異世界の物流は俺に任せろ

北きつね

文字の大きさ
上 下
166 / 293
第八章 リップル子爵とアデヴィト帝国

幕間 クラウス辺境伯。神殿を視察1

しおりを挟む

 儂は、クラウス・フォン・デリウス=レッチュ。バッケスホーフ王国の辺境伯だ。
 貴族位としては、伯爵だが通常の伯爵より上の辺境伯だ。儂の上は、侯爵家と公爵家があるだけだ。

 儂は、娘のサンドラが世話になっている神殿の都テンプルシュテットの敷地内に足を踏み入れた。軽い気持ちで着いてきたが、後悔し始めている。
 神殿の都テンプルシュテットは娘たちが名前を付けたと言っているが、信じていない。名前は、主が付けるのが当然で、主の権利なのだ。娘たちも気にして、仮称だとは言っていたが、実際に神殿の主であるヤス殿が認めたので、公式な文章にも使われるようになっている。

 そんな名前なんて、些細だと笑い飛ばせるような光景が目の前に広がっている。

 門からまっすぐに伸びている綺麗な道。石なのか固く綺麗になっている。道は、それだけではなく、城壁に沿って道が出来ている。綺麗に計画されて作ったのだろう。家が綺麗に立ち並んでいる。

「サンドラ・・・。儂は、騙されているのか?」

「どうしたのですか?」

「信じられないくらいに発展した街に来ている。ここが攻略されたばかりの神殿なのか?儂は、どこかの街に転移したと考える方が納得できる」

「・・・。いえ、残念ながら、お父様が、見ている光景は、間違いなく、攻略されたばかりの神殿の領域です」

「そ、そうか・・・。ダメか・・・。あっでも、中に入る為には、審査があって、審査に合格しないと、領域には入られない。この風景もわからない」

「はい。そうです、関所の村アシュリやユーラットまでなら馬車を使って来てもいいが、ユーラットから神殿に向かうためには、神殿が用意したアーティファクトでしか移動できません。その上に審査です。聞いた話では、領都にある大手の商隊は審査が通らなくて、小さな商店の店主の審査が通ったと言われています。それから、商隊は、ユーラットのギルドに依頼を出して、カスパル殿がユーラットまで依頼された品物を運んでいます。関所の村が出来たので、物資の調達や依頼をギルドに出して、関所の村アシュリまで運んでもらって、商隊はアシュリのギルドで受け取る形に落ち着くと思います」

 娘が一気に説明してくれたが、納得できる内容だ。
 確かに、商隊が来て商人だけが神殿の審査に落ちたとなると問題になる。商人は、神殿産の素材が欲しい。あと、できればアーティファクトの取引がしたいと考えているのだろう。アーティファクトは拒否される覚悟だろう。素材は、ギルドを通せば入手出来るとわかれば、神殿まで来なくてもいい。その上、ユーラットまでだったのが、アシュリで受け取れるとわかれば、商隊としてもメリットになる。

「お父様?」

「あっすまん。辺境伯として、神殿との付き合い方を考えていた」

 本当は、全く違うが少しくらい、娘に『格好いいと思わせたい』と思ってもいいだろう。

「そうですか、あ!バスが来ました。行き先は・・・。丁度良かった。神殿に向かうようです」

「”ばす”?」「はい。すぐにわかります」

 娘が見ている方向を見ると、大きめのアーティファクトが移動してきた。”ばす”と呼ばれたアーティファクトが手をあげた娘の前で停まる。

 儂の頭には”?”が大量に出ている。

「お父様。乗りますよ」

「おっおぉ」

 娘に言われて、アーティファクトに乗り込む。椅子のような物が何個も置かれていて、住民だろうか?座っている。

「サンドラ殿。辺境伯様。私は、ヤス殿に報告をするために、連絡を取ります」

 ディトリッヒ殿は、ここで別れて行動するようだ。
 連絡すると言っているが?どうやって連絡をするのだ?

「わかりました。私たちも、お父様の様子を見ながら連絡します」

 娘も・・・。何か、神殿の住民にしかわからない方法があるのだろうか?

「ヤス殿には伝えておく」

 ディトリッヒ殿が、儂の顔を見て娘を見た。娘の表情は見えないが、なんとなく解る。これは諦めている時の雰囲気だ。それも、いい意味のほうだ。

 ”ばす”と言われたアーティファクトの入口が閉じた。
 そして動き出した。

「サンドラ?」

「バスは、神殿の中を回っています。停留所と呼ばれる場所で、待っていると停まって乗せてくれます。そして、停留所に停まった時に降りるのです」

「対価は?」

「カードを持っていれば無料です」

「え?は?タダ?」

「はい。カードを持っていないと、神殿には入られないので、実質的にはタダです。あっユーラットと神殿の間もこのバスが走ります。そのときに、カードを持っているか、ユーラットで申請を行えば無料です。ヤスさんですから、今後はアシュリまで無料で送迎するでしょう」

「ヤス殿にメリットは?」

「それは、アーティファクトの練習です」

「言っている意味がわからない。サンドラ?練習?アーティファクトの?」

「えぇ今は、それで納得してください。後で、関連する施設に行くので、その時に詳しく説明します」

「わかった」

 娘は隠しているわけではなさそうだ。単純に説明が面倒だと考えているようだ。

 それにしても、この神殿は本当に規格外だ。王国にある神殿にも行ったことはあるが、ここまでの規模ではなかった。小国家群の神殿も見て回ったが、これほど発展している場所はなかった。儂の領地にある街を少しばかり大きくした程度の場所が殆どだ。

「お父様。次に停まったら、降りるので準備してください」

「わかった」

 しかし、このバスという仕組みは便利だ。
 アーティファクトではないが、馬車で出来ないだろうか?領に帰ったら、考えて見る価値はありそうだな。

 娘に言われて降りた場所は、門からまっすぐに伸びた道の終着点を西側に移動した場所だ。正面には、入ってきた門と同じ様に大きな門が見える場所だ。

「お父様。この四角場所にカードをかざしてください」

 娘に言われてカードをかざすと、門の時と同じで緑色に光って、扉に見えなかったが、扉が開いて、階段が現れた。娘も、同じ様にカードをかざす。これで、二人が中に入られるようになったようだ。神殿では、このカードがすべてなのだな。

「サンドラ。例えば、お前のカードを儂が使えないのか?」

「使えますが、おすすめしません」

「どういうことだ?」

「ヤスさんから最初に説明されましたが、カードには魔力が登録されていて、登録と違う魔力を認識すると、使えるのですが、扉を入ったり、門をくぐったりしたときに、迷宮区にある地下牢に強制転移させられるようです」

「・・・・」

 唖然としてしまった。転移?神殿だから出来るのか?聞かなければよかったと本気で思う。

「お父様。先に行きますよ?」

「おっわかった」

 階段を降りていくが、なんとなく想像が出来た。
 ドワーフたちの工房だな。彼らは、地下とか洞窟とかを好む。この場所は、ドワーフの為に作ったのだろう。

 かなりの距離を歩いた。屋敷の3-4階くらい地下に入ったと思う。小部屋が沢山並んでいる。槌の音が聞こえる。間違いなく、ドワーフの工房だろう。娘は、何を見せたいのだろう?

 どんどん。奥に歩いていく、工房で作られているのは、日用品から武器や防具まで様々だ。目利きではないが良い品を見てきたので解る。ここで作られている武器や防具は、近衛が持っていても不思議ではない物だ。冒険者で言えば、一流が持つべき物だろう。軽々しく仕入れたいと言わないほうがいいだろう。日用品も同じだ。高額な感じがする。

 一番奥まで歩いて、娘が扉をノックする。

「あっお父様。工房の仕入れですが・・・」「解っている。ここで作られている物を仕入れようとは思わない。神殿で使う物なのだろう?」

「え・・・。あっ・・・。そうでした。忘れていました。お父様。ここで作られている物は、神殿としては、二級品です。外に売りに出す物ですので、必要な物があれば言ってください。順番にはなりますが仕入れます」

 儂は、何度目かの衝撃を受けていた。
 しかし、こんな衝撃はまだ序の口だったのだ。軽い気持ちではないが、神殿に帰る娘に着いてこなければ良かったと心の底から思った。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...