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第七章 王都ヴァイゼ
幕間 孤児院
しおりを挟む俺がしっかりしないと!
クソジジイから初めて頼まれた。
弟と妹たちを頼むと言われた。当然だ。俺の妹と弟だ。絶対に守る!
俺たちの生活が変わったのは、領主のバカ息子が妾のために屋敷を建てると言い出した時だ。
前から、俺たちが住んでいる場所が目障りで何かと嫌がらせをしていた。成人して卒院した兄ちゃんや姉ちゃんが遊びに来たときに教えてくれた。
俺たちは、クソジジイが運営している孤児院で俺を含めて11人の子供が住んでいる。
俺が一番年上だから、長男だ。本当の兄弟や姉妹ではないけど、俺たちは兄弟で姉妹だ。俺の次は、一つ下のイチカだ。しっかり者だけど、甘えん坊だ。それから、弟と妹が9人居る。
住んでいた場所は、リップル領の領都だ。もともとは、もっと田舎の農村に住んでいたけど、魔物に村が襲われて・・・。
弟も妹も同じ様な境遇だ。領都に来れば仕事があると思っていた。子供でも雇ってくれる所があると聞いたからだ。でも、そんな物はなかった。俺やイチカはクソジジイに無理やり掴まって孤児院につれてこられた。そのときに、兄ちゃんや姉ちゃんに聞いた話では、子供を領都近くに集めて、捕まえて帝国に奴隷として売っている連中がいる。俺とイチカも捕まりそうになっていた所を、クソジジイに救われた・・・。
俺は、狼人族。イチカは、羊人族。弟や妹も純粋な人族は居ない。獣人族だったり、ハーフだったりする。
俺たちのような子供は帝国では高く売れるのだと言っていた。売られた先がどこであれ人として扱われる事は皆無だと教えられた。
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悪いことをすれば怒られる。ジジイとババアは、元冒険者だと言っていた。俺たちに戦闘の手段や交渉の方法だけではなく読み書きや簡単な計算も教えてくれた。俺たちの役に立つと言っていた。正直、戦闘訓練以外は楽しくなかった。クソジジイに何度も殴られた。でも、俺が行かないと妹や弟が泣くから、俺も勉強とやらをしていた。イチカは俺とは反対で、交渉や読み書きや計算が好きだ。
飯は正直に言って美味しくない。でも、しっかり食べられる。孤児院の裏には畑もある。兄ちゃんや姉ちゃんが、狩りで仕留めた獲物を持ってきてくれる時もある。スラム街のボスの1人であるルーサはクソジジイの昔の仲間だと言っていた。ルーサのシマなら俺たちでも入ってもいいと言われている。よくわからないが、必要悪だと言っていた。あの日・・・。兄ちゃんや姉ちゃんが神殿の話をしてくれた。ユーラットの近くに有るらしいがまだ攻略されていない。冒険者を目指すのなら、神殿の攻略を目指せと言われた。兄ちゃんと姉ちゃんは、リップル領では獣人やハーフには仕事がやりづらいからリップル領から出て王都に向かうと言っていた。王都がダメならレッチュ領で仕事を探すと言っていた。
俺たちは、兄ちゃんと姉ちゃんを見送った。美味しいお肉を沢山貰った。クソジジイは内緒にしているが、マジックバッグを持っている。その中に余った肉をはじめ物資を隠している。
兄ちゃんと姉ちゃんを見送った数日後。
戦闘訓練をして、計算の勉強をしていたときに、奴らは孤児院にやってきた。
俺が飛び出そうとした時に、クソジジイに止められた。
「カイル。これを持って逃げろ」
「クソジジイ!なんでだよ!俺だって戦える!剣だって使える!孤児院を守る!」
「ダメだ!お前は、イチカや子どもたちを連れて逃げろ。お前にしか頼めない。頼む。カイル!これからは、お前が」
「だったら、クソジジイも一緒に・・・」
「ダメだ。ここは、あの娘だけじゃなく、今まで救えなかった子たちが眠る場所だ!奴らの好きにさせてはならない。解ってくれ。カイル。儂の最後の頼みだ」
「いやだ!俺も戦う!俺は、兄ちゃんや姉ちゃんと約束した!みんなを守るって!ジジイやババアを守る!」
ドアを叩く音がどんどん乱暴になっていく。
窓から見ていた妹が震えてイチカに抱きついている。表には、10人以上が武器を持ってニヤニヤしている。窓から顔を出したイチカをニヤニヤしながらいやらしい目で見る。
「カイル。カイル。かわいい。かわいい私の子。カイルは、乱暴な言葉遣いだけど、しっかり考えられる子で、優しい子だよ。だから、最後に、婆と爺さんの願いを叶えて欲しい」
「ババア・・・。だったら・・・。一緒に・・・」
ダメだ。俺は、長男だ。俺が泣いてはダメだ。俺が、みんなを守る!
「カイル。それは出来ないのじゃよ」
「なんでだよ!みんなで逃げれば・・・」
「奴らは追ってくる。婆と爺さんがここで抵抗すれば、お前たちが街から出て、ルーサの所に行くくらいの時間は稼げる。マジックバッグを持っていけば、ルーサも事情を察するだろう。その後、リップル領を出て、レッチュ領にお行き。あそこなら、カイルとイチカが居れば生きて行ける。それで余裕が出来たら、婆と爺さんのことを思い出しておくれ」
「いやだ!嫌だ!イヤだ!」
なんでだよ!俺たちが何をした!
殺してやる!絶対に殺す!殺す!殺す!殺す!殺す!
「カイル!」
え?
なんで?ババアが泣いて・・・。俺・・・。頬が痛い?
なんで?俺・・・。泣いて・・・。ババアに抱かれて、涙・・・。
「カイル!カイル!お願いだからそんな顔を止めてくれ。カイル。良いかい。奴らは愚かで、馬鹿で、人でなしで、悪人だ。でもね。カイル。カイルまで、あんな奴らと同じにならないでおくれ。お願いだから。カイル。笑っておくれ。婆を嬉しそうにババアと呼んでおくれ。爺さんを、クソジジイと呼んでおくれ」
「・・・。ババア・・・。俺・・・」
外から声が聞こえる。
ドアを壊して壁を壊せと馬鹿が怒鳴っている。
「カイル!イチカ!もう時間がない。お前達が抜け出す時に使っていた地下通路を使って逃げろ!」
クソジジイが叫ぶ。
「イチカ。先に行ってくれ!俺は最後に行く!」
「ダメ。カイルも一緒!」
「大丈夫だ。少し荷物を取りに行くだけだ」「カイル!」
俺は走り出していた。
俺とイチカが使っていた部屋に兄ちゃんから貰った短剣が隠してある。武器がないとダメだ。
「クソジジイ。ババア。さっさと奴らを倒してルーサの所に来いよ!一緒に逃げるのだからな!」
「そうだな。婆さん。カイルに一本取られたな。確かに、儂と婆さんならあんな奴らの10程度、殺すのなら一桁足りないな」
「そうじゃな。爺さん。久しぶりに暴れてみるのもいいだろう。カイル。さっさと行きな。あんたが居ると邪魔だよ」
「わかった」
クソジジイもババアもいつの間にか完全武装している。クソジジイは、バスターソードを二本持っている。兄ちゃんたちとの訓練でも一本しか持っていなかった。ババアも杖とリングをしている。イチカが一度使った時には、ほとんどの魔力を使ったが魔法が発動しなかった杖だ。エルダーエントが材料だとは言っていた。
「カイル。早く・・・」
「クソ・・・。父さん。母さん。死なないで!」
本当の父さんと母さんの顔も声も知らない。俺の父さんと母さんは、爺さんと婆さんだ。
隠し部屋から外に繋がる通路がある。隠し部屋に入るときに、父さんと母さんがこっちを振り向いて笑ってくれた。笑っている父さんの肩には弓が刺さっている。父さんのバスターソードの一本からは血が流れている。もう一本は、腕と一緒に床に転がっていた。
「カイル・・・。皆を頼む」
「父さん!!!!」
「カイル!早く扉を閉めなさい」
「母さん!」
母さんが扉に向けて魔法を発動した。俺は、その勢いで飛ばされた。扉が閉まった。叩いたが開けられない。
「父さん!!母さん!!」
「カイル!早く!」
「イチカ・・・。なんで・・・」
「カイル。早く、母さんが結界を張ってくれているから、今のうちに・・。早く!」
「・・・」
「カイル?」
「イチカ。俺は・・・」
「カイル!父さんと母さんになんて言われたの!最後まで・・・。あんた・・・」
イチカが俺の手を引っ張る。俺は、父さんと母さんを助けたい。でも、力が・・・。
イチカなら何か考えられるのか?兄ちゃんたちなら?姉ちゃんたちなら?
神様・・・なら?
「カイル!あんたがしっかりしなきゃ!誰が私たちを助けてくれるの!父さんと母さんの約束を・・・」
そうだ。父さんは、俺に頼むと言った。母さんも俺に笑って欲しいと言った。俺が居ると邪魔だと・・。力がないからか?俺が弱いからか?俺が馬鹿だからか?
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「カイル!?」
「カイル兄」「カイル兄ちゃん」
俺は弱い。弱い!強くならねば・・・。父さんと母さんの代わりは無理でも、妹と弟を!
そうだ、父さんと母さんを殺してしまった俺にもできる事がある。絶対に誰も死なせない。俺が守る。
「イチカ!カロン!ルイナ!セブ!モニカ!クビサ!ニコ!ダンテ!マリノ!エルモ!」
皆が俺の呼びかけに返事をする。情けない俺をまだ慕ってくれているのがわかる。父さんと母さんを救えなかった・・・。殺してしまった俺を頼りにしている。
「逃げるぞ!」
長い、長い、逃亡の始まりだった。
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