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第十章 エルフの里
第四十話 野営
しおりを挟むこのまま走り続ければ、夜半には到着できそうなタイミングで、大将から連絡が入った。
「ルーサのおっちゃん。どうしたの?」
小僧が、座っていた座席から立ち上がって、運転席に顔を出してきた。このタイプのアーティファクトでは、内部での移動は難しくない。
「大将から、休んでから来るようにと指示が出た」
「休んで?でも・・・」
「大丈夫だ。後ろのアーティファクトに、食料や水や野営の道具が積んである」
「へぇ・・・。おいらたちの、モンキーを積んだアーティファクト?」
「そうだ。俺はよくわからないが、馬を安全に運ぶための馬房?まで積んでいる」
「そうなの?」
「あぁ大将からの指示らしい」
俺は、アーティファクトを安全な場所に停めて、カイルとイチカと一緒に後ろを走っていた、アーティファクトに近づいて、大将からの指示を伝える。
後ろのアーティファクトのナビにも、大将からの指示が表示されたので、伝える必要がなかった。
「ルーサ!ここで、野営するのか?」
「それを確認に来た。場所は悪くないと思う?どうだ?」
連れてきたのは、エアハルトから推薦があった者だ。
元は、王国の騎士爵を持っていた家の者だ。父親が騎士爵だった。弟に家督を譲って、自分は家を飛び出して、大将の下で働きだした。元々、放浪癖が有って、王国内だけではなく、帝国や共和国や皇国までも足を伸ばしていた。その時の知識を買われて、ローンロットで働いている。
「そうですね。この辺りは、安全だと思うので、野営には丁度いいと思います」
大丈夫だとは思っても、知識がある者から大丈夫と言われると安心できる。
「カイル!野営の準備をする。手伝え!」
「わかった!準備が終わったら、少しだけモンキーを動かしていい?」
「あぁ」
実際に、野営の準備は簡単だ。
アーティファクトから、大将が命名した”テント”を降ろして組み立てる。恐ろしく簡単な作りで、支柱をしっかりとたてれば、後は8本有る紐を引っ張って、地面に固定するだけだ。今まで、俺たちがしていた野営の準備が馬鹿らしく思えるほどだ。しかし、今日の様に荷物を積んでいなければ、アーティファクトの中で休むことが可能だ。大将は、あまり勧めないとは言っていたが、俺たちから見たら、雨の心配はない。魔物や野盗に怯えなくて済む場所だ。アーティファクトが、魔物や野盗の接近を教えてくれる。王国内でも、いまだにアーティファクトを盗もうとする者たちが現れる。
テントの中には、ドワーフの酒飲みたちが大将と一緒に開発を行った道具が設置される。動かすのに、魔力が必要なので、俺では設置が限界だ。イチカなら、動かす事ができる。
「イチカ!」
「簡単な物でいいよね?」
「あぁお湯があれば、十分だ」
イチカにお湯を沸かすように頼む。
その間に、俺はカイルと簡単に周りを探索する。アーティファクトでは安全だと表示されているが、野営では魔物や野盗は確かに危険だが、周りの地形の確認をしておかないと不安な気持ちになってしまう。
カイルは、よく解っていないようだが、俺の知識や経験の一部でもカイルに引き継げたら・・・。
「ルーサさん。お湯の準備が出来たよ。あと、スープでいいよね?」
「あぁ物資の中に積んであるよな?」
「うん。私は、コーンスープを貰った。カイルには、ミネストローネ。ルーサさんは?」
「なんでもいいが・・・。パンも有ったよな?」
「積んであったわよ。コンソメ?ベーコンと卵が入った物があるよ」
「おっそりゃぁいい」
このスープも、大将とドワーフたちが作り上げた物だ。フリーズドライとか言っていた。原理は聞いたが、さっぱり理解が出来なかった。でも、大量に作ったスープを保管できるだけでなく、お湯を入れれば出来立てのスープになる。
アーティファクトでの移動は楽だが、長距離の移動になると、1日では帰ってこられない。その時には、野営になることも多いが、”即席スープ”が出来てからは、俺みたいなが者でも、お湯が沸かせたら、店で出てくるようなスープを作って、飲むことができる。日持ちするように焼き固められたパンでも、スープに浸して食べれば、十分な食事となる。大将は、遠征して時間があるのなら、その地域の宿屋や食堂で食事をするように言っていたが、正直、神殿産の”即席スープ”の方が安い上に美味い。
食事をしてから、これからの予定を相談する。
大将からは、朝に到着すればいいと言われている。
「おっちゃん。ここから、兄ちゃんの所まで、どのくらい?」
「ナビでは、2時間と出ている」
「ふーん。そんなに遠くないね。神殿から、ローンロットくらい?」
「そうだな。少しだけ早めに起きて移動を開始すればいいだろう。俺たちが近づけば、大将もわかるだろう」
「うん!イチカは、どうする?」
カイルが、いつもの調子でイチカに話しかける。
イチカは、眉間に皺を作って、カイルをにらみつける。美少女が、なんて顔をしているのかと思うが、それがイチカなのだろう。カイルを問い詰めている様子は、神殿だけではなく、俺がいるトーアフードドルフやアシュリでも、トーアヴァルデでもローンロットでも有名だ。カイルも、学習すればいいのに・・・。それに、イチカももう少しだけ素直になれば・・・。俺たち、各所の長たちが集まる会議でも、二人の話はよく出る。いい意味でも、悪い意味でも、目立つ二人だ。大将の話は出てこない。大将を狙っている奴は多いが、リーゼの嬢ちゃんが一歩も二歩もリードしている。それに、リーゼの嬢ちゃんの後ろには、あのアフネスがいる。
「カイル。何度も、同じことを言わせないで、目的を先に教えて、何をしたいのか解らないのに、意見を求められても解らないわよ」
イチカの説教から、カイルがイチカにたどたどしい感じで、説明を始める。
少しでも不明点があると、イチカから鋭い指摘が入る。
なんとか説明を終えたカイルは、イチカと周りをモンキーで回ってくることになった。
モンキーについているのは、簡易的なナビだけなので、あまり遠くには行かないように指示を出した。イチカが一緒だから大丈夫だろうという安心感がある。カイルだけなら許可を出さなかった。
それにしても、大将はリーゼのモンキーまで積んで来いと言っているけど・・・。
イチカとカイルが使っているモンキーよりも、リーゼが使っているモンキーの方が大きい。比べてみるとはっきりと解る。大将に詳しい話を聞いたけど、よくわからなかったけど、パワーが倍以上あることだけは理解した。リーゼの嬢ちゃんは、細い身体なのに、力があるのは知っている。
アシュリに来た時に、余所から来た者に絡まれることも多い。黙って、立っていれば、絶世の美少女だ。しゃべると残念な感じがする。それがリーゼの嬢ちゃんのいい所で、皆から好かれている部分でもある。だが、よそ者にはリーゼの嬢ちゃんは、単なる美少女のエルフだ。邪な感情で近づいても不思議ではない。しかし、成功した者は一人も居ない。リーゼの嬢ちゃんに絡んで倒された者の数は10を越えた辺りから誰も数えなくなった。
食事の片づけも終わって、カイルとイチカは、モンキーを荷台から降ろして、走り出した。
「若いね」
「そうだな」
大人組は、ドワーフの奴らが愛飲しているウィスキーを取り出して、飲み始める。
大将には感謝しているが、一番感謝しているのは、この美味い酒精を俺たちにも回してくれることだ。ドワーフたちが、全部を飲み干さないだけ不思議なくらいだが、大将がドワーフたちに独占するのなら提供はしないと言って、俺たちにも回ってくるようになった。
「うまいな」
「そうだな」
会話は必要ない。
明日には大将と合流して、帝国の要人を神殿に運ぶ。馬車をアーティファクトに乗せて、奴らの荷物も乗せるのだろう。面倒なことにならなければいいと思っているが、多分・・・。無理だろう。
今日は、美味い酒精を煽って寝る事にする。
遠くから聞こえてくる、カイルとイチカが操るモンキーの音を聞きながら、ウィスキーを流し込む。
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