133 / 293
第八章 リップル子爵とアデヴィト帝国
第二話 ドーリスとツバキと子供たち
しおりを挟む「旦那様。旦那様。ツバキ様とドーリス様がお戻りになりました」
ヤスはまだしっかりと目覚めていない。
エイトが持ってきた水を飲んで、頭がと身体が起き出してくるのを感じている。
「子供たちは?」
「幼体は、孤児院に預ける前にギルドで話を聞くそうです」
「そうか、審査は問題なかったのだな」
「はい。幼体の代表が旦那様に面会を求めております」
「わかった。セバスに言って時間を調整してくれ」
「かしこまりました」
「あっそれから、シャワーを浴びたらリビングに行くから朝食の準備を頼む」
「はい」
ヤスがシャワーを浴びてリビングに降りると朝食が準備されていた。
「ナインです。旦那様」
「交代したのか?」
「はい。エイトは、セバス様とギルドに向かいました」
「そうか、わかった」
用意された朝食を食べながら、ヤスは現状を受け入れている自分に驚いていた。
元々1人で何でもしていたと言えば聞こえがいいが、従業員に任せて自分はトラックで全国を走り回っていた。従業員を信用していたが、裏切られたらそれまでと思っていた。しかし、自分のプライベートスペースには従業員は誰も入れなかった。
それが今ではセバスやツバキがヤスのプライベート空間に入っている。朝食の準備だけではなく身の回りの世話を全部任せてしまっている。
自分自身で不思議だと思うが、自然だとも思えてしまっている。異世界に馴染んだとも違う感覚だ。セバスやツバキを身内として考えているのか?もう会うことがない幼馴染たちと似たようなに感じている。
朝食を食べ終わったヤスは、ナインに温かい飲み物を頼んだ。
甘めに作られたコーヒーが運ばれてきた。
コーヒーを飲みながら今後を考えてみた。
コーヒーが飲み終わるまでには何か考えつくだろうとヤスは思っていたが、残り一口になっても何も思いつかなかったので、このまま思いつくままに生活していく方向にした。それ以外に何も考えつかなかったのだから・・・。”しょうがない”と考えて、ヤスは考えるのを放棄した。
『マスター。事情がわかりました』
「事情?」
『昨日、マスターが保護を約束した幼体です』
「あ・・・。そうだな。それで?」
『はい』
マルスは、孤児たちを狙っていた4人から聞き出した話をヤスに伝える。
ヤスには襲撃者の話は伝えていないので、誰から聞き出したのかは告げていない。
「そうか、子供たちはリップル領から来たのだな」
『はい』
「たしか、途中の村でちょっかいをかけてきたのもリップル子爵家だったよな?」
『はい。次男です』
「今度は?」
『三男です』
「そうか・・・。たしか、ギルドに依頼を出したのもいたよな?あれは、次男か?」
『はい』
「奴らは何をしたいの?ただ単なる馬鹿なの?」
『詳細は判明しておりませんが、国名アデヴィト帝国と繋がりがあり、地域名レッチュガウの存在が邪魔なために、仕掛けてきている可能性があります』
「ん?どういう事?レッチュガウって、サンドラの父親で辺境伯の領地だよな?邪魔?帝国とは戦争?紛争?状態だよな?」
『認識は合っています』
「うーん。サンドラに聞くのがいいか?そうだ!マルス。リップル子爵家にある魔通信機で何か情報を得られないのか?」
『組織名リップル子爵家に渡っている魔通信機は存在しないので、わかりません』
「ん?子爵家には無いの?」
『はい。個体名アフネスが持ってきたリストを確認してください』
マルスは、ヤスが座っている正面にあるディスプレイにリストを表示する。
すでに、リストはマルスが取り込んでいるので、状況が把握しやすい状態になっている。
「ふぅーん。リップル領には、領都にある冒険者ギルドに一つしか置かれていないのだな」
『はい。そのギルドの魔通信機も現在は休止中です』
「え?なぜ?」
『支払いが止まっているためです』
「馬鹿なの?そんなに高くないよな?」
『はい。個人が持つには高額ですが、本部から助成も出ています。支払いが滞る理由はありません』
「そっちは放置でいいな。問題は、リップル子爵家と帝国がどこまで繋がっているのか・・・。俺が考える必要はないな。サンドラとドーリスに投げて、辺境伯に任せよう」
『かしこまりました。情報を、個体名サンドラ、個体名ドーリス、個体名ディアスに流して問題はありませんか?』
「頼む」
『了』
ヤスは、ディスプレイを眺めていたのだが、”よくわからない”が見ている感想だった。
わからなければ、わかるやつに任せればいい。ヤスが導き出した答えだ。
「マルス。サンドラとドーリスは、ギルドか?」
『はい』
「わかった。行ってくる。ナインは、片付けを頼む」
「かしこまりました」
ヤスはエミリアを持って立ち上がった。
忘れそうになったが、マルスが指摘したのだ。
ギルドまでは、歩いても時間がかかるわけでもないので、ヤスは歩いて移動する予定だったのだが、神殿の入り口に自転車を置いてあったのを思い出して、自転車に乗ってギルドに向かった。
(マウンテンバイクを使ったオフロードレースも楽しそうだな。皆がカート以外も運転できるようになったら、ラリーとかやりたいな。日本じゃ制限が多すぎたけど、ここなら問題はない。早く、運転できる人数が増えないかな?)
ヤスはギルドの横に作った駐輪場に自転車を停めた。ヤスの魔力を登録しているので、盗まれる心配は無いのだが、そもそも、神殿内でアーティファクトを盗めない。盗まれないように、マルスが監視をしている。
ギルドに向かうが、朝の早い時間は人が居るようになったのだが、混雑するほどではない。
ギルドに入ると、ミーシャがヤスに気がついた。
「ヤスど・・・。ヤスさん」
ヤスは、”殿”や”様”禁止と言っている。ミーシャもやっと”殿”ではなく、”さん”と呼べるようになってきた。
「ミーシャが店番か?」
「店番って・・・。確かに、店番ですけど、なんかイヤです」
「すまん。それで、ドーリスとサンドラは?」
「奥で、孤児たちから話を聞いています。呼んできますか?」
「セバスとエイトも来ているよな?」
「はい」
「セバスを呼んできてくれ」
「わかりました」
ミーシャが奥に入っていく、ヤスは壁の掲示板を見る。
冒険者ギルドだけではなく、ギルド別に場所が区切られていて、それぞれで依頼が張り出されている。
「旦那様」
「セバス。悪いな。マルスからの伝言は聞いたか?」
「はい。先程届けられました。子供たちとの話は合致するか?」
「いえまだ不明です。今、デイトリッヒ様が戻ってこられるのを待っております」
「ん?」
「今朝、一番のバスで魔の森に向かってしまいました」
「そうか、そうなると、夕方までは戻ってこないな」
「はい。子供たちには、神殿の説明をしております」
「そうか、会えるか?」
「会えますが・・・」
「どうした?」
「ドーリス様とサンドラ様が、旦那様を神格化してしまって・・・」
「わかった。それ以上の説明は必要ない。行くぞ」
「はい」
ヤスが、子供とドーリスとサンドラが一緒に居る部屋の前に来た。
”そこで、神殿の主ヤス様は、神殿の最深部に居るドラゴンを倒して、アーティファクトを得たのです”
”すごぉぉぉい!!!ヤス様が居れば、リップルも終わりだね!”
”そうね。だから、サンドラと私がヤス様を抑えているの。あと、ここには居ないけど、リーゼという子がヤス様の心を慰めているのね”
”ねぇねぇなんでヤス様はそこまで怒ったの?”
”それは、ヤス様が大事にしているリーゼをヤス様の下から”
ヤスは、扉を勢いよく開けた。
「え?」「あっ」
ドーリスとサンドラは、ヤスが来たと教えられたが、セバスに足止めを頼んだのだ。セバスがヤスに言われたら逆らわないと思っていた。足止めが無理でも、ヤスが直接この部屋に来るとは考えなかった。
「ドーリス?サンドラ?どうした?ほら、話の続きは?」
にこやかに微笑むヤスに、ドーリスとサンドラは完全に固まってしまった。
0
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★

あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる