上 下
3 / 96
序章 召喚勇者

第三話 帰還(中)

しおりを挟む

「陛下」

「勇者ユウキよ。魔物の王の討伐を成し遂げたようだな」

「はっ仲間たち、それに陛下のおかげです。感謝の言葉だけでは・・・」

「よい。余たちにも利があること、勇者ユウキ。目的のものは見つかったか?」

「はい。無事入手いたしました。明日、試したく思っております」

「・・・。そうか、勇者ユウキ・・・。ユウキ。余は・・・。儂は、お主を、お主たちを本当の子供のように思っている。后も、儂と同じ気持ちだ」

「ありがたきお言葉」

「解っている。わかっている。ユウキ。お主たちにはやらなければ・・・。目的があるのは、理解している。だから、儂たちは、お主たちを、笑って送り出す」

「・・・」

 ユウキは、玉座で跪いたまま国王に報告をしていた。
 周りには、貴族だけではなく、テクノクラートや軍の関係者が並んでいる。皆、国王と同じ気持ちなのだ。29人の勇者が、自分たちを頼ってくれたのが嬉しかったのだ。勇者たちが自分たちを助けてくれたことが嬉しかったのだ。勇者たちのことを、友であり子供であり同僚だと思っているのだ。
 勇者たちは、無理をしなかった。情報を集めて、訓練を行って、逃げることも厭わなかった。
 他の勇者たちや国が攻めてきたこともある。勇者奪還という大義名分だ。勇者たちは、自分たちが出頭すれば国や民は見逃せという条件で交渉を始めようとした。しかし、国王は・・・。軍が、貴族が、国民が、それを許さなかった。勇者たちを呼びつけて叱りつけた。”自分の子供を売る親がどこに居る”勇者たちが欲しくて、欲しくて得られなかった言葉を、異世界の王が、貴族が、国民が、勇者たちに投げかけた。
 そして、自分たちレナート王国を頼ってきた者たちは、自分たちの仲間だと言って、一緒に戦おうとした。
 初めて、自分たち以外の仲間を得たことが勇者たちには嬉しかった。国王が、全世界に宣言をしたことは驚きだったが、勇者たちは嬉しかった。国王は、魔物の国にも、人族の国にも属さない第三勢力となると宣言した。

「陛下」

「パパと呼んでもいいぞ?」

「へ・い・か!」

 貴族が立ち並ぶ場所の玉座に違い場所から、”ぷっ”という吹き出す音がする。
 皆が笑いをこらえている状態だ。

 王が、咳払いをしてから、ユウキに話しかける。

「まだ、だめか・・・。それで、ユウキ?」

「はい。やはり、魔物は”魔物の王”が抑えておりました。文献通りです」

「そうか、報告は受けている。魔物の大群が襲ってきた」

「はい」

「勇者たちの策で撃退できた・・・。我が国は、無傷だったのだが・・・」

「陛下、我らはできることをやりました。忠告もしました。しかし・・・」

「そうだな。奴らが決めたことだ。”魔物の王”討伐も、奴らが望んだことだ・・・。我らは、しっかりと忠告をした。それに・・・」

 ”第三勢力”となる為の条件を、連合国は要求してきた。
 セシリアとアメリアと勇者たちを差し出せという条件だ。これが飲めないのなら、”魔物の王”を討伐せよという物だった。

「陛下。お約束の物です。オーブは外しましたし、魔剣はサトシが砕きました。角はマイが効力を消してから、サンドラが祝福呪いをかけてあります」

「ククク。お主たち・・・。面白いのぉ・・・」

 王の笑いと同時に、列席する者たちも笑い始める。
 先程までの硬い雰囲気が一気に和らいでいく。

「ユウキ。サンドラ嬢の呪いは?」

「呪いといっていますが、それほど恐ろしい物ではありません。服用すると、表向きは”男性機能が復活”するように見えます」

「お!」「陛下!」

「ただし、”体中の毛が抜けます”」

「は?」

「サンドラ曰く、『あんな爺には髪の毛はいらない!24時間立ちっぱなしになるから薬としては成功する』だそうです」

「おいおい。治せるのか?」

 貴族たちを中心に自分の髪の毛を触る物や、引いた表情をしている者も居る。

「もちろん、『聖女サマなら治せるでしょ』が、ロレッタの言葉です」

「ククク。たしかに・・・。奴らは”聖女”なら何でも治せると豪語していたな。それで?」

「はい。回復と治癒は意味がありません。病気でもダメージでもないので・・・」

「たしかに・・・」

「それで、解呪を行うと・・・」

「行うと?」

「今度は、”役に立たなくなる”そうです」

「・・・。恐ろしいな」

「・・・。はい」

 二人は、お互いの顔を見ながら、この場に居ない”魔女”と”聖女”を思い浮かべて、苦笑を浮かべた。

「ユウキよ」

「はい。陛下?」

 ユウキは、話が終わっていると思っていた。

「サトシやマイ・・・。他にも数名が残ってくれると聞いた」

「はい。陛下。彼らをお願いいたします」

「ユウキ!儂は、この国は、お前たちを、我が子のように思っておる。お前たちの・・・」

「ありがとうございます。陛下・・・。俺も、リチャードもロレッタもフェルテもサンドラも・・・。この国が、本当の故郷だと思っております」

「ならば!」

「陛下。俺の、俺たちのわがままを許してください。必ず、必ず、帰ってきます。どの位かかるかわかりません。しかし、必ず、陛下の下に、皆様が待つ場所に帰ってきます」

 ユウキは、正面に居る王だけではなく、周りから優しげな視線を向ける皆に向かって言葉を紡いだ。

「わかった。宰相」

「はっ」

 最前列に並んでいた男が、王の呼びかけに応えて、ユウキの前に来た。

「ユウキ・シンジョウ」

「はっ」

 ユウキは、宰相と呼ばれた男が持っていた羊皮紙を見て頭を下げる。レナート王国の紋章が描かれている。

「サトシ・カスガ。マイ・フルザトを除く、27名から召喚勇者の称号を剥奪し、新たに、フィファーナ王国の貴族位を与える。ユウキ・シンジョウには辺境伯を与え、フィファーナ山脈より東の地、全てを領地とする」

「へ?」

「ただし、領地は、ユウキ・シンジョウがフィファーナに帰還したのちに与えるものとし、それまでは王家直轄領とする」

「は?はぁ??」

 ユウキが驚いたのは、”フィファーナ山脈より東の地”である。魔物が住んでいた場所を、ユウキに与えると言っているのだ。王国が今回の戦いで手に入れたすべてをユウキに渡すと言っているのに等しいのだ。それだけではなく、王家の身内になる二人は別にして、それ以外の27名を貴族にするなど、他の国に喧嘩を売っているとしか思えない。

「ユウキ・シンジョウ」

「はっ。陛下。我が身には・・・」

「ユウキ。これは、儂のわがままじゃ。お主たちが帰ってくるまで、儂が生きていられるとも限らない。次代の王は、お主たちに無体なことはしないと思うが・・・。儂を安心させると思って受けてくれぬか?」

「・・・。他の者たちに・・・」

「それは大丈夫だ。お主が受けてくれれば、他の者たちは”ユウキがいいなら問題はない”と言うに決まっている」

「・・・。陛下・・・」

 ユウキは、王を睨むように見るが、すでに内々に話をしてあるのだろう。

「わかりました。謹んでお受けいたします」

 王の顔が喜びで綻ぶ。拒否される可能性を考えていたのだ。
 ユウキの宣言を聞いて、喜んだのは王だけではない。列席している者たちが一人の例外もなく喜びの表情を見せる。

「よし!ユウキ!よく言った!今日から、お前たちは、儂たちの息子で娘だ!」

 宰相と反対側に居た大男が大声を上げた。

「将軍」

「ユウキ!皆に伝えろ。儂たちの”名を継げ”と・・・」

「え?」

「もちろん、残る者だけじゃない。帰還する者も・・・だ!ユウキ。お主以外にも戻る場所が必要だろう?」

 さっきと違って貴族たちが、ニヤニヤし始める。
 ユウキは、貴族たちが自分たちと家族になってくれると言っているように感じた。

「わかりました。皆に」「大丈夫だ。もう伝えてある。あとはお前だけだが・・・。お前に、継がせる名前はない」

「え?」

「ユウキ殿。皆、ユウキ殿を息子に迎えようとしたのですが・・・」

 今度は、宰相が話に加わる。もう、謁見の雰囲気は無くなっている。

「え?それも驚きです」

「でも、陛下が、ユウキ殿を”息子に迎えるということは、儂の親戚になるということだな”とおっしゃられて・・・」

「えぇ・・・。それは、皆さんにとっては・・・。”良い”ことなのでは?」

「ユウキ殿。本気で言っていますか?あの陛下を見て、同じことが言えますか?親戚になりたいですか?」

「・・・。いや、遠慮します。でも、俺が・・・。あっ」

「お気づきですか?流石ですね。アメリア様は、ユウキ殿以外との縁談は断ると宣言されています」

「・・・・。はぁ・・・」

 ユウキは、宰相から細かい話を聞いてから、玉座でニヤニヤしている人物に話しかける。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

処理中です...