帰還した召喚勇者の憂鬱 ~ 復讐を嗜むには、俺は幼すぎるのか? ~

北きつね

文字の大きさ
上 下
35 / 96
第二章 帰還勇者の事情

第二十話 オークション

しおりを挟む

 一部で有名になった、異世界から帰ってきた子どもたちは、日本に集結していると思われていたが---”帰ってきた29名だったが”---14名が消えるように居なくなってしまった。
 記者会見をしている会場で、質問を受けている最中に、服と灰を残して消えた。ネットでの配信だけではなく、大手マスコミの前で実際に発生した。

 ユウキたちが、森田を通してマスコミ各社に、記者会見を行うと通知してきたのがきっかけだった。
 (別段、親しい間柄でもなかったが)”袖にされた”と考えていた大手マスコミにも仁義の意味で、通知は行った。仕切りは、今川と森田が行うことになっていたのだが、追手町に本社を構える大手マスコミが、横槍を入れてきた。

 しかし、横槍を全て”否”として、今川が用意する会場での会見となった。

 そして、二度目の会見の概要を、各マスコミに配布した。森田や今川の予想通りに進めば、大手マスコミは、概要を読まずに会見に望む。
 時間をわざと、昼過ぎにして、生放送をしても問題にはならない時間に設定したのは、ユウキからの発案だ。

 実際に、生放送に踏み切ったマスコミは多くは無かった。最大手日本放送協会が昼の番組を差し替えて、生放送を行った。他にも、BSやCSでの生放送を行うと決めたマスコミが存在していた。ユウキが望んだ方向に動いていた。

 当日に、マスコミたちの前に座るのは29名の子どもたちだ。皆が顔を晒しているが、ユウキを除いては素顔ではない。

 そして、目隠しされたボードが備え付けられている。

 定時になり、目隠しされたボードが外されると、マスコミたちは唖然とした。前回と同じように、森下が司会を務める。

 第一声は、”合同会社レナートの起業。及び、役員と業務の説明”だった。
 前回と同じように”異世界”の話や、ポーションの話だと考えていたマスコミは、盛大に文句を言い始める。しかし、事前に渡している概要では、異世界の話は書かれていない。しっかりと、起業した会社の説明となっている。
 大手マスコミも、概要を読まないで来たマスコミを含めて、肩透かしの状態になっている。
 概要にかかれている内容以外の質問は、”受け付けない”と宣言されているのだ。またもや、大手マスコミを含めて、煙に巻いた格好になっている。

 しかし、大手マスコミがそれでも食い下がったときに、子どもたちに異変が生じた。

 生放送中に、14人の子どもたちが忽然と消えたのだ。
 質問をした者が、”子供に向けて横柄な口ぶりだったことも影響している”のではと、ネットでは大騒ぎになった。質問をした、大手マスコミが発行している新聞社のサイトが、一時アクセスが不能になるくらいに炎上した。どうやら、森田が燃料を投下していた。

 14人が消えたことで、会見は終了となった。
 マスコミの目の前で、忽然と消えた14名はどこに行ったのか?
 当日に来ていたマスコミ全員に向けて、消えた14名の氏名を伝えた。出身の国を合わせる形だ。海外でも、大きく報道された。消えた瞬間の場面は、いろいろな方向から撮影されていた。今川が撮影していた、後ろからの映像も”自然な形”で流出した。皆が、消えたトリックを暴き出そうと、躍起になったが、誰も明確な説明ができなかった。

 そんな問題だらけの、合同会社レナートの起業説明会が終わって、2週間が経過した。
 その間、マスコミからの取材の申し込みは一切に受けていない。海外からの申込みも同じだ。

 さらに、2週間後に、ユウキたちが作った会社が、一つの発表を行った。合同会社レナートのウェッブサイトに書かれた小さな小さな宣伝だ。

”ポーションのオークション”を始めると宣言された。

 この情報は、静かに、だが確実に広がっていった。ユウキたちが帰還したときの会見で使ってみせたポーションをオークションにかけると言っている。マスコミはもちろん医療関係者も注視している。注視はしているが、誰もが自分でカードを引く気にはならないでいた。

 静かに始まった、オークションの1回目は加熱しないで終了した。

「ユウキ。どこが落札した?」

「佐川さん。気になるのですか?」

「あれほどの物だからな」

「そうですか?」

「そうだ!それで?」

「初級は、記者を名乗る人物と、米軍です。米軍は、すでに引き渡しが終了しています」

「ほぉ・・・」

「中級の一つは別の記者と、ユーチューバーです」

「記者?文句を言うために買うには、少々高い買い物だと思うのだけどな?」

 落札された金額は、初級は40万。中級は、250万だ。佐川の想像とは、一桁違うが、それでも十分に高価な買い物だ。

「えぇ私もそう考えて、馬込さんに聞いたら、一人は、政権よりの記事を書いている者で、鞄持ちだという話です。もう一人は、政権にも顔は聞きますが、財界と政界を繋ぐパイプのようです」

「それは、それは・・・。それで釣れたのかね?」

「ダメですね。でも、馬込さんの予想では、財界に情報が流れれば、数回で釣れるはずだとおっしゃっていました」

「そうか、それで、次のオークションには何を出す?」

「”毒消し”のポーションとかどうでしょうか?」

「毒消しかぁ・・・」

「ダメですか?」

「ダメではないが、毒消しは難しいぞ?」

「え?」

「ユウキ。少し、考えれば・・・。そうか、感覚が、異世界の基準になっているぞ」

「あっ。日本では、毒を受ける行為自体が存在しないのか・・・。でも、蛇とか・・・蜂とか・・・、は、金持ちには意味がないのか・・・」

「そうじゃ。アルコールくらいだろうが、あとは放射線を受けているとか、毒消しを必要とする者は少ない。それに、狙った者が釣れるような代物ではないな」

「そうですか・・・。そうですよね・・・。またポーションでもいいとは思いますが・・・」

「そうだ。儂も、ラノベを読んで勉強してきたのだが、ユウキは、力のポーションとか、素早さのポーションとかは無いのか?」

「え?ありますが、効果が、30分も続かないですよ?それも、本来の力から10%/20%/40%を伸ばすだけですよ?」

 佐川は、立ち上がって、ユウキに近寄って、肩を揺する。

「それは、数は?力と速度だけか?視力や聴力の強化は?」

「え?佐川さん落ち着いてください」

「落ち着いていられるか!ユウキ。なぜ、そんなに不思議そうな顔をする!成分次第では、ドーピングではない薬剤なのだぞ!」

「そうですけど、売れますか?30分程度ですよ?」

「確実に売れる。速度で、40%アップなら、100mのタイムなら2-3秒は削れるだろう、絶対に飛びつく!」

「そうですけど、訓練は必要ですよ。ポーションを使うよりも、日々の・・・。あぁそうか、強化のスキルがなければ、ポーションを使うしか無いのか・・・」

「ユウキ?」

「佐川さん。ステータス関連のポーションですが・・・。俺では、ありませんが、仲間で錬金のスキルの訓練で作った物が大量にあります」

「そうか!儂たちに回してくれるか?」

「えぇいいですよ。誰かに届けさせます。他の研究所向けにも必要ですか?」

「あれば嬉しい。次のオークションまでに、ポーションと同じように成分表を用意しよう」

「わかりました。お願いします」

 ユウキは、レナートに戻って力と速度と頑強のポーションをそれぞれ20本を持って帰ってきた。それを、佐川に説明と一緒に渡した。今回は、20%アップの中級ポーションだ。ポーションを受け取った佐川は、喜々として研究施設に連絡をして、解析に取り掛かる。

 その頃、ポーションを受け取ったユーチューバーが、もともと傷があった足にポーションを使ってみると宣伝して動画を撮影した。足の傷を大きく削り取ってから、ポーションで治す動画だ。綺麗になった傷や綺麗に修復していく傷。そして、ショッキングな内容を相まって、またたく間に2,000万回を超える再生数を稼ぎ出した。ユーチューバーの動画が火付けになった。ものすごい数の問い合わせが来たが、ユウキたちは全てを無視した。

 そして、2回目のオークションが開催されると予告をした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ヴァイオリン辺境伯の優雅で怠惰なスローライフ〜悪役令息として追放された魔境でヴァイオリン練習し

西園寺わかば🌱
ファンタジー
「お前を追放する——!」 乙女のゲーム世界に転生したオーウェン。成績優秀で伯爵貴族だった彼は、ヒロインの行動を咎めまったせいで、悪者にされ、辺境へ追放されてしまう。 隣は魔物の森と恐れられ、冒険者が多い土地——リオンシュタットに飛ばされてしまった彼だが、戦いを労うために、冒険者や、騎士などを森に集め、ヴァイオリンのコンサートをする事にした。 「もうその発想がぶっ飛んでるんですが——!というか、いつの間に、コンサート会場なんて作ったのですか!?」 規格外な彼に戸惑ったのは彼らだけではなく、森に住む住民達も同じようで……。 「なんだ、この音色!透き通ってて美味え!」「ほんとほんと!」 ◯カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました。 ◯この話はフィクションです。 ◯未成年飲酒する場面がありますが、未成年飲酒を容認・推奨するものでは、ありません。

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

処理中です...