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第八章 リップル子爵とアデヴィト帝国
第三十二話 後始末
しおりを挟むリーゼは、ヤスの背中を見ながら、後ろに付いていった。リーゼは、執務室に行く必要はなかったが、子供たちがどんな結論を出したのか気になったのだ。
執務室に入ると、イチカだけが待っていた。
「なんだ、座っていれば良かったのに・・・」
「今日は、ヤスお兄様にお願いに来ました」
「いいよ。イチカも座って・・・。えぇーと」「マスター。セブンです。お飲み物をお持ちいたします」
ヤスは執務室で控えていたメイドを見た。名前が解らなかったが、メイドが自分から名乗った。
「うん。セブン。頼む。リーゼの分も頼む」
「かしこまりました」
イチカは、ヤスの正面に座る。何も言わないでリーゼはヤスの隣に腰を下ろした。
「それで?」
「はい。ヤスお兄様。彼女たちは、神殿で過ごせれば満足だと言われました。貴族や奴隷商や司祭は、正直わからないと言っていました」
「わかった。俺は、子供たちが自分から出ていかない限り、神殿で保護する」
「イチカ。それだけか?」
「いえ・・・。彼女たちは・・・」
リーゼを見て言葉を切った。
(想像していた内容ではないが、”そういうことだろう”)
ヤスは自分に心当たりがあるので、適当ではないが、先回りして考えた答えを伝える。
「どうした?イチカ?彼女たちは、俺に身体を差し出すとか言い出したのだろう?過去の帝国に構っていられないのだろう?」
「え?なんで?」
「”必要ない”と、言うのは・・・。彼女たちが困ってしまうのだろう」
「ヤス。どういうこと?僕には、意味がわからないよ?彼女たちはまだ子供だよ?それが身体を差し出すとか・・・」
「イチカには、なんとなく解るのだろう?」
「はい。リーゼお姉さま。ヤスお兄さまは、与え過ぎなのです」
イチカの言っている内容は正しいのだろう。
表面的には、ヤスはカイルやイチカたちを始めとする子供たちに無条件で物や安全を与えているように見えるのだ。ヤスは、神殿の領域に住まわせるだけでメリットがあるのだが、教えていない。
イチカが言うように、ヤスからもらいすぎていると感じて少しでも返したいと考えたのだ。返さないと、いきなり取り上げられたり、出て行けと言われたり、どこかに売られたりするのが怖いのだ。なので、自分たちを差し出して生活の安定を図ろうと考えたのだ。生きるための本能というわけではないが、貴族や奴隷商人が話している内容を聞いていて、価値があるものとして自分たちの身体を考えたのだ。
もちろん、ヤスも気がついていたが、行動には移していない。必要ないと考えたのだ。
「イチカ。お前たちはどうだ?」
「私たちは、ヤスお兄様から仕事をもらっています。それに、弟や妹たちも出来ることから始めています」
「そうか、仕事の数が足りないのだな」
「・・・」
リーゼがヤスの服をツンツンと引っ張った。
「なんだよ?」
「ヤス。僕の所に来ているファーストに女の子を付けてくれない?」
「どうした?」
「ん?ファーストやセカンドは、ヤスの世話をするのが仕事だよね?」
「そうだな。ツバキの眷属だからな」
「すぐには難しいだろうけど、1ヶ月くらいファーストやセカンドに付いて居れば、メイドの仕事を覚えると思う。そうなったら、いろんな家で働けない?男の子は、カスパルとかと一緒にユーラットやアシュリに行って、作業の手伝いをさせれば?」
「・・・。リーゼ。本物か?リーゼがまともなことを言っている?」
「ヤス。ひどいな。僕だって真剣に考えているのに・・・」
頬を膨らませながらヤスに抗議するリーゼの頭を軽く叩いて、ごめんと謝るヤス。
「ヤスお兄様。私も、リーゼお姉様のご提案は良いと思います。ラナさんの所の宿屋でも人手が足りなくなってきていると言っていますし、ドーリスさんの所でも同じだと思います」
「そうか、わかった。リーゼとイチカに任せる。あっでも、学校の勉強を優先するようにしっかりと伝えろよ。最低でも、文字の読み書きと簡単な計算が出来るまでは、手伝いも禁止にする」
二人がうなずいたので、帝国から来た子供たちはリーゼとイチカに任せる。
話が終わって、二人を帰してから、ヤスはマルスと行わなければならない。嫌な仕事を片付けることにした。
執務室の扉に鍵をかけて、セブンを執務室の前で待機させる。
「マルス!」
『はい。マスター。部屋に遮音と防音の結界を張ります』
「頼む」
『準備が出来ました』
「ありがとう。マルス。愚か者たちはどうなった?」
『まだ生きております』
「何人だ?」
『総勢117名です』
「男だけか?」
『はい。帝国は、どうやら男尊女卑が激しい様です』
「それで、人族至上主義だったか?」
『はい』
「救えないな。それで、何を訴えている?」
『出せ。俺は偉い。司祭だぞ。等々、意味がある会話は望めません』
「そうか・・・。貴族と司祭と奴隷商人は、奴隷契約して情報を引き出したほうがいいだろう?」
『可能ですが、問題もあります』
「なんだ?」
『誰の奴隷にするのかが問題です。マスターは論外です。あのような者では、マスターの奴隷にふさわしくありません』
「誰でもいいのか?」
『はい。奴隷にする方法は、セバスと一部の眷属が習得済みです』
「それなら・・・」
ヤスは、少しだけ考えて、イタズラを考えついた子供のような表情になってから、エミリアでリストを見始めた。
見ているのは、配置できる魔物のリストだ。
「マルス。女だけの種族はいないのか?できれば、ゴブリンのような醜女がいいのだけどな?人間と交われる魔物だ」
『魔物を検索・・・。該当は、三種族です。アラクネ。蜘蛛の身体を持つ雌型の魔物です。ハーピー。女性型だけの魔物です。腕が鳥の羽根になった魔物です。セイレーン。マスターにわかりやすく言えば人魚です』
「うーん。どれも違うな」
ヤスは、一覧からマルスから言われた魔物を見て見るが、醜女ではない。顔が整っている。
『マスター。種族でなければ、ゴブリン(メス)。オーク(メス)。オーガ(メス)が該当します』
「そうか、別に種族にこだわらなければ・・・。オーガ(メス)辺りにしておくか、召喚して、マルスの支配下に置けば制御も可能か?」
『可能です』
「よし。貴族の主を、オークのメスにして、司祭の主をゴブリンのメスにして、奴隷商人の主はオーガのメスにしろ」
『了』
「あと、ゴブリンのメスとオークのメスとオーガのメスを、100体用意して、兵士たちに相手させろ。妊娠の制御も出来るのか?」
『子供が出来ないようにするのは可能です』
「十分だ。子供が出来ないようにしろ。兵士たちには3種類の魔物を孕ませられた者から解放すると伝えろ。もう一つの条件は、全部の魔物を殺せたら全員を解放すると伝えろ。それから、貴族たち3人には、兵士たちの様子を見せるようにしろ」
『了。見せるだけでいいのですか?』
「構わない。日々魔物の数は増やせ。奴隷契約で主が死んだら奴隷も死ぬ契約が出来たよな?」
『可能です』
「それなら、貴族と司祭と奴隷商人の主も魔物たちの中に紛れ込ませろ。3人にはその事実も教えてあげろ」
『はい。セバスの眷属に担当させます』
「わかった。任せる。貴族というのだから、領地が有ったのだろう?場所を聞き出せ、奴隷となっている者たちを救い出せ。関所の森までは連れてきていい。あとは、好きにさせろ。奴隷商人の所に居る奴隷でマルスが調べて問題がなければ開放しろ」
『問題がなければが、曖昧です』
「うーん。そうだな。神殿に入っても問題がない場合は解放。それ以外は、無視でいい」
『了』
ヤスが、終了の意思を見せたので、マルスは結界を解除した。
セブンが部屋に入ってきた。
「旦那様。お食事はどうしますか?リーゼ様がご一緒にと申しておりました」
「わかった。そうだな。カイルとイチカを誘ってくれ、学校の食堂で食べよう」
「わかりました」
セブンが頭をさげてから部屋を出た。
ヤスは、執務室にある椅子に深く腰掛けて、ため息を吐き出す。
(フフ。簡単に殺せとか思えるようになってしまった。アイツのことを笑えないな)
ヤスは自嘲気味に、笑ってから、カップに少しだけ残っていた、冷めてしまった紅茶を喉に流し込んだ。
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