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第八章 リップル子爵とアデヴィト帝国
第二話 ドーリスとツバキと子供たち
しおりを挟む「旦那様。旦那様。ツバキ様とドーリス様がお戻りになりました」
ヤスはまだしっかりと目覚めていない。
エイトが持ってきた水を飲んで、頭がと身体が起き出してくるのを感じている。
「子供たちは?」
「幼体は、孤児院に預ける前にギルドで話を聞くそうです」
「そうか、審査は問題なかったのだな」
「はい。幼体の代表が旦那様に面会を求めております」
「わかった。セバスに言って時間を調整してくれ」
「かしこまりました」
「あっそれから、シャワーを浴びたらリビングに行くから朝食の準備を頼む」
「はい」
ヤスがシャワーを浴びてリビングに降りると朝食が準備されていた。
「ナインです。旦那様」
「交代したのか?」
「はい。エイトは、セバス様とギルドに向かいました」
「そうか、わかった」
用意された朝食を食べながら、ヤスは現状を受け入れている自分に驚いていた。
元々1人で何でもしていたと言えば聞こえがいいが、従業員に任せて自分はトラックで全国を走り回っていた。従業員を信用していたが、裏切られたらそれまでと思っていた。しかし、自分のプライベートスペースには従業員は誰も入れなかった。
それが今ではセバスやツバキがヤスのプライベート空間に入っている。朝食の準備だけではなく身の回りの世話を全部任せてしまっている。
自分自身で不思議だと思うが、自然だとも思えてしまっている。異世界に馴染んだとも違う感覚だ。セバスやツバキを身内として考えているのか?もう会うことがない幼馴染たちと似たようなに感じている。
朝食を食べ終わったヤスは、ナインに温かい飲み物を頼んだ。
甘めに作られたコーヒーが運ばれてきた。
コーヒーを飲みながら今後を考えてみた。
コーヒーが飲み終わるまでには何か考えつくだろうとヤスは思っていたが、残り一口になっても何も思いつかなかったので、このまま思いつくままに生活していく方向にした。それ以外に何も考えつかなかったのだから・・・。”しょうがない”と考えて、ヤスは考えるのを放棄した。
『マスター。事情がわかりました』
「事情?」
『昨日、マスターが保護を約束した幼体です』
「あ・・・。そうだな。それで?」
『はい』
マルスは、孤児たちを狙っていた4人から聞き出した話をヤスに伝える。
ヤスには襲撃者の話は伝えていないので、誰から聞き出したのかは告げていない。
「そうか、子供たちはリップル領から来たのだな」
『はい』
「たしか、途中の村でちょっかいをかけてきたのもリップル子爵家だったよな?」
『はい。次男です』
「今度は?」
『三男です』
「そうか・・・。たしか、ギルドに依頼を出したのもいたよな?あれは、次男か?」
『はい』
「奴らは何をしたいの?ただ単なる馬鹿なの?」
『詳細は判明しておりませんが、国名アデヴィト帝国と繋がりがあり、地域名レッチュガウの存在が邪魔なために、仕掛けてきている可能性があります』
「ん?どういう事?レッチュガウって、サンドラの父親で辺境伯の領地だよな?邪魔?帝国とは戦争?紛争?状態だよな?」
『認識は合っています』
「うーん。サンドラに聞くのがいいか?そうだ!マルス。リップル子爵家にある魔通信機で何か情報を得られないのか?」
『組織名リップル子爵家に渡っている魔通信機は存在しないので、わかりません』
「ん?子爵家には無いの?」
『はい。個体名アフネスが持ってきたリストを確認してください』
マルスは、ヤスが座っている正面にあるディスプレイにリストを表示する。
すでに、リストはマルスが取り込んでいるので、状況が把握しやすい状態になっている。
「ふぅーん。リップル領には、領都にある冒険者ギルドに一つしか置かれていないのだな」
『はい。そのギルドの魔通信機も現在は休止中です』
「え?なぜ?」
『支払いが止まっているためです』
「馬鹿なの?そんなに高くないよな?」
『はい。個人が持つには高額ですが、本部から助成も出ています。支払いが滞る理由はありません』
「そっちは放置でいいな。問題は、リップル子爵家と帝国がどこまで繋がっているのか・・・。俺が考える必要はないな。サンドラとドーリスに投げて、辺境伯に任せよう」
『かしこまりました。情報を、個体名サンドラ、個体名ドーリス、個体名ディアスに流して問題はありませんか?』
「頼む」
『了』
ヤスは、ディスプレイを眺めていたのだが、”よくわからない”が見ている感想だった。
わからなければ、わかるやつに任せればいい。ヤスが導き出した答えだ。
「マルス。サンドラとドーリスは、ギルドか?」
『はい』
「わかった。行ってくる。ナインは、片付けを頼む」
「かしこまりました」
ヤスはエミリアを持って立ち上がった。
忘れそうになったが、マルスが指摘したのだ。
ギルドまでは、歩いても時間がかかるわけでもないので、ヤスは歩いて移動する予定だったのだが、神殿の入り口に自転車を置いてあったのを思い出して、自転車に乗ってギルドに向かった。
(マウンテンバイクを使ったオフロードレースも楽しそうだな。皆がカート以外も運転できるようになったら、ラリーとかやりたいな。日本じゃ制限が多すぎたけど、ここなら問題はない。早く、運転できる人数が増えないかな?)
ヤスはギルドの横に作った駐輪場に自転車を停めた。ヤスの魔力を登録しているので、盗まれる心配は無いのだが、そもそも、神殿内でアーティファクトを盗めない。盗まれないように、マルスが監視をしている。
ギルドに向かうが、朝の早い時間は人が居るようになったのだが、混雑するほどではない。
ギルドに入ると、ミーシャがヤスに気がついた。
「ヤスど・・・。ヤスさん」
ヤスは、”殿”や”様”禁止と言っている。ミーシャもやっと”殿”ではなく、”さん”と呼べるようになってきた。
「ミーシャが店番か?」
「店番って・・・。確かに、店番ですけど、なんかイヤです」
「すまん。それで、ドーリスとサンドラは?」
「奥で、孤児たちから話を聞いています。呼んできますか?」
「セバスとエイトも来ているよな?」
「はい」
「セバスを呼んできてくれ」
「わかりました」
ミーシャが奥に入っていく、ヤスは壁の掲示板を見る。
冒険者ギルドだけではなく、ギルド別に場所が区切られていて、それぞれで依頼が張り出されている。
「旦那様」
「セバス。悪いな。マルスからの伝言は聞いたか?」
「はい。先程届けられました。子供たちとの話は合致するか?」
「いえまだ不明です。今、デイトリッヒ様が戻ってこられるのを待っております」
「ん?」
「今朝、一番のバスで魔の森に向かってしまいました」
「そうか、そうなると、夕方までは戻ってこないな」
「はい。子供たちには、神殿の説明をしております」
「そうか、会えるか?」
「会えますが・・・」
「どうした?」
「ドーリス様とサンドラ様が、旦那様を神格化してしまって・・・」
「わかった。それ以上の説明は必要ない。行くぞ」
「はい」
ヤスが、子供とドーリスとサンドラが一緒に居る部屋の前に来た。
”そこで、神殿の主ヤス様は、神殿の最深部に居るドラゴンを倒して、アーティファクトを得たのです”
”すごぉぉぉい!!!ヤス様が居れば、リップルも終わりだね!”
”そうね。だから、サンドラと私がヤス様を抑えているの。あと、ここには居ないけど、リーゼという子がヤス様の心を慰めているのね”
”ねぇねぇなんでヤス様はそこまで怒ったの?”
”それは、ヤス様が大事にしているリーゼをヤス様の下から”
ヤスは、扉を勢いよく開けた。
「え?」「あっ」
ドーリスとサンドラは、ヤスが来たと教えられたが、セバスに足止めを頼んだのだ。セバスがヤスに言われたら逆らわないと思っていた。足止めが無理でも、ヤスが直接この部屋に来るとは考えなかった。
「ドーリス?サンドラ?どうした?ほら、話の続きは?」
にこやかに微笑むヤスに、ドーリスとサンドラは完全に固まってしまった。
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