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第十一章 ユーラット
第八話
しおりを挟む「サンドラ。それでは、オリビア殿下は、問題になりそうな行動はしていないのだな」
資料の読み込みの時間を経て、私がオリビア殿下と従者になっている二人の行動を説明する。
神殿への攻撃的な態度や外部への情報流出を含めて、問題がなかった事を報告する。
特に、アフネス様が心配して、ユーラットに居る人たちが心配していたのが、ユーラットに残る問題児たちを処罰した時に、オリビア殿下がどう動くか?リーゼやヤス様に危害を加えようとするのか?そもそも、問題児たちへの対応を考えているのか?
「はい。アフネス様」
結論は出ている。
ヤス様から貴重な時間を貰って、オリビア殿下との面談にも参加してもらった。
オリビア殿下と従者二人は、”帝国”を捨てたと考えていいだろうと結論が出ている。
帝国の情報の提供も躊躇はしていたが、適切な価値との交換には応じている。
対価の交渉もオリビア殿下が行っている。適正だと判断ができる。こちらから出るのは、神殿に住む者なら知っている常識や衣食や神殿で流通しているイワンたちが作る道具や酒精だ。
「何度もいうが、”様”は必要ない。そうか、ヤスとリーゼが連れてきたと聞いた時には、殴ろうかと思ったが、大丈夫の様だな」
そこは、止めないで、ヤス様とリーゼを殴って欲しい。
私たちの総意として、アフネスさんに全部を委ねたい。
「神殿は、大丈夫です。ヤス様の監視もあります。敵対行動は不可能です。アフネスさん。ユーラットの方が問題なのでは?」
監視対象となっている状況だと、ギルドの奥で、居場所が解るようになっている。
実際に、神殿に居る者たちは、神殿の門を通過している。それだけで、安心はできないが、目安としては十分だ。そのうえ、監視対象になっている。問題が発生するリスクは少ない。
「そちらは、報告をダーホスがまとめた」
ダーホス殿が、資料を皆に配る。
これも、ヤス様が齎した事だが、”紙”に同じ内容を書き込むことができる。会議が凄く簡単になった。それだけではなく、”紙”の資料が壁に掛けられたモニターに表示される。手元を見ながらでもいいが、皆が顔を上げてモニターを見ながら話ができるのは、会議として凄く楽だ。
ダーホス殿がまとめた資料を見ていると、解りやすい。確かに・・・。解りやすい。
しかし、皆が眉をひそめるか、苦笑を浮かべている。
そして、私に視線が集中する。
「まずは、賠償は、オリビアが行うと言っています」
「できるのか?」
「不可能です。しかし、ヤス様の保証が入っていますので、神殿のギルドで補填します。あっユーラットのギルドが被った被害は除外してください」
「なっ」
ダーホス殿の表情が曇る。
「ヤス様からの指示です。ギルドなのだから、”自分の所で対応できるだろう?”と言われてしまいました」
「はぁ・・・。わかりました。本人たちに賠償を求めます。無理だろうけど・・・」
「頑張ってください。アフネスさん。賠償はいいですか?」
「大丈夫だ」
「それでは、次は帝国への情報流出作戦に関しての説明です。アデーが説明します」
オリビア殿下の発案で、アフネスさんやロブアン殿だけではなく、多くの者が賛同した。
繊細な作業と絶妙なタイミングが必要になるために、私が骨子を作り上げて、アデレード殿下が王家に協力を求めて、神殿の西側に作戦本部の設置が提案されている。王家と辺境伯家からの返答を待っている状況だ。
ここには、参加していないが、ルーサ殿やヴェスト殿やエアハルト殿も、作戦には参加する。
作戦の目的は、いい加減に”帝国のちょっかいを止めさせよう”だ。王国として、帝国領に侵攻する。その時に、港がある町や都市を奪い取る。
その前段階として、オリビア殿下が書いている日記が、帝国に流出する。
オリビア殿下からの提案をアデレード殿下が聞いて、私がオリビア殿下と話をしながら、作戦案にまとめた。
神殿の情報が”一切”帝国に流れていないことを問題だと考えて、立場が似ていて、顔見知りであったアデレード殿下に話を持ちかけた。帝国は、神殿の情報がないので、判断が”威力偵察”に近いことを行って情報を得ようとしている。その為に、楔の村に、戦力を送っている。同様に、トーアヴェルデにも戦力を送ってくる。
そして、海からはユーラットにスパイを送り込んでくる。
ユーラットの情報は持っているはずなのに・・・。
オリビア殿下にも聞いたが、ユーラットは漁村と認識されている程度だ。そう、漁村だ。間違ってはいない。間違っているのは、帝国の情報部の対応だ。漁村なので、知らない人が居たら目立つ。確かに、従来のユーラットから比べたら、人の往来は増えたが、顔見知りが殆どだ。そして、神殿に向かうために立ち寄る者たちは、アーティファクトは”知っている”。ユーラットに入るには、アシュリ経由になる。アシュリで確認できない者で、ユーラットの住民が知らなければ、それは”よそ者”だと認識される。殆どが、アフネスさんかロブアン殿が対処を行う。
捕えた者は、アシュリ経由で神殿の西側に送られる。ユーラットで捕えられない者も、神殿に伝えられて、監視対象になる。
簡単に言えば、帝国は神殿が出来てから、神殿やユーラットの情報が入手できていない。
オリビア殿下は、情報部は無能ではないと言っているが、好きではないようだ。
そして、侵攻作戦にも乗り気だ。
できるだけ、”民”には犠牲を出して欲しくないとは言っているが、帝国の行いを考えれば、犠牲はしょうがないと思っている。
私たちも、復讐者ではないので、最低限の犠牲を考えている。
アデレード殿下の作戦の説明が終わった。
王国内の法に適切に従う必要がある。その為に、帝国には”手を出して欲しい”と思っている。神殿では意味がない。
「サンドラ。情報流出には、ユーラットに居る愚か者たちを使うのか?」
「オリビアが、”ヒルダなら間違いなく”と言っています」
「本当に、嫌いなのだな」
「ノーコメントでお願いします。作戦の実行は、こちらに任せると言われています」
「わかった。アデレード殿下。国王からの返答は?」
アフネスさんが、アデレード殿下を睨むような視線で質問をしている。
国王からの許可が無くても実行はできるのですが、侵攻して領土を奪い取っても、ユーラットと神殿の勢力では、領地の運営はできない。実際には、できるだけの能力を持った人物は居ますが、誰も”そんな”面倒な事をやりたいとは言い出さない。
村や町で十分で、出来れば、この役目も誰かに渡したいと考えている者ばかりだ。ルーサ殿が、領地を欲しがりそうだけど、アシュリを獲得して、おもちゃを手に入れたら・・・。ダメな大人が多すぎる。
「まだです」
「そうですか・・・。わかりました。辺境伯や国王に渡す場所は?」
これは、作戦の中にも記載されているけど、ユーラットに繋がることが出来そうな港町は神殿勢力が領有する。
他の領地は、王国の王家や辺境派閥に分割支配させればいいと考えている。
ヤス様にも了承を貰っていて、物流は全面的に任せて大丈夫だ。ヤス様が、運んでくれる。らしい。どうせ、リーゼが一緒に行くだろう・・・。
「港がある場所以外を指定しています」
「ヤスは?」
「王国と辺境伯に、ユーラットを貰うと宣言されました」
アデレード殿下から、ユーラットを神殿に組み込むとも取れる発言で、皆から安堵した空気が流れる。
ユーラットが神殿の領域になっていなかったために、ヒルダやルルカやアイシャの排除が出来なかった。
「さて・・・」
アフネスさんの宣言に近い言葉で、視線はカイルとイチカに集中する。
「カイル。イチカ。面倒なことを頼んで悪かった」
アフネスさんが、二人を労ってくれます。当然です。私たちにはできない事を行ってくれたのです。
「いいよ。話せばいい?」
「頼めるか?」
報告書にはまとめてある。
しかし、皆が二人から話を聞きたいと言っている。二人とも、幹部候補として、この会議に参加をしたいと言っていた。タイミングが丁度よかった。
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