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第二章 帰還勇者の事情
第十九話 準備と仕込み
しおりを挟むユウキは、自分で立てた計画通りに、一部では名前を知られる程度には有名になった。
会見の動画も拡散されている。ユウキだけが、(本当の)顔と名前を出している。
拠点でユウキがやっているのは、所謂、連絡係だ。
連絡係をしながら、ユウキは自分の計画に必要な事柄を調査して、準備を進めている。
差し当たっての問題がクリアできたので、レナートに戻っていた。
「ユウキ!」
「悪いな。こっちは大丈夫なのか?」
ユウキが手を差し出すと、男女は嬉しそうな表情をして、ユウキの手を順番に握った。
「大丈夫だ。サトシがマイとセシリアに怒られている以外には、問題はない」
「それなら、いつもどおりだな」
3人は、お互いの顔を見ながら笑いあった。
心の底からの笑い声だが、この笑い方ができるようになったのも、最近のことだ。皆が、心の中に、”澱”を持っていた。地球に戻って、心配だった、世話になった人たちに会えた。そして、皆の心を占めていた、”弥生”を帰すことができた。
「あぁ」「ユウキ!準備はできたの?」
男とユウキの他愛もない話をぶった切って、女がユウキに話しかける。
「大丈夫だ。フェリア。検閲とかいろいろ考えたが、やってしまおうという結論になった」
ユウキがやろうとしていたのは、ポーションの原料となる”薬草”の地球での栽培だ。
他にも、地球にはない植物の栽培を行う事だ。植生が似ているのはユウキたちも確認していて認識をしている。育つとは思っているのだが、実際に実行してポーションが作成できなければ、意味がない。
「そう、ジャパンは煩そうな印象があるけど大丈夫なの?ほら、貴方を攻撃したい人たちも居るのでしょ?」
フェリアと呼ばれた女は、自分が思っていた疑問をユウキにぶつける。実際に、ユウキが森下や佐川や森田に説明したときに、”検閲”が問題になる可能性が取り沙汰されたが、法律で”異世界”を縛れないことや、”薬草”がどういった区分になるのか、わからないので法律で縛ることが難しいと判断された。違法だと言われても、”新種”の”植物”だと申請してしまえば、何も言われないだろうという判断になった。
ユウキは、二人に、ここ数週間の動きを説明することにした。
「まず、拠点に地下を作った」
「「地下?」」
「あぁ地球には、こっちにない”科学”がある」
「すっかり忘れていた。特に、ジャパンは、その分野が進んでいる印象があるな」
レオンの言っている内容は間違っては居ないが、日本が”一番”進んでいるのは間違いだ。
「研究職が近くに居るし、乗り気だったからな」
「あぁ変人か・・・」
レオンが偏見をベースにしているが真実を言い当てている。
佐川は、ユウキの計画を聞くと各国の協力的な研究所に連絡をした。骨を埋めるつもりなら、受け入れるというユウキの戯言を聞き入れて、各国から一級どころの研究者が来日した。変人の所に、変人が集まった。
地下に作った薬草畑には、ポーションを作るために必要な薬草だけではなく、異世界の果物や毒草までも育っている。日本だけではなく、各国から持ち寄った”種”との掛け合わせも行われる。
ユウキが、レオンとフェリアに頼みたかったのが、レナートと”魔の森”での採取だ。他の国や地域にしか生息しない”種”も欲しいとは思ったが、”魔の森”に生息している草木が上位互換であり、効能が強い物が多い。主に、レオンが得意としている。フェリアには、所謂”錬金術”をまとめた書籍を用意して、”英語”への翻訳を頼んだ。魔道具が、地球でも動作するのは確認しているので、”錬金術”に必要な道具の調達を含めて頼んだ。
ユウキは、日本に作った拠点で、日本産のポーションを作ろうと考えた。
「ユウキ。それで、ポーションはできたのか?」
ユウキは、実験を行うために薬草を使って、ポーションを作ってみたが、品質は同程度の物ができた。
「できた。品質は、同程度だ」
「え?同程度?レナートと?」
「あぁ。びっくりだろう?」
「そうだな。地球で作って、こっちに持ってこられないか?」
「物資を送る技術は確立しているから可能だ」
「そうか、それらを含めて調整だな」
「あぁまずは、薬草や付随する物が生成できるかだからな」
「なにか懸念があるのか?」
「あぁ・・・。聖水がなければ、中級以上は難しい」
「実験では何を使った?こっちから持っていった物か?」
「いや、水道水だ」
「ハハハ。ジャパンの水道水なら、こっちの水よりは良いものができそうだな」
「あぁ地下水が使えないか、調べている」
「地下水?フジヤマの雪解け水なのか?」
「残念だけど、違うよ」
「そうか・・・。マウントフジの雪解け水なら、聖水並の効果が期待できたのだけどな」
「あぁ」
レオンが言っているのは、ユウキたちと調べた結果なのだが、パワースポットと呼ばれる場所のいくつかは、”魔力ポット”だと判明した。魔力が、溢れ出ているのだ。魔物が生成されないのには、なにか理由があるのかも知れない。佐川などは、”因子”が無いのではないかと言っているが、調べるのは中止している。何かの弾みで”魔物”が生まれてしまうと、パニック映画が現実世界で再現してしまうだろうと考えたからだ。
「魔物由来のポーションは作らないのだよな?」
「そのつもりだ。佐川さんは、スライム位は大丈夫だろうとは言っているけど・・・」
佐川が”大丈夫”だと言ったのは間違いではないが、”問題がない”と言ったわけではない。ニホンザリガニを駆逐するアメリカザリガニではない。魔物なのだ。スライムでも変異を繰り返せば、ヒュージスライムやビックスライムになりえる。ユウキたちなら楽に討伐できるが、魔法が使えない地球の人類では対処が難しい。ほぼ、”できない”と言い切れる。
「1体や2体程度なら大丈夫なのだろう?」
「それは確認した」
ユウキが言っている”確認”は、1体や2体の魔物を討伐しても、新たな魔物が生まれなかったことだ。安全を確認したわけではない。
「ねぇユウキ?錬金術なら、私じゃなくて・・・。あっそうか・・・」
「悪いな。フェリア」
「ううん。全部を翻訳しようとしたら、2-3年は必要だと思う」
「そうか、ポーションを作れるまででいい」
「わかった。(錬金術の)初級くらいでいい?」
「あぁ器具の方は、ある程度の数を頼む。あとは、ポーションのレシピとか・・・」
「わかった。錬成とかは?」
「魔法陣を使うよな?」
「うん。ユウキ以外は、魔法陣を使わないと無理」
ユウキは、錬金術に必要なスキルを取得している。器用貧乏だと言われる所以だ。
「それなら必要ない。魔法陣を教えると、魔法にたどり着いてしまう可能性がある」
それから、ユウキはフェリアに目的を説明した。錬金術師を作りたいわけではなく、目的はポーション作りを地球”作成ができない”か、ということで・・・。その為に必要になる資料と機材を集めて欲しいということだ。資料は、一部でいいが機材は、5セットほど欲しいと要望を伝えた。
2週間後に、ユウキがレナートを訪れると準備が終わったという知らせと、”種”と錬金術に必要な機材が揃って渡された。
ユウキは、地球の拠点に戻って、地下に作った研究施設に”種”と機材を搬入した。
「ユウキ君」
「佐川さん。お手間を・・・。もうしわけありません」
「大丈夫だ。それよりも、本当にいいのか?」
「はい。どうせ、最初は”胡散臭い”と思われるだけでしょう」
「そうだな」
佐川とユウキは、”薬草”が生い茂る地下研究所の前で話をしていた。
中級ポーションと初級ポーションと毒消しポーションと、短時間の身体能力向上ポーションを、明日から売り出す。オークション形式になっている。佐川や研究に参加した者たちと作った実証動画も同時に公開する。
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