異世界の物流は俺に任せろ

北きつね

文字の大きさ
上 下
293 / 293
第十一章 ユーラット

第三十三話 現状把握

しおりを挟む

「殿下への提案の前に、気になっていらっしゃることをお伝えします」

 全てが気になるが、相手の・・・。神殿がどんな情報を持っているのか気になってしまう。

「姉たちのことか?」

 視線から、アーティファクトに隔離されている者たちのことだろう。
 正直にいえば、神殿が始末してくれるのなら、全面的にお任せしてしまいたい。害悪しかない存在だ。特に、皇国の連中を率いてなど愚かすぎて・・・。どんな条件だったのかききたくもない。皇国に何を吹き込まれたのかわからないが・・・。死んでくれた方が嬉しい。

「彼女たちは、エルフの里に危害を加えようとしたために捕らえました。皇国の兵も混じっています。彼らは、”帝国に請われて加わっただけで、エルフの里が攻撃対象だと知らなかった”と言っています」

 言い訳にしてもお粗末だ。
 皇国が、エルフやドワーフを亜人と呼んでさげすんでいるのは周知の事実だ。そして、エルフが神殿を得たことで、力を持つのを恐れたのだろう。

「それで?」

「攻め込んできた1148名の全員を捕縛しました。けが人はいますが死者は出していません」

 全員を捕縛?
 それに、1000名をこえる者たちを?

 数名のけが人だけで?死者が居ない?
 どれだけの戦力差があったのか・・・。

 しかし、エルフの里にけが人が出てしまうと、落としどころが難しくなる。
 姉たちの命だけで済めばいいが・・・。

「え?エルフにけが人?大丈夫ですか?治療は?」

「失礼しました。エルフの里の関係者および神殿の者たちにけが人はいません。かすり傷を負った者はいますが、それだけです。けが人は、帝国と皇国の兵士です。帝国兵と皇国兵のけが人は、スキルで動ける程度には回復させました」

「は?」

「彼らの対処ですが、引き取ってくれますか?」

 捕虜にしないのか?
 そもそも、渡されても処理に困ってしまう。

「いや・・・。無理です」

 正直に”無理”と伝えると、苦笑いを返してくれる。
 カスパル殿は予測していたのだろう。私からの返答を聞いてから咳払いをした。

「殿下。帝国の状況を教えてください」

 話を変えてきた所を見ると、本題に入るのだろう。
 質問の形を取ってくるようだが、尋問に近いと考えた方がいい。

「かまいません。なんでも聞いてください」

 カスパル殿が質問をしてくるのだが、時折アラニス・・・。ディアス殿が助言を行っている。
 最初から質問が決められていたのではなさそうだ。

 質問には、知っている内容なら正直に答える。知らない内容なら、”知らない”と正直に答える。

 内容は、本当に帝国国内のことで、調べれば知られてしまうような内容だ。
 もしかしたら、私が質問にしっかりと答えているのか確認するための質問なのか?

 質問が止まった。
 カスパル殿とディス殿が何やら話をしてから、カスパル殿が私の前に来て、咳払いをする。質問は終わったのか?

「殿下。先ほどお伝えした通り、殿下や配下の者たちを神殿にお迎えはできません」

「・・・。無理なのか?」

 やはり・・・。

「無理です。王国に打診しましたが、王国も火種が残った状態では、難しいという返事をもらっています。もちろん、エルフの里も同じです」

 王国にも問い合わせをしてくれている?
 神殿も王国もダメだとすると、当然エルフの里もダメなのは納得ができる。そもそも、亡命先にエルフの里は考えていなかった。

「火種が消えれば、亡命を受け入れてくれるのか?」

「殿下。お考え違いをされています。火種が消えたら、殿下が亡命する必要がないのでは?」

 アラニスの伴侶だ。

 まてよ・・・。

「火種が無くなるのか?」

「殿下が考える火種は?」

 そういわれれば・・・。

 二人の兄は自滅するだろう。
 兄のどちらかが神殿の攻略が・・・。無理だ。アーティファクトを見ただけでわかる。戦おうと思うのが間違っている。有利な状況を作り出したとしても、最終局面では、神殿のテリトリーだ。神殿が有利になるのは間違いない。

 優秀な妹は既に神殿に亡命している。

 愚かな姉は掴まって、生殺与奪は神殿に・・・。こちらが握っている。

 野心家の弟は、野心だけは大きいが、能力が伴わない。夢想家と言ってもいいだろう。

「あっ。神殿が得ている情報では、殿下の弟君は、第一皇子に命令された者たちによって幽閉されました。その後、脱出を試みて成功しましたが、”幽玄の塔”に逃げ込んで、幽玄の塔の住人と一緒に殺されてしまいました」

「え?幽玄の塔?父は、陛下は?」

「現在は、第一皇子が実権を握っています。しかし、アラニスの儀式が受けられないために、皇帝は名乗っていません。ちなみに、試練の間も第一皇子の命令で破壊されているので、儀式は難しいと考えてください」

 実権を握っている?
 陛下を弑いたのか?弟が殺したことにしたのか?

「それでは、皇国から来ている者たちは?」

「私たち神殿勢力には関係ないことです」

 ディアス嬢を見ると首を振っている。

「・・・」

 よくわからないが、これで兄が消えれば確かに火種が消える。

 私だけが残る結果になる。
 そのうえ、皇国から来ている邪魔な連中も始末されている。

 姉の身柄を抑えている。
 姉に従ってきている中には、皇国の神官でかなりの身分の者も居たように見える。名前までは知らないが、服装で判断ができる。

「第二皇子は、まもなく捕縛されるでしょう」

「は?」

「ユーラットに上陸はできたようですが、すでに神殿の手の者たちに包囲されています。半日程度前の情報ですが、捕縛されるのは時間の問題です。上陸の時に使われた船は、焼き払われています。ユーラットには、食料はありません。第二皇子が上陸を目指した時点で、ユーラットは放棄しています。ユーラット近くにある魔の森で、狩りをすれば食料は得られるでしょうが、第二皇子たちに可能でしょうか?奴隷兵たちはすでに解放されています。下級兵士も神殿が保護しています」

「・・・。神殿の掌の上ですか・・・」

 怖くなってきた。
 どこまで考えていたのか?

「違います。帝国が攻めてこなければ、神殿は動きません」

「・・・。そうですね」

 正論だが・・・。
 神殿の勢力が増大して、帝国国内が抑えられなくなるのは時間の問題だった。それさえも調整されていたのか?
 エルフの里から収益を得ていた、第二皇子の配下の者たちが暴発する。それに、皇国から来ていた第一皇子を支援する形で支配下に置こうとしている者たちが乗る形になった。

 アデレードの亡命から・・・。
 この絵が描かれていたのだとしたら・・・。

「それから、帝国がどのような呼び方をしているのかわかりませんが、帝国と王国をつなぐ街道に作ったトーアヴァルデから、帝国に逆侵攻をおこないます。包囲している者たちには、殲滅命令が出ています。そして、楔の村ウェッジヴァイクの周りを包囲している第二皇子派閥の軍にも殲滅命令がでています。帝国でのランク付けはわかりませんが、王国の基準でいえば、師団級の兵数で戦う事が推奨されている魔物を軸に置いた5万の軍勢です」

「師団?5,000人規模であたる魔物?」

「そうです。あえて、魔物の種別は言いませんが、全て亜種や変異種です。一番弱いと思われる魔物は、ストーンゴーレムですが、ミスリルゴーレムが率いていてミスリルゴーレムが倒されない限り復活します」

「・・・。無理だ」

「魔物を攻撃してこないかぎり、魔物から攻撃は行いません」

「・・・」

「建物への攻撃も最小限に抑えるように命令されています。目的地は帝都です。正確には、帝国が保持している神殿です」

「え?」

「アラニスが居るのですよ?知っていて当然だと思いませんか?」

「・・・」

「そして、ディアスから提案です」

「?」

「アラニスの呪いを解放してください」

「それは・・・」

「簡単です。アラニスの鍵を、譲渡します」

「そんなことが?」

「可能です。神殿の・・・。神殿の主様が・・・」

「それは・・・。誰でも可能なのか?」

「無理です。女性であること、そして・・・」

 アンネラに視線が集中する。
しおりを挟む
感想 6

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(6件)

田村ケンタッキー

牧場物語みたいなスローライフ系かな~と読み進めていたらGTAが始まったぞ……。

解除
静流
2020.06.05 静流

更新をお待ちしております。

解除
静流
2020.05.21 静流

今回途中で鳥肌が立ちました。2万もの難民が・・・
昔戦争難民の子供達の支援に参加していたのを思い出しました。日本の絵本に子供達の国の言葉に直したシールを貼り付ける作業とか教育に関する支援でした。
ヤスさんが子供達にまず教育をという姿勢が好きです。

解除

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。