128 / 293
第七章 王都ヴァイゼ
第十六話 孤児とユーラット
しおりを挟む子どもたちはすぐに見つけられた。
セミトレーラのライトに照らされた子どもたちは怯えていた。
馬が居なくても走る大きな馬車で、大きな目玉から光を放って、自分たちを見ているように見えれば大人でも怖くなってしまうだろう。子どもたちは、粗末な格好で生きているのが不思議な状況になっている者も存在している。
皆が怯えた目でライトが落とされたセミトレーラを見ている。
最初、ヤスが近づこうとしたのだが、ドーリスに止められた。男性が近づくよりも、女性である自分が行った方がいいと判断したようだ。
ドーリスを降ろして運転席から状況を観察しているヤスにマルスから連絡が入った。
『マスター。個体名ツバキが後30分ほどで到着します』
『わかった』
ヤスは、窓を開けてドーリスに呼びかける。
「ドーリス。ツバキが3-40分で到着する食べ物が必要なら運んできた物資を使ってくれ」
ドーリスはヤスの声を聞いて、OKのサインを送る。
言葉を出さなかったのは、前に居る少年や少女との話を優先したほうがよいと判断したからだ。
10分くらいして、ドーリスはヤスの所に駆け寄ってきた。
「どうした?物資が必要か?」
「あっ・・・。大丈夫です」
ヤスは、ドーリスがアイテムボックスから食料を出しているのを見たがスルーして問いかけたのだ。意味はなかったが、ドーリスが隠したので、話をしていて何かアイテムボックスにしまったのだと判断した。
「そうか」
「彼らは、リップル領から、神殿の噂を聞いて流れてきたようです」
唐突にドーリスはヤスに説明を始めた。
ヤスは、黙ってドーリスの説明を聞いた。
ドーリスが聞き出した内容は少なかったが、重要な話も多かった。
・彼らは当初はレッチュ領の領都を目指していた。
・入都を断られた。
・デイトリッヒに会うために領都に向かった。
・冒険者に神殿の噂を聞いた。冒険者が近くと通る商隊に乗っていけるように手配してくれた。
・休憩所では近くの木々から果物を採取して食べた。
「ドーリス。子どもたちは無事なのか?」
ヤスの問いかけの意味をドーリスは正確に理解した。
「はい。リップル領を出てから1人の脱落もないと言っています」
「そうか、よかった。でもな、ドーリス。根本部分を説明してもらっていないぞ?」
「・・・」
ドーリスが言葉を濁した部分だ。
彼らが、レッチュ領を目指すきっかけがあったはずだ。
「彼らの居た孤児院が・・・」
「どうした?」
「はい。彼らの孤児院が、リップル子爵の次期当主を名乗る男性に接収されたようです」
「は?孤児院は、別に子爵が運営していたわけじゃないのだろう?」
「はい」
「それで、経営者や世話をしていた人たちが居ただろう?なんで、子供だけになっている?」
「・・・」
「ドーリス」
「彼らの言葉なので、本当かわかりません」
「そうか、教えてくれ」
「はい。引退した冒険者の老夫婦が経営していたらしいのですが・・・」
「あぁ」
ヤスは、この時点ですでにどうなったのか解ってしまっている。
言いにくそうなドーリスと先程見た子どもたちの様子で薄々とは気がついていた。
「殺されました。目の前で・・・」
「そうか・・・。証拠があっても、次期当主だと罪に問うのは難しいのか?」
「無理だと思います。レッチュ領ならしっかりとした証拠があれば・・・。でも、リップル子爵領では無理です」
「そうか、だから、領都では彼らを保護出来なかったのだ」
「え?」
「門番がどこまで考えていたのかまではわからないが、彼らを領都で保護しているとリップル子爵が知ったらどうすると思う?」
ヤスの指摘は的外れだったのだが、ドーリスには危険があると思えた。
「子爵家から、領民を奪ったと言われる可能性があります」
「子供だけだから余計にそうおもうよな」
「はい」
ドーリスもヤスも勘違いしていた。
リップル子爵の自称次期当主が欲しかったのは、孤児院が建っていた場所なのだ。自分が気に入った者に与えて自分の評価を上げるためだ。孤児院が邪魔だったのだ。ただそれだけのために孤児院を潰して、管理人を子供の前で斬り殺したのだ。
中に子供が住んでいたとしても興味の埒外にあった。実際、孤児院を取り壊す時に死んだか、逃げ出してスラム街にでも移り住んだと考えた。ただ、孤児院に有るはずだった物がなかったために、自称次期当主は荒事を専門に行っている者たちを雇って子どもたちを追わせた。追わせたが、子どもたちの行動が早かった。指の間からすり抜けるように難を逃れた。
子どもたちが荒事を専門にしているやつらの手を逃れて自領を出て神殿近くにたどり着いているとは思っていない。
「あぁそれで彼らは神殿に連れて行っていいよな?ダメっと言っても、ツバキを呼んでいるから連れて行くけどな」
「大丈夫です。それで申し訳ないのですが、ヤスさんはユーラットに寄るのですよね?」
「そうだな。アフネスが何か渡したい物があるとか言っていた」
「ここまでくれば道案内も必要ないと思いますし、私はツバキさんと神殿に戻ろうと思います。私がここでツバキさんを待っていますので、ヤスさんはユーラットに移動してください」
「・・・。そうか、頼む」
ヤスは、窓を閉めた。
ツバキもすぐに来るだろう。ドーリスが入れば、子どもたちも安心できるだろう。
それに、あの場所ならセバスの眷属たちが見守っていてくれるだろう。
ヤスは安心しユーラットにハンドルを切った。
途中でツバキが運転する小型バスとすれ違った。
ヤスは、懐かしいユーラットに戻ってきた。
ヤスは、裏門までセミトレーラを移動させた。セバスの眷属たちによる舗装された道を通り抜けた。
裏門では、アーティファクトが近づいて来たのを知ったアフネスが待機していた。
「ヤス」
セミトレーラを停めた。ヤスにアフネスが声をかける。
「アフネス。俺に用事が有るのだろう?」
「伝言を聞いてくれたのだな」
「あぁ・・・。それで?」
アフネスは、窓越しに丸めた羊皮紙をヤスに渡す。
「これは?」
「リーゼの父親を中心にまとまった者たちで決めた事だ。ヤスが神殿を攻略したと認める証書だ。それと、アーティファクトがヤスの物だという証書も作成してある」
「え?」
「神殿の方は、持っていてくれればいい。エルフの関係者に何か言われたときに見せれば、大丈夫だ。アーティファクトは、ドーリスかサンドラに渡せばわかるだろう」
「どういうことだ?」
「ヤスのアーティファクトは複数存在するだろ?」
「あぁ」
「魔剣なんかと同じ扱いにして、所有登録をギルドでしてしまえば、たとえ盗まれても見つかれさえすれば取り戻せる」
「そりゃぁ登録しないとダメだな」
「頼む。ギルドに書類を出せばできるようになっている」
ヤスは、アフネスに礼を言って神殿に向かう。
セミトレーラでも曲がれるように設計された道なのでなんとか曲がれている。ヤス以外がセミトレーラを運転出来たとして、神殿-ユーラットの道は無理だとは思うが、ヤスしかセミトレーラを運転しない状況では困らないだろう。フルトレーラはヤスでも無理だと思うが、現状の運搬ならセミトレーラで十分だろうと思っている。
何事もなく、神殿の都に到着した。神殿の守りでは丁度カスパルがバスでユーラットに向かう準備をしていた。何人かの神殿に入られなかった者たちを載せていくようだ。料金は取っていないので文句は出ていない。門の通過儀礼を試して入られなかったので、ユーラットで休んでからもう一度試すと言っている。幾度行っても結果は同じなのだが、諦めなければ道が開かれると思っているのだ。
「ヤス様!」
「カスパル。ユーラットか?」
「はい!行ってきます!」
「お!頼むな。途中でツバキとすれ違うかも知れないけど、俺は神殿に到着したと伝えておいてくれ」
「わかりました!」
「そうだ、ディアスは家に居るのか?」
「その・・・」
「どうした?もう喧嘩か?」
「違います!リーゼとサンドラと神殿の地下に・・・」
「え?カートか?」
「はい。夕方には帰ってきますが・・・」
「わかった。サンドラも一緒なのだな?」
「はい。多分」
「わかった」
定刻になったので、カスパルは7人を載せてユーラットに向かった。
ヤスは神殿の守りを通り抜けて神殿に向かうロータリーに近づくと、セバスが待っているのがわかった。
ロータリーでは停めずに、そのまま地下の駐車スペースにセミトレーラを停めた。
0
お気に入りに追加
122
あなたにおすすめの小説

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】
雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。
そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!
気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?
するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。
だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──
でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる