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第二章 帰還勇者の事情

第十話 記者会見.1

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 ユウキは、記者会見が始まるギリギリまで、佐川に捕まっていた。
 佐川からの質問攻めに少しだけ・・・。本当に、少しだけ面倒に思い始めていた。

「ユウキ君。時間だ」

 今川が、ユウキに声をかける。
 ユウキは、少しだけ”ほっと”した表情をする。

「わかりました。佐川さん。それでは・・・」

「今川君!記者会見の時間は、もう少しだけ後だと思うが?」

 ユウキは、信じられないことを言い出す佐川の顔を二度見してしまった。
 確かに時計を見ると、1時間くらいの余裕はある。それに、記者会見には佐川も出席する予定だと教えられている。

「佐川さん。ユウキ君を連れていきますよ。リハーサルは必要ないのですが、着替えは必要です。それに、森下さんも着替えをされますよね?」

 今川が、近くで紅茶を飲んでいた森下に話を振る。

「私は、このままで大丈夫。どうせ、話が始まれば、ユウキ君が中心になるのだし、私が出る場面は無いでしょう」

 森下は、今川をじっくりと見るが、今川は何も言わないで、ユウキを連れ出そうとしている。

「佐川さん。今度、研究所にお邪魔します」

「おぉ!そうか、確か、君は、森下君と同郷だったな。静岡だな」

「はい。佐川さん。でも、俺たちは、記者会見が終わったら、拠点を作る予定で居ます」

「拠点?今の日本で、勝手に住んでいい場所など・・・」

「えぇ。解っています。でも、田舎の山奥なら、驚くほど安く入手が可能だと聞きました」

「ふむ・・・。技術の提供か?」

「それもありますが、佐川さん。ポーションを欲しがる人は多いでしょうね」

「・・・。そうだな」

「今回の見世物が終わったら、ポーションのオークションを開催しようと考えています」

「ユウキ君!」

「あっ・・・。今川さん。佐川さん。オークションとは別に、佐川さんに渡すポーションは確保しますので、安心してください」

 ユウキは、佐川に言うべきことを言ったつもりになって、今川に続いて部屋を出た。

「森下君。彼は、本気だと思うか?」

「どうでしょうか?でも、彼が嘘を言っているようには思えません」

「それは、弁護士としての感か?」

「いえ、女の感です」

「ハハハ。それなら、信じられる。オークションか、彼のやりたいことが朧気だが見えてきた」

「はい。愚か者亡者たちが大量に釣れるでしょう」

「しばらく・・・。国が荒れるかもしれないな」

「はい。彼らの望みは、その荒れた状況なのでしょう。そして、必要なことなのでしょう」

 森下の呟きは、佐川の耳にも届いている。
 しかし、佐川の意識は、この場には存在していなかった。佐川は、一人の少女を思い出していた。30年以上前に、ほんの一時に教えていた少女。それでも、少女との交流は続いた。15年後に結婚すると紹介された男性は、佐川が教師を辞めてから始めた研究所の人間だった。佐川が、二人の結婚を自分の子供た結婚するかのように喜んだ。そして、二年後に産まれた女の子に名前を付けて欲しいと言われて、”弥生”と名付けた。女の子が3歳になるときに、夫婦の訃報を聞いた。

「佐川さん?」

「あっ・・・。すまん。歳のせいか、儂も少しだけ疲れた。記者会見まで休んでいる」

「わかりました。時間になったら、呼びに来ます」

「今川くんでも寄越してくれ」

「わかりました。佐川さん。これからです」

「あぁ」

 森下は、佐川が奥にあったソファーに移動するのを見て、ドアを締めた。

 記者会見の場は、おかしな熱気に包まれていた。大手新聞社からTV局やネット配信を行っている者も居る。

 進行役は、記者クラブの人間ではなく、今川が手配した人物が仕切りを行う。

「10分になりました。事前に告知されていた通りに、ドアを締めます。会見中は、再入場は出来ません。ご容赦ください。そして、生放送は控えていただきます」

 事前に告知している内容だが、ネット配信を行っている者たちにとっては格好のネタだ。
 生配信にならないギリギリの範囲での配信を考えていた。

 森田も、そんな配信を実行しようとしていた一人だ。偶然、潜り込めた”ネタの宝庫”ネット記事が有名になれば、広告収入も増えると考えていた。
 目的は、別にあるのがだ、潜り込めた事実を最大限に使おうと考えていた。

「それでは、異世界からの生還者たちに寄る記者会見を始めます。事前に告知している通り、彼ら彼女らは被害者であり、人権を守られるべき14歳以下の少年や少女です。皆さまの”良識”ある対応を期待します。今日は、人権やネット犯罪に詳しい森下弁護士にも同席していただいています」

 最初に、森下が会場に入って指定された場所に座る。その後で、今川が呼び込まれる。続いて技術的な見解を述べる役目として佐川が呼び込まれた。

 森田は、同時配信こそしていなかったが、数分ほど遅れで配信されるようにしていた。有料会員向けに視聴ができるような状態にしていた。

「え?」

 だれが、発した言葉なのか、わからないが、黙って配信をしようとしていた者たちの回線がいきなり切れたのだ。
 ネットワークの回線が途切れたわけではない。そして、ユウキたちが座る予定になっている席から、淡い色をした蝶が舞い上がって、数名の上に止まった。森田は、止まった蝶を見て嫌な予感がした。

「はぁ・・・。予想以上ですね。今回は、見逃しますが、次は無いです。蝶が停まった人たちは、ご理解をいただけると思うのですが。これが、生還者たちサバイバーが持っているスキルです」

 ユウキたちは、結界の可能性を探っていた。結界内から、外部に向けての通信を遮断できることに気がついた。突き詰めていくと、決められた手順を踏んでいない通信を遮断出来た。今回は、会場が用意したプロキシを通さない通信は遮断するようにした。あとは、発信している機材に召喚した”スケイルバタフライ”を目印に使っただけだ。

 森田は、背中に嫌な汗が流れるのを認識している。蝶が自分の所に停まってから、なにかに睨まれているような感覚に囚われている。それだけではなく、すぐにでも逃げ出したい気持ちになっている。文章を書くために用意しているパソコンは、ネットに繋がっている。自分のサイトも見られる。大きな問題はない。だが、本当に配信だけが停まってしまっている。
 森田の前に座っていた。やはり、蝶が止まっている人物が手を上げる。

「動画の撮影はどうなる?」

「許可されています。ただ、うまく撮影できるのかは、保証しかねます。それも、事前に告知されている通りです。機材の故障などの苦情も受け付けません」

 質問をした人物以外も、持ってきた機材を確認するが、撮影は出来ている。

 森田が手をあげないで声を上げる。

「そんなことよりも、生還者たちはまだ来ないのか!?」

 会場中に響き渡る声だ。同調して声を上げる者たちが出てくる。

「やはり、少しは期待していたのですが、ユウキさん、予想通りです」

「わかりました。結界を弱めます」

 誰も居ないように見える場所から、声が聞こえる。

「え?」

 誰が発した言葉なのかわからないが、皆が正面を見ていた。
 動画撮影のために機材を動かしていた。

 人数は告知されていた。
 男女比も告知されていた。
 国籍も告知内容に含まれていた。そのために、記者クラブが場所に選ばれた。

 前に置かれた椅子には、誰も座っていなかった。皆が、自分が撮影した内容を確認する。

 しかし、子供の声が聞こえてから、椅子に座る子どもたちが居る。最初からそこに存在しているかのように座っていたのだ。

 ユウキたちは、電子機器をごまかすために、結界を用いた。赤外線や熱感知をごまかすことは出来なかったが、カメラなら結界を用いることで、後ろで監視カメラを見ている人たちを”ごまかす”ことが出来た。注意深く観察すれば、わかってしまう程度の方法だが、今回は有効に作用した。
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