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第十章 エルフの里
第二十話 襲撃
しおりを挟むラフネスは、ナビに驚いている。
今までの者たちも、移動速度にも驚くが、一番に衝撃を受けるのは、ナビの地図情報だ。
この世界では、地図は一般的ではない。国家機密と言ってもいいほどだ。しかし、神殿から提供している”アーティファクト”には簡易的な物になってしまっているが、ナビが付けている。
知識があれば、取り外しもできるだろうが、簡易キットでもしっかりと固定している。外すと、主要な部品が離れるようにしている。盗難対策だ。アーティファクトないの道具だから、アーティファクトがなければ動かないと思っていても、やはり盗もうとする者は存在する。
リーゼはもう慣れているのだろう。
ナビを見ないで、忙しそうに周りに目線を向けている。
「ヤス?なんで、こんなに遅いの?」
速度は気になるようだ。普段の速度を知っているだけに、徐行より遅い速度は、異常だと思えるのだろう。
しかし、これ以上は出せない。頑張れば、人でも付いてこられる。それが今の速度だ。
「建物の間を走るのに、速度を出したら危ないだろう?」
「そうだけど・・・。いつもよりも、かなり・・・。遅いよね?」
気が付いているようだ。
目線の先には、先回りしている連中の姿がある。しっかりと連絡が行き届いているようだ。
一網打尽にしたい。
面倒ごとは、一度で終わらせるのに限る。
「そうだな。これ以上だと、付いてこられないだろう?」
「え?」
「ゴミはさっさと片付けないと、臭くなってしまうだろう?」
「え?あっ。うん。そうだね。それで、どうするの?ぼくも手伝う?」
「リーゼは、中にラフネスと一緒に、居てくれ、ラフネスもいいよな?」
ラフネスが頷いているのを、ルームミラーで確認する。
リーゼも頷いてくれている。勉強は、得意ではないが、頭が悪いわけではない。しっかりと、説明を行えば、リーゼはその先を考えて理解してくれる。
「さて、ラフネス。そろそろ、目的の場所だと思うけど?」
奴らが全面に布陣している。
見える人数は、20名ほどだが、実際にはもう少しだけ多いだろう。
「はい。わかりやすい事に、彼らが、入口を塞いでいます」
「ラフネス。奴らが判別できるか?」
「可能です」
「リーゼ。お前が知っている奴はいるか?」
リーゼは、首を横に振る。知り合いは居ないようだ。”居ない”とは思っていたけど、知り合いが居たら、交渉で話を付けようと考えていた。
「ラフネス。あの中に、長老やそれに繋がる者はいるか?」
「います。どうしてですか?」
「責任の所在は、はっきりとしておいた方がいいだろう?」
「・・・。わかりました」
リーゼから、眷属たちを取り上げる。恨めしそうな顔をしてもだめだ。もともと、エルフ族への牽制の為に呼び出したわけで、リーゼに抱きつかせる為ではない。
『マルス!』
『結界を発動します。攻撃性のスキルを確認』
速度を上げる。
目の前に、スキルの展開だけではなく、魔法が飛んでくる。
「ラフネス!」
「はい。確認しました」
ラフネスに確認させた。
俺が手を出す前に、向こうから攻撃してきた。実際には、マルスに動画を保存させているから、何か言われても大丈夫だ。それに、例え、こちらから先制攻撃を行っても、問題にはならないようにはできる。
何と言っても、こっちには、リーゼがいる。
そのうえ、俺は”神殿の主”だ。一国の王に等しい。
徹底的に潰そう。
後ろから付いてきた奴らも、無事、追いついてくれて、姿を表した。
『何人だ』
『47名を確認』
「捕縛準備」
『了』
「ラフネス。どれが責任を取らせる奴だ!」
「向かって、右側の奥にいるのは、長老のご子息です。緑色の髪の毛に似合わない帽子を被っています。あと、偉そうに踏ん反り返っています」
「マルス。聞いていたな」
『是』
「結界を展開。奴らを一人も逃がすな」
『了』
リーゼは、俺の顔を見て安心した表情になる。
俺が焦っていないからなのか、俺を信頼しているのか解らないが、リーゼが心配していないのならよかった。
ラフネスの表情は硬いままだ。アーティファクトが頑丈だとは思っていても、50名近い者からの攻撃は防げないと思っているのだろう。
ターンを決めて、中央に戻って、FITを停める。
エンジンは切らない。
「リーゼ。運転席に移動してくれ、万が一、俺が倒れたら、一気に結界を破ってしまえ」
「・・・。うん。わかった」
「リーゼ。優先順位を間違えるなよ。俺なら平気だ」
「・・・。うん」
ドアを開けて、外に出る。
エルフ族だけではなく、人族の姿も見える。もしかしたらハーフなのかもしれないが、問題はそこではない。
武器が統一していない事から、その筋の者だろう。
煽ってくるかと思ったが、いきなり攻撃を始めた。
長老の息子・と思われる奴が、”男は、殺せ。女は使い道がある。アーティファクトは俺の物だ”とか言い出した。
何かわめいているが、栗鼠と、猫と、鷲が、FITから出てきたら、場の空気が変わった。
時に、キャスパリーグは”神聖な魔物”らしい。あと、ガルーダを崇めている者たちもいるようだ。
残念ながら、カーバンクルは人気がない。
窓をノックすると、ドアが開いた。
「リーゼ。カーバンクルは人気が無いから、FITの中で保護してくれ」
「うん!」
カーバンクルを、リーゼに手渡す。
ふむぅ
結界に向けて、魔法を放っているけど、破られる様子はない。
「ガルーダ!眷属を召喚しろ」
ガルーダに命令を伝える。
ガルーダが眷属を召喚する。その様子を見ていた者たちが息をのむのが解る。
ここからは、戦闘ではない。一方的な虐殺だ。
ガルーダの周りに、10数体の鳥が召喚される。種別は解らないが、猛禽類だろう。小さい者でも1メートル級だ。結界が無くても、エルフや人族が放っている魔法を封殺している。
「キャスパリーグ。眷属を召喚しろ」
キャスパリーグにも命令を出す。
召喚されたのは、猫だけではない。四足歩行の小型の魔物が20体だ。
「ガルーダ。俺たちの敵を討て、だが殺すな。手足を切り落としても構わない。だが殺すな」
ガルーダは、高く飛び立つ。
嬉しそうに鳴いてから、敵に突撃していく、ガルーダを神聖な者と捕えている人物もいるだろうが、容赦なく、区別なく、攻撃を行う。
「キャスパリーグ。FITを守れ。誰一人として近づけるな!」
FITの護衛をキャスパリーグに任せた。
魔法が得意でない者は、武器を手に持ち迫ってくる。ガルーダの眷属たちが、俺に近づこうとしている者たちを牽制してくれているので、移動するのに、問題にはなっていない。
少しだけ悲鳴や逃げようとする声が邪魔なだけだ。
完全に、ガルーダは遊んでいた。
久しぶりに暴れられるのが嬉しいのだろう。ストレスを発散するように、撃たれた魔法と同相の魔法で無効にしている。
「ガルーダ。遊んでいないで、逃げようとする連中から、対応してくれ」
大きく羽ばたいて、結界のギリギリまで上昇してから、一人一人狙っていく、弱い魔法を使う者から狙っているようだ。殺しては居ないが、多分、もう一般的な生活は不可能な状態だ。
エルフの象徴である耳を切り飛ばし、魔法を放つ時に使っている腕を切り落として、目を潰している。
リーゼを犯すと言った愚か者は、股間を切り飛ばした。
FIT を狙ってきた奴らも居た。
キャスパリーグが可愛らしい見た目から想像もできない。外道な攻撃を主体としている。足の指だけを切り落として、”悪夢”を見せる。何度も、何度も、自分が殺されて、自分の内臓を喰らう夢だ。すでに、何人かは精神が壊れてしまっている。死んでいないだけで、生きているとは思えない。
俺が、FITから降りてから、15分後に、47名の中で”血”を流していないのは、俺の目で、水たまりの中に腰を落として座り込んでいるエルフの男だけになっている。
俺が持つ刀の切っ先が、男の眉間に向けられている状態だ。
俺を殺すと言っていた。何度も、殺せと命令を出していた。ガルーダは、眷属を帰してから俺の肩に止まっている。キャスパリーグは、俺の足元で座って、男を見つめている。眷属は帰していない。FITの護衛に残してある。
さぁ、どんな命乞いをしてくれるのか?
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