異世界の物流は俺に任せろ

北きつね

文字の大きさ
上 下
222 / 293
第十章 エルフの里

第二話 ラナからの依頼

しおりを挟む

 朝食をリビングで食べて、食後の珈琲を飲んでいるヤスに、セバスが会釈してから今日の予定を説明した。

「そうか、今日は荷物の運搬はないのだな?」

「ございません」

「他に仕事の依頼は?」

「ギルドからの依頼は、割り振りが全て終了しております」

「わかった。1-2週間なら時間が空けられそうか?」

「緊急依頼が入らなければ、依頼の割り振りは可能です」

「そうか、ディアナでしか運べないような依頼は俺が担当しなければならないか・・・」

「はい。しかし、旦那様でしか運べない物は、もともと”運べない”ものです。ダメ元で依頼される場合が多いので、お断りも可能です」

「わかった」

 ヤスは、ここ数ヶ月。
 ディアナを使って運搬の仕事を担当していた。物資の輸送をギルドや辺境伯から受けて行っていたのだ。馬車でも運搬が可能なのだが、時間がかかりすぎるために、ヤスが動いていた。物が流れるようになって、王国は溜まっていた澱が洗い流されるように物事が動いた。

「旦那様。ラナ様のご依頼は、どういたしましょうか?ツバキが担当しても大丈夫だと思います」

「そうだな。王国内の騒乱は、収まりつつあるのだよな?」

『マスター。地域名バッケスホーフ王国は、すでに沈静化しております』

「マルス。状況を、モニターに出してくれ」

『了』

 ヤスは、セバスと一緒にモニターを確認する。
 地域の関係は、大まかに把握できている。

 バッケスホーフ王国は、内部では燻っている火種は存在するが、火種の大本をマルスが押さえたことで、火種のコントロールが出来るようになっている。上の指示を守らない、下級貴族が”空気感”を読めない者たちを扇動した暴発は、各地で起こっているが、大きな問題ではない。下級貴族や踊らされた者たちは、自らのしっぽを飲み込もうとしている蛇のような状態になっている。

 ヤスは、エルフの里までの道を、マルスに何通りかシミュレーションさせている。ディアナが実測していない為に、不確かな情報になってしまっているが、ドッペルゲンガーたちを使った地図の作成を行う過程で得た情報をもとに、シミュレーションを行った。

「マルス。どのみち危険地域を何回かは、通り抜ける必要があるのだな?」

『是』

「ディアナの結界を破壊できそうな者は居るのか?」

『情報不足ですが、現在収集している情報から、結界を突破・破壊・無効化する存在は、認識していません』

「わかった。そうなると、ディアナで移動するのがいいのか・・・。リーゼなら、後ろで寝られるだろう・・・」

『マスター。ディアナ本体では、大きすぎます』

「そうか?」

『帝国内は、馬車が通行出来る道が整備されていますが、皇国と神国は、道の整備がされていません。FITやS660でギリギリだと思われます』

「え?奴らは、移動に馬車を使わないのか?」

『基本は、徒歩です。小型の馬車を使っています』

 小型の馬車は、1-2名が乗れる馬車だ。
 皇国や神国では、位が上の者だけが、馬車を使う。そのために、小型の馬車が通行出来る幅があれば十分なのだ。

「そうなると、FITでギリギリだな」

『是』

「走れそうな場所はあるのか?」

『戦場の跡地や状況を見ながらの移動が推奨されます』

「うーん。セバス。俺が行くのがよさそうだな。ツバキたちでは少し荷が勝ちすぎている」

「かしこまりました。業務を行わせます」

「たのむ」

 ヤスは、地図を確認しているが、詳細に表示でない地図を見て、”出たとこ勝負”の匂いがしていて、気分が乗らない。安全に運行出来るようにする準備が整わないのに、強行するのは間違っている。冬の雪国に荷物を運ぶときに、冬装備を用意しないのは自殺するのと同じだとヤスは考えている。雪山では、自分の責任ではないところで頓挫する場面がある。だから、不確定要素が依頼に含まれる場合には、できるだけの準備を行うことにしている。

「マルス。海路は使えないよな?」

『是』

「そうだよな。海路ならユーラットから妨げる物がなく行けると思ったけど・・・。無理だよな」

「旦那様。王国内を横切り、神国を迂回される方がよろしいと思います」

「ん?神国も?」

「はい。楔の村ウェッジヴァイクで入手した情報なのですが、旦那様によい感情を持っていないようです」

「あぁ・・・」

「ディアナほどではありませんが、FITやS660でも・・・。それに・・・。リーゼ様がご一緒だと・・・」

「そうか、目立つよな」

「はい」

「わかった。マルス。セバスの意見を聞いて、算出してくれ」

『了』

 ヤスは、セバスのほうを向いた。

「ラナを、ギルドの打ち合わせが出来る部屋に呼んで欲しい」

「かしこまりました」

 セバスが部屋から出ていったのを確認して、ヤスは残っていた果実水を飲み干して、席を立つ。

「サード。ギルドに行く」

「はい」

 控えていたメイドサードは、食器類を下の者にまかせて、自分はギルドに急いだ。
 ヤスは、着替えをしてから、地下に置いてあったモンキーでギルドまで移動した。

「ヤス様!」

「ラナ。何度も言っているよな?」

 会議室に入りながら、ヤスはラナに”様”をつけないように注意する。もう、気持ちの上では、諦めているのだが、注意しないと、これからも”呼び方を変えてくれない”と思っているのだ。実際、ラナだけではなく他の者も、”ヤス様”とヤスが居ないときに呼んでいるのは知っている。

「はい。今日は?」

「あぁ状況が落ちつたので、前に聞いていた、依頼の話がしたい」

「!」

「必要がなければ、必要がないと言ってくれ」

「いえ、エルフ族の時間では、1年や2年の違いは誤差です。是非お願いします」

 サードがヤスとラナの前に、お茶を持ってくる。
 出されたお茶を飲みながら、ヤスは話を続ける。

「書類を持っていくのだよな?」

「はい。お願いできますか?案内に、リーゼをおつけします」

「ラナではないのだよな?」

「私では、エルフの森に入ることができません」

「そうなのか?」

「はい。私は・・・」

「ラナがダメだと、他の神殿に居るエルフ族もダメなのか?」

「はい。リーゼだけです」

「事情は聞かない。ラナの依頼を完遂するには、リーゼを連れていくしか無いのだな?」

「はい。エルフの里に入る為には、結界を通過する必要があります。ヤス様だけでは、結界の通過は・・・。その・・・」

「不可能ってことか?」

「いえ、結界を破壊出来るとは思いますが、それをされてしまうと・・・」

「破壊は、”出来る”可能性はあるが、”やらない”。エルフに対しての敵対行動は取らない」

「ありがとうございます。それで、リーゼが一緒なら、一度だけなら入る事ができます」

 ヤスは、ラナが使った”一度”という言葉に引っかかりを覚えるが、エルフの里に行けば判明するだろうと考えた。もともと、リーゼを連れて行くのが目的なのは解っているが、ラナはヤスの”人は運ばない”という話を破らせないために、書類を運んで欲しいという依頼をだしている。

「ラナ。それで、”書類”はリーゼが持っていけばいいのか?」

「いえ、ヤス様にお渡しします。集落の中まで、荷物を運んでください」

「そうか・・・。里は、森の中にあるのだったな?」

「あっいえ、違います。森の中にあるのは、集落です」

「ん?集落と里は違うのか?」

「はい。集落は、エルフの部族が少人数で暮らす場所です。里は、エルフの国だと考えていただければ・・・」

「なんとなくだけど、わかった。俺は、その里まで行けばいいのだな?」

「できましたら、リーゼと一緒に、集落まで行っていただけると・・・」

「ん?書類を届けるまでが仕事だからな。途中で引き返すようなことは考えていないぞ?森の中だと移動は徒歩か?」

「はい。ですが、ヤス様のアーティファクトなら移動が可能だと思います」

「ん?どれ?」

「カイルやイチカが使っている」

「あぁモンキーか?木の根っことか越えられないぞ?」

「東門の道と同じような物ですが・・・」

「それなら、なんとかなりそうだな。モンキーを積んでいくか?マルス!」

『モンキーを二台ですと、S660では無理です。個体名ラナの話から、FITが適切だと考えます』

「準備を頼む」

『了』

 ヤスは、大筋の話をまとめたあと、セバスを会議室に呼んで、ラナと話をまとめるように指示を出した。そのまま、ギルドに行って、ラナからの依頼を自分が受諾すると伝えて、処理を行うように依頼した。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

処理中です...