異世界の物流は俺に任せろ

北きつね

文字の大きさ
上 下
176 / 293
第八章 リップル子爵とアデヴィト帝国

第三十二話 後始末

しおりを挟む

 リーゼは、ヤスの背中を見ながら、後ろに付いていった。リーゼは、執務室に行く必要はなかったが、子供たちがどんな結論を出したのか気になったのだ。

 執務室に入ると、イチカだけが待っていた。

「なんだ、座っていれば良かったのに・・・」

「今日は、ヤスお兄様にお願いに来ました」

「いいよ。イチカも座って・・・。えぇーと」「マスター。セブンです。お飲み物をお持ちいたします」

 ヤスは執務室で控えていたメイドを見た。名前が解らなかったが、メイドが自分から名乗った。

「うん。セブン。頼む。リーゼの分も頼む」

「かしこまりました」

 イチカは、ヤスの正面に座る。何も言わないでリーゼはヤスの隣に腰を下ろした。

「それで?」

「はい。ヤスお兄様。彼女たちは、神殿で過ごせれば満足だと言われました。貴族や奴隷商や司祭は、正直わからないと言っていました」

「わかった。俺は、子供たちが自分から出ていかない限り、神殿で保護する」

「イチカ。それだけか?」

「いえ・・・。彼女たちは・・・」

 リーゼを見て言葉を切った。

(想像していた内容ではないが、”そういうことだろう”)

 ヤスは自分に心当たりがあるので、適当ではないが、先回りして考えた答えを伝える。

「どうした?イチカ?彼女たちは、俺に身体を差し出すとか言い出したのだろう?過去の帝国に構っていられないのだろう?」

「え?なんで?」

「”必要ない”と、言うのは・・・。彼女たちが困ってしまうのだろう」

「ヤス。どういうこと?僕には、意味がわからないよ?彼女たちはまだ子供だよ?それが身体を差し出すとか・・・」

「イチカには、なんとなく解るのだろう?」

「はい。リーゼお姉さま。ヤスお兄さまは、与え過ぎなのです」

 イチカの言っている内容は正しいのだろう。
 表面的には、ヤスはカイルやイチカたちを始めとする子供たちに無条件で物や安全を与えているように見えるのだ。ヤスは、神殿の領域に住まわせるだけでメリットがあるのだが、教えていない。
 イチカが言うように、ヤスからもらいすぎていると感じて少しでも返したいと考えたのだ。返さないと、いきなり取り上げられたり、出て行けと言われたり、どこかに売られたりするのが怖いのだ。なので、自分たちを差し出して生活の安定を図ろうと考えたのだ。生きるための本能というわけではないが、貴族や奴隷商人が話している内容を聞いていて、価値があるものとして自分たちの身体を考えたのだ。

 もちろん、ヤスも気がついていたが、行動には移していない。必要ないと考えたのだ。

「イチカ。お前たちはどうだ?」

「私たちは、ヤスお兄様から仕事をもらっています。それに、弟や妹たちも出来ることから始めています」

「そうか、仕事の数が足りないのだな」

「・・・」

 リーゼがヤスの服をツンツンと引っ張った。

「なんだよ?」

「ヤス。僕の所に来ているファーストに女の子を付けてくれない?」

「どうした?」

「ん?ファーストやセカンドは、ヤスの世話をするのが仕事だよね?」

「そうだな。ツバキの眷属だからな」

「すぐには難しいだろうけど、1ヶ月くらいファーストやセカンドに付いて居れば、メイドの仕事を覚えると思う。そうなったら、いろんな家で働けない?男の子は、カスパルとかと一緒にユーラットやアシュリに行って、作業の手伝いをさせれば?」

「・・・。リーゼ。本物か?リーゼがまともなことを言っている?」

「ヤス。ひどいな。僕だって真剣に考えているのに・・・」

 頬を膨らませながらヤスに抗議するリーゼの頭を軽く叩いて、ごめんと謝るヤス。

「ヤスお兄様。私も、リーゼお姉様のご提案は良いと思います。ラナさんの所の宿屋でも人手が足りなくなってきていると言っていますし、ドーリスさんの所でも同じだと思います」

「そうか、わかった。リーゼとイチカに任せる。あっでも、学校の勉強を優先するようにしっかりと伝えろよ。最低でも、文字の読み書きと簡単な計算が出来るまでは、手伝いも禁止にする」

 二人がうなずいたので、帝国から来た子供たちはリーゼとイチカに任せる。
 話が終わって、二人を帰してから、ヤスはマルスと行わなければならない。嫌な仕事を片付けることにした。

 執務室の扉に鍵をかけて、セブンを執務室の前で待機させる。

「マルス!」

『はい。マスター。部屋に遮音と防音の結界を張ります』

「頼む」

『準備が出来ました』

「ありがとう。マルス。愚か者たちはどうなった?」

『まだ生きております』

「何人だ?」

『総勢117名です』

「男だけか?」

『はい。帝国は、どうやら男尊女卑が激しい様です』

「それで、人族至上主義だったか?」

『はい』

「救えないな。それで、何を訴えている?」

『出せ。俺は偉い。司祭だぞ。等々、意味がある会話は望めません』

「そうか・・・。貴族と司祭と奴隷商人は、奴隷契約して情報を引き出したほうがいいだろう?」

『可能ですが、問題もあります』

「なんだ?」

『誰の奴隷にするのかが問題です。マスターは論外です。あのような者では、マスターの奴隷にふさわしくありません』

「誰でもいいのか?」

『はい。奴隷にする方法は、セバスと一部の眷属が習得済みです』

「それなら・・・」

 ヤスは、少しだけ考えて、イタズラを考えついた子供のような表情になってから、エミリアでリストを見始めた。
 見ているのは、配置できる魔物のリストだ。

「マルス。女だけの種族はいないのか?できれば、ゴブリンのような醜女がいいのだけどな?人間と交われる魔物だ」

『魔物を検索・・・。該当は、三種族です。アラクネ。蜘蛛の身体を持つ雌型の魔物です。ハーピー。女性型だけの魔物です。腕が鳥の羽根になった魔物です。セイレーン。マスターにわかりやすく言えば人魚です』

「うーん。どれも違うな」

 ヤスは、一覧からマルスから言われた魔物を見て見るが、醜女ではない。顔が整っている。

『マスター。種族でなければ、ゴブリン(メス)。オーク(メス)。オーガ(メス)が該当します』

「そうか、別に種族にこだわらなければ・・・。オーガ(メス)辺りにしておくか、召喚して、マルスの支配下に置けば制御も可能か?」

『可能です』

「よし。貴族のあるじを、オークのメスにして、司祭のあるじをゴブリンのメスにして、奴隷商人のあるじはオーガのメスにしろ」

『了』

「あと、ゴブリンのメスとオークのメスとオーガのメスを、100体用意して、兵士たちに相手させろ。妊娠の制御も出来るのか?」

『子供が出来ないようにするのは可能です』

「十分だ。子供が出来ないようにしろ。兵士たちには3種類の魔物を孕ませられた者から解放すると伝えろ。もう一つの条件は、全部の魔物を殺せたら全員を解放すると伝えろ。それから、貴族たち3人には、兵士たちの様子を見せるようにしろ」

『了。見せるだけでいいのですか?』

「構わない。日々魔物の数は増やせ。奴隷契約であるじが死んだら奴隷も死ぬ契約が出来たよな?」

『可能です』

「それなら、貴族と司祭と奴隷商人のあるじも魔物たちの中に紛れ込ませろ。3人にはその事実も教えてあげろ」

『はい。セバスの眷属に担当させます』

「わかった。任せる。貴族というのだから、領地が有ったのだろう?場所を聞き出せ、奴隷となっている者たちを救い出せ。関所の森までは連れてきていい。あとは、好きにさせろ。奴隷商人の所に居る奴隷でマルスが調べて問題がなければ開放しろ」

『問題がなければが、曖昧です』

「うーん。そうだな。神殿に入っても問題がない場合は解放。それ以外は、無視でいい」

『了』

 ヤスが、終了の意思を見せたので、マルスは結界を解除した。
 セブンが部屋に入ってきた。

「旦那様。お食事はどうしますか?リーゼ様がご一緒にと申しておりました」

「わかった。そうだな。カイルとイチカを誘ってくれ、学校の食堂で食べよう」

「わかりました」

 セブンが頭をさげてから部屋を出た。

 ヤスは、執務室にある椅子に深く腰掛けて、ため息を吐き出す。

(フフ。簡単に殺せとか思えるようになってしまった。アイツのことを笑えないな)

 ヤスは自嘲気味に、笑ってから、カップに少しだけ残っていた、冷めてしまった紅茶を喉に流し込んだ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

処理中です...