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第八章 リップル子爵とアデヴィト帝国
第二十七話 サンドラとデイトリッヒが帰ってきた。おまけ付き
しおりを挟む関所の村アシュリからユーラットに向かい始めた。サンドラ。ディトリッヒ。クラウスを乗せた、ダブルキャブはユーラットに寄らずに神殿を目指す。
「セバス殿。ヤス殿は、”村を作る”と言ったのですよね?」
クラウスが、セバスに質問をする。問い詰めている感じではなく、呆れた感じに聞こえる。
「はい。そうお聞きしました」
セバスも淡々と答えるのだった。
関所の村アシュリは、村ではない。城壁を備えた街なのだ。人数は、確かに街ではなく村なのだろう。設備だけを見れば、領都と同等か領都以上なのだ。クラウス辺境伯が呆れてしまうのも解る話なのだ。
「お父様?」
「あぁ・・・。サンドラの言葉を信じて、国王に進言して正解だった」
クラウスは、王都に向かうアーティファクトの中で、『神殿に、ユーラットや、関所の村だけではなく、関所の森を領地として認めてしまってはどうか』と、サンドラから進言されていたのだ。関所の村は、なんの問題もなく神殿の領地として認められるだろう。そうなると、ユーラットは飛び地になってしまう上に、旨味が全く無い。今なら神殿に恩が売れる可能性があるという理由だ。関所の森は、誰の領地でもなかったが、辺境伯や複数の貴族の領地に跨っているが、利用価値が低いのだ。森の資源はたしかに採取できるが、それ以上に魔物や獣が厄介なのだ。サンドラは、関所の森を神殿の領地にすると同時に、石壁の設置をヤスに依頼してみてはどうかという話だ。
セバスが一緒だったので、セバスは意見を求められて、ヤスなら石壁の設置を実行するだろうと言った。交換条件も何か要求されるだろうが、問題はないだろうと言っている。ユーラットに向かう石壁と同じ様に、森の恵みも売買目的でなければそれほど文句は言わないだろうと付け加えた。
「はい。でも、よろしいのですか?」
王都で、クラウスの話を受けた国王と宰相は、辺境伯とサンドラから話を聞いて、神殿の主に恩を売る方向で動いた。
塩や砂糖や胡椒だけではなく、お土産も有効に働いた。そして、セバスが”塩と砂糖と胡椒”は定期的に売れると保証したのも大きかった。
しかし、サンドラは王家がこれほど簡単に認めるとは思っていなかった。数ヶ月はかかると考えていたのだ。
「サンドラ。ユーラットは、王家の直轄領だったのは知っているよな?」
「はい。もちろんです」
「ユーラットが作られた経緯も知っているよな?」
「はい。神殿に勝手に冒険者が向かって死なないようにするためと・・・」
「そうだ。だから、ユーラットには不釣り合いな大きめのギルドがあった。魔の森の存在も影響していた」
「はい」
「だから、王家としても、ユーラットの近くにあった神殿が攻略されてしまって、独立する方向に傾いているのであれば、無理にユーラットを抑えておく必要はないのだ」
「そうなのですか?」
「仮に、王家・・・。そうだな。狐公爵あたりが神殿に派兵したとしよう」
「お父様!」
「サンドラ。たとえだ。たとえだ」
「例えだとしても・・・」
「まぁいい。誰かが派兵したとして、我が領を素通りできたと仮定したとしても、神殿を攻略できると思うか?」
「無理ですね。王国の総力をあげても・・・。そうですね大量の兵で攻めても意味がありません。少数なら結界で阻まれて眷属をけしかけられるか、後方からルーサ殿に率いられた一団に襲われて終わり・・・。手詰まりですね」
「そうだな。聞いた話の半分も真実なら、難攻不落だろう。それに、タイミングも良かった」
「タイミング?」
「おいおい。塩と砂糖と胡椒を持っていたのだろう?」
「そうでした。いやがらせの布石をメインに考えていたので忘れていました。完全に・・・」
「サンドラ・・・」
親子の心温まる会話を聞きながら走っていると、ユーラットが見えてくる。
クラウスの希望もあるが、子供たちが荷台で揺られている。そのまま、神殿に向かった。
神殿の守りで子供たちを降ろした。すでにマルスから指示が出ているのか、眷属たちが順番に相手をしていた。クラウスに渡す、認証カードは”ゲスト”権限の物だ。ゲストは、ヤスが認めた場合にのみ発行される物だ。1日または長くても3日の滞在を認めた外部の者に発行される。
クラウスは、サンドラの家に泊まるので、サンドラの家に登録を行う。あとは、ギルドと会議室に許可が出ている。他の施設に入るためには、ギルドやセバスに申請して許可をもらわなければならない。もちろん、一人での行動は出来ない。誰かが付きそう。サンドラが居るので、サンドラが施設を案内すると言っている。
ディトリッヒは、セバスと一緒にヤスに面会を求めた。ヤスは、マルスから連絡が入っていたので、ギルドの会議室で待機していた。
「ディトリッヒ。無事で良かった」
ヤスは、ディトリッヒの無事な姿を見てやっと安心した。
「ヤス様」
「セバスもありがとう。報告は後で聞く」
後で聞くと言っているが、大筋はマルスから聞いているので問題はない。アーティファクトもカスパルの時と同じで消耗は誤差の範疇だ。中継点を作って。物流の拠点を作る構想が始められる。
「かしこまりました。旦那様。ディトリッヒ様も、何かお飲み物をお持ちします」
「ありがとう。俺には、何か冷たい果実水を頼む」「あっ私にも同じものをお願いいたします」
セバスが会議室から出て、控えていたメイドと一緒に飲み物の調達に行った。
「それで?辺境伯が一緒なのと、おまけを拾ってきたようだけど?」
「あっ・・・。ヤス様」「ディトリッヒ。様は止めてくれ。もう何度目だよ」「そうでした」
「ヤスさん。まずは、塩と砂糖と胡椒は、うまくリップル子爵家に渡りました」
「それは重畳」
「そして、独断で・・・」
「ん?」
「カイルとイチカの父親と母親を実際に殺した奴が判明して、目の前にいたので、我慢出来ずに殺してしまいました。もうしわけありません」
「ディトリッヒだと解らなければ大丈夫じゃないかな?カイルとイチカにも謝っておけよ。奴らもそいつらの首を狙っていたはずだからな」
「え・・・。そうですね。謝っておきます。それなら、カイルとイチカには、リップル子爵の首を狙わせますよ」
「そりゃぁ大きく出たな。でも、ルーサも狙っているだろう?他にも、お前たちが連れてきた子供の中にも狙っている者も居るだろう?競争率が高そうだな。リップル子爵も一回死んだだけじゃ許させそうにないな」
ヤスはこの時点で子供たちの受け入れを表明していないが、セバスの報告をマルスから聞いている。子供たちは、カイルとイチカと同じなのだ。
「そうですね。ヤスさん。生き返らせる魔法か、死ななくなる方法を持っていませんか?永遠の苦しみを与えて上げる位がいいと思います」
「ハハハ。解った、探してみる」
「ありがとうございます」
ディトリッヒとヤスは、お互いの顔を見ながら声を出して笑った。
「さて、うまくいきそうか?」
「はい。思った以上の喰い付きです」
「そうか、あとは子爵が釣れたら最高だな」
「はい」
「それから・・・」
「ん?なんだ?」
「辺境伯様が来られている理由ですが、どうやら、辺境伯様が王都に着かれる。前に、子爵家から王に進言があり、公爵が許可を出してしまったようです」
「ん?話が見えない。なんの許可を出したのだ?」
「あっすみません。子爵が申請していたのは、帝国への出兵計画です」
「は?奴ら・・・。そうか、マッチポンプを行うつもりなのだな」
「・・・。”まっちぽんぷ”?」
「あぁすまん。ようするに、子爵家は、帝国と戦う為に兵をすすめる。辺境伯領を通る許可を求めたというわけだろう?」
「はい」
「そして、帝国と軽くあたって、負けて、辺境伯領に逃げる。子爵の兵たちは抵抗するが、帝国の兵は強くて自分たちの身を守るくらしか出来なかった。そして、辺境伯領は帝国に蹂躙される。そうだな。報酬は、神殿が持っているアーティファクトや辺境伯領に居る獣人族やエルフ族と言った所かな?あと、ユーラットを帝国に渡せば、帝国は海も手に入るといった所だろう?」
「・・・。はい。ヤスさんが言われた内容を、辺境伯もお考えです。公爵の許可があるので、辺境伯は、子爵家の通過を許す方針です」
「わかった。公爵に、今回の”いやがらせ”が渡れば面白い状況に持っていけそうだな」
「はい。辺境伯もそれを期待しております」
ドアがノックされた。ヤスが返事をすると、セバスが飲み物を持って帰ってきた。
サンドラとクラウス辺境伯が面会を求めていると告げられて、会議は第二幕へと移行する。
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