帰還した召喚勇者の憂鬱 ~ 復讐を嗜むには、俺は幼すぎるのか? ~

北きつね

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第二章 帰還勇者の事情

第二十八話 治療?

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 スパイにギアスをかけてから、2日が経過した。

「なぁユウキ。日本の・・・。いや、この場合は、地球にある”その手”の組織は、情報を軽く扱っているのか?」

「どうだろう?」

 情報はユウキの予想を上回る速度で集まっている。
 上がってくる情報を、ユウキと一緒に精査しているのは、リチャードとロレッタだ。

 精査された情報だけが、ユウキたちに届けられるが、それでも驚くほどの情報が手元に蓄積される。

「なぁ」

「そうだな。ミケールに渡して・・・」

「ユウキ。”丸投げ”だろう?俺たちじゃ対処できない」

「そうだな。丸投げが正しいな」

 ユウキとリチャードの話を聞いて、ロレッタが席を立ち上がる。

「それじゃ呼んでくるね」

「ロレッタ。待て!俺が、ミケールに資料を渡してくる」

「わかった」「まかせた」

 リチャードとロレッタは、資料をユウキが持った事で、任せることにしたようだ。
 自分たちに関係する情報も少しだけだが入手できている。二人は、その細い糸から復讐相手を引っ張り出す方法を考えようとしていた。アメリカに本部を置く新興の環境保護団体。実態は、環境テロ組織が二人の復讐対象だ。二人が居た、教会に隣接した施設が、環境保護団体からの抗議を受けて、移転しなければならなくなった。そして、二人を育てた教会関係者は、事故死した。教会関係者が居なくなってしまった教会が在った場所には、土地を二束三文で購入した環境保護団体が、豪奢なビルを建築した。二人が、異世界に召喚される1年前の出来事だ。
 二人は、事故をおこして、二人の大切な人を殺した者への復讐は終えている。しかし、本当の復讐相手は別にいる。やっとターゲットに繋がる糸が見つかったのだ。
 ユウキの復讐相手とも関係があり、日本にも支部を作った環境保護団体。二人は、情報を精査して、より詳しい情報を入手するための方法を考える。異世界で身に付けたスキルをフルに使って・・・。復讐を完遂するために・・・。

 ユウキは、情報を精査していた部屋から出て、ミケールたちが逗留している建物に向かう。
 少女には、ポーションを少量だけ混ぜた物を飲んでもらっている。一気に飲ませてしまうと、どの部分が実際に修復しなければならない部位なのか判断が難しい為だ。この方法は、異世界でも行っていた。ポーションは万能ではない。古傷でも効果が発現する場合もあれば、悪化する場合がある。そのために、定着してしまった傷を修復する場合には、慎重に行わなければならない。
 ユウキたちの仲間なら、即死の危険性がある”古傷”でなければ、乱暴な方法を採用した。

 ユウキは、少女の経過を聞いて、やはり一番乱暴で、一番非人道的で、一番確実な方法を選択する必要があると考えた。
 仲間ともブリーフィングを繰り返していた。まだ、結論は出ていない。しかし、時間としては、そろそろ結論を通達する必要があるのも解っている。
 ユウキたちは、少女の心に負担がない方法での治療を考えていたが、難しい状況になっている。

 ドアをノックする。
 遅い時間なので、返事がなければ、明日以降に資料を渡すことを考えていた。

『はい』

 扉の奥から、目当ての人物の声が聞こえた。

「ユウキです。ミケール殿に、お話があります」

 扉が開いた。少女は、すでに就寝しているようだ。
 部屋には、ミケールだけが、資料や端末が乱雑に置かれていた。

「ミケール殿。夜分に、申し訳ない」

「いえ、何かありましたか?」

「ゴミの排除は問題にはなっていません。そのゴミから得られた情報で、ミケール殿にお渡しした方がよいと思える情報を持ってきました」

「情報?」

「はい。情報の代金は必要ないので、処理をお任せします」

 ユウキは、ミケールに書類の束を渡す。

 数枚の紙を捲ってから、ミケールの表情が変わる。パソコンにデータを表示させて、ユウキが持ってきた情報と見比べる。

「ありがとうございます。大変、有意義な情報です。対価が必要ないとは、考えにくいのですが?」

「そうですね。それでしたら、少女の治療費に上乗せします」

「かしこまりました。旦那様にお伝えします。この情報だけで・・・。日本流の言い方をすれば、座布団で3枚ほど用意いたします」

「そうですね。座布団を3枚も貰っても、困ってしまうので・・・。そうですね。米国で動きやすい身分を3人分用意していただけますか?」

「3名でよろしいので?」

「はい。十分です。州を跨いでの移動で、呼び止められない。できれば、カナダ・・・。ポイントロバーツにも問題なく行けると嬉しいです」

「わかった。手配いたします」

「ありがとうございます」

 ユウキは、ミケールを見つめる。
 本当は、すぐにでも聞きたいことを、ユウキに問い詰めないのには、好感が持てる。

「ミケール殿。まだ、お時間は大丈夫ですか?」

「大丈夫です。資料が重いので、テーブルには置かせてください」

 ユウキは、テーブルの前に置いてあるソファーに腰を降ろす。ユウキが座ったので、ミケールは資料を自分が使っているテーブルの上に置いた。

「ユウキ様。コーヒーでいいですか?」

「お願いします」

 ミケールが簡易キッチンで、コーヒーを手早く入れる。

 ユウキと自分の分を入れて戻ってくる。
 砂糖とミルクもしっかりと準備してきている。

「ありがとうございます」

 ユウキがコーヒーに口を付けるのを見てから、ミケールは口を開く。
 ミケールは、今からの話が少女に関してであることは察している。コーヒーには手を付けないで、手を握って、ユウキの話を聞く体勢になっている。

「それで?」

「少女の状態を、私たちなりに考えました」

「はい」

 ミケールが握った手に力が入る。

「まず、ポーションの特性をお伝えします」

「わかりました」

 ユウキは、ミケールにポーションは万能ではなく、古傷に使う場合には悪化する危険性があることを素直に告げた。
 危険性があった為に、使う前に調査を行った事を告げた。

「調査?」

「はい。ハイポーションを、”1万分の1”に薄めた物を作りました。それを、飲み物に入れました」

「え?」

「大丈夫です。ポーションの効能は出ません。そうですね。効き目がいい栄養剤と考えてください」

「わかりました。それで、お嬢様の体調がよかったのですね」

「それもあります。それで、調査の結果、判明したことがあります。詳細は、資料にまとめました。先ほどの資料の最後にまとめてあります」

「・・・」

「簡単に言ってしまうと、怪我が悪化する可能性が高いことがわかりました」

「それでは・・・」

「ポーションでは、表面の傷は治ります。しかし、深層部分の傷が悪化する可能性が高い状況です」

「・・・」

「傷が悪化しても、すぐに死に至るようなことはありません。これは、私たちが異世界で経験したことなので、検証は難しいと思ってください」

「はい」

 ミケールの手が震えるのがわかる。
 ユウキは、ミケールの心情を理解したうえで、話を進める。

「もう一つだけ確実に、治せる方法があります」

「え?それなら!」

「はい。完治します。元・・・。が、解りませんが、少女が思い描く状態に”再生”されます。先ほどの説明にあるような、深層部分の怪我も悪化しません。完治します」

「ユウキ様」

「しかし」

「金銭で済む話なら、いくらでもお支払いいたします。もし、私の命を差し出せと言われても構いません」

「いえ、金銭でも命でもありません」

「・・・。何か、条件があるのですか?」

「条件ではありません。その方法は、治療というには、乱暴すぎるので・・・。少女に説明が難しい・・・。必要なのは、覚悟だけです」

 ユウキは、少女に行う治療の説明をミケールに行う。
 話を聞いているミケールは、冷静に話を聞いているが、ユウキの話は荒唐無稽と断罪するのは簡単だ。しかし、方法が、残されていないのも解っている。実際に、ミケールは少女にユウキの話を、概要を伝えることにした。

 翌日の夕方。
 ユウキの前に、ミケールと少女が現れて、ユウキの治療を受けると宣言した。

 準備に、時間が必要になるので、明日の夕方に治療を行うことが決まった。
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