帰還した召喚勇者の憂鬱 ~ 復讐を嗜むには、俺は幼すぎるのか? ~

北きつね

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第二章 帰還勇者の事情

第四十話

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 リチャードとロレッタは、一つの建物に向かって歩いている。建物と言っているが、実際には複合施設だ。いくつかの建物を厳重な塀で覆われた場所だ。

「ロレッタ」

「うん。大丈夫」

 二人が今から行おうとしているのは、単純だ。
 二人の故郷を破壊して、教会を破壊して、二人の親、兄や姉、弟や妹を殺した奴らに復讐する。殺すように命令した奴らを・・・。

 異世界に召喚されて、ユウキに”絶対に地球に戻る”その意思を聞いた時から・・・。これからの・・・復讐の為に、スキルを求めた。

『異世界にいる間は、復讐を忘れよう』

 サトシの言葉だ。サトシらしい言葉だ。皆が、サトシの頭を殴りながら、サトシの言葉に従った。
 皆が、復讐を考えていたわけではない。しかし、皆の境遇が似通っていたのも偶然では済まされない。

「スキルの準備は?」

「終わっている」

「まだ早いぞ?」

「解っている。でも、やっと・・・」

 復讐を忘れるのは難しい事だ。しかし、皆が、”自分だけ”が不幸だと思わないように、”アイツの方が”と比べないように、そして、目標を心に宿して、忘れないようにした。サトシが皆にお願いしたことだ。

「ロレッタ頼む」

 二人は、10分くらい歩いて、広い敷地内に厳重な警備が行われている建物の前に来た。
 周りには建物は存在していない。高い建物もない。中を見る事は不可能な場所だ。

 二人の目的地だ。
 近くに観光地があり、州の重要な施設もある。厳重な警備は、内側だけに行われている。

「わかった」

 ロレッタのスキルが発動した。目の前にある厳重な塀で囲まれた場所を覆うような結界が発動する。ロレッタのスキルだ。異世界のスキルを地球で鍛え上げた。半径1キロに及ぶ結界の発動が可能になっている。全ての建物を覆うことができる結界。
 ロレッタのスキルが成功したことを確認したリチャードは、自分が準備していたスキルを発動する。
 まずは、結界の表面に手を添えた。地球に来てから調整したスキルだ。
 監視を阻害する植物を這わせる。外からの監視がこれで不可能になる。軍事利用されている物は不明だが、民生利用されている監視情報からの遮断ができるのは確認している。這わせた植物は、幻惑を見せている。デジタル情報にも干渉している。”スキル発生時の”中の情報を、表現している。スキルを発動した状態が維持され、解除まで周りに幻惑を見せ続ける。

「よし次」

 リチャードは、懐からスキルが付与された道具を取り出す。
 ユウキが準備した物だ。異世界フィファーナでも活躍した物だ。レナートを、他の国から隔離するために、皆で考えてスキルを付与した物だ。時間制限があり、使うのにはタイミングを考える必要がある。時間制限と言っても、1時間や2時間ではない。1か月程度は維持される。見えているのに、辿り着けなくするスキルが付与されている。迷っている感覚はないのに、辿り着けない。本来は、森などの地形を利用するのだが、開けた場所でも利用が可能だ。もちろん、効果は落ちる。しかし、リチャードとロレッタが行おうとしている復讐が終わるまでの時間、近づく者が減らせれば十分だと考えている。もし、誰かに見られても、知られても、問題はない。その時には、姿を変えて日本に居たことにすれば済む話だ。

 スキルの発動を確認した二人は、中の様子を見ながら、雑談を行う。
 サトシを中心としたグループの悪癖と表現してもいいのかもしれない。

「・・・」「・・・」

 二人は、中の様子を索敵で調べながら、無言になってしまう。
 これから行う復讐には不安はない。自分たちがここで殺されるとは思っていない。でも、復讐を遂げたあとで、自分たちはどうするのか?
 ユウキにも相談した。地球に残る。正確に言えば、ユウキの手伝いをする。

 それが終わったら?

 不安はない。
 仲間が居る。

 そして、なによりもサトシが居る。
 口には出さないが、二人もサトシに感謝だけではなく、信頼を寄せている。

 現状も、異世界でも・・・。サトシが皆をまとめた。
 比喩ではなく、皆はサトシに感謝をしている。他の集団のように内部分裂をしたり、仲間同士で足の引っ張り合いをしたり、殺し合いをしたり、サトシを中心にしたグループでは発生しなかった。

 まとまったわけではない。
 サトシを中心としたグループでも喧嘩は頻繁に発生した。サトシは、喧嘩の原因を聞いて、とことん話し合った。それこそ、ダンジョンの中に居ようが、戦場だろうが、敵陣の真ん前だろうが、関係がなかった。とことん、話し合って、それでも結論が出ない時には、サトシが全部を肩代わりすると約束した。皆が、サトシに甘えた。そんなサトシを支えたのが、マイとユウキだ。
 異世界から地球に帰るのにも、沢山の問題があり、皆でとことん話し合った。それぞれのパートナーと殴り合いの喧嘩をした者たちも存在した。サトシは、全ての喧嘩に立ち合い、自分が居ないところでの喧嘩をしたら、”泣く”/”喚く”/”纏わりつく”と迷惑な宣言を行った。皆が笑いながら、サトシを殴った。

 技術や知性は、ユウキ。慈愛や行動は、マイ。戦闘力なら、レイヤ。皆がそれぞれ他のグループならトップでもおかしくない技量を身に着けていた。
 皆は、サトシが宣言した”異世界に居る間は復讐を忘れよう”を実践していた。そして、サトシが認めたユウキの言葉”地球に帰る”から”帰って復讐を行う”を心の芯にした。サトシは、復讐すべき相手が存在しない。正確に言えば、サトシの復讐心よりも大きな復讐心を持つユウキが存在していた。そして、ユウキの復讐をサトシは自分の復讐だと考えていた。マイも・・・。ユウキに自分たちの気持ちを託した。

「サトシには感謝だな」

「そうね。本人には、言わないけど」

「そうだな。怖い奥様に睨まれるからな」

「ハハハ。マイも素直になれば可愛いのに・・・」

「ロミルから聞いたが、マイもサトシの前では素直らしいぞ?」

「うそ?マイが?ツンデレ?マイ。属性を盛りすぎでしょ?」

 二人は、異世界に居た時のことを思い出しながら、思いで話に浸っている。

 歩いている場所が、草原や街中なら二人の話し方や仕草に、不自然な所はない。

 しかし、二人が歩いている場所は、厳重に警備され、侵入者を暴力で排除する施設の中だ。周りには、武装した者たちが大量に現れている。同じ所属だと解るような衣装を身に着けている。通常では入手ができない武装を持っている者も存在している。

 二人は、そんな中を、街中を歩く気楽さで、進んでいる。

 静止する声だけではなく、実力行使に出て来る者も居る。
 二人は、煩わしそうに手を振るって、襲ってきたものを排除しながら歩いている。

 銃器を向けている者も存在するが、二人は気にしている様子はない。
 実際に、豆鉄砲程度にしか考えていない。銃砲を避けるくらいのことは容易に実行できる。それだけではなく、命中したとしても、無力化が可能だ。取り囲んでいる者たちは、威嚇はするが発砲はしてこない。
 相手が子供だということや、二人だけだということ、そして、取り囲んでいる状況で、発砲すれば、味方に被弾する可能性があるためだ。もう一つの懸案は、この場所を所有している団体が、最近になって当局からのチェックを受けている為に、発砲をして当局が踏み込む口実を与えるのが、まずいと考えていた。

 実際には、ロレッタの結界があり、音が外に漏れることはないのだが、二人以外は、そんな状況になっているとは知らない。

 二人の目的が解らないことや、今まで何人もの敵対者を殺してきた者たちが軽くあしらわれているのを見て、上からの指示を待つという保守的な行動になってしまっている。

 二人は、周りを取り囲む暴力集団の反応が鈍い事や、状況がユウキから指摘されている”最良”の状況に近いと判断して、にこやかに笑いながら、歩く速度を変えずに進んでいる。

「それにしても、広いな」

「そうね。ヘリが降りられるようになっていると聞いたけど・・・」

「建物の屋上にもヘリポートがあるのだろう?」

「うん。あっちは、教団のトップが使うだけ見たいよ。ほら、下は下ってことでしょ?」

「ハハハ。フィファーナでも同じような国があったな。考えることは同じということか?」

 二人は、レナートで使われている公用語で話をしながら、無人の野を行くように目的の建物に向かっている。
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