237 / 293
第十章 エルフの里
第十七話 ラフネス
しおりを挟む遮音の結界が発動した。
長老は、何かを探している。目線が、ボイスレコーダーで止まる。もしかしたら、遮音の力で、ボイスレコーダーが無効になっていると期待しているのか?原理が解らなければ、無効になると考えても不思議ではない。
遮音の結界だけではなく、物理攻撃を弾く結界も発動しているようだ。外部からの攻撃を警戒しているのか?気が付かないフリをしておいた方がよさそうだ。何か、進展があったのだろう。
俺が考えるのもおかしな話だけど、もう少し腹芸とか学んだ方がいいと思うぞ?商人に騙されまくって、終わってしまうぞ?
どうだ、商人に騙された愚か者が、この問題の発端だったな。
「それで?話はまとまったのか?」
軽いジャブのつもりなのに、いきなりクリティカルヒットしてしまったか?
「くっ」
「まとまっていないのなら、何しに来た?譲歩を期待するのは間違っているぞ?」
まとまっていないのに来たとは、考えられない。
そこまで、愚かなのか?
それに、マルスから上がってきている警告が気になる。物理攻撃を弾く結界はわかるが、それだけでは意味がないだろう?長老を結界の範囲内に含める。リーゼにはより強固な結界を張るように指示をだしておく。
「神殿の主殿」
「なんだ?いい加減にしてくれよ。言い忘れていたけど、俺が死ぬのを待つのは得策ではないぞ」
俺を殺しに来ているのか?
それなら、長老が一人で俺のところに来る意味がない。さっさと攻撃を仕掛けてくればいい。
「へっ」
さて、もう一つの目も潰しておくか?
「あはは。やはり、寿命でのタイムアップを狙っているのか?本当に、クズだな」
エルフ族は、寿命による戦略を取る。
その可能性を潰しておく方がいいだろう。最初から潰してもよかったけど、手札を初めから切る必要はない。
「いえ、違い・・・」
ん?違うのか?
反応が、今までとは違う。
「最後まで言い切れよ。まぁいい。お前たちに、残念なお知らせだ。俺の寿命は、お前たちと同じか、それ以上だ。面倒だから教えてやる。外から、俺を狙っているやつらが、俺を殺せたとしても無意味だぞ」
「・・・」
やはり、”殺して”終わりだと考えたのか?
「やはり。そこまで、愚かなのか?残念だよ」
「主殿?儂は反対を」
「お前が、どう考えるかではない。お前たちの行動が、自分たちの選択肢を少なくしているのだと、”なぜ”気が付かない。リーゼも殺すつもりか?」
「いえ、姫は・・・」
「簡単な誘導尋問に引っかかるなよ。やっている俺が悲しくなる。あぁついでだから言っておくけど、俺は神殿に吸収された存在だ。神殿を攻略して、コアを破壊してみるか?」
長老の狼狽えぶりを見ると、今までとは違う。
リーゼを殺そうとしているとは思えない。俺から提示された条件を持って行ったら、内部が割れたのだろう。よくある話だ。
「・・・。主殿?」
どうやら、本当に、長老は話がしたいようだ。
情報を抜き出して、譲歩を求める様子はない。
「わかった。わかった。それで、遮音の結界を用いてまで、何を相談したい?」
「ラフネスを御身とリーゼ様の側使いに・・・。そして、ラフネスの案内で、エルフの森に案内をいたします」
案内と来たか・・・。そうだな。長老が案内して、何かあったら謝罪では済まない。それこそ、里の存続に関わる問題になってくる。ラフネスなら、ラフネスを切れば話が終わる可能性が高い。いい判断だ。それに、ラフネスなら、アフネスとの繋がりでの減刑も期待ができる。
「ほぉ。それで・・・。俺は、襲われた場合には、反撃をして、殺してしまっても問題はないよな?お前たちは、護衛を付けないのだろう?」
長老の表情が変わるが、予想していた内容のようだ。
「はい。それは、問題ではございません。それから、今まで捕えた者も、御身に預けます」
なにやら、長老の中で話し合いが行われたのか?
「割れたか?」
「はい」
そうか、穏健派と強硬派とでも考えておけばよさそうだ。
そうなると、俺やリーゼから見ると、目の前に居る長老が実権を握っていてくれる方がありがたいな。強硬派が、実権を握ると、リーゼから権利を取り上げようとするだろう。その為には、”武力行使も辞さない”ような愚かな答えを持ってくるかもしれない。
「わかった。貴殿の提案を受け入れよう」
「ありがとうございます」
長老の提案だが、別に捕えている奴らは必要ないが、派閥の対立に使われるのも、大きな問題ではない。
取り返しに来る連中が居るかもしれないけど、返り討ちにしていれば、いい。簡単なことだ。
「わかった。捕えている者たちは、神殿の中で過ごしてもらおう」
問題は、ラフネスと長老の安全だな。
『マルス』
『悪意を感知しております。対処しますか?』
悪意か、襲ってこなければ無視してもいいのだけど・・・。
今のところは、対処の必要はないだろう。むやみに、攻撃性の魔法を行使したくない。手の内はギリギリまで隠しておくのがいいだろう。どうせ、里に向かえばまた襲ってくる。その時に、対処を行えばいいのだろう。
『必要ない。FITの防御を強化。俺とリーゼの結界を強化。長老とラフネスはどうしたらいい?』
リーゼは、十分な守りがあるし、俺から離れなければ、マルスが守れる。結界も常時発動できる状態にはなっている。
問題は、ラフネスと長老だな。
俺が、敵対する勢力なら、俺やリーゼは狙わない。
長老やラフネスを狙う。
殺せればいいけど、怪我でもしたら、俺の責任を追及するだろうな。
『個体名ラフネスと呼称名長老に、魔石を渡してください。結界を施します』
『わかった』
二つの魔石を取り出す。
「これは?」
「貴殿とラフネスの二人に持たせたい。結界と俺との繋がりを”担保”する物だ」
必要になるか解らないが、持たせておけばいいだろう。マルスが位置の把握ができるから、誘拐されたり、監禁されたり、強要されるような状況でも把握ができる。位置の把握ができれば、最悪の場合に”助ける”という選択肢が現れる。
「首輪の変わりか?」
そう考えるよな。
長老も、本来なら、しっかりと考えられる人物なのだろう。そうでなくては、エルフの里をまとめることなど不可能だ。
問題は、一部の愚か者が居て、そいつらの声が大きいために、なんとなくで、感情を含めて、流されてしまったのだろう。
俺からの提案を考えて、心境に変化が産まれたのだろう。
「どう考えるか・・・。貴殿の自由だ。俺としては、決まった内容を問題なく、履行するために必要だと判断した。今更、貴殿以外の誰かが出てきて、別の交渉を行い始めても困る」
「・・・」
俺の説明を、”どう”解釈するかは、長老が判断することだ。
表情を見ると、これ以上の説明は必要がないようだ。よかった。
「解ったようだな」
「感謝する」
”感謝”か、そうだな。これから、発生することを考えれば、落としどころとしては最良だろう。エルフの里も存続ができる。状況次第では、神殿だけではなく、王国の助力も期待ができる。
不満分子を排除できるというおまけまでついて来る。
長老としては、問題がないレベルまで譲歩を引き出せたことになる。
神殿から、長老を認めて、”死ぬな”と言ったのだから、そのくらいの状況判断ができていて欲しかった。
こちらの意図が伝わっていると思える返事を聞くことができた。満足ができる状況だ。
「感謝しなくてもいい。これ以上の死者が出るかは、貴殿に掛かっている」
「解っている」
長老は、遮音の結界を止めた。違う。魔道具で、ラフネスを呼び出した。
ふたりに、魔石を必ず持っているように命令する。
長老は、先に里に移動するようだ。内々には話を通しているが、反対をしている連中をできるだけ抑えたいと言っていた。犠牲者が少ない方がいいと考えたのか、それとも違う思惑があるのか解らないが、許可を出した。
ラフネスも承諾しているのだろう。
黙って、魔石を受け取った。
これで、準備が整った。
これで、リーゼの安全が確保された。
エルフの里に向かえる。長かったな。こんな交渉は俺の役目じゃないと思う。
0
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる