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第十一章 ユーラット
第三話 想定できない
しおりを挟むユーラットの裏側に辿り着いた。
トラックから馬車を降ろして、必要な荷物が無いか最終確認をしてもらうことになった。
「ヤス様」
「どうした?」
オリビアが荷物の整理・・・。を、するわけがなく、俺に話しかけてきた。
そりゃぁそうだな。荷物の整理は、従者が行えばいい。
「ありがとうございます」
「ん?ここは、まだ神殿ではない。神殿の近くにあるユーラットだ」
「はい。解っています」
馬車の中の荷物は散らばってしまったり、護衛に雇った者たちが持ち逃げしてしまったり、かなりの物が紛失してしまっているようだ。
オリビアの身分を証明できる物は辛うじて残されていたので、オリビアからしたら十分なのだろう。
「リーゼ!」
「何?」
「悪い。リーゼは、服はどこで買っている?」
「ん?服?ファーストが用意してくれているよ?」
リーゼは、俺の言葉を真に受けて返してくれるが、俺の横にオリビアが居て、ルカリダが少ない荷物を持っている。
「あ!ユーラットでも大丈夫だけど、神殿の方がいいと思うよ?サンドラが満足しているし、アデーも納得していたよ?」
アーデルベルトやサンドラが納得しているのなら、問題は無いだろう。リーゼは、すぐに解ってくれた。
それで文句をいうようなら、自分たちで調達すればいい。
「リーゼ様」
オリビアが、俺の意図を察してくれた。
服だけなら、店があるから教えられるが、下着となると話が変わってくる。知らないわけではないが、俺から教えられるのは”何か”違うだろう。
オリビアについてくる形になった、姫騎士の筆頭であるヒルダは、馬車を降ろした事に文句を言っている。
最初に説明している。これ以上は、道の問題もあり、馬車は持って上がれない。
それにしても、想定していた事だとしても、気分がいいことではない。
神殿では馬車を必要としない。
馬車は、西側なら必要になってくるが、オリビアは”神殿”への亡命を希望している。別荘地が欲しいわけではない。
ルーサが、姫騎士たちの相手をしてくれている。
徐々にお互いの声が大きくなってくる。
俺が大きくため息を吐き出した事で、オリビアが感じ取ったのだろう。
「ルーサ!」
「ヒルダ!ルルカ!アイシャ!」
俺がルーサを嗜める為に、声を上げたタイミングで、3人の姫騎士の名前を呼んだ。
ルーサは、俺が”何を言いたい”のか解っているのだろう。
ばつが悪そうな表情をする。
「悪い」
「大丈夫だ。ルーサが悪いとは思っていない」
「あぁ」
オリビアが、3人の姫騎士の所に移動したのを見てから、ルーサが俺の方に歩いてきた。
まだ、3人は何か言っているが、あちらはオリビアに任せよう。
完全に、オリビアとメルリダとルカリダの3人と姫騎士の3人という図式が出来ている。別に困らないが、別々に何か伝言するのは面倒だ。
「それで?」
ルーサが、頭を掻きながら説明をしてくれた。
漏れ聞こえてきた内容でほぼ正しかった。
馬車は、”帝国の云々”と言って、意匠が入っているから、ここに置いておけない。盗まれたらどうする?悪用されないと言い切れるのか?そんな事を言い出している。
ルーサも、神殿では馬車は必要ない。アーティファクトが馬車の代わりになると説明をしてもダメだったようだ。
オリビア姫が、”臣民と一緒の馬車に乗るはずがない”というのが、ヒルダたちの言い分だが、オリビアがリーゼのモンキーに乗った事から、問題なく乗るのだろう。それどころか、リーゼに話を聞いて、免許の取得を考えているようだ。リーゼの話では、メルリダとルカリダは、自転車に興味があるようだ。モンキーの速度は、怖いようで、自分で動かすアーティファクトなら怖さはないと思っているようだ。実際には、自転車はまだどんな物か解らないので、興味があるだけのようだ。
オリビアの従者の二人は、神殿での生活が気になっているようだ。
リーゼだけではなく、イチカにも話を聞いている。荷物の整理が早く終わったのだろう。ルカリダは、イチカに神殿での買い物を聞いている。
オリビアは、3人との話が長引いているようだ。
カイルが痺れを切らした。
「おいらたち、先に帰っていい?」
「いいぞ!あっ!」
「ん?」
「カイルとイチカは、戻るのなら、依頼書へのサインをする。持ってきているだろう?」
「あ!イチカ!依頼書!」
カイルとイチカは、依頼の形で呼び出している。
名目は、リーゼのモンキーの搬送だ。ルーサともう1人も同じ理由だ。だから、もう仕事は終わっている。
これ以降は、別の依頼となる。
オリビアには説明をしてある上に、承諾を貰っている。
イチカが持ってきた依頼書にも、オリビアが裏書している。
依頼書に、俺がサインすれば仕事は終わりだ。あとは、報酬を俺が預けている物から支払われる。足りなければ、セバスが払うだろう。
向こうの話も終わったようだ。
いや違うな。オリビアが切れて、話を終わらせたようだ。
「ヤス様」
「ん?面倒ごとは辞めてくれよ?」
「はい。なので・・・」
オリビアは、メルリダとルカリダを手招きしている。
少しだけ離れた場所で待機していた二人は、オリビアを挟むように立つ。そして、一歩下がった場所で後ろを振り向いた。ヒルダたちを牽制する。
「ヤス様。あの馬車を燃やしたいのですが、ご許可を頂けますか?」
「燃やす?」
「はい。神殿では馬車は必要ないとお聞きしました」
「あぁ必要ない。アーティファクトとは速度も違うから、安全を考えれば、馬車を使わないで欲しい。使うのなら、西側だな」
「西側?」
「流刑となった貴族を預かっている場所だ。他にも、階層があって、一部は王国の貴族や豪商に別荘地として貸し出している。だが、基本は神殿への出入りは断っている。都度、申請が必要だ。食料や生活用品は、自分たちで確保してもらっている」
ヒルダが、何か騒いでいる。
そんな流刑地に・・・。とかだ。俺は、選択を迫っているわけではない。ここで、帰るのも、自由だ。俺は、強制はしない。選択肢の一つとして、提示しているだけだ。
「それでは、意味がありません」
「意味?」
「はい。私は・・・」
簡単に言えば、帝国の足枷を外したい。
西側に行けば、今までと同じような生活になってしまう。そして、日用品の調達が難しいと、はっきりと認識をしている。
オリビアは、しっかりと先が見えているようだ。
何も見えていないのは、ヒルダを筆頭にした騎士たちだ。西側に入ったとして、どうやって生活をするのか?畑でも耕すのか?
「わかった。馬車は、燃やしていいのだな?」
「はい。帝国の印章がありますが、その部分だけは、持ち帰らせてください。さすがに・・・」
「わかった。時間が必要なら、先に神殿に向って、後でまた来ればいい?」
「え?」
「誰も言っていなかったのか?」
リーゼとイチカとカイルとルーサを見る。
ローンロットから来た奴は、面倒なことに巻き込まれそうだと考えたのか、早々に逃げてしまっている。賢い選択だ。
「はぁ・・・。まぁいい。オリビア。神殿の正門とユーラットの・・・。そうだな。馬車を置いた先に、広場があるのだが・・・。神殿とユーラットを往復するアーティファクトが定期的に出ている。イチカ」
「はい。今は、毎日6往復しています」
「だそうだ。神殿の中も広いが、定期的にアーティファクトが周っている」
「え?」
簡単に説明はしていたのだが、よく理解が出来ていないのだろう。
実際に、見てみないと判断ができないのは、しょうがない。
「ルーサ・・・。あの、悪人顔の男が運転していたアーティファクトよりも小型のアーティファクトが、神殿の中を走っている。ユーラットと往復するのは、もう少しだけ小型なアーティファクトだけど、6人なら乗れるだろう。足りなければ、臨時で手配ができる」
まだ理解ができないのだろう。
でも、後でまた来ることができるのは理解ができたようだ。
オリビアと従者の二人と騎士で少しだけ距離が開いているアイシャの4人は、ルーサのバスに乗って神殿に向うことを承諾した。
ヒルダとルルカの二人は、馬車が盗まれると心配をして、この場に残ると主張した。
オリビアが俺に謝ってきたが、”盗まれない”とは俺には言えない。それに、二人が残るのなら”盗まれる”心配をしなくていい。自分たちで直すのなら直せばいい。どうにでもなれという気分になってしまっている。
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