上 下
26 / 96
第二章 帰還勇者の事情

第十一話 記者会見.2

しおりを挟む

「それでは、記者会見を始めます。始めに、生還者の情報を・・・」

 司会が、ユウキたちの情報を話し始める。
 記者たちには、事前に情報として渡されているが、名前を呼ばれるときに立ち上がるだけでも、情報としては十分なのだろう。

 10分ていどかかって、ユウキたちの諸元が発表された。
 記者たちが黙って聞いているのには理由があった。まずは、ユウキたちが未成年だったことが大きな問題だ。ユウキたちは、記者会見で語られた情報に関しては公にしても問題はないと伝えている。しかし、姿かたちに関しては明言されていない。
 そこに、人権や女性や子供の犯罪には厳しい対応をすることで有名や森下弁護士がオブザーバー的な立場で参加している。きっかけになった今川もネット上では有名な人物だ。

「質疑ですが、札を上げてからお願いします」

「なんの意味がある!忙しい時間を割いて来ているのだぞ!」

 前列に座っている大手新聞社の人間が司会に食って掛かる。

「わかりました」

 司会は、ユウキを見ると、ユウキが立ち上がった。

「大手町にある新聞社の記者さんですね。名前は、谷川聡さんですか、記者になってから、14年ですよね?あっそれから、へぇ40まで女性経験はなしですか、初めては、大阪ですか?でも、感心できませんね。売春ですか?記者さんも大変なのですね。上司の娘さんの奥さんも居るのですから、いい加減に出張を偽って、売春の旅は辞めたほうがいいですよ?気に入らないのでしたら帰ってください」

「なっ・・・。お前は、何を言っている!俺は・・・。面白いネタかと思ったが、やはりでたらめだったな!」

 谷川と言われた記者は、立ち上がって出口に向って歩き出す。それを、他の記者たちが冷たい目つきで眺めている。

「指示に従っていただけないのは残念です」

 司会が、会場を見回すと、皆がユウキを見つめている。

 ネット配信を行っている森田が番号札を上げる。

「はい。38番の方。所属や名前は結構です」

 番号を指定された森田は、立ち上がった。

「わかりました。今のお話は、どこまでが本当のことなのでしょうか?」

 森田は、指示に従って、所属や名前は告げないで、直球で質問をぶつけた。

「それを、調べるのは、貴方たちのお仕事ですよね?森田さん。合同会社果実の代表さん」

「え?あっ。なぜ?」

「なぜ?先程、説明があったと思いましたが?」

「鑑定スキル?」

「そうですね。森田さん。入場時に告げた会社名は違いますよね?その会社は、知人と経営しているので、間違っても居ないのでしょうが・・・」

「ふぅ・・・。どこまでわかるのでしょうか?」

「どこまで?」

「私の過去などもわかるのでしょうか?」

「そうですね。二年前・・・。森田さんの記憶に刻まれていることならわかりますが、それ以上となると難しいです。お話したほうが、納得されますか?」

「いえ・・・。ありがとうございます」

 森田は、背中に流れる冷たい汗を感じていた。さきほどの配信を見抜かれたことや、ユウキが語った”2年前”というワードが気になった。ユウキの目は、自分の愚かな行為を見抜いている。
 森田は、畏怖に似た感情を抱えながら、札をおろして、椅子に座った。

「他の方」

 前列に座っている記者が札を上げる。

「はい。6番の方。所属や名前は結構です」

 指名された男性が立ち上がる。

「私は、6番ではない。○○新聞の飯島だ。茶番はもう大丈夫だ。さっさとポーションとやらを出してもらいたい」

「茶番?」

 サトシが立ち上がりそうになるのを、マイが押さえた。
 ユウキも、手で皆を制した。

「そうだろう?お前みたいな子供にできることではない。さっき、出ていった奴も、さっきの奴も、お前たちの仕込みだろう?」

 ユウキは、目の前で強弁している男を見る。裏があるかもしれないと感じたからだ。

『ユウキ。こいつに裏はない。ただのやっかみ。俺たちが”仕込み”で、今川さんのスクープが偽物だと思いたいらしい』

 ユウキたちのネタは、鑑定スキルを極めた者からの報告だ。考えていることを盗み見ることができる。もちろん、妨害の手段があり、ユウキたちは対策を行っているのだが、スキルを持たない者たちには、難しい状況だ。このスキルに関しては、秘匿することが決まっている。

「ポーションですか?告知していますが、ポーションは研究所からの報告が全てです。我々からなにか発表する必要はないと考えています」

「生意気なことを言うな。必要か、必要じゃないかを判断するのが、俺たちだ。お前たちは、俺たちの要望に従っていればいい。そうしたら、お前たちは犠牲者ってことで、世間が優しく慰めてくれるぞ」

『ユウキ!コイツら、何にか・・・。最前列で俺たちを嵌めるつもりみたいだ』

『わかった』

 ユウキは、仲間たちの報告を聞きながら、ニヤリと笑う。

「わかりました。ポーションの実演をしましょう。俺や仲間や、此方側に座っている人物や、先程の森田さんでは、貴方たちは納得しないでしょう。誰が実験体になってくれるのですか?」

 ユウキの言葉で、札を上げている記者が固まった。ユウキの言葉は、当然のことなのだが、記者たちは”ユウキたちのポーションは偽物”だと思っていた。正確には、”偽物であるべき”だと思っていた。本物なら、わざわざ”ゴシップ記事”を得意とする週刊誌なんかに売り込むはずがない。自分たちのような大手の出版社やTVに売り込むはずだと考えた。そして、ゴシップ記事を得意とする週刊誌に売り込んだのは、”ポーションなぞ存在しない”からだと”当然のように”考えたのだ。
 そして、彼らはユウキが著名な研究者や政治家からの提案を断ったことを教えられて、確信していた。

 ”ポーションなど存在していない”
 『ガマの油売りの口上』と同じレベルの物だと・・・。

 記者たちは、ユウキたちにポーションを使うように誘導した6番の記者を見る。

「どうされましたか?誰がポーションを使いますか?今日は、ポーションの予定がなかったので、2本だけ中級ポーションを持ってきています。終わった後で、研究所にわたす予定だったので・・・」

 森田が、札を上げる。

「38番の記者。今、6番の方が質問をしています。お待ち下さい」

「あぁ質問を遮って申し訳ないのですが、先程、おっしゃった”中級ポーション”はどのようなものなのか、説明をして頂きたい。資料には、”ポーション”としか書かれていません」

「そうですね。ユウキさん。どうですか?」

 司会が、ユウキに話を振る。

「いいですよ。研究所で、調べていただいたのは、”初級ポーション”です。お手元の資料に、あるのは”初級”の物です。中級は、切断面の結合と内臓の修復です。あとは、精神に対する作用も確認されています。そうですね”薬物依存”などの治療もできます」

「っ!」

「どうしました?」

 ユウキが、森田の驚きの顔を見て、問いかける。

「いえ、なんでもありません。ありがとうございます」

「どうされますか?どなたが試されますか?中級ポーションですので、内臓の修復や薬物依存の治療は、見た目でわかりませんよ?指を切断して、結合を試しますか?先程の発言通りに、疑っていらっしゃる人がいらっしゃるようなので、私たちや司会や会場を設営して居る人、今川さん。そして、先程の質問者である森田さんは除外ですね」

 一気に、言い切って、記者を見つめる。
 記者は、自分が言ったセリフを飲み込みかけているが、この場所は記者会見で、録画、録音されているのは間違いない。それだけではなく、名乗ってしまっている。新聞社の看板を背負った状態で、”茶番”と言い切ってしまっている。

 視線が、自分に集中しているのが解って、名乗った記者が慌て始める。
 自分が、実験台になるつもりはないのだ。周りを見回して、自分よりも”身分”が低いと思える人物を探すが、この会見には”1社1人”という制限が付けられていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれたおっさんはウォッシュの魔法(必須:ウィッシュのポーズ)しか使えません。~大川大地と女子高校生と行く気ままな放浪生活~

北きつね
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれた”おっさん”は、すぐにステータスを偽装した。  ろくでもない目的で、勇者召喚をしたのだと考えたからだ。  一緒に召喚された、女子高校生と城を抜け出して、王都を脱出する方法を考える。  ダメだ大人と、理不尽ないじめを受けていた女子高校生は、巻き込まれた勇者召喚で知り合った。二人と名字と名前を持つ猫(聖獣)とのスローライフは、いろいろな人を巻き込んでにぎやかになっていく。  おっさんは、日本に居た時と同じ仕事を行い始める。  女子高校生は、隠したスキルを使って、おっさんの仕事を手伝う(手伝っているつもり)。 注)作者が楽しむ為に書いています。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめて行います。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界でもプログラム

北きつね
ファンタジー
 俺は、元プログラマ・・・違うな。社内の便利屋。火消し部隊を率いていた。  とあるシステムのデスマの最中に、SIer の不正が発覚。  火消しに奔走する日々。俺はどうやらシステムのカットオーバの日を見ることができなかったようだ。  転生先は、魔物も存在する、剣と魔法の世界。  魔法がをプログラムのように作り込むことができる。俺は、異世界でもプログラムを作ることができる! ---  こんな生涯をプログラマとして過ごした男が転生した世界が、魔法を”プログラム”する世界。  彼は、プログラムの知識を利用して、魔法を編み上げていく。 注)第七話+幕間2話は、現実世界の話で転生前です。IT業界の事が書かれています。   実際にあった話ではありません。”絶対”に違います。知り合いのIT業界の人に聞いたりしないでください。   第八話からが、一般的な転生ものになっています。テンプレ通りです。 注)作者が楽しむ為に書いています。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめてになります。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

処理中です...