125 / 293
第七章 王都ヴァイゼ
閑話 テンプルシュテットでは・・・
しおりを挟む「リーゼ!それはダメだと思うの!」
姦しい声が地下のカート場に響いている。
神殿のカート場に居るのは、ハーフエルフのリーゼ。帝国から連れてこられたディアス。神殿近くに領地を持つ辺境伯の娘であるサンドラ。
それと、ドワーフの方々だ。
「何がダメなの!問題は無い!ね!サンドラもそう思うでしょ?」
「私を巻き込まないでよ。わたしは、調整で忙しいの!」
3人で会話をしているようにも聞こえるが実際には違っている。
リーゼとディアスはカートでならし走行をしている。サンドラは、ドワーフにお願いして愛機をいじってもらっている。
ヤスとドーリスが王都に向かったタイミングで、サンドラがカートにはまった。
自分で操作できるのが嬉しいのだろう。リーゼとディアスに挑んだ。
3人の中で最初にカートを動かしたのはリーゼだが、カートを理解したのはサンドラではないだろうか?
サンドラは、リーゼとディアスに負けたタイミングで、ツバキに連絡をした。サンドラの要望は、ツバキではわからなかったので、セバスに伝えられてマルスに伝わった。マルスは、ヤスに許可を求めて、ヤスはOKを出した。
サンドラの希望は、カートを専有したいという願いだった。
身長が、リーゼやディアスと比べると低いサンドラでは、カーブのときなどに踏ん張れない。リーゼのラフプレイで外側に弾かれてしまうのだ。
ヤスからのOKが出たサンドラはすぐに行動を起こした。領都に居た時に知り合っていたドワーフが神殿に移住してきたのを確認して、カート場に入られるか確認した。
ドワーフたちは、工房に入ってヤスからの情報提供を受けた。魔道具に関する情報だけでなく、ドワーフたちが調べてもわからなかった新しい酒精のレシピの情報を得て、神殿への帰属意識が高まった。工房に出入りしているドワーフはカート場にも出入りできる状況になっている。
サンドラは、カートの一台に自分の名前を刻んだ。
ドワーフに依頼を出して、ペダルの位置や座席を改良した。それだけではなく、ハンドルの位置など操作しやすいように細かい改良をいれている。
サンドラがカートの改造を始めれば、当然それはリーゼとディアスが改造を始める切っ掛けにもなる。
リーゼとディアスが揉めているのは、リーゼがタイヤにガードを付けて接触した時に相手を吹き飛ばす機構を組み込んだのだ。
リーゼのタイヤカバーは、攻撃に使われるだけではない。コーナーの入り口で強引にイン側に飛び込む時にも有効に作用する。各コーナーのイン側にもアウト側にもタイヤで作られたバイアが存在する。アウト側には、縁石を設置してある場所も有るのだがイン側にはラインがひかれているだけだ。リーゼは、タイヤカバーがあるので、インに強引に飛び込んでも、タイヤバリアにカバーが接触するだけだ。カバーがなければタイヤが接触してバランスを崩すのだが、リーゼは少しだけバランスを崩すだけで曲がれてしまう。
リーゼとディアスの差は、どのコースでも1周回って1秒以内になっている。小さなミスで逆転されてしまうのだ。
「ねぇサンドラ!」
「サンドラ!」
「はい。はい。聞いていますよ。リーゼもディアスもわかったわよ。一緒にルールを考えましょう」
「そうね」
「うん!」
カートは当然だがヤスが用意した時には、同じになっている。討伐ポイントで出しているので当たり前といえば当たり前だ。
エンジン部分や駆動系を含めた足回りはドワーフにも(まだ)改造が出来ない。現状で可能なのはフレームの強化やペダル位置の調整や座席などの調整だけだ。ブレーキの仕組みが解ってきて、ブレーキに手を入れることもできるようにはなってはきている。
3人は、かなりの時間を使ってルールを決めた。
カートは体重の影響は無視できない。
3人の体型は似ていないが、体重にはそれほどの差はない。一番軽いのはディアスだが身長は一番高い。今までの環境が環境だったので肉付きが良くないのだ。リーゼが一番重いのは3人の中ならしょうがないことだろう。サンドラは身長は低いが3人の中である一部が発達している。
三人はお互いの体型を見て、カートの重さ+体重を規定以上にする事が決められた。
リーゼが作ったタイヤガードはルール違反となった。
カートの全長と全幅は、ノーマルのカートから越えてはダメとしたためだ。
レース中のルールも決めた。
ルールは、サンドラが記憶してツバキにお願いしてカート場に張り出される。
セバスとツバキの予想からカート場にはかなりの者が降りてくる状況になると思われたからだ。
ドワーフたちは頑張ってタイヤだけは作られるようになった。
タイヤは消耗品で交換しなければならない。タイヤの交換は、自分のカートを持っている(リーゼ。ディアス。サンドラ。ドーリス)は自分で交換しなければならない。共有のカートを使ってレースをしている場合は、ドワーフがタイヤ交換をする。
常に2-3名のドワーフがカート場に常駐する状況になった。提示された報酬はユーラットならエールを数杯飲める程度だが、ドワーフたちは技術力のアップとアーティファクトを改造できる状況を喜んだ。
ヤスとドーリスが物資を持って、神殿の都に帰ってきた時には、3人の人族と2人のエルフ族の女性がカート場にはいる資格を持った。
---
カスパルは、アーティファクトを操作してユーラットに来ていた。
「お!カスパル。操作には慣れたみたいだな」
「えぇまだまだですが、なんとかできるようになりましたよ」
「そりゃぁよかった。今日はどうする?」
「魚が欲しいです。あと、素材の買い取りをお願いします」
「わかった。素材は、ギルドに持っていってくれ、魚はギルドに持っていくように伝えておく」
「お願いします」
カスパルは、決められた場所にKトラックを置いた。ヤスが、カスパル用に交換した物だ。専用ではない。これから、アーティファクトの操作ができる者が増えてきたら運ぶ物でアーティファクトを選ぶようになると教えられている。
今は、ヤスとカスパルとツバキとセバスと眷属だけがアーティファクトの操作が可能なので、ユーラットへの運送はカスパルの役目になっている。眷属はバスを使って、神殿の都を定期運行している。神殿の守りから神殿の入り口までを巡回するバス。西門と神殿の入り口と東門を巡回するバス。神殿の都の外周を巡回するバスが運行されている。
ユーラットに裏門から入ったカスパルは、眷属が採取してきた素材を持ってギルドに向かった。
「ダーホスさんは?」
ユーラットのギルドは以前よりも混み合っている。
神殿が攻略されたと言う情報が流れた事や、領都での事情を聞いた者たちがユーラットにやってきているのだ。攻略されたばかりの神殿は美味しいというのが一般的な認識だ。したがって、ユーラットから神殿に向かおうとする者も居るのだが、結界に阻まれて入られない者が多く出た。手順に従って”神殿に害意”がなければ許可が降りるのだが、一部の者はアーティファクトを奪取するのが目的だったり、神殿の再攻略が目的だったり、許可が降りなかったのだ。一部の者たちは、そのままユーラットに滞在している。行く場所もないので、ギルドと魔の森を往復して日銭を稼いでいる状態なのだ。
そんな状況のギルドに、カスパルが大量の素材を持ち込んでいる。
領都から商隊が向かっているという話もあるので、今後は護衛の任務が生まれるだろう。屯している連中も捌けるだろうが、今は混沌とした状態になっている。
奥の部屋からダーホスが出てくる。
「カスパル。今日も買い取りで良いのか?」
「お願いします。それで、いつもの所に入れておいてください」
「わかった。なにか買っていくのか?」
「魚を頼まれています」
「わかった。料金は買い取りから出せばいいのか?」
「お願いします。俺は、いつもの場所で待っています」
「わかった」
一度、買い取り金額を受け取って帰ろうとしたら、裏門を出た所で襲われたので、それから買い取りで発生した金額はヤスのカードに入れるようにしている。素材も今の所は、眷属が採取してきているので、ヤスが全部を貰っても誰も文句を言わない。
カスパルは、ギルドを出て裏門を抜けた。アフネスに挨拶しようかと立ち寄ったが不在だった。
そのままアーティファクトで待っていると30分くらいしてから魚を大量に持ったギルド職員がやってきた。アーティファクトに積み込んだ。魔道具を発動してから、アーティファクトを動かして神殿に戻る。
朝にKトラックで素材を運搬して物資を持ち帰る。昼にバスに乗り換えてユーラットに向かう。神殿からもユーラットに向かう者が居るためだ。ユーラットから神殿に向かう者たちを載せて帰る。夕方も同じようにバスを使って人を運ぶ。神殿とユーラットの運送がカスパルの仕事となった。
0
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる