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第九章 神殿の価値
第二十四話 住民代表会
しおりを挟むヤスの宣言を、大木の都の代表者で協議した。
実行してもいいだろうと賛成したのは、アフネスとサンドラとルーサとイワンとラナだ。反対したのは、エアハルトとドーリスだ。意見を保留したのは、ヴェストとデイトリッヒだ。デイトリッヒは、冒険者の取りまとめとして参加している。ラナは、住民の代表として参加した。
賛成した者の意見は、別段反対する理由がないという意見だ。アフネスはユーラットに溜まっている貴族からの間者が居なくなれば嬉しいという考えが根本にある。サンドラは、うるさい貴族の問題が片付けば良いと思っているだけだ。アデーも”別荘区”の代表として参加を求められたが、貴族側に近い立場もあるので、参加を固辞した。
エアハルトは、ローンロットが襲われる可能性を考えて、反対をしている。大木の都の中で、楔の村を除くと、神殿から離れているのが影響している。
ドーリスが反対するのは、ヤスが言っている”安全装置”が解除される点だ。冒険者は自己責任と言っても、神殿の迷宮区は、王国だけではなく、近隣から注目されている。今回の公開が行われない状況でも、冒険者に公開されている珍しい神殿なのだ。通常は、神殿が攻略されると、その後は閉鎖されて、独占されるのだが常だ。しかし、ヤスは認められた多数に公開している。神殿に認められた人という条件は着くが、多数が神殿の内部に入り込むような場所は、大木の都以外には無いのだ。ドーリスだけではなく、ギルドの総意としてヤスに神殿の管理を続けてほしいのだ。
「サンドラ。それで、ヤス様は、何か言っていたの?」
ドーリスが疑問をサンドラに投げる。
「そうね。簡単に言えば、攻略は不可能だと言っていたわ」
「どういうこと?」
他の面々もヤスの言い方が気になった。”攻略は不可能”これだけ聞けば、神殿は安泰に思えるが、それならヤスはどうやって攻略したのか気になってしまう。
「あぁそう言えば、ギルドにも話していない情報を教えられたわ。この会なら話題に出していいと許可はもらってある」
「え?」
「ヤス様が言うには、迷宮区は250階層に成長しているそうよ」
「は?」
これには、会議に居た皆がサンドラの話した内容が理解できない状態になってしまった。
今まで、ヤスは最下層がどこにあるのか教えていなかった。明確に教えたのは、最初に攻略を証明したときだけだ。
それから、多くの冒険者たちが探索を繰り返して、迷宮区の最下層は20ー30階層だと判断されていた。冒険者ギルドの情報や過去に存在していた神殿と比較して最下層を割り出そうとしていた。階層の広さなどから導き出された数字なのだ。
「サンドラ。その数値は?」
「論じても、意味はないと思う。ヤス様が正式に発言された言葉なの」
サンドラの言い方は正しい。ヤスが250階層あると言えばあると信じるしか無い。
「それを公表しても?」
「どうかしら?ヤス様からは、一つのアイディアを貰いました。実行してみませんか?」
サンドラはヤスから提案された話を、ドーリスたちにした。
簡単な話だ。階層が、250もあると言っても誰も信じない可能性がある。しかし、攻略を考えている者には必要な情報だ。
「ククク。ヤスが言ったのか?」
サンドラの説明を聞いて、黙っていたアフネスが笑い出した。
「はい。アフネス様」
「ドーリス!どうする?」
今度は、ドーリスを見る。
「この機会に、近隣のギルドだけでも綺麗にしましょう」
「その覚悟があるのなら、ヤスのアイディアは最適だろう」
「はい。ギルドでも、情報が貴族に流れているのを危惧しています」
ヤスのアイディアは嫌がらせのレベルだが、効果が無くても別に困らないたぐいの物だ。
この場に居る物は、250階層だと知っている。流す情報に手心を加えるだけだ。
・最下層は50階層で徐々に狭くなっている。
・階層は、100階層だが広さは階層によって違う。
・階層は、30階層だが上下の移動やトラップで階層がわかりにくくなっている
・100階層とか50階層という情報が出ているが、実際は200階層ある
いくつかのグループでこの情報が”秘密の情報”で、家族はもちろん同僚にも教えるのは禁止する。
では、”なぜ”このような情報が必要になっていかと言えば、神殿を攻略するのに必要な物資を計算するのに必要になるからなのだ。
「本当に、ヤスの考えることは、えげつないね」
「そうですね」
アフネスの呟きに同調したのはサンドラだ。イワンは頷いている。
「え?どういうことですか?」
ドーリスだけがわからなかったようだ。
「サンドラ。教えてあげたら?」
「アフネス様。面倒になったのですね。ドーリス、ヤス様のアイディアを実行して、私たちや貴方方に不都合はある?」
「まったく。問題がありそうな部下に流すだけですから、手間が多少必要になるだけです」
「そうよね。それで、失敗したら、何か問題はある?」
「え?失敗って有るのですか?『噂はなしを聞いたけど、噂だから他で喋るな』と、言えばいいだけで・・・。本当に、250階層まであるのが解っても、噂を信じなくてよかったなで、終わる。噂が漏れて、誰からそれを信じたのなら、”それは噂でギルドとして認めている話ではない”で終わりますよ。失敗のパターンが考えられないのですが?」
「それが、ヤス様のアイディアの”えげつない”所なのです」
「??」
「私たちは、何も失わない。でも情報を貴族に流している者たちが踊らされたら、私たちのメリットになる。噂を信じなくても、階層が250もあるのに攻略が難しいのには代わりがない」
「そうですね。言われてみたら、確かに、メリットしかない状況をよく作り出せますよね」
「あぁそれが、ヤスの怖い所だな」
「アフネス様。ドーリス様。サンドラ様。イワン様。ルーサ様。ラナ様。エアハルト様。ドーリス様。ヴェスト様。デイトリッヒ様。旦那様からお許しがありまして、最下層の概要を説明できますが、どういたしましょうか?」
急に、セバスが皆の名前を読んでから、最下層の説明が出来ると告げた。
「セバス殿。ヤスからの許可が出ていると言ったが?」
「はい。アフネス様。旦那様からは、反対の者が居た場合に、攻略が難しいことを説明しろと言われています。最下層の状況を説明するのが一番だと言われております。また、マルス様からシミュレーションした映像がありますので、見せても大丈夫だと言われております」
「いろいろ気になる言葉があるが、まずは、最下層の状況を教えて欲しい」
アフネスが宣言したが、皆もまずは最下層の状況を知りたいと思っている。
皆が頷いたのを確認して、セバスが端末を操作する。
マルスから指示されている操作を行う。
「セバス殿。これは?」
「最下層の様子です」
映し出されるのは、天井まで50メートルはある部屋だ。中央に大きな木がある。周りに何本もの木が植えられている。部屋の広さはそれほど広くない。部屋は、天井にある魔道具で明るく照らされている。
「これが最下層?」
「はい。コアルームの手前です。木々はエント種で、木々の周りにある草はドリュアス種です。また、フェンリル種が木々の間から襲ってきます」
「フェンリル種が階層主なのか?」
「いえ、違います。階層主は、旦那様命名の魔物で、クマムシという者です」
「それは?」
「お見せできませんが、1ミリ程度の虫種です。天井にある魔道具の後ろに居ます」
「は?」
「天井の魔道具には、多重結界が施されています。また、結界と結界の間には、毒物が仕込まれていて、結界を無理やり破壊すると、部屋に毒物が充満します」
「なっ!」
皆が絶句する。
それだけで、ほぼ攻略が不可能だ。
「次に、人種が生きていく為に必要な物を、部屋から取り除きます」
「それは?」
「締め切った同じ部屋に大量の人が居たら、徐々に息苦しくなります。呼吸する時に、必要な物質を取り除きます。そうすると、人種は活動ができません」
「・・・。それでは、魔物や階層主はどうなる?」
「問題にはなりません。確認しました」
「それは・・・」
アフネスが黙ってしまったが、神殿の情報を盗もうと忍び込んだ間者が一人も戻ってこなかった事実を知っている。殺されたのだろうとは思っているが、どこで殺されたのかは解っていない。迷宮区のトラップに使われたのだろう。
「セバス殿。他には?」
「はい。マルス様が、標準的な責め方や、迷宮区でボスと対峙したときの冒険者の動きなどを参考にして、考えた攻略方法をシミュレーションした結果です」
マルスが作ったシミュレーションが流れた。
魔法や剣での戦い。それらを複合した戦い。全てが、返り討ちにあう結果になっている。そうなるように作られていると思ってみていても、納得するしかない状況だ。
「・・・。おい、ヤスは、何と戦っている?こんな物、攻略が出来るわけがない」
ルーサの投げやりな言葉が、皆の感想だ。
皆が思い出したのだ、見せられた部屋は、10階層に有るわけではなく、最下層の部屋。250階層にある。そこまで一本道ではない。迷宮を戦い抜いた先にある部屋なのだ。攻略は”不可能”だと言うしかない状況なのだ。ヤスのように、高速で移動できる手段を持ち、どこでも休める状況でも無い限りは、攻略は不可能だ。攻撃手段と移動手段と補給手段か物資の輸送能力を持たないと、神殿の攻略は不可能だと結論付けられた。
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