53 / 96
第二章 帰還勇者の事情
第三十八話 情報
しおりを挟むユウキたちは、襲撃を受けた事で、当局に拘束されている。正確には、拘束されているのは、マイとロレッタだ。ユウキとリチャードは、拘束された二人をまっている状況だ。
マイとロレッタは、”被害者”として当局の取り調べを受けている。マイが、日本からの観光客。ロレッタが現地の友達という設定になっている。
取り調べでは、マイとロレッタの身元調査が行われた。怪しい所が一切見当たらない偽造された身元だ。
ユウキとリチャードは、撮影した動画は、まだ公開していない。マイとロレッタの取り調べが終わって、もう一つの餌に食いついた後だと考えている。
「動画はどうする?」
動画は、SDカードに保存されている。リチャードは、ユウキが持っているSDカードを指さしながら質問を行った。
「マイとロレッタの事情聴取が終わってからだ。準備は進めてもらっている」
動画が思っていた以上に爆弾になりそうな物なので、即時公開を実行しなかった。
リチャードも納得はしているが、ユウキの考えを確認しておきたかった。
「わかった。資料は?」
リチャードが聞いた資料は、ダミーの資料だ。
当局が、”資料を調べている”という情報が欲しかった。ダミーと言っても、実際に調べられたら、”問題発生”だと認識させることが可能になる程度には問題のある資料だ。
身元を調べられて、ロレッタの出身は判明している。そのために、資料を持っていることも不思議には思われても、不自然な状況ではない。
「当局が調べている。どこで入手したのかを含めて説明を求められるだろう」
「マイが居て助かるよ」
リチャードが語尾をごまかしながら、”マイ”の存在が鍵になっている。
マイが取得しているスキルに由来している。
「そうだな。リチャードとロレッタだと、怪しすぎる」
「解っているよ。ユウキまで、マイと同じ事を指摘するな」
マイが作戦に参加すると言い出したのは、自分のスキルに”思考誘導”があるからだ。当局に調べられる時に、弱めにスキルを発動して、取り調べの時に思考を誘導しなければ、資料を持っていた意味を含めて、説明しなければならない。説明が多くなれば、その分だけ矛盾点が出やすくなる。矛盾点が見つかれば、資料の信憑性だけではなく、リチャードとロレッタにも疑いの目が向けられてしまう。当局を巻き込むのなら、初動で多少の違和感が合ってもリチャードとロレッタが疑われないだけの状態にしておく必要があった。
「悪い。どうする?今なら、教会の土地を含めて取得ができるぞ?」
ユウキは、似合いもしない”ニヤリ”顔で、リチャードを見つめる。もちろん、リチャードが土地を欲しがるとは思っていない。
「ユウキ?似合わないから止めろって言われなかったか?」
「・・・。それで、決めたのか?」
「あぁミケール殿に任せる。でも、いいのか?」
リチャードが気にしているのは、ユウキの手札として考えていた、ミケール・・・。その後ろに居る人物への”貸し”を使ってしまうことだ。ユウキは、気にするなと言っている。そもそも、土地をミケールに預けるのは、ユウキからリチャードに提案したことだ。ユウキは、自分のしたいことは、自分の手で行いたかった。皆の手を借りる場面も出てくるのだろうけど、外部の力や影響は外的要因にだけに留めておきたかった。ミケールへの貸しは、リチャードたちが使うべきだと思っていた。
「ユウキ!リチャード!」
マイとロレッタが、事情聴取が終わって、建物から出てきた。
二人を連れて、次に会う人が待つ場所に移動する。
約束の時間になって、ユウキが待っていた人物が姿を表した。
「ユウキ!」
ずんぐりした体系だが、しっかりとした足取りで、ユウキたちが待っている場所に駆け寄ってきた。
ユウキの前まで来てから、手を差し出す。
「森田さん。ご足労をおかけして申し訳ない。パスポートは大丈夫でしたか?」
ユウキは、日本に居る森田に頼み事をしていた。
アングラな物だが、森田ならなんとかしてくれるだろうと思っていた。実際に、森田の差し出された手の反対側には、アタッシュケースが握られている。
「無茶ぶりにも・・・。限界があるだろう?以前に、シンガポールに遊びに行っていなかったら・・・」
森田は、アングラに近い物品の調達は、それほど無茶だとは思っていない。無茶なのは、待ち合わせ場所だ。日本から、急いで移動しても1日以上の次巻が必要になる。そのうえに、パスポートが有ったから問題には鳴らなかったが、パスポートが無かったら来ることが出来なかった。
「ありがとうございます。それで、ブツは?」
「苦労したぞ」
森田は、ニヤリを笑ってから、アタッシュケースをユウキに投げる。
「おっ。これは?」
ユウキは受け取ったアタッシュケースは、森田が使っている物ではないのに違和感を覚える。わざわざ用意したような感じだ。
「中に入っている。惡の組織としては、様式美も大切だろう?」
「ハハハ。そうですね。でも、よく手に・・・。いや、持ち込めましたね」
「証明書が在るし、実際の改造はこっちに来てからやったからな」
「そうなのですね」
「ユウキ。一発勝負だぞ?いいのか?」
「大丈夫ですよ」
ユウキは、アタッシュケースを開けて中を確認する。
物を持ってから、リチャードに渡す。リチャードも何度か、確認してから、ズボンのベルトに挟んだ。
「森田さん。もう一つの方は?」
ユウキが森田に依頼したのは3つ。一つは、アタッシュケースの中身だ。アメリカでも手に入るのだが、森田が用意できると言うので、細工と合わせて依頼をした。本題の二件の一件は、すでに実行されている。
資料の一部と保管場所の情報が、複数の経路から、密告されるような形で渡るように依頼した。
「預かったデータは、トリガーをもらえたら、すぐに公開される」
森田が”公開される”と言い切った瞬間に、リチャードが持つスマホが振動した。
メッセージが届いたようだ。
「釣れた」
リチャードがメッセージを確認して呟いた。
「早いな」
リチャードからの短い報告を聞いて、ユウキも短い感想を漏らす。
1週間程度は時間が必要だと思っていたが、実質は2日で相手からのリアクションがあった。準備が終わっているので、問題は無いのだが、”拍子抜け”とはこういう時に使う言葉なのだろう。
「そうだな。早いのは嫌われると教えてやれよ」
ユウキとリチャードの言葉を聞いて、森田は何が発生したのか理解した。
そのうえで、ちょっとしたネタを差し込んできた。
「早い方が好まれる人も居ますが・・・。今回は、リチャードとロレッタが、教えてあげることになるでしょう。俺の役目は、早く終わってしまった後です」
森田の言葉が、ネタだと解ったうえで、ユウキは解釈を変えて、リチャードとロレッタの作戦を森田に伝える。
「そうだな。ユウキは行かないのか?」
森田は、作戦にはユウキも一緒に行くと思っていたので、少しだけ驚いた表情をユウキに向ける。
「俺は、マイと一緒に見守りです。森田さんは、どうします?」
「そうだな。少しだけこっちの知り合いに会ってから帰国する」
「わかりました。あとで連絡します」
「わかった。飛行機に乗っていたら、出られないけど、トリガーは教えた方法で発動してくれ」
トリガーの発動が行われたら、ユウキたちとミケールに依頼して得た情報が、いろいろなサイトに流れる仕組みになっている。
情報は、虚実が入り混じったように見えるが、実際には事実に沿った話になっている。読み物としても秀逸な情報もあり、フィクションに見える作りになっている場合もあった。そのために、事実を知らない物にはよくわからない”都市伝説”に見えるのだが、調べれば真実に辿り着くようになっている。
「はい。ありがとうございます」
用事が終わったとばかりに、ユウキたちに背を向けてから片手を上げる。
そのまま、近くに停めていたレンタカーに乗って、空港を目指した。実際に、アメリカに知り合いは居るのだが、アメリカは広い。移動時間を考えれば、日本に帰ったほうが楽だと判断している。ユウキたちから依頼された仕事を終えて、空港近くのホテルで一泊してから、帰国することにしている。
最初は、2-3日だけでも様子を見ようかと思ったが、日本でも動きがあり、帰国して情報を精査する必要が出てきている。
ユウキとリチャードは、森田を見送った。
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ヴァイオリン辺境伯の優雅で怠惰なスローライフ〜悪役令息として追放された魔境でヴァイオリン練習し
西園寺わかば🌱
ファンタジー
「お前を追放する——!」
乙女のゲーム世界に転生したオーウェン。成績優秀で伯爵貴族だった彼は、ヒロインの行動を咎めまったせいで、悪者にされ、辺境へ追放されてしまう。
隣は魔物の森と恐れられ、冒険者が多い土地——リオンシュタットに飛ばされてしまった彼だが、戦いを労うために、冒険者や、騎士などを森に集め、ヴァイオリンのコンサートをする事にした。
「もうその発想がぶっ飛んでるんですが——!というか、いつの間に、コンサート会場なんて作ったのですか!?」
規格外な彼に戸惑ったのは彼らだけではなく、森に住む住民達も同じようで……。
「なんだ、この音色!透き通ってて美味え!」「ほんとほんと!」
◯カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました。
◯この話はフィクションです。
◯未成年飲酒する場面がありますが、未成年飲酒を容認・推奨するものでは、ありません。
【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~
柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」
テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。
この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。
誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。
しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。
その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。
だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。
「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」
「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」
これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語
2月28日HOTランキング9位!
3月1日HOTランキング6位!
本当にありがとうございます!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜
西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。
4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。
そんな彼はある日、追放される。
「よっし。やっと追放だ。」
自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。
- この話はフィクションです。
- カクヨム様でも連載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる