86 / 293
第六章 神殿と辺境伯
第七話 魔物たちの仕事
しおりを挟むヤスはセバスとマルスに魔物の住処を一任すると決めたが方向性だけは伝えておこうと考えた。細かいことまで指示を出すつもりは無いしわからないので、ヤスとしては方向性だけ伝えれば十分と考えたのだ、あとはマルスがうまく処理してくれるだろうと丸投げの姿勢だ。
『マルス。階層を増やして、魔の森と同じような環境を作ることはできるか?』
『可能です』
『セバスとの相談にはなると思うが、方向性は新しい階層を増やすことを考えてくれ、餌も必要だろう?』
『了』
ヤスがマルスと会話しているのを感じ取ったツバキは黙って会話が終了するのを待っていた。
「マスター。少しお時間を頂戴したいのですが、よろしいですか?」
「大丈夫だけど、なんだ?」
「はい。セバスから引き継ぎを行いました。本当に、私が、マスターのお世話係でいいのですか?」
「頼む。それに、セバスはこれから魔物たちのことや暫くしたらやってくるユーラットから来る者たちの対応がある。俺のことを気にかけるよりも、セバスには外で神殿の為になることをして欲しい」
「わかりました。それから、魔物たちのことですが・・・」
「ん?あぁセバスは神殿に向かったのだな」
さっきまで姿が見えていたセバスがすでに神殿に向かっていることを把握していた。
「今、マルスに話をして魔物たちが住む場所は神殿の中に新しい階層を作って環境を整えてもらうつもりだ」
「わかりました」
「どうした?何か心配事か?」
「そういうわけではありませんが・・・」
「何かあるのなら話をしよう。”できること”と”できないこと”があるけど話してくれないと理解もできないからな」
「はい。それでは・・・」
ツバキはやすに魔物たちのことを説明し始めた。
全部で6種類の魔物が居た。ヤスは、魔物の名前がわからなかったので、狼?・猫?・羊?・栗鼠?・兎?・鷲?と認識した。それぞれが魔の森では上位種に違いはないが、中位の冒険者なら問題なく戦える程度の魔物だ。
ゴブリンやコボルトが相手なら1対1で戦える。しかし、上位種や変異種が産まれてしまうと対応が難しくなってしまうのだ。
それだけではなく、魔の森では見られないがオーガ種には全滅を覚悟しなければならない程度なのだ。オーク種なら多大な犠牲を出して撃退に成功する可能性がある程度だと思えば良い。
ツバキは、魔物たちが”弱い”ことを心配していたのだ。
神殿に設定した魔物は、最深部に居る魔物を除くとオークやオーガなら問題なく倒せる魔物たちが神殿には多く存在する。神殿の魔物を弱く設定することも可能なのだが、神殿のコアを守る意味もあるので弱めにはしていない。
神殿内部の魔物は増えすぎない程度に間引きすればいいので最悪の場合はディアナで自動駆除を考えている。
「ツバキ。魔物たちには無理をさせるつもりはないから安心して欲しい。それに仕事ならいろいろ考えるから大丈夫だ」
「仕事ですか?」
「そうだな。神殿の中での行動が難しければ、魔の森にセバスたちが行く時に道案内ができるだろう」
「良かったです」
ヤスの見立てではツバキは魔物の一部のことが心配だったようだ。
『マスター。ご報告したいことがあります』
『わかった。戻ったほうがいいか?』
『お願い致します』
緊急ではないがマルスがヤスに報告を上げるのは珍しい。ヤスはツバキと急いで神殿に戻った。
自室ではなくリビングで報告を聞くことにしたのだ。ツバキだけではなくセバスも呼ばれている。
『マスター。ディスプレイを御覧ください』
リビングにかけられているディスプレイに何やら一覧が表示される。
「マルス。これは?」
『魔通信機の端末一覧です』
マルスが簡単に済ませたようにエルフ族(正確にはアフネス)から貸し出されている魔通信機の一覧が表示されている。ヤスが預かってきた交換機にアクセスする端末が表示されているのだ。
『マスター。交換機が持っている機能の確認が進みまして、交換機同士を繋げることができることがわかりました』
「どういうことだ?」
『交換機はお預かりしている一台では無いはずです。現在は接続していませんが、端末から魔素の届かない範囲に届かせようとした場合には、交換機同士を接続して繋げる必要があります』
「そうか、だから限定的な範囲での運用になっているのだな?詳細は、アフネスに聞かないと判明しないだろうけど・・・。わかった、交換機の件はアフネスに確認する。それだけか?」
『マスター。通話記録を確認してください』
「ん?どれだ?」
ヤスは、一覧の中からマルスが示した”魔通信機”を選択して通話履歴を表示させる。
通話履歴の中から、スタンピードが発生した頃の履歴を選択する。
「マルス。この通話記録は元々存在していたのか?」
『マスター。交換機の中に保存されていました。件数で500件が保存対象のようです』
「ん?今までも同じ様にしていたのか?」
『不明です。ただし、履歴を参照していたと考えられます』
「そうか、わかった。アフネスに聞いてみる」
『お願い致します』
ヤスは、マルスからの報告を聞いてから指定された通話履歴を再生した。
地球の携帯電話サービスを知っているヤスにとっては聞きにくい再生だが聞き取れるギリギリなのだろう。
一度聞いてからヤスは近くに居たセバスに指示を出す。
「セバス。もう一度再生するから文字に起こせるか?」
「かしこまりました」
優秀なセバスはツバキにも手伝ってもらうことを条件に出したが一度で録音の内容を文章にした。
「マスター。これで大丈夫ですか?」
セバスから渡された物を読んでみて問題が無いことを告げる。
内容は問題だらけだが、文章にできたことでアフネスやダーホスに渡して確認できるだろうと考えた。
「マルス。他には?」
『些末なことですが・・・』
マルスがヤスに説明したのは領都から辺境伯の娘がユーラットに謝罪に向かうということだった。
辺境伯が王都に連絡をしているのを傍聴できたようだ。魔通信機が復活したことで、伝令を飛ばす手間がなくなったと言っているようだが、通話がクリアになったと喜んでいるのも聞かされた。マルス曰く『効率を向上させてアンテナを高くしたのが要因』だということだ。
辺境伯の娘が何の目的でユーラットに来るのかまでは語られていなかったが、ユーラットが王家直属の領地であることから、辺境伯から王家に報告が上がったと言うことだ。辺境伯の家族の状況も通話の中に残されていた。
「そうか、末っ子がユーラットに来るってことだな。跡継ぎになる長男は王都に居て、長女はすでに嫁いでいる。次男が馬鹿なのは何かを勘違いしているのだろう」
ヤスがボソッと呟いた言葉が通話の内容を過不足なく表現していた。
実は通話は10分にも及んでいた。王都の情勢といいながら長男からの愚痴が辺境伯に伝えられた。代わりに次男の行いを嘆く領主の話しが続いた。ヤスとして聞き逃がせなかったのが、ユーラットに向かっているサンドラが神殿の主に会って王都からユーラットへの物資の輸送を頼みたいと考えているらしいことだ。
「どうなさいますか?」
セバスが気を利かせて話をつないだ。
神殿としての方向性を決める必要があることは間違い無い状況だ。
「そうだな。セバスは、魔物たちを頼む。神殿の中の間引きができる程度まで強化ができるか調べてくれ、5人衆はしばらくの間は魔の森と神殿の両方を担当。魔物たちをパーティーに入れて調整しながら駆除を行ってくれ」
「はっ」
セバスが頭を下げる。
「ツバキは、リーゼたちの到着までセバスに付いていろいろ引き継いでくれ」
「かしこまりました」
「セバス。魔物たちの処遇が決まったらツバキに移管。その後は、俺の筆頭執事として神殿の外向きの業務を頼む」
「外向きとは?」
「どんなことが発生するかわからないけど、まずは俺の補佐。ギルドの出張所もできるようだから、ギルドとの折衝を頼むことになる。辺境伯の娘が到着したら最初の対応を頼む。家や建物はマルスとツバキに聞いてくれ。リーザ以外の割当も頼む」
「はっ。かしこまりました」
「マルスも頼むな」
『了』
0
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる