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第六章 神殿と辺境伯
幕間 ディアス(2)
しおりを挟むファイブについていくと一つの扉の前で止まった。
「ここは?」
「神殿の迷宮区に降りる場所です」
「え?それはギルドから行くのではないのですか?」
「はい。ギルドからももちろん行けますが、あちらは”ギルドの許可”が必要です。こちらは眷属とマスターに従属したものが使える場所です」
「え?私は?」
「はい。資格を有しております」
「・・・。そうなのですか?」
「はい」
資格と言われても従属?眷属にはなっていない。
「それで、従属とは?」
「はい。簡単に説明しますと、マスターが作られた場所に住まわれて、この場所をうしないたくないとお考えになって、マスターからの頼み事なら多少の無理くらいならなんとかしようと思っていただける方です」
ファイブの話を聞いて納得しました。
私は移住者ですが神殿での生活を手放したくないと思っています。ヤス様に恩義を感じていますし、命を差し出せと言われれば躊躇しますが理由が納得できれば私の命くらいでカスパルや他の皆さんの生活が維持できるのなら差し出すくらいは出来ます。
カスパルも同じでしょう。ヤス様がそんなご命令をしないことはわかっています。数えるほどしか会話をしていませんが、何かが違います。基礎的な教育しか受けていない私ですが劣悪な環境に置かれていたために人の善悪には敏感になってしまっています。
カスパルは日溜りの中に居るような感じがします。
リーゼは、会った当初は私を忌避していましたがカスパルと住み始めてからは警戒も消えて私を見てくれています。
サンドラは不思議なことに最初から私を警戒していませんでした。
皆、いい人です。私に暴力を振るったり、私を閉じ込めたり、私を傷つけようとはしないと感じています。
セバス殿やツバキ殿はよくわかりません。ヤス様を一番に置いているのは態度からわかるのですが、私達に向ける感情が”ない”状態なのです。サンドラとも同じような話をしたのですが、結局はわからないことがわかっただけでした。
でも、セバス殿やツバキ殿以上にわからないのがヤス様です。
サンドラは”怖い”という表現を使っていました。リーゼはよくわからないことを言っていましたが”お父様のような感じ”が本心ではないかと思っています。カスパルは”感謝しかない”と言っていますがヤス様に畏敬の念を持っているのは間違いなさそうです。
何度かヤス様のことを考えたのですが答えは出ていません。大きな山の様な感じを受けますし、よく見る木々のような感じも受けます。姿かたちがない雲の様な印象もあります。だから、よくわからないのですが、わかっていることもあります。私のような面倒な立場の人間や、話を聞けばリーゼもかなり特殊で厄介な立場を持つ女性です。サンドラも似たような感じです。そんな者たちを二つ返事で懐に入れて自由にさせているのです。器が大きいと言えば良いのかもしれません。私程度が測ることが出来ない人物なのでしょう。
「どうかされましたか?」
考え事をしていたら、ファイブに心配をかけてしまったようです。
「何でもありません」
扉には、カート場に降りるときと同じ様な扉です。カードを認証させる場所もあります。
ファイブに言われてカードを扉の魔道具にかざしたら扉が開きました。
カート場に降りるときにヤス様から説明された通りなら私は資格を持っています。サンドラとドーリスやミーシャさんやラナさんもカート場に来られるようになってくれたら・・・。
「どうぞ」
ファイブに言われて中に入ります。
14-5人が一緒に要られる程度の部屋があります。ファイブが先を歩いてくれて、壁際のボタンを押しました。
”チーン”
「え?」
扉が開きました。
「どうぞ」
ファイブが扉の小部屋に入ります。
扉が閉まるのでしょうか?おさえてくれています。慌てて、扉の中に入ります。こちらは6-7人が一緒に要られる部屋のようです。
ファイブがなにか壁際についているボタンを操作したら扉が閉まりました。
「揺れますが安心してください」
「はい」
ファイブが言うように確かに揺れましたが言われなければわからない程度です。1分程度でしょうか?部屋が動いている感じがしました。
”チーン”
さっきよりもはっきりと聞こえました。
「ディアス様。そちらのドアが開きます」
「え?」
ファイブと同じ方向の入ってきた扉を見ながらいたのですが後ろ側の扉が開きました。どういう仕組なのか確認したくなりますが、気にしない様にします。
「え?」
今度は広い部屋です。
左手に通路があり、サンドラに案内された神殿の迷宮部の入り口と同じ感じがします。確か、ギルドから10分くらい歩いた気がしていましたが・・・。
「ここは?」
「迷宮区の入り口です」
「ありがとうございます」
考えない。考えない。サンドラの説明では、地下深くに入り口があると言っていました。だからギルドからなだらかな坂道になっているのだと教えられた。それが1分程度で地上から来る方法があるとは・・・。
「ファイブ。この方法は?」
「資格を有している方のみ利用が可能です。現状では、ディアス様。カスパル様。リーゼ様が利用できます」
「わかりました」
「マルス様のお話では、サンドラ様とミーシャ様はもうすぐ使えるようになるようです。その時には、ディアス様が案内しても問題ありません」
「ありがとうございます」
「いえ、マスターのご意向をお伝えしているだけです。マルス様がお待ちです。入り口までお進みください。私は”ここ”でお待ちしております」
「わかりました」
どうやらここからは一人で行くことになるようです。
冒険者の方々が増えてきたら神殿の迷宮区も混み合うのでしょう。なぜこの様な巨大な空間が出来ているのか不思議な感じがします。
3分ほど歩いてやっと入り口付近にやってきました。
誰かが居る雰囲気がありません。振り向いてファイブを確認しますが、さっきと同じ姿勢でこちらを見ているだけです。
入り口には境界線が引かれていて、サンドラの説明では境界線から先は魔物が徘徊していると言われました。その寸前まで足を進めます。
『個体名ディアス・アラニス。お呼びして申し訳ない』
頭の中に声が響きます。
「え?」
『マルスです。今日は、貴方に確認したい議がありましてお呼び立ていたしました』
「はぁ・・・。確認とは?」
『貴方に見て欲しい物があります』
「え?」
「ディアス様。”これ”でございます」
「え?」
ファイブ・・・じゃない。同じ服装だけど、髪の毛の色が違う。
「貴方は?」
「シックスです。ディアス様?」
シックスと名乗ったメイドが持ってきた物から目が離れません。
『ご存知の物ですか?』
「・・・。はい。・・・。兄の・・・ブレスレットです。どうして・・・。これが?」
『やはりそうですか。個体名ディアス・アラニス。案内いたします。迷宮区に足を踏み入れてください。魔物は出現いたしませんので安心してください。案内が二体出てきます』
「わかりました」
「ディアス様。お持ちください」
シックスが兄のブレスレットを渡してくれます。木箱に入って、布で覆われています。大事に保管してくれていたようです。
「お兄様・・・」
マルス様に指示されて迷宮に足を踏み入れます。
すぐに2体の魔物が出現します。
『安心してください。マスターの眷属です』
眷属?魔物?
魔物は詳しくありませんが魔物が出てくる物語は知っています。幼い日・・・。母も父も兄も皆で生活していたときに母や祖母が読んで聞かせてくれました。目の前に居る魔物がわかります。ガルーダと言われる鳥の魔物とフェンリルと言われる狼の魔物ではないでしょうか?よくわかりませんが考えないようにします。マルス様が安全と言っているので大丈夫なのでしょう。実際に、鳥は体のサイズを小さくして私の肩に止まります。狼の魔物もサイズを小さくして私の前を歩いて案内をしてくれているようです。
15分くらい歩いたでしょうか?
通路がなくなり目の前に壁だけがあります。
『カードをかざしてください』
言われたとおりにカードをかざすと壁が消えました。どういう仕組なのかわかりませんが、壁が消えて通路が出ました。
通路は、今までの岩肌が出ている”洞窟”のような場所ではなく石畳で作られた場所です。2分ほど歩くと広い場所に出ます。
『中央の三角形が2つ重なっているマークの中央まで進んでください』
中央に立つと部屋が光り始めます。
光が収まると目の前に人が横になれる程度の箱が現れました。
『個体名ディアス・アラニス。棺を確認してください』
マルス様は棺と・・・。そうか・・・兄様は・・・。
「お兄様!マルス様。お兄様はなぜ?」
マルス様はお兄様が殺されて神殿の領域に捨てられたと説明してくれました。お兄様の手に持っていた布は帝国の・・・。そうか・・・。奴らは・・・。
私は、お兄様の前でマルス様に私が知ることをすべてお話しました。
『個体名ディアス・アラニス。遺骸をどうしますか?』
「選択肢があるのですか?」
『貴方が住む近くに埋葬することも出来ます。この場所で保管することも出来ます』
「マルス様。一つお伺いしてよろしいでしょうか?」
『問題ありません』
「この場所を、墓所とおっしゃいました。墓所に、入るのに特別な資格が必要なのですか?」
『マスターのご許可が必要です』
そうなると決められた人しか入られない。
「マルス様。兄を、お兄様は、墓所で眠らせてください」
『わかりました』
お兄様は殺された。帝国の奴らに殺された。
目的はわからない。私のときと同じならスタンピードを発生させたかったのか?魔物を誘導したかったのか?
それだけのことのために・・・。私たち家族は・・・。
許すことが・・・・。できない。
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