58 / 96
第三章 復讐の前に
第二話 帰還?
しおりを挟む拠点の整備を行っていた、ユウキたちだが、現状で行えることを行った段階で、足りない物が見えてきた。
「それで、ヒナとレイヤは、こっちに残るのか?」
ユウキたちは、リチャードとロレッタの復讐を終えて、残りはユウキだけの状況になって、拠点の充実を行うことに決めた。いろいろな理由があるが、ユウキの相手が国に喰い込んでいるだけではなく、裏社会にも話が通すことができる。フィクサーというと大げさだが、国会議員だけではなく、地方限定だが基盤を支える企業を運営している。知識層の人材も抱えている。ユウキの復讐相手は、極端な話をすると、国と戦うのと同じくらいに考えておく必要がある。
「武術の訓練を頼まれている」
レイヤは、正面で珈琲を飲んでいるリチャードに答える。
実際に、レイヤとヒナは拠点近くの町に引っ越してきた子供たちに、武術と日本語を教えている。
子供たちは、日本に居た者だけではない。復讐の過程で、家族がターゲットにされることを恐れた者たちが説得して、弟や妹たちを日本の拠点に連れてきている。治安のこともあるが、”院”の運営が厳しい事実もあり、日本への移住を決断した。
言葉の壁や文化の違いもあるが、子供たちの安全を優先した形だ。
負担は確かに増えているのだが、言葉の壁以外の問題は少ないと判断している。言葉の壁も、進歩した情報社会では、両者に相手を思いやる気持ちがあれば、大きな問題にはならない。
それに、言葉の壁も、ユウキたちの誰かが居れば問題にはならない。買い物も拠点に作られた町で済んでしまう。困らない。拠点の近くの町は、事情を知っている者たちが運営しているので、言葉の壁も低くなっている。
今は、外部との繋がりが少ないために、困らないが、成長すれば、行動範囲が広がる。そのために、武術と言語は絶対的に必要だ。言葉は、英語と日本語を覚えておけば、困らないと判断されている。
「そうか、武術は、体術系か?」
レイヤは、スキルで体術を持っている。
スキルは、知識系と呼ばれていて、スキルを持つことで、”術”が使えるようになる。ただ、知識として”術”が使えるわけではないので、人に教えることはできない。
スキルの”体術”は、武器を持つ事を前提とした、身体の動かし方の”術”だ。
「武器は持たせられないからな。日本の柔術だ」
レイヤとユウキとサトシは、日本に居た時に、近くのお寺で”柔術”を習っていた。柔道ではなく、柔術なのは、住職が、柔術が好きだという理由だったが、人に教えられる程ではないが、異世界での経験があるレイヤは、極めてはいないが、基礎の基礎は教える事ができる。
何も知らないよりは、良いだろうと教え始めている。
「”スモウ”じゃないよな?」
リチャードは、日本の格闘技は”相撲”と”柔道”が一般的だと思っている。
それだけでなく、サトシが異世界に居る時に、何かあるごとにユウキやレイヤに相撲で挑んだ。相撲なら、自分が勝てると言って勝負を仕掛けて、負けていた。リチャードは、その印象が強くて、子供たちに”相撲”を教えているのかと思っていた。
「相撲を教えられない。それに、柔術と一緒に柔道を教えている。柔道は、馬込さんが教えているのだけどな。意外と、人気だぞ」
馬込は、拠点に来た当初は、フィクサーの雰囲気を纏っていたが、子供が増えてきたら、子供相手に柔道を教え始めた。
そこそこの腕を持っていて、教えられるくらいには強いようだ。
子供たちも、オリンピック種目にもなっている柔道の方を好んだ。
「へぇ。俺は、柔道よりも、剣道が好きだな」
武器として、長剣を使うリチャードは、剣道への興味がある。
「剣道は、馬込さんのお知り合いが教えられるらしいけど・・・。誘ったら、来てくれるらしいぞ。田舎で、道場を開くのが夢らしい」
「日本人は、本当に変わった奴が多い」
変わった奴が多いのかは解らないが、実際に拠点には1芸に秀でた者が集まり始めている。
社会不適合者が多く集まり始めているのも事実なので、レイヤは肩をすくめただけで反論はしなかった。
反論の変わりに、リチャードが欲しがっていた物を思い出した。
「リチャード。そんな事を言っていいのか?」
レイヤは思い出した話をリチャードに始める。
ニヤニヤ笑っている顔が気に入らないのか、リチャードは、テーブルの上に置かれたコップに乱暴に、炭酸飲料を注いで、一気に飲んだ。
「なんだよ」
「お前が欲しがっていた・・・」
「え?まさか!」
さっきまでのイライラが一瞬で消えた。
リチャードは、コップをテーブルにおいて、立ち上がる。
「これも、馬込さんの知り合いらしいけど、刀鍛冶が来てくれることになったぞ」
リチャードの態度に満足したのか、溜飲を下げたのか、レイヤは自分が持っている情報を、教えた。
「お!それなら・・・」
リチャードは、刀を装備するのが夢だと常日頃から言っていた。
ユウキやレイヤやサトシが、日本から来ていたことを聞いて、刀の作り方を知らないか、何度も何度も問いただした。レナートで使っている武器は、直剣だが最初のころは、無理して作ってもらった刀もどきを装備していた。さすがに、強度が足りなくて終盤では力不足になってしまって、直剣に切り替えた。
「だが、いろいろと材料に制限をされてしまっているらしい」
これは、この拠点が抱えている問題の一つだ。
食料などは、入手できるのだが、素材になりそうな物資が不足している。
「ん?それは?」
「いやがらせだ」
行政が、手を出せない場所になってしまっている。
同じように、大手と言われるような企業が手を出せない状況で、物流が止められてしまっている。実際には、買い物はユウキが遠くの場所に移動して購入してくるので、困らない。仕入れもさほど困らないのだが、特殊な物の購入が難しいのは事実だ。
小売りは、制限されていない。
「ユウキは?」
「レナートから持ってくる事を考えている。それに、日本で刀を使うのは無理だけど、レナートならいくらでも使える」
日本では所持は難しいが、レナートなら問題はないと考えている。
実際には、解決しなければならない問題があるが、なんとかなると思っている。
「ミスリルは、こっちでは使えないのだろう?」
リチャードがレナートでは、優秀な素材になっているミスリルを例にあげるが、ミスリルを使った武器や防具は地球でも性能を発揮したのだが、素材となってしまうミスリルを加工した時点で、純度が高いシルバーとなってしまった。レナートで加工を行えば、ミスリルとして装備品になるのだが、地球で加工を行うと、なぜか素材としての質が変わってしまう。
マイやサンドラやアリスが調べているが、理由は解っていない。
「それらを含めて」
ドアがノックされる。
ユウキが戻ってきた。
「おっ!ユウキ」
部屋に入ってきたユウキに、リチャードが喰い付く。
丁度、ユウキに話を聞きたいと思っていたので、丁度よかったのだ。
「ん?リチャード?どうした?」
「レイヤから、”刀鍛冶が来る”と、聞いた所だ」
「あぁ・・・。丁度良かった。レイヤ。リチャード。俺は、レナートに行ってくる」
「ん?素材の採取か?」
ユウキは、開いているソファーに座って、どこから取り出したか解らないが、ペットボトルに入ったお茶を飲みだした。
「拠点の整備で、レナートの素材が必要になった。特に、魔石だな。施設に関連する物を向こうで作ってくる」
ユウキは二人に、足りない素材/物品の説明を始める。
レイヤとリチャードは、ユウキの話を聞いては居るが、具体的に何が不足しているのか判断ができない。
二人の反応が鈍いことには気が付いていたが、ユウキは説明を続けた。
「こんな所だ。あと、レイヤ。レナートに行く前に、墓参りに行く」
「墓参り?」
「あぁ。素材を集めて、帰ってきたら準備を始める。その報告だ」
「わかった。ヒナは抑える。サトシとマイは、事後報告なら問題はないな」
「すまん。頼む」
「一人で大丈夫か?俺だけでも着いて行くか?」
「大丈夫だ。それに、本当に墓参りだけだ。そのまま、レナートに行ってくる」
「わかった」
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
異世界転移した町民Aは普通の生活を所望します!!
コスモクイーンハート
ファンタジー
異世界転移してしまった女子高生の合田結菜はある高難度ダンジョンで一人放置されていた。そんな結菜を冒険者育成クラン《炎樹の森》の冒険者達が保護してくれる。ダンジョンの大きな狼さんをもふもふしたり、テイムしちゃったり……。
何気にチートな結菜だが、本人は普通の生活がしたかった。
本人の望み通りしばらくは普通の生活をすることができたが……。勇者に担がれて早朝に誘拐された日を境にそんな生活も終わりを告げる。
何で⁉私を誘拐してもいいことないよ⁉
何だかんだ、半分無意識にチートっぷりを炸裂しながらも己の普通の生活の(自分が自由に行動できるようにする)ために今日も元気に異世界を爆走します‼
※現代の知識活かしちゃいます‼料理と物作りで改革します‼←地球と比べてむっちゃ不便だから。
#更新は不定期になりそう
#一話だいたい2000字をめどにして書いています(長くも短くもなるかも……)
#感想お待ちしてます‼どしどしカモン‼(誹謗中傷はNGだよ?)
#頑張るので、暖かく見守ってください笑
#誤字脱字があれば指摘お願いします!
#いいなと思ったらお気に入り登録してくれると幸いです(〃∇〃)
#チートがずっとあるわけではないです。(何気なく時たまありますが……。)普通にファンタジーです。
【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~
柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」
テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。
この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。
誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。
しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。
その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。
だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。
「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」
「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」
これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語
2月28日HOTランキング9位!
3月1日HOTランキング6位!
本当にありがとうございます!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜
西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。
4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。
そんな彼はある日、追放される。
「よっし。やっと追放だ。」
自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。
- この話はフィクションです。
- カクヨム様でも連載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる