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第八章 リップル子爵とアデヴィト帝国
第七話 嫌がらせの相談(2)
しおりを挟む「さて、サンドラ。この塩と砂糖を、俺が売ると言ったらどうなる?」
「え?これを・・・。ですか?」
「そうだな」
「量は?」
「さすがに無制限とは言えないけど、かなりの量が用意できる」
「それは、2-30キロですか?」
「ハハハ」
ヤスは、サンドラの言い方が面白かった。
討伐ポイントで交換できるのは、キロ単位だ。20キロや30キロなら簡単に交換できる。ポイントに余裕がある今なら簡単な量だ。
「そっそうですよね」
サンドラは、ヤスが笑ったのは、2-30キロも用意できるわけがないと思ったのだ。
1-2キロが限界なのだろうと思った。それほど、ヤスが見せた塩や砂糖や胡椒は衝撃的だったのだ。
「あぁ100キロくらいなら簡単に用意できる。1トンとか言われると面倒だけどな」
しかし、現実は2-30キロなど軽く越えてしまっている。
「え?」
「少ないか?」
「いえ・・・。そんな・・・。どこから?」
「うーん。神殿からで、誤魔化せないのか?」
「あ!それなら・・・」
ヤスが言った”ごまかす”を詳しく聞きたかったが、教えてくれそうになかったので、スルーすると決めた。
「さて、話がそれたけど、サンドラ。ドーリス。ミーシャ。デイトリッヒ。この塩と砂糖にいくらの値段を付ける?」
「え?」「は?」「売るのですか?」「・・・」
皆の反応を見て、ヤスは少しだけ補足した。
「神殿が、王家や貴族に売るのは問題にならないよな?ギルドでも問題にはならないよな?」
「・・・。サンドラ。どうなの?」
ドーリスがサンドラに質問する。
「そういうドーリスは?」
「ギルドでは買い取れません。金額が怖くて、買い取れるとは言えません」
「王国なら可能性はありますが、レッチュ領では難しいです。ヤスさん。ごめんなさい」
「ヤスさん。この塩や砂糖では買い取りはできません」
ドーリス。サンドラ。ミーシャの順で答えたのだが、買い取れないという意見で一致している。
「それは、値段が高くなるからだけなのか?」
「それだけではなく、王国内では王家が専売としているので、難しいかと思います。ヤスさんが、神殿が本格的に売り出すのでしたら、問題はないと思いますが、王家に筋を通したほうがいいと思います」
サンドラが塩や砂糖や胡椒を売るときの注意をヤスにした。
神殿は独立した場所と考えるが、まだ方向性がはっきりとしないので、立ち位置が微妙な状態なのも確かだ。
ヤスが何か言おうと思ったときに、皆の視線がカイルに集中する。
カイルは皆が真剣に話をしているので、ばれないと思っているのだろう。こっそりと、指に砂糖を付けて何度も舐めているのだ。
「え?ヤス兄ちゃん。砂糖って甘いな」
必死にごまかそうとするが、イチカの視線が冷たい。
「カイル?言うのはそれだけ?」
イチカが怒った声でカイルを問い詰める。
「イチカ・・・。その・・・。ごめんなさい」
指を舐めながらカイルはイチカに謝った。イチカも、カイルが頭を下げたので、ヤスたちに謝罪の言葉を告げる。
「ハハハ。いいよ。でも、そうだな。ツバキ!飴玉を持ってきてくれ、カイル以外の子供たちにあげてくれ」
「かしこまりました」
「あと、シックスとセブンで、軽く摘める物と飲み物を頼む
「「かしこまりました」」」
ツバキが会議室から出て、ヤスの食料庫に向かう。
「さて、話を戻して・・・」
「??」
皆の顔に疑問が浮かぶ、ヤスが何を知りたくて、何をしようとしているのか漠然としすぎていて解らないのだ。想像さえもできていない。
「デイトリッヒ。あと、サンドラ。この塩と砂糖を、リップル子爵に、”商人”が売りに行ったら、どうすると思う?」
「え?」
「胡散臭い感じの奴が”商人”ですと言って、リップル子爵の次男か三男に売ったらどうすると思う?」
「そうですね。買うと思いますね。思いっきり買い叩くとは思いますけどね」
「ヤスさん?何を為さりたいのですか?」
当然の疑問だ。
「はじめから言っているだろう?”嫌がらせだ”だ」
「・・・」「・・・。それで?何を知りたいのですか?」
デイトリッヒは呆れた感じでヤスに質問を続ける。
「その前に、もう少し、王家や王国のことを教えて欲しい。サンドラ!」
「はい?」
「王家が塩や砂糖や胡椒を売っているのだよな?」
「そう考えていただいて問題はありません」
「俺が、売るなら、同じ様にしたほうが問題は少なくなるよな?」
「え?そうなりますが?」
「神殿の街から、塩と砂糖と胡椒を載せた、荷馬車がリップル子爵家の領地内で襲われて、塩と砂糖と胡椒が奪われたりしたら大変だよな?」
「え?」「あ!」
「それだけじゃなくて、俺が王家にサンプルで提供した物と同じ物が、リップル子爵家が売っていたりしたら、大変だよな?」
「な!」「・・・」
「ヤス様。それは、嫌がらせの範疇を越えていると思います」
「デイトリッヒ。間違えるなよ。俺は、別にリップル領を潰したいとか、子爵を殺したいとか思っていない。痛い目に合えばいい程度だ。それで奴らが破滅したら、奴らが欲をかき過ぎたからだ」
「・・・。具体的には?」
「カイルとイチカの話では、孤児院を運営していた二人は、スラム街の顔役にも話ができるのだろう?」
「えぇ顔役の1人が冒険者時代の仲間です」
「それなら、デイトリッヒに使者になってもらえば話ができるよな?」
「兄ちゃん!それなら、俺も!」
カイルが勢いよく立ち上がって自分も使者になると言い出した。カイルを止めるためにイチカも立ち上がった。
二人を、ヤスは優しい目でも見て諭すような声で二人に話しかける。
「カイルとイチカには違う役目がある。すごく大事な役目だ」
「え?」「私にも?」
「あぁお前たちにしか頼めない。デイトリッヒでも、ミーシャでも、サンドラでも、ドーリスでも、セバスやツバキでもなく、お前たちにしか頼めない事だ。すごく難しくて大変な役目だ」
「なんでもやる!ヤス兄ちゃん」「ヤスお兄ちゃん。私も、できることなら何でもやります」
「うん。だから、今は、我慢してくれ、頼む」
「うん」「はい」
カイルとイチカは頷いて、椅子に座り直した。シックスとセブンが持ってきた、サンドウィッチを美味しそうに食べ始めた。自分たちにも役目があると言われて、安心したのだろう。果物を絞ったジュースも飲み始めている。
「さて、盗まれる。塩と砂糖と胡椒だけど、リップル子爵家で盗まれたと報告するのは、レッチュ領のギルドのほうがいいか?」
「報告するのですか?」
「報告しないと、見つかった時に取り戻すことができないよな?」
「取り戻すのですか?」
デイトリッヒがヤスの言ったセリフを繰り返して質問する。
「デイトリッヒさん。ヤスさんは、建前の話をしているのです。そうですよね?」
「え?」
ヤスはニヤリと笑って、サンドラに説明させる。
「デイトリッヒさん。神殿から王家に向かった荷物を、リップル子爵領で盗まれたと、レッチュ領のギルドに報告します。王都にはすぐに連絡が行きますが、王都から、リップル子爵領にはどんなに急いでも1-2週間はかかります。ヤスさんのアーティファクトなら別でしょうが・・・」
「それは、わかります。あ!そうか!強欲なリップル子爵家なら、自分の手柄として、王家に届ける可能性だってある。それだけではなく、神殿を攻略したのは自分だと、証拠は大量の塩や砂糖や胡椒であると言い出すかもしれないと言うことですね」
「えぇそうですね。もしかしたら、小分けにして、寄親や近い貴族に貢いだり売ったりする可能性だってあります。根回しをするために・・・。です」
「間違いなくするだろうな。帝国に売る可能性だってあるな」
「そうです。帝国には、恩着せがましく言いながら高値で売る可能性だってあります」
「そうだろうな。10倍近い値段で売るだろう。帝国は、塩が採れないから輸入に頼っている。最高級の塩と砂糖と胡椒はどうしても欲しいだろうな」
ヤスが、デイトリッヒの話を受けて、自分の考えを追加する。
「リップル子爵が帝国に物を搬送する場合には、神殿の関所の横を通らなければならないよな?」
「はい。帝国に行くには、あの道しかありません」
「なぁサンドラ。レッチュ辺境伯にお願いして、あの場所にも門を作っていいか聞けないか?」
「え?」
「門があれば、いろいろ便利だと思うのだけどな?」
「・・・。ヤスさん。王国は、今までも何度も門を作ろうと計画したのですが、魔物が襲ってきたり、資材の運搬の問題があったり、人足の確保が難しくて、諦めるしかありませんでした。ヤスさんが、お父様にお願いして神殿の力で作るとおっしゃっていただけるのなら、二つ返事で許可すると思います」
「そうか、サンドラ。調整を頼めるか?森までの幅があるから、どの辺りに作るのか決めなければならないからな」
「わかりました。父と相談します」
「頼む。それで・・・。王都に、塩と砂糖と胡椒が盗まれてから、王都に運ぶ役目は俺がするしかないかな?」
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