異世界の物流は俺に任せろ

北きつね

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第八章 リップル子爵とアデヴィト帝国

幕間 クラウス辺境伯。神殿を視察4

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 儂は、クラウス・フォン・デリウス=レッチュ。バッケスホーフ王国の辺境伯だ。絶賛、後悔中だ。
 ドワーフ族だと名乗ったのに、実はエルダードワーフだったイワン殿。家名持ちと教えられた時点で気がつけばよかった。

 目の前にあるものは見なかったことにして、自分の屋敷に帰ろうと本気で考えた。娘が、帰さないと徹底抗戦だ。たしかに、王家からの頼みをヤス殿に伝えないとならない。娘を睨むが、娘は、もういろいろと諦めている表情をしている。

 目の前に置かれている、魔道具と酒精。見なかったことにしたい。

「イワンさん。それで、量産は可能なのですか?」

「残念ながら・・・・」

 そりゃそうだろう。いくら伝説のエルダードワーフでも無理だろう。それだけの効果がある魔道具だ。

「簡単だ。表の奴らでも量産出来る。素材もヤスが準備出来る。100や200なら明日にも渡せる」

 ダメだ。ドワーフに面白い素材を渡してはダメだ。

「そうですか、魔道具は、偽れますか?」

「そうだな。こっちは可能だ」

 イワン殿が提示したのは、部屋に置いておくと定期的に部屋の中に漂う有害な物を排除してくれる魔道具だ。ヤス殿は、”空気清浄機”と命名したようだ。独特の命名だ。確かに、精霊樹の素材が使われていると宣伝しなければ・・・。毒を無効化して、部屋の中にある微細な汚れを吸収するらしい。精霊樹の素材を使っていると知らなければ、疑いながらも一つは試しに買ってみるだろう。

「もうひとつは、ダメだ。飲めば解ってしまう」

 儂もイワン殿の話を聞いて納得した。
 そもそも、精霊樹の樹液で酒精を作ろうとしないで欲しい。それだけで、伝説のエリクサーの材料で、高値で取引される物だ。それも、小指ほどの瓶に入った物でも白貨の価値はある。目の前にあるのは・・・。

「それでイワンさん。樹液で作った酒精は、何が出来たのですか?」

 娘は儂が聞きたくなかった話を聞いてしまった。

神の酒ソーマの出来損ないだ」

「え?」「は?」

 今、イワン殿は、神の酒ソーマと言ったか?間違いないよな?

「イワン殿?」

「儂ら、ドワーフ族に伝わる言葉がある。『精霊樹の葉を精霊樹の枝で叩き、汁を金毛羊の羊毛で濾して、精霊樹の樹液と金毛羊の乳を加えて、100年寝かせた物が神の酒ソーマとなる』と言われている。これは、128年寝かした物だ」

「は?」

「でも、神の酒ソーマにはならなかった。伝説では、神の酒ソーマは、『琥珀色で光っている』と言われている。色は、神の酒ソーマだが光っていない。最高にうまくて、古傷まで治るが、不死にはならなかった。ヤスに頼んで実験したが、欠損部分は治ったが、死ねなくなる効用はないと言われた。その時は、落胆したが・・・」

 ん?不死の実験をした?どうやって?誰で?絶対に聞かない。聞いては絶対にダメな情報だ。
 神の酒ソーマではないと聞いて安心したが、欠損や古傷が治るとなると、上級ポーションの上だろう。エリクサーと同等の効用があると考えられる。

「そうだ。これは、飲まないと効用がなかったそうだ。ポーションの様にかけても効果があるような代物ではなかった」

 安心できる情報ではないが、エリクサーでもないようだ。
 イワン殿は、神の酒ソーマをさらに蒸留して寝かせてみたと言っている。本当にドワーフという生き物は・・・。

 その前に・・・。

「イワン殿?そう言えば、金毛羊は無理なのですよね?魔物自体も超々レアだと思います、金剛羊の変異種ですよね?生きている状態で刈り取る必要が有ったと思いますが?」

「・・・」「お父様・・・。残念なお知らせです」

 聞きたくない。

「ヤスさんは、それに関しても、とんでもない物を眷属にしています」

「眷属?」

「はい。銀色の毛と金色の瞳を持つ狼。金と銀の瞳を持つ漆黒の猫。額に赤く燃えるような宝石を宿している栗鼠。赤く鋭い角を持つ金色の兎。赤い翼を持ち全身は金色に輝く巨大な鷲。そして、全身を金色の毛で覆われた羊。眷属のトップとしてヤスさんに従っています」

「・・・。サンドラ」

「嘘でも、誇張でもありません。事実です」

「嬢ちゃん。違うだろう?」

 イワン殿が複音とも言える訂正を入れてくれる。伝説の6体が揃い踏みしているわけがない。

「そうですね。正確には、眷属として、『その他多数の魔物を従えている』でしたね」

「は?」

「お父様にわかりやすい所だと、イリーガルウルフやイリーガルキャットあたりは当然ご存知だと思います」

「あぁ強くはないが、我が領の兵5人で1体に当たる程度だ。小さな村では、一匹現れたら全滅の可能性だてある」

「はい。それでは、インフェルノウルフやインフェルトキャットなら?」

「災害級だな。領都なら持ちこたえる可能性があるが、小さな都市では一匹で全滅だ」

「はい。そのインフェルトウルフやインフェルトキャットの変異体や上位個体・・・。特化個体が、先程の魔物達の王に従っています。数は、私がヤスさんに確認した時には、10体と言っていました」

「嬢ちゃん。少し古いな。俺が、精霊樹の素材を貰った時に聞いたら、それぞれ20とか言って笑っていたぞ?弱い個体がうまれてきたから、また鍛えるとか言っていたぞ」

「・・・。な・・・。な・・・・。なんで?そんな状況に!」

「お父様。ここに来るまで、魔物を見ましたか?」

「え?」

「街道沿いでも、神殿に上がる道でも、神殿でも構いません。魔物を見ましたか?」

「見ていない。だから、信じられない」

「間違っていません。さて、それでは、ヤスさんは、どこに眷属を集めているのでしょう?」

「まさか・・・」

「はい。神殿の迷宮区です。それも、冒険者の邪魔になってはダメだろうという気遣いで、最奥部に、最高濃度の魔素が吹き出る場所で生活をさせているそうです」

「もしかして・・・。餌は?」

「狩り放題でしょう。私が見学した時には、グレーターバッシュミノタウルスを集団で飼って、美味しそうに食べていました。もちろん、魔石も、すごく美味しそうに食べていました」

「嬢ちゃん。魔石じゃないだろう?魔晶石だろ?それだけの個体なら、魔石じゃなくて、魔法触媒にもなる魔晶石だっただろう?」

「そうですね。でも、些細な違いでしょう」

「ガハハ、確かに、確かに、些細な違いだな」

 儂の頭が悪いのか、娘とイワン殿が話している、魔石と魔晶石の違いが些細な違いとは思えない。売買価格で100倍以上の開きがある。そもそも、希少性を考えれば、もっと高い取引になる場合もある。それを、魔物が食べている?グレーターバッシュミノタウルス?魔法名を持っている個体?それが餌?熟練の冒険者が数パーティーで挑む魔物でアンタッチャブルな存在だ。それが餌?

「あっ。お父様。だから、金毛羊の羊毛も素材として入手が可能です」

 神の酒ソーマの問題は小さく感じてしまう。神の酒ソーマは、確かに重大な物だが、問題はない。神殿内部でだけ飲んだり使ったりすればいい。外部に出すときにも、信頼できる商隊に任せればいいだけだ。
 だが、魔物は別問題だ。一体で、国を滅ぼしかねない。神殿の奥に居ると言っているが・・・。神殿の守護者の立場なのだろう。そう考えれば、ヤス殿が神殿を公開している理由がわかる。攻略は絶対に不可能だ。伝説の魔物が6体揃って、それぞれの眷属が20体付き従っている。そんな場所を攻略できる者が居ると思えない。

 ひとまず、”空気清浄機”は神殿の中で流通させる。儂も5つ持って帰って、2つ王家に献上する。一つは信頼出来る商家に見せて反応を見る。2つは実際に屋敷で使ってみる。神の酒ソーマも同じ様にする。王家に黙っているのは無理だ。知られてしまった時に、反逆を疑われても文句が言えない。ヤス殿と儂の名前で王家に献上する。

 娘の儂を見る目の意味がやっと解った。
 王都から帰るアーティファクトの中で、『神殿に行ってヤス殿に面会する必要がある』と言ったときに、娘が止めたのに関わらず、『神殿の施設を視察できないか』と聞いてしまった。あのときの目は、こうなると予測・・・。いや、確信していたのだろう。
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