに、訪問先の責任者からサインを貰って、門番に返す。サトシやマイは、王城に住んでいるので、適用はされないが、ユウキや地球に戻っている者たちは、門番に訪問先を告げる必要がある。例外は認められていない(と、マイが宣言した)。他国の使者は、先ぶれを出すのが通常の運用なので、先ぶれの時点で訪問先を記載した物を渡している。
ユウキたちが実権を握った時点で、王城の働いている者を含めて、身分や繋がりを調べて、他国や裏組織と繋がっていた者を切った。
ユウキは、マイが使っている執務室に向かった。
途中で、王城に務めるメイドに、先ぶれとしてマイに連絡してもらうことにした。いきなり訪ねても、問題にはならないが、マイが居ない可能性がある。そのための処置だ。マイが居れば、部屋の前に先ぶれを頼んだメイドは居ない。マイが居なければ、メイドが居る。先に客が居て、ユウキが一緒だと問題が発生する場合も、メイドが部屋の前で待機することになっている。
部屋の前には、護衛としての騎士が立っているだけだ。
ユウキが姿を見せると、騎士はドアをノックして、マイに知らせる。
そのままドアが開けられて、ユウキが中に入る。
「ユウキ。少しだけ待って、この書類だけ処理しちゃうから・・・」
「いいよ。座って待っているよ」
「ありがとう」
10分くらい。マイは、書類を書き上げて、控えていた次官に渡す。
「待たせたわね」
「いいよ。忙しいようだな。サトシは?」
「この時間は、セシリアと一緒」
「へぇ・・・。レナートの現状把握か?」
「えぇそうだけど、もう少し色っぽいことは考えられないの?」
「無理だな。サトシとセシリアだぞ?」
「はぁ・・・。そうね。それで?」
マイは、ユウキが訪ねてきた理由が解らなかった。
まだ、準備が終わっていないから、マイの出番は無いと思っていた。だから、レナートとして大規模な城塞建築を始めようと考えていた。
「あぁたんなる墓参りだ。その次いでに、レナートの現状を聞いておこうと思った。あと、地球産の作物の状況を知りたい」
「そういうことね」
「急に来て悪いな」
「いえ、ユウキが来てくれて助かったわ」
「ん?そういえば、城壁?あれは、数年後の予定だよな?」
「えぇそうね。少し、隣国の動きがおかしいの」
マイは、机から地図を持ってきた。
レナートが中心で書かれた地図だが、周辺国の情報と解っているだけの街道と国境が示されている。
レナートは、辺境だけあって、隣国と呼べる国は少ない。
ユウキたちの活躍で、橋頭堡となる場所は確保されている。レナートは、魔の森と呼ばれていた、魔王が治めていた場所に近く、人族の国とは、谷で分断されていた。その谷から出た先に広がる草原は、ユウキたちによって”死地”になっている。
「草原は越えられないだろう?」
「その心配はしていない」
「何が心配だ?」
「怒らないで聞いて」
「だから、なんだ?」
「教会の連中。魔王の秘宝をよこせと言ってきた」
「無視すればいいだろう?」
「無視しているわ。そうしたら、今度は草原の先にある国家を扇動し始めたの・・・」
「面倒な奴らだな。どうせ、勇者が絡んでいるのだろう?」
「多分ね。まだ確証は得られていない。でも、ほぼ間違いない。やり口がアイツらに似ている」
「馬鹿な奴らだな。それで?」
「草原を攻めるのに、獣人族やドワーフやハーフを使うと言い出して・・・。奴隷狩りをおこなっている見たい。捕えた者を、集めているの・・・」
ユウキが持っていたカップが割れる。
「ユウキ!」
「悪い。そうか、それで、レオンやパウリが出ているのだな」
「えぇ解放は、うまく行っている。でも、アイツら・・・。諦めない。だから、防御の為に・・・」
「わかった。それなら、城壁は必要だろう。五稜郭方式か?」
「そのつもり。海までの距離もないから、堀は海水にする予定」
「そうか、あっ!ガジュマルでも育てるか?」
「やっているわ。アリスから苗を貰って、育てた。そうそう、地球産の野菜や果物は大当たり。魔法での成長にも問題は見られない。栄養さえ与えれば、10倍以上に育つわ」
「ほぉ・・・。堀を海水で満たせば、アリスの眷属も守りに使えるだろう?引継ぎも出来ているのだろう?」
「えぇレナートの中で、アリスと同じ能力に目覚めている子に、パワーレベリングをして、アリスの眷属を1体ずつ引き継がせた。あとは、その眷属を使って、次の子って感じね」
「それならよかった。アリスの負担が問題だったからな」
「そうね。拒否した眷属も居るけど、7体は無理だと思っていたから・・・」
「それはしょうがないだろう。原初の7体は・・・」
「えぇ」
「そうなると、俺たちは武器を仕入れればいいのか?」
「お願いできる?無理なら、最初はスキルと併用で回すことにする」
「数は、解らないけど、なんとかなると思う」
「ありがとう。でも、無理はしないで、ユウキは、自分のことを考えて、それが、私やサトシの・・・。ううん。皆の願いだから・・・」
「・・・。あぁ」
ユウキは、割れたはずのカップを丁寧に扱いながらテーブルに置いた。床にしみ込んでしまった紅茶は戻ってこない。ユウキには、染みを綺麗に消す事しかできなかった。
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