異世界の物流は俺に任せろ

北きつね

文字の大きさ
上 下
253 / 293
第十章 エルフの里

第三十三話 亡命?

しおりを挟む

 目の前に居るピンク頭は、”亡命”と言ったか?
 ”神殿への亡命”と言ったよな?

 リーゼを見ると、完全に聞かなかったことにしたようで、フェンリルを撫でている。話に加わろうとしない。実際に、リーゼに”何か”できるとは・・・。思わないが、話を聞くくらいはしてもいいだろう。
 フェンリルを撫でながら、少しずつ距離を取っている。うまいやり方だ。
 どこで、そんな姑息なテクニックを覚えたのか、じっくりと聞き出したい所だが、今は、目の前で発生している事柄を・・・。

「はぁ・・・。亡命ですか?理由を伺っても?」

「え?」

 あっこの姫様は、思いつきだけで行動しているな。
 姫様以外は、俺を睨んでいる。俺を睨んでも何も変わらない。困ったことを言い出したのは、お前たちが守っている”姫様”であって、俺ではない。

「しばらくは、この辺りで休みます。侍女や護衛の方とお話をされては?」

 姫様ではなく、騎士やメイドに向けての言葉だ。
 ”姫様”の真意を聞き出せと言いたいのだが、言い回しが解らない。俺が言った言葉で、意味が通じているのか不安になる。

「え?あっ。そうですね。神殿の主様。ご配慮、ありがとうございます」

 配慮ではない。
 面倒ごとになりそうだから回避したい。

「大丈夫です。護衛の方で、どなたか、襲われた時の事情を説明できる方とお話をさせていただきたいのですが?」

「ヒルダ」「っは」

 やはり、ヒルダと呼ばれていた者が、襲われた状況が解っているようだ。
 姫様を守るために、戦ったのだろう。

「ヒルダ。神殿の主様に、状況を説明して、貴女が最初にゴブリンたちに気が付いたのでしょう?」

 微妙な表情をする。
 もしかしたら、姫様が感じているとの違うことを考えているのか?

 姫様の命令なので、従ってくれるような。
 目線で何かを伝えている。”俺とリーゼを監視する”感じかな?別に、監視されても、困らない。逃げようと思えば、方法は簡単だ。眷属たちをけしかけて、FITに乗り込んでしまえば、あとは簡単だ。エンジンをスタートさせて、アクセルを踏み込むだけで、追いつけないだろう。

「それで何が知りたい」

 姫騎士・・・。ヒルダ嬢は、疎ましそうに俺を見てから口を開いた。
 決めたのは、姫様なのだから、俺じゃなくて、姫様に・・・。言えないから、俺を睨んでいるのだろう。今は、安全だと思えても、どんな危険があるのか解らない状況では当然の対応だ。

「襲われた時に、ゴブリン以外に”誰か”居なかったか?」

「おかしな事を・・・。ん?そういえば?」

「そういえば?」

「姫様が乗る馬車を追い越していった者が居た」

「その馬車は?」

「すまん。私は、姫様の護衛で、ゴブリンが襲ってきた場面しか見ていない」

「誰か、馬車を見ている人は居ませんか?」

「やけに、馬車を気にされていますが、何か理由があるのですか?」

 気が付いていないのか?
 それとも、ごまかしているのか・・・。

 判断ができない。

「そうですね。2点だけ、不思議なことがあります」

「2点?」

「はい。1点目は、このあたりは街道として整備されています。帝国には、行ったことがないので、違うかもしれませんが、王国では、整備された街道では、魔物は殆ど出現しません。まして、この辺りには、近く森だけではなく魔物が生息している地形ではありません。魔物が普段生活している場所ではありません」

「それは、私たちには、なんとも・・・」

 帝国と違うと言ったが、帝国でも人が多い場所には、魔物が自然と出没することはないだろう。
 この街道は、確かに整備されているけど、使う頻度は多くはない。でも、いきなり、ピンポイントで、馬車の周りに上位種を含む魔物が出現するとは思えない。

「解っている。だから、何か情報が得られたらと考えた」

「それで?」

「2点目ですが、1点目にも関わるのだけど、魔物の足跡が・・・。正確には、ゴブリンの足跡がない。突然、湧いているように思える」

「・・・」

 やはり、いきなり襲われて、対処が出来なかったのだろう。
 そうなると、召喚されたのか?

 方法が解らないが、通り過ぎた馬車が関係している。

「貴殿の”心証”で構わない。狙われたのは、偶然か?」

 答えが返ってくることは無かったが、表情が物語っている。
 厄介ごとだな。亡命を受け入れるのは簡単だ。西側の別荘地に引っ込んで貰えれば、厄介ごとの発生は抑えられる。可能性がある。

 でも、間違いなく、厄介ごとを抱え込んでいる。
 身分だけではなく、襲われた状況が、不明瞭なのも厄介だ。対処が考えられない。誰を、何を、警戒したらいいのか解らない。

「そういえば・・・」

「どんな些細な事でもいい」

「追い越していった馬車は、連結馬車だと・・・。思う」

「連結馬車?」

「知らないのか?」

「知識としてはあるが、実際に現物を見たことはない」

「そうか、神殿では・・・。そうだな。アーティファクトを使っているから、馬車は使わないのだな」

「使わない・・・。ことは、無いのだが、貴族が来る時に使っていたのを見るくらいだ」

「説明は・・・」「必要ない」

 必要ない。
 そうか、連結馬車を使ったのなら、捕えたゴブリンを解き放ったのか?

「馬車が過ぎ去ってから、ゴブリンに襲われるまでの時間は?」

「ん?」

「だから、連結馬車が、貴殿たちが乗った馬車を追い越していった。その後でゴブリンが出現したのだろう?」

「そういうことか?解らない。すぐに襲われたという感覚だ。数分くらいは間が開いているような感じもする」

 難しい状況だな。
 判断ができない。

 間違いなく狙われたのだろう。

「不躾な事を聞くが、姫様が狙われる理由はあるのか?」

 狙われているのは確定だけど、理由は、本人たちが把握していなければ、亡命してきても、厄介ごとへの対処が難しい。
 亡命を認めてもいいとは思うが、厄介ごとを含めて、話せないことがあるようなら、亡命は拒否する。

「狙われる?」

「あぁ貴殿からの情報と、俺が感じたことを、合わせると、姫様が狙われているとしか思えない」

「・・・」

「心当たりがあるのだな」

 ヒルダ嬢は、悔しそうに頷いた。

「わかった。内容までは、話せないのだろう。姫様が、俺に説明してよいのか判断すると思うが、俺として、神殿に受け入れる条件を提示したい」

「条件?」

「当然だろう?散々、神殿の領域だと言っている場所に兵を差し向けるような国の王族だぞ?無条件で受け入れられると思うか?」

「・・・」

「その顔は、何か言いたいのだろうけど、今の時点で、俺だけではなく、神殿は、姫様と帝国は同一だと判断するしかない」

「くっ」

「そうだろう?姫様の事も何も知らない。帝国の内部情報も何も手元にない。説明してくれるはずの、騎士は大事なことは話せないのか、言葉を濁す。それで、何を信頼しろというのだ?不信感しか出てこない」

「ならば、どうしろと!」

「ほら、それだよ。何か、都合が悪くなれば、剣に手を添えて、大声で詰め寄る。そんな人間が何を言っても何を信じろと?貴殿は、脅すような者を信頼できるのか?俺は、無理だ。もし、脅すような奴の手を取りたいのなら、そうしてくれ、俺や神殿には近づかないでくれ、頼む。迷惑だ」

 馬車から姫様が降りて来る。
 俺とヒルダ嬢の話が聞こえたのだろう。それと、メイドも降りてきた。話がまとまったのか?

「ヒルダ」

「姫様!」

「ヒルダ。下がりなさい。私が、神殿の主様と話をします」

「しかし・・・。ひめ」「ヒルダ!」

「はい」

 ヒルダ嬢が、メイドが居る場所まで下がる。
 姫様は、俺の前まで歩いてきて、頭を下げる。

 それで、後ろを向いて、ヒルダ嬢とメイドに下がるように指示を出す。
 メイドは、渋々だが従った。ヒルダ嬢は、抵抗したが、姫様が強く命令をだしたら、馬車の位置まで下がった。

 あの距離に意味があるとは思えない。
 騎士としてギリギリの妥協なのだろう。

 姫様は、持ってきた袋から、道具を取り出す。

「神殿の主様。この魔道具を発動してよろしいでしょうか?」

「これは?」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...