異世界の物流は俺に任せろ

北きつね

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第八章 リップル子爵とアデヴィト帝国

第三十八話 落日のリップル

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 ”リップル子爵領から兵士が関所を目指して進軍している”
 この情報が神殿にもたらされたのは、ヤスが関所の森、神殿の森、魔の森にポッドの配置を終えた翌日だ。

 休む暇も無いと愚痴を言っているヤスだったが、報告をあげてきたルーサと話をするためにモニターの前に居た。

『ヤス!』

 ルーサがモニター越しに怒鳴っている。
 ヤスが言った愚痴が聞こえてしまっていたのだ。わかっていた話だが、緊急事態には違いない。

「ルーサ。聞こえている。状況を教えてくれ」

『すまん。ヤスだけか?』

 いつものメンバーが揃っていると思ったルーサだが、会議に出席できる権限を持つ者は、すでに作業に入っている。

「あぁサンドラは、辺境伯に連絡している。ドーリスは各ギルドに連絡して確認を行っている。ディアスは、カスパルと一緒にユーラットに行ってもらった。ミーシャは、神殿の街の中を見て回ってもらっている。デイトリッヒは冒険者たちに説明をしてもらっている」

『説明?デイトリッヒが?』

「関所で戦闘が発生したら、商隊が戻れないだろう?」

『そうだな。アシュリでも商隊を止めたほうがいいか?』

「任せる。現場で判断してくれ、それで?奴らの動きは?」

『わかった。それでヤス、奴らの動きだが、関所を攻めるようだ』

「へぇそう?勝てる?」

『お前な・・・。他にも言いようがあるだろう?』

 ルーサは、ヤスが慌てると思ったが、ヤスの淡白な返しで毒気を抜かれてしまった表情をする。
 慌てていた自分が馬鹿らしいと思ったのだ。

「そう?でも、数は1万くらいでしょ?帝国側からも同時に来るみたいだけど、馬鹿だよね。連携が取れないのに、どうやって同時に攻めるつもりなのかな?」

『ヤス。帝国の話は初めて聞いたが?』

「あぁ。初めて話したからな。知っているのは、マルスとセバスとツバキだけだ」

『お前なぁ・・・』

「それで、リップルの馬鹿はどんな感じ?ルーサの第一報では、暴発したと言っていたよね?」

『そうだな。それを先に説明しないとダメだな。まずは、王都での話だが・・・』

 ルーサは、草から手に入れた情報をヤスに順序立てて説明した。

 ヤスもその話は知っている。マルスが魔通信機を傍受していたので、断片的な情報が入ってきていた。ルーサの部下からの報告もマルスが聞いているので、改めてルーサからの報告は必要ないのだが、ヤスはルーサの見解を含めて聞きたかった。

「ルーサ。それじゃ、王都で彼らは、塩を砂糖と胡椒をのだな」

『間違いない。公爵と侯爵に売った。他にも、派閥の貴族たちに喜々として売っていた』

「王家には献上しなかったのか?」

『したさ。公爵と侯爵に売った金額の5倍の値段を付けて』

「ハハハ。王家も困っただろうな。それにしても馬鹿だな」

『その辺りの話は、辺境伯に聞いてくれ、それで、ヤス。奴らは、王家から叱責されたようだ。公爵と侯爵も王家を騙したと言われた。特権で許されていたいくつかの利権が王家に返還された』

 公爵家は王家に連なる者なので、忌々しいが特権を許すしかなかった。何か悪事を行っても、うまく立ち回って逃げていたのだ。今回は、辺境伯から得た情報で王家は公爵と侯爵が持っている利権を取り上げる方法を考えた。
 王家から”子爵と男爵では、献上する金額に見合う格が足りない”と通達した。その場合には、上位貴族である伯爵や辺境伯が後ろ盾になるのだが、今回は莫大な利益を産む可能性を秘めた物の為に、公爵と侯爵が連名で後ろ盾になった。王家が垂らした釣り針に喰らいついたのだ。

「へぇ王家もうまく立ち回ったのだな。辺境伯から話を聞いていたのに、知らないフリをして公爵や侯爵を騙したのだろう」

『まぁそうだな。でも、ヤス。神殿にもメリットが有ったのらしいな?』

 ヤスは、辺境伯経由で王家からのお墨付きを貰った。

 アーティファクトはギルドに登録してあるので大丈夫。あとは、くだらないリップルとか帝国の問題が片付けば、物流に力を注げると考えている。

「そうだな。関所の森や帝国へと繋がる街道を、神殿の支配領域に指定してもらえたからな。子爵家や帝国を攻撃する大義名分が手に入った」

『あっそれで、公爵と侯爵はリップルを破門にした。リップルは、例の文章の検証が終了したら、爵位の奪爵が行われる予定だ。名前が出ていた、男爵家は降爵で騎士爵になって世襲権が剥奪された。リップルの領地は、王家の直轄領となる予定だ』

「ほぉ・・・。それで、領地に帰ってきてみたら、村がなくなっていて、税金を取ろうとしていた住民が難民となって逃げ出して、兵士も半数以上が逃げ出した後だったと言うわけか・・・。やりきれないな。まったく、あくどい罠をしかけるな。怖い。怖い」

『ヤス。お前がそれを言うのか?』

「ん?俺は、アイディアを出して、実行を手助けしただけだからな。ルーサ。それで?」

『ヤス・・・。まぁいい。リップルと2つの男爵家には、指示された噂を流した。お前・・・。まさか・・・』

「ん?何のこと?すこーしだけ、隠密行動が出来る二級国民・・・。あぁ元二級国民に、帝国のある領で噂を流したって聞いただけだ」

『そうか、ヤス・・・。なんてことを・・・。噂は、リップルや男爵領で流したのと同じか?』

「似たような感じだね。なんと言ったか忘れたけど、うまい具合に来てくれてよかったよ」

『何を言っている?挟撃されるのだぞ?』

「違うよ。別々の方向から、別々に攻めてくるだけ、協力体制になっていないし、連絡が取れないから、挟撃じゃない。衝突するタイミングを調整すれば、忠誠心が薄い軍と二戦するだけ、ルーサなら余裕だろう?」

『おい。ヤス。そえで、帝国の奴らは、どのくらいで攻めてくる』

「大丈夫。重ならないようにする。それに、リップルの奴らはそれほど驚異では無いだろう?」

『帝国は、しばらく考えないぞ?見張りを強化して、斥候を放つ程度で様子見だな』

「十分。魔物を突撃させる手段もある」

『はぁ・・・。もういい。それで、リップルの奴らだが、レッチュ辺境伯の領地を迂回するようだ。正確には、領土の端を掠める形で、関所を目指すようだ。数は1万。半数が奴隷だ』

「へぇそんなに奴隷がいたの?」

『あぁ領地内の奴隷商や豪商から巻き上げたようだ』

「わかった。奴隷は、俺の方でなんとかする。でも、一気に兵力が半数になったら、奴ら撤退しないか?」

『大丈夫だろう。奴らには、帝国に渡る以外に生き残る方法は残されていない』

「そうなのか?大変だな」

『お前が言うな!ヤス。それでどうする?』

「殲滅以外にあるか?」

『・・・。ヤス』

「そうだな。ルーサ。一人も死なないで、奴らと戦って負けられるか?」

『ん?意味がわからない』

 ヤスはルーサとリップルから来ている討伐隊の殲滅方法を考え始めた。ヤスは、奴隷を含めて全部を神殿の肥やしにしたいと考えている。難民が流れてきたので、二万人ほど人口は増えたが、建物や環境整備で討伐ポイントを使ってしまった。余裕はまだあるが、必要になったときに足りないでは詰んでしまう。そうならないためにも、通常運営とは別に討伐ポイントの確保が出来るのなら、溜め込んでおきたい。
 ルーサや眷属からの報告で、リップル元子爵の討伐隊には強者は居ない。耳目がある場所で殲滅はしたくなかった。

「できるのなら、奴らを殲滅出来る」

『命令ならやるぞ?』

「うーん。それじゃ、命令。ルーサ。リップルの先鋒と戦って、味方に一人の死者も出さずに負けろ。距離を保ちつつ。関所を帝国側に抜けろ」

『はっ。抜けるだけでいいのか?』

「正確には、抜けたように見せかけて、関所の中に逃げ込め。門は、リップルの本隊が抜けるまで開けておいていいからな」

『そうか、1つ目の門を抜けても、2つ目の門がある』

「罠を作る」

『罠?』

「それは”見てのお楽しみ”だな」

『ヤス・・・。わかった。俺は、先鋒の人選をする。死なないで逃げられる奴を中心になるだろう』

「頼む」

 ルーサとの通信が切れたヤスは、伸びをした。

(さっさと終わらせて、物流に集中したいのだけどな。さて次は・・・。辺境伯だな)
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